◆短くわかる民事裁判◆
土地管轄:複数の請求
原告が、同じ被告に対して1つの裁判(1つの訴状)で複数の請求をする場合、いずれかの請求に関して認められる管轄裁判所のどこにでも訴えを提起することができます。それぞれの請求に共通する事情がなくても何の関連もなくても、1つの裁判で請求でき、1つの請求について認められる管轄裁判所にすべての請求について管轄が認められることになります(民事訴訟法第7条本文)。ですから、原告は、ある請求だけだと土地管轄が認められない場合でも、別の請求を併せて提訴することで、原告に有利な裁判所での提訴が可能になるのです。
例えば労働者が退職後に使用者に対して未払い残業代の請求をする場合、現在の裁判所の扱いでは、使用者の営業所所在地の裁判所が土地管轄を持つとされています(その点については「土地管轄:解雇事件」で説明しています)。労働者がその使用者に勤務していたときと同じ場所に住んでいるならば、使用者の営業所所在地でも裁判を起こすのに不便はないのがふつうです(そこに通って就労していたのですから)。しかし、退職後遠方に転居したような場合には、現在の住所地で裁判をしたいということもあると思います。そういう場合、例えば在職中に上司からパワハラを受けたことによる損害賠償請求の土地管轄は一般の債権として義務履行地は債権者の現在の住所となり原告住所地に土地管轄がありますから、残業代請求とこの損害賠償請求を1つの訴えで合わせて請求すれば、原告の現在の住所地の裁判所に提訴できるということになります。
もっとも、提訴後に、被告から予定される証人が使用者の営業所近辺に居住している等の事情を挙げて使用者の営業所(労働者が就労していた場所)の所在地の裁判所への移送の申し立てがあった場合、裁判所がその移送を認める可能性もありますが。
管轄についてはモバイル新館の 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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