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短くわかる民事裁判◆
移送申立てに対する決定
 移送申立てがあると、裁判所は相手方(被告の申立ての場合、原告)に対して意見を聞きます。
 もし相手方が移送に同意した場合は、移送によって著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、簡裁に提起された事件で移送先がその簡裁所在地を管轄する地裁以外でありかつ移送申立てが被告が本案について弁論した(訴状の請求の原因に対して認否・反論した書面が陳述扱いとなった)後になされたときを除き、裁判所は移送を認めなければなりません(民事訴訟法第19条第1項)。
 現実には、ほとんどの場合、相手方は移送に反対する意見を記載した意見書等を提出します。

 相手方の意見を聞いた後、裁判所は移送申立てについて決定を行います。
 裁判所が移送申立てに理由があると判断すると、移送の決定がなされます。その場合の決定の主文は通常、「基本事件を○○裁判所に移送する。」とされます。基本事件とするのは、移送申立て自体に事件記録符号(モ)の事件番号が振られてそれ自体が事件なので「本件を」とすると紛らわしいからです。移送申立て自体で訴訟費用は生じません(移送申立ての手数料はありません)ので、訴訟費用に関する主文はありません。
 移送の決定が確定すると、移送先の裁判所は(仮に移送先の裁判官が自庁には管轄がないと考える場合であっても)移送決定に拘束され、さらに別の裁判所に移送することはできません(民事訴訟法第22条第1項、第2項)。ただし、移送後に生じた事情や別の原因で移送することは可能と考えられています。例えば義務履行地等の管轄に関する評価解釈で原告が訴え提起した裁判所には管轄がないとして移送がなされた場合、移送先の裁判所は、義務履行地等が別の地域にあるとすることはできませんが、当事者の衡平のための移送などの申立てがなされて別の裁判所にさらに移送することは可能です。
 移送決定が確定すると、訴訟は最初から移送先に裁判所に係属していたものとみなされます(民事訴訟法第22条第3項)。その結果、消滅時効の更新(民法改正前の用語では「時効の中断」)の効果は、最初の訴え提起の時に生じたものが維持されます。
 裁判所が移送申立てに理由がないと判断すると、移送申立却下の決定がなされます。その場合の決定の主文は通常、「本件申立てを却下する。」です。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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