◆短くわかる民事裁判◆
時効完成猶予と訴状却下
債権回収ができないまま時効が迫った場合、債務者が債務を承認する(債務を承認する書類に署名するなど。支払うからもう少し待ってくれというなども含まれます)などの協力をしてくれなければ、債権者は、まず内容証明郵便で債務者に対して支払いを請求し、それから6か月以内に訴訟提起するのが通常です。支払請求(催告:さいこく)には時効完成を6か月間延ばす効果しかなく、催告を繰り返してもそれ以上は時効完成を阻止できず、その間により強力な時効完成阻止の措置を取る必要があり、その代表的な手段が訴訟提起だからです。これについては「時効完成猶予と訴えの取下」で説明しています。
訴訟提起(裁判上の請求)による時効完成猶予の効力は、訴え提起時(訴状提出時)に生じます(民事訴訟法第147条)。
さて、その時効完成阻止のために提起された訴えが訴状が被告に送達される以前に訴状の記載に不備があり補正裁判長が補正を命じたが原告が補正しなかったとか、訴え提起手数料を納付しない、被告への訴状送達費用を予納しないなどの理由で訴状却下された場合、時効はどうなるでしょうか。
2020年4月施行の民法改正により、裁判上の請求がなされた場合、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」とされました(民法第147条第1項)。裁判長の命令で訴状却下されたときは、判決や和解以外の事由で裁判上の請求が終了した場合に当たると解されます。
訴状却下の場合、被告に訴状が送達もされず、いわゆる訴訟係属(そしょうけいぞく)が生じていません。訴訟係属も生じないままその手続が終わった場合に時効完成猶予の効果が生じるのか、何となく疑問を感じますが、訴え取下の場合、最初から訴訟係属が生じなかったとみなされる(そういう効果がある。民事訴訟法第262条第1項)のに時効完成猶予の効果があるとされているのですし、そもそも訴え提起による時効完成猶予の効果は、被告への訴状送達=訴訟係属の前の訴え提起(訴状提出)時に生じています(民事訴訟法第147条)。そういうことからすれば、訴訟係属が生じなかったとしても時効完成猶予の効果が生じると考えることに特に障害はないということになりそうです。
以上のことから、消滅時効は、訴状却下後6か月間は完成しません。そして、民法は、時効完成猶予の効力を有することがらのうち、催告の繰り返し、催告後の協議合意、協議合意後の催告について、時効完成猶予の効力を有しないと定めています(民法第150条第2項、151条第3項)が、裁判上の請求の繰り返しについてはそのような規定を設けていません。
このような改正民法の規定ぶりからすると、原告が訴えの提起と訴状却下、訴状却下後6か月以内の訴えの提起を繰り返した場合、それが繰り返されている限り時効は完成しないということになりそうです。
あまり明確に論じられていない論点のようですし、判決が出れば(原告勝訴なら時効更新、原告敗訴なら時効を論じるまでもなく権利なし)解決することですから、特に問題視する必要もないかとは思いますが。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
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