◆法律相談の話◆
法律相談の時間
30分は短いか?
法律相談の時間の相当な部分は、相談者の方の具体的な事案(事実関係)を相談を担当する弁護士が理解するために使われます。弁護士の側では、まずは大づかみに事実を把握して、その場合にキーポイントになりそうな点を確認して少しずつ細かい事実を把握していきます。その過程で、相談者の方がその問題をどう解決したいのか(どうなったらいいのか、どうなったら困るのか)も確認します。そして把握した具体的事実と相談者の希望から答え(適用できそうな法律とか裁判になったときの現実的な予想とか)を考えていきます。
そういう意味では、相談者の方が事実関係について頭が整理できていて、弁護士からの事実関係についての質問にはっきり答えられて、相談者の方の希望(どういう解決が望ましいか)なり聞きたいことがはっきりしている場合、30分もあればたいていの相談は終わります。
会話がスムーズに進む限り、30分あればかなりのことが話せます。
時間がかかる相談
事案が複雑な場合(長期間にわたって多くのできごとがあるときや関係者が多いときなど)は、要領よくやっても30分では足りないことがよくあります。近しい人の間での恨みつらみがあるケースは、たいていこれまでの長い事情が積み重なっていますから聞くだけで時間がかかりますね。離婚とか、相続人の間で恨みつらみのあるケースとか、職場でのいじめとか、ご近所の人とのもめ事とか・・・
大量の資料を読む必要がある場合も、そうです。すでに裁判になって裁判が進んでいる事件についての相談とか、判決が出てそれを持ってきての相談とか。行政処分の不服審査の申立をして不服申立が認められなかったという相談とか。そういう相談で資料(事件の記録)を持ってこないときはほとんど答えようがないのですが、といって、大量の事件記録をどーんと持ってこられてもその場で読めるはずもありません。相談センターなどでの相談で持ってこられたら、ざっと眺めて当たりをつけて一番重要そうな書類を見てその場でできる範囲の答をしますが、基本的にそういう相談は法律相談センターなどでは無理です。個人的に事務所で相談を受ける場合でも、一旦相談を受けて事件記録を預かって時間のあるときに目を通して後日再相談ということでないと、きちんとした回答はできません。そういうときは、相談時間が30分か1時間かというような問題じゃないですね。
相談者の方が事実関係について弁護士の聞きたいことを要領よく説明していただけない場合も、時間がかかります。相談者の方が弁護士の聞きたいことを誤解しているときや相談者の方の記憶がかなりあやふやな(というか、混乱している)ときは、まずそうなります。この場合は、根気よく時間をかけて聞くしかないですね。それに相談者の方が話したいことがいっぱいある場合や相談者の方が話したいことと弁護士が聞きたいことがかなり食い違っているときにもそうなりがちです。この場合は、弁護士の方で弁護士の質問に答えるように誘導することはできますし、ままあります。でも、相談者の方が話したいことは話してもらった方が、相談者の満足という点でも、相談者の希望を知る上でもいいですから、できるだけ話してもらうようにしています(しているつもりです)。そのあたり、次の予定とのかねあいですけどね。
ここまでは、弁護士が事実関係を把握して回答に至るのに時間がかかるケースです。それ以外に、弁護士の回答は出ているのになかなか終われないケースもあります。相談者の方が自分がどうしたいのかはっきりしない(決断できない)ケースと相談者の方が弁護士の回答が意に沿わないので食い下がるケースです。この場合、相談者に納得してもらうためにさらに時間をかけて話しますが、結局同じ話を表現を変えて繰り返すだけで、実りのある時間の使い方ではありません。
弁護士から見て相談者の方の具体的な事案で現実的に考えられる手段(今後の行動)が複数あって、それぞれにいい点も悪い点もある(一長一短)とき、弁護士の答はそれぞれの場合の現実的な見通しといい点悪い点の解説までで、それを前提にどの途を選ぶかは相談者の判断(価値観)です。相談者がどの点を重視するか(相談者の価値観)で選択は変わります。そこまで説明しても「どうしたらいいでしょう」っていわれてしまうと、もう一度メリット・デメリットを説明して・・・という繰り返しになってしまいます。
相談者が弁護士の回答が意に沿わないからというので食い下がるケースも、弁護士としてははっきり判断してしまっているので、前提となる事実関係で違う話がない限り、同じ話を繰り返すことになります。納得してもらうために理由の説明を詳しくしたり、違う側面から説明したりはしますけど。相談者の希望する結果は困難だという回答をしたときに「それは絶対ですか」と食い下がる相談者の方が時々います。法律相談の対象となる事件も裁判も人間社会のことですから、「絶対」と断言できることはほとんどありません。どんなに無理な主張でも、相手の持っている証拠が偶然にもなくなり(火事で焼けるとか)、裁判で相手の弁護士が信じられないような大ポカをし、たまたまかなり変わった考えの裁判官に当たり、とか偶然に偶然が重なれば裁判で通ることが「絶対にない」とは言い切れません。ですから「絶対か」と聞かれれば、「絶対とまではいいませんけど」と答えざるを得ません。でも「絶対か」と食い下がられたところから後はもう法律相談とはいえませんね。
長い法律相談はいい相談か
相談者が意に沿わない答だから食い下がるようなケースは、もちろん長く続けてもあまり意味がありません。大量の書類を読む必要があるケースも、現実的には、きちんと回答するなら、その場で長時間続けるより事件記録などの書類を一旦預かって再相談の方がいいでしょう。
その場で長くやることに意味があるのは、事案が複雑なケースです。でも、その場合でも、私の実感では、相談で1つの事案に集中力を保ち続けられるのは1時間くらいまでだと思います(裁判を担当して十分に内容を把握した事案についてならもっと長く集中できますが)。1時間かけても事案が説明しきれない場合は、相談者の方の頭の整理もかねて、時系列の要点メモ(箇条書きのもの)を作ってもらって後日再相談する方がいいと、私は思っています。
ついでにいうと、法律相談センターで相談を担当していると1日に何件か相談を続けます。この場合、続けて相談していて集中力を保てるのは、せいぜい4件くらいまでかなと思っています。相談がたくさん来て(特に無料相談の場合ままありますね)次々に相談を入れられると、5件目とか6件目になると、自分でもはっきりと頭が働かなくなっているのが感じられます。
法律相談は人間のやることですから、やはり日程に余裕を持たせて頭をリフレッシュしながら比較的短時間に頭を集中させてやった方がいいと、弁護士側は思うんです。
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