◆短くわかる民事裁判◆
自治体直営のゴミ焼却場と処分性
廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)は、一般廃棄物(産業廃棄物以外の廃棄物)について生活環境の保全上支障が生じないうちに収集・運搬・処分することを市町村に義務づけています(廃棄物処理法第6条の2)。そのため、地方自治体が、現在では通常、共同で事務を処理するための「一部事務組合(いちぶじむくみあい)」という地方自治法上の特別地方公共団体を設立してゴミ焼却場を設置運営しています(例えば東京23区は「東京二十三区清掃一部事務組合」という一部事務組合を設立して清掃工場を運営しています)。
このような自治体が直営するゴミ焼却場について、行政訴訟によってその運転の停止を求めることは可能でしょうか。
最高裁1964年10月29日第一小法廷判決はこれを否定しました。
この判決(大田区ゴミ焼却場設置事件最高裁判決)は、行政訴訟の対象となる「行政庁の処分」とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」で、「その無効が正当な権限のある機関により確認されるまでは事実上有効なものとして取り扱われている場合」でなければならないという一般論を示した上で、「原判決の確定した事実によれば、本件ごみ焼却場は、被上告人都がさきに私人から買収した都所有の土地の上に、私人との間に対等の立場に立つて締結した私法上の契約により設置されたものである」、「それ故、仮りに右設置行為によつて上告人らが所論のごとき不利益を被ることがあるとしても、右設置行為は、被上告人都が公権力の行使により直接上告人らの権利義務を形成し、またはその範囲を確定することを法律上認められている場合に該当するものということを得ず」と判示しました。
この判決は法律学(行政法)の業界では、「処分性(しょぶんせい)」についての先例とされ、行政法の教科書類では、今でもなおこの判決を紹介して、自治体のゴミ焼却場については行政訴訟は提起できず、民事差止によるべきものとするのが通例です。
本当に、そう解すべきなのでしょうか。
「事実行為に処分性はないのか:厚木基地第1次訴訟」と、「自治体直営のゴミ焼却場に行政訴訟はできないか」でさらに検討します。
※大田区ゴミ焼却場設置事件では、「本件ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都議会に提出した行為」が訴訟の対象とされ、内部的手続行為にとどまるという面でも処分性がないとされたのですが、上で説明したように、「私法上の契約により設置された」という点、言い換えれば行政の許認可がないという点でも処分性がない(行政訴訟の対象とならない)という判断があるので、その点の方を検討します。
行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
**_****_**