◆短くわかる民事裁判◆
移送申立て
訴えを提起された被告が、その裁判所での審理を望まず、それに理由があることを裁判所に説得できそうな場合は、別の裁判所への移送を申し立てるという途があります。
訴えを提起された裁判所に管轄がなく自分が希望する裁判所に管轄があるとき、簡裁に提起された不動産に関する訴訟をその簡裁所在地を管轄する地裁に移送したいときは、移送申立てをすればそれが通る可能性が高いです。現実には望み薄ですが、自分が希望する裁判所への移送を原告も同意した場合も、移送申立てが通る可能性が高いです。ただし、これらの移送申立は、被告が本案に対する弁論を行う、つまり原告の訴えの内容である訴状の請求の原因に対して認否や反論をした書面が陳述扱いとなる前に行う必要があります。簡易裁判所に提起された訴えをその所在地を管轄する地方裁判所に移送することも、認められる可能性は相当程度あります(移送申立をしなくても、法的に難しい、法解釈に争いがあるような主張をすれば、裁判所が移送する可能性も相当あります)。
遠隔地の原告住所地に提起された訴えの被告住所地への移送の申立ては、厳しい闘いになるところですが、実際上訴えが提起された裁判所での訴訟活動が困難であれば、まずは移送を申し立ててみることを検討すべきです。その場合のポイントは「遠隔地で裁判を起こされたとき」を見てください。
移送申立ては、移送申立書を、担当部ではなく、民事受付(事件受付)に提出することとされています。申立手数料は不要ですが、担当部から郵券の予納を求められることもあります。
移送申立てを担当部に提出した場合(移送申立書を作成して担当部に提出したとか、答弁書に移送を求める旨を記載したような場合)、実際には、特に被告側に民事受付に出し直せとは言わずに、担当部の方でいったん民事受付に回す運用がなされています。民事訴訟規則自体、期日にその場で移送申立てをする場合には書面でなくても(口頭でも)いいという規定を置いています(民事訴訟規則第7条第1項)から、担当部に申し立てることは容認されているといえます。
移送申立てがあると、民事受付で(モ)の事件記録符号(雑事件)で事件番号が振られ、もともとの訴えは「基本事件(きほんじけん)」と呼ばれるようになります。
※移送申立ては被告がするもので原告がすることは通常考えられません。しかし、民事訴訟法の規定は、簡裁に係属した不動産に関する訴訟のその簡裁所在地を管轄する地裁への移送の場合を(これは「被告の申立てがあるとき」と規定しています)除いて、すべて「申立てによりまたは職権で」としていて、申立権者を被告に限定していません。そうすると、民事訴訟法上は、原告にも移送申立権があることになります。自分が裁判所を選択して提訴した原告に移送申立権を認めるのは変に思えますが。私の経験したところでは、被告側が準備書面と書証を提出して原告の訴えには理由がないから早期に請求棄却の判決を求めるとしていたのに原告側が裁判官忌避などをして期日指定を妨害していたところにさらに当事者間の衡平を理由に移送を申し立てたのに対して、裁判所は移送申立てには理由がないと却下しましたが、原告には申立権がないという判断はしませんでした。
管轄についてはモバイル新館の 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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