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短くわかる民事裁判◆
事実行為に処分性はないのか:厚木基地第1次訴訟
 「自治体直営のゴミ処分場と処分性」で説明したように、最高裁1964年10月29日第一小法廷判決は、ゴミ焼却場の設置行為には処分性がなく、行政訴訟(無効確認訴訟)は不適法としました。
 そうだとすると、行政が迷惑施設を直接運営している場合、その差し止めは民事差し止めによるべきこととなりそうです。
 ところが、最高裁は、空港騒音訴訟(夜間飛行差し止め)では、逆のことをいっています。
 厚木基地第1次訴訟の最高裁1993年2月25日第一小法廷判決は、自衛隊機の夜間飛行差し止めを求めた民事訴訟で、「自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり、防衛庁長官は、右騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し、統括すべきものである。しかし、自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから、自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると、右権限の行使は、右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる行為というべきである。」として、民事差し止めは不適法(却下すべき)としました。
 自衛隊機の運航は事実行為で、防衛庁長官は周辺住民に対して「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている」ような行為はしていないはずですが、騒音を強いていること自体が「公権力の行使」だというのです。
 自治体がゴミ焼却場を運営して煙や有害物質を飛散させて周辺住民に我慢を強いるのとどう違うのでしょうか(1964年頃のゴミ焼却場なら煙や有害物質の排出も相当程度目に付いたはずですが)。行政直営の迷惑施設について、行訴(無効確認訴訟)で来たものは行訴は不適法、民事差し止めで来たものは民事差し止めは不適法と逃げただけではないかとも勘ぐりたくなります(もっとも、最高裁は、大阪空港訴訟で同様に民事差止は不適法とし、その代わりに新潟空港訴訟で周辺住民に行政訴訟の原告適格を認める路線に転じていたので、厚木基地第1次訴訟での判断は既に既定路線だったといえますが)。なお、その後厚木基地第4次訴訟で最高裁2016年12月8日第一小法廷判決は周辺住民が行政訴訟として差止めの訴えを提起したのに対し、行政訴訟として要件を満たしていることは認めています(もちろん、結論として差止めは認めず棄却ですが)。
 いずれにしても、このような最高裁の判例の流れからしても、自治体直営のゴミ焼却場についても今では行政訴訟に馴染まないということではなく、少なくとも周辺住民が義務づけ訴訟や差止訴訟(民事差止ではなく行政訴訟上の差止めの訴え)を提起することは可能ではないかと、私は思うのです。

 行政裁判については、「行政裁判の話」でも説明しています。
  

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