1995年4月以前から取引がある場合は、取引履歴の開示は不完全
返済の記録だけ古くから出して来て、「個別連番」の記載から独特の推計が可能
1989年以前から取引があるときは預金通帳の有無と使い方で相当差が出る可能性がある
裁判では弁護士を付けて多岐にわたる主張をしてくる
素人やへたな弁護士が対応するのは賢明ではないと思う
オリエントコーポレーション(オリコ)は、昔は「オリエントファイナンス」という会社で、自動引き落としの古い預金通帳を持っている場合、「オリエントファイナンス」とか「オリエント」と記載されています。
オリコは、過払い金請求が、きちんとやろうとすると、かなりめんどうな部類の会社です。それは、取引履歴の開示が中途半端な上、古い貸付はすべて1回1回の貸付が個別の貸付だという扱いで返済の履歴には貸付ごとに「売上連番」を振った独自の明細を出してきて、独特の推計をしてくること、カードが多数発行されていて1人の取引で複数のカードがあることが多いこと、裁判になるとあれこれとほかの貸金業者がしないような独特の主張をしてくることなどの事情があります。取引が古くから(昭和の頃から)あって引き落としが記載された古い預金通帳があるような場合、きちんとやるかどうかで過払い金の金額はかなり違ってきます。
オリコが説明しているところによれば、オリコが開示する取引履歴は、貸付については1995年(平成7年)4月時点で分割支払いが残っている貸付の記録が残っており、返済については1990年(平成2年)1月5日以降の記録が残っていて場合によっては1989年(平成元年)7月1日以降の記録が残っているということです。
それに基づいてオリコからは、最初から利息制限法に引き直した取引履歴が開示されますが、1995年(平成7年)4月以前の分は記載されていても貸付も返済も一部だけ算入された不完全なものということになります。ここは、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、貸付の分割回数が借りるときに一定の範囲で自由に選べるためにその都度違っているということがありがちなのでそういうことが起こるのです。例えば1993年10月に20回分割で10万円、1993年11月に15回分割で8万円、1994年3月に10回分割で6万円、1994年6月に10回分割で5万円、1994年8月に6回分割で4万円、1994年10月に10回分割で7万円を借りたとします。するとオリコの説明に従って考えると1993年11月の8万円、1994年3月の6万円、1994年8月の4万円は1995年3月以前に完済となって貸付記録が残らず、1993年10月の10万円と1994年6月の5万円と1994年10月の7万円は1995年4月時点で返済が終わっていないので貸付記録が残るということになります。そうすると、オリコから開示される利息制限法引き直し計算書ではこの貸付記録の残る貸付とそれに対応する返済部分だけが記載されます。この場合、オリコから開示される利息制限法引き直し計算書が1993年10月の貸付から始まるので1993年10月以降の取引履歴が全部開示されているものと錯覚しかねませんが、1995年4月以前の取引は記載されている場合でも抜けがある不完全なものということになります(このあたりの理屈は丸井・エポスカードの場合と同じです)。
オリコの推計
さて、オリコカードで古くからの取引がある場合、取引履歴の開示の際、利息制限法引き直し計算書の形の履歴開示とともに「入金履歴」という書類が送られてきます(請求しないと送られてこない場合もあります)。
オリコの書類は全部元号で、入金履歴は下から上に読みます。このケースでは1989年(平成元年)7月からの返済記録があることになります。オリコカードの引き落とし日は通常27日です。入金履歴の「連番」という欄が、オリコが主張する個別貸付の番号(売上連番)で、裁判になると、この売上連番が5000番台のものについて、オリコは独特のやり方で貸付を推定して、過払い金の推計をします。売上連番が1000番台のものと連番なし(0000)については、オリコは推計の対象から外します。
オリコの推計方法は、各回の返済に対応する売上連番ごとの元金(「内訳」欄に元金と記載された金額)を合計して貸付額を推定し(順次見ていってその番号が出て来なくなるまでのその番号の元金を合計する)、売上連番ごとに2回目の返済の手数料額と貸付額から初回元金返済額を引いた額(初回返済後残元本)から約定利率を推定し、貸付額と推定した約定利率と初回手数料額から貸付日を推定するという手法をとります。自社の約定利率を推定しなければならないというあたり、それだけで怪しい話ですが、オリコは約款類さえきちんと保存していないのでそれぞれの時期の約定利率を特定できないと述べています。
オリコの推計に従って推定された貸付日は、オリコが完全開示しているという時期について試算してみると、たいていは実際の貸付日より1日早くなります。利息制限法引き直し計算で貸付額が同一で貸付日が早くなれば過払い金は実際よりも少なくなりますので、オリコの推計は、実にせこいところですが、実際よりも過払い金を少なくすることになります。まぁ大差はないですけど。
オリコが推計から外す連番1000番台と連番なしについては、その内容次第ですが、これも同様の推計は可能です。特に上の開示の事例では、オリコが推計に入れる5000番台でも1回払いの貸付が多く、1000番台も連番なしも数字から見て10万円か5万円の1回払い貸付だと考えられます。少なくともこういう事例では、そこをきちんと指摘すると、オリコもその推計に乗ってきます。
さらに、オリコの開示する入金履歴以前の自動引き落としの記載のある古い預金通帳がある場合がなかなか大変です。オリコの方では、引き落としがあってもキャッシングとは限らない、ショッピングが入っているかもしれないなどと言って、容易には認めませんが、これもケースによっては同様の推計をする余地があります。上の開示の事例では1988年7月から引き落としの記載があり、その金額が開示された入金履歴の連番なしとほぼ同様の金額であったため、それを指摘してやはり1回払いの貸付だという前提で同様の推計をしたら、最終的にはオリコもその推計に乗って和解できました。
そのケースは、オリコカード分について言うと、オリコが最初に開示した際の利息制限法引き直し計算書では過払い金が162万7010円でしたが、訴訟提起後オリコが出してきた推計では248万7399円、私の方で売上連番1000番台と連番なし、開示外の通帳引き落とし分の推計も加えて主張した結果、最終的に和解でオリコが支払った額は347万7513円となりました。裁判を起こさなければ、オリコの和解案は162万7010円をさらに減額したものになるはず(私はばかばかしいので裁判外の和解交渉はしませんから、もし裁判外で交渉したときにこの事案でオリコが具体的にどういう提示をしたかはわかりませんが)で、裁判を起こしてきちんと主張することで過払い金が倍以上になったということになります。
なお、オリコは裁判になった場合の和解では、きちんと理屈のつく額ならばそれほど金額には固執せず(推計にきちんと根拠があればあまり値切ってきません。しかし、理屈がないアバウトな和解案にはなかなか乗ってきません)、むしろ支払を遅らせることに異様なまでの執着を見せます。以前でも和解後支払まで6か月という線に徹底的に固執し、最近は8か月とか9か月を平然と主張してきます。オリコが破綻する兆しは見えませんし、和解金額を決める時点で支払日までの過払い利息全額を乗せてくれますので、金額的には多くなり、悪くない話という面もあるのですが。
オリコは、裁判では、1回払いは過払い金充当合意の対象外(過払い金はその後の借入金に充当されない、その結果大部分の1回払いによる過払い金は時効消滅している)とか、独特の主張を多数してきます。
オリコが執念深く主張している1回払いキャッシングサービスの取引の一連性については、「取引の分断・一連性:1回払いキャッシングサービス」で説明しています。私は、本来、勝てる(一連性が認められる)論点だと思っていますし、一連性を認める判決も取っていますが、一連性を認めない下級審判決も多く出ていて、現在では非常に熾烈な厳しい論点になっています。
オリコの場合、カードが複数の事案が多いので、あるカードでの過払い金を他のカードの借入金に充当できるかという論点もあります。これについては果敢に挑み続けている弁護士もいますが、近年の状勢ではこの主張が通る可能性はかなり低くなっていて、私はそこまではやらないでカード別の計算の合算にとどめています。別途三菱UFJニコスの件で紹介しますが、ケースによってはカードが違っても一連計算を認めさせられる場合もあるので、うまく行きそうなケースがあればチャレンジしてみたいとは思っているのですが。
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