◆自己破産の話◆
東京地裁での近年の運用では、正直に話す限りは、たいていの場合免責許可が出る
財産隠し、管財人への虚偽申告、債権者集会の正当な理由のない欠席が免責不許可に通じる
個人が破産をした場合には、免責の決定があって初めて債務(借金)がなくなります。ですから、自己破産をする目的は、免責決定をもらうことにあります。
(免責決定を受けても、免責されない債務もあることについては「自己破産の話」の破産のメリットとデメリットで説明しています)
免責が不許可になる場合は、破産法で定められていて、破産法で定める「免責不許可事由」がない場合は、裁判所は免責の決定をしなければなりません。そして、破産法で定める「免責不許可事由」がある場合でも、裁判所は一切の事情を考慮して、免責を許可することが相当だと考える場合には免責の決定をすることができます(これを「裁量免責」(さいりょうめんせき)と呼んでいます)。
現実には、破産法で定める免責不許可事由がある場合でも、たいていは裁量免責で免責決定が出ています。しかし、最近、東京地裁の緩やかな運用を見て甘く見ているのか、破産者が理由もなく免責審尋期日(めんせきしんじんきじつ)や債権者集会を欠席するなど、破産者の態度が目に余るケースが出てきて、東京地裁でも免責不許可となるケースが増えてきています(それでも免責不許可になるのは比較的免責不許可が多かった2005年の数字でも0.2%程度です。破産者の大半は、問題ない人なんです。そこは誤解しないでくださいね)。
まずは、破産法が定める「免責不許可事由」を説明しましょう。
@債権者を害する目的で、資産を隠したり、捨ててしまったりすること
A破産を遅らせる目的で、著しく不利な条件で借入をしたり、買い入れた商品を換金すること
B特定の債権者に利益を与える目的か他の債権者を害する目的で、一部の債権者にだけ支払時期が来ていないのに支払うこと
C浪費、ギャンブル
D破産手続開始申立の前1年間に、破産状態なのにそうでないと騙して借入をすること
E帳簿の隠滅、偽造(事業者の場合だけ)
F破産手続開始申立の際に虚偽の債権者一覧表を提出すること
G破産手続で裁判所や破産管財人の調査に対して説明を拒否したり虚偽の説明をすること
H不正の手段により破産管財人の職務を妨害すること
I過去7年間のうちにすでに免責決定を受けていること
いっぱいありますね。厳しく見たら、大抵のケースはどれかに当たりそうにも思えますが、一定の「目的」を前提にしているものは、そういう目的だったとまではいえないことが多いので、それほど問題になりません。現実的には、問題となるのは、資産隠し、浪費・ギャンブル、虚偽説明ですね。
破産法で定める「免責不許可事由」がある場合でも、裁判所が免責することが相当と判断すれば免責の決定がなされます。
東京地裁の近年の運用では、大抵の免責不許可事由は、破産申立の際に正直に申告していれば、裁量免責となっています。ある意味では、正直に話す限り、「過去は問わない」という運用です。
ギャンブルについても、浪費した額が少なければ同時廃止でも裁量免責が出ますし、浪費額が大きくても管財手続にして正直にすべて申告すれば、よほどのことがなければ裁量免責が出ると思います。
問題は、正直に申告しないケースですね。
しかし、東京地裁の運用が知れ渡ったせいか、最近、目に余るケースが出てきているように思えます。
私が破産管財人をしている事件でも、ここのところ、破産者が債権者集会に理由もなく欠席することが立て続けにありました。破産者が病気で診断書が出ているとかならいいんですが、申立代理人の弁護士が破産者が債権者集会に出なければならないことを破産者に十分伝えていないケースが少なからずあります。債権者集会の前に破産管財人として破産者に確認したいことがあって直接電話をしたときに、「では、債権者集会で会いましょう」と言ったら、破産者が「債権者集会って行かなきゃならないんですか。申立代理人の先生は出席しなくていいって言ってました」なんて言われたこともあります。あわてて「債権者集会には出席しなきゃいけないですよ。なんとか都合をつけて来てください」と伝えて事なきを得ましたが。
破産者が理由なく債権者集会を欠席すると、元々免責不許可事由がない場合でも、説明義務違反として免責不許可事由になります。私が破産管財人で破産者が理由なく欠席したケースは、いずれも、裁判官はかなり怒っていましたし、2回続けて欠席した破産者については、次回欠席したら免責不許可にしますと明言しました。2006年1月にあった東京地裁破産部の裁判官の講演でも、東京地裁で2004年には2件しかなかった同時廃止事件の免責不許可が2005年には20件にもなり、虚偽報告と免責審尋期日の理由のない欠席のケースが多いようですと言っていました。私には信じられないことですけど、裁判所を甘く見ている破産者や弁護士が増えてきているようですね(弁護士の方は、甘く見ているというよりは事務員任せにしていて手続がよくわかっていない人の可能性が高いですけど)。
その後、東京地裁での同時廃止事件の免責不許可件数は2006年14件、2007年12件、2008年8件と減少傾向にあるようです。その点は、ちょっとホッとします。
破産管財人として転送されてくる破産者宛の郵便物をチェックしていて、あ然とさせられることがあります。申告していない保険や車があったというのは、感心はしませんが、まあ「想定内」です。しかし、破産手続開始申立後に競馬の馬券の電話購入の申し込みをしたり、インターネットカジノのプログラムの申し込みをしたりして、事業者がそれを受けて書類とかCDを郵送したのが転送されてきたことがあります。破産法の免責不許可事由のギャンブルは破産前のギャンブルですから、破産手続中にギャンブルをしたとしても理屈としてはそれ自体は免責不許可事由ではありません。しかし、それにしても懲りないというか、なめてるというか・・・こういう人は他に免責不許可事由があったら裁量免責にはしたくないですね。
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