◆短くわかる民事裁判◆
明示的一部請求と裁判上の催告
原告が、債権(権利)の一部を請求していることを明示して訴えを提起した場合、訴えの提起による裁判上の請求としての時効完成猶予の効果は訴状での請求額の範囲でしか生じないことを「訴え提起による時効完成猶予の範囲」で説明しました。
では、明示的一部請求の残部については、訴え提起は裁判上の催告にも当たらないのでしょうか。
この点について、高松高裁2007年2月22日判決は、2001年3月24日発生の交通事故による損害について原告が2004年1月29日にその損害の一部であることを明示して訴訟提起し、1審が原告の請求を全部認容する判決をし、これに対して被告と補助参加人(保険会社)が控訴したのに対して原告が附帯控訴して2006年5月26日請求を拡張して損害全部の請求に切り換えたという事案で、一部請求の訴えの提起及び訴訟係属が裁判上の催告に当たるとして、裁判係属中は催告が継続しているので時効期間経過後の請求の拡張(残部請求)についても消滅時効未成立としました。
※判決文の終盤で、次に紹介する最高裁判決前の段階で過去の最高裁判決との整合性について保険会社の主張を切り返す/切り抜ける判示は、読み応えがあるというか勉強になります。
その後、最高裁2013年6月6日第一小法廷判決は、「数量的に可分な債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、当該訴えの提起による裁判上の請求としての消滅時効の中断の効力は、その一部についてのみ生ずるのであって、当該訴えの提起は、残部について、裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない」とし、そのことは判決で債務の総額が認定された場合でも、それは理由中の判断に過ぎないので同じとした上で、「明示的一部請求の訴えが提起された場合、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、当該訴えの提起は、残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり、債権者は、当該訴えに係る訴訟の終了後6箇月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。」として、明示的一部請求の訴訟提起があったときは、請求されていない残部について裁判上の催告の効果があり、訴訟終了後6か月以内に残部についての裁判上の請求をすれば時効成立を阻止できることを認めました。
※この事案では、時効成立直前に催告をして6か月近くで訴え提起したので、残部については裁判上の請求ではなく「裁判上の催告」と扱われると、催告期間中の催告にとどまる(最初の催告後6か月以内に訴え提起していない)ため時効成立とされました。(高松高裁の事件は催告による延長なしに元々の時効期間内に提訴していたので救済されたものです)
現行(2020年4月1日施行の民法改正後の)民法の下では、明示的一部請求がなされた場合、訴え提起(訴状提出)時点で、その一部請求部分は「裁判上の請求」による時効完成猶予(民法第147条第1項第1号)、残部は「催告」による時効完成猶予(民法第150条)、訴訟終了時点で、認容された部分は確定判決によるものとしてそこから再度時効進行開始(民法第147条第2項、第169条:10年間は安泰)、残部は6か月以内に改めて裁判上の請求をすれば時効完成猶予という扱いになります(実質的には同じですが、概念とか用語は違っています)。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
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