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短くわかる民事裁判◆
控訴期間:判決書送達日の認定
 控訴期間は、判決書正本(または判決に代わる調書の謄本:調書判決の場合)の送達(裁判所に取りに行けばその場で受け取れます。取りに行かない限りは、特別送達で郵送されてきます)を受けた日から2週間です(民事訴訟法第285条本文)。
 判決書正本の送達日は、原則として、送達報告書(特別送達の場合は日本郵便が作成、裁判所での交付送達の場合は書記官が作成:実際は定型書式に受取人が記名押印)に基づいて認定判断されます。
 この送達報告書の記載が誤っていた場合、控訴期間も誤って判断されてしまいます。

 1975年1月23日言い渡しの第1審判決が同年2月8日に被告の自宅で送達されたという送達報告書の記載があり、同月23日到着の郵便で控訴がなされ、控訴期間経過後の控訴として却下された事案で、最高裁1976年5月25日第三小法廷判決は、控訴状に被告(控訴人)の居所として「府中刑務所在監中」という記載があり、被告が当初出席していたのに1974年12月以降は出席していないことから、上告人(被告)が送達報告書の送達日である1975年2月8日も在監中であった可能性がありその場合その届出がなくても自宅において本人を受送達者とした送達手続は無効と解すべきことを指摘し、送達日等について調査を尽くさせるため原判決を破棄し原裁判所に差し戻しました。

 2011年3月8日言い渡しの第1審判決について、同日午後3時5分に被告代理人に裁判所で判決正本を送達したとの送達報告書が作成され被告代理人名義の署名押印もなされているところ、3月23日になされた控訴は控訴期間経過後にされたものとして却下の判決がなされた事案で、最高裁2013年7月18日第一小法廷判決(判例時報2224号11ページ【6】)は、3月9日に自分が判決正本を裁判所で受領したことを具体的に述べる事務員の陳述書、裁判所に行く事務員のローテーション表、その日の判決正本受取の依頼と処理済みであることを示す記載のある連絡メモ、3月9日判決正本受取の記載のある弁護士事務所の事務処理情報データベースのプリントアウト、3月9日の日付の受付印の押捺された判決正本に照らし、「本件第1審判決の正本の送達日に関する本件送達報告書の記載が誤記であって、本件第1審判決の正本は3月9日に上告人に送達されたと認められる余地があるというべきである」として、原判決を破棄し、原裁判所に差し戻しています。

 最高裁1976年6月8日第三小法廷判決(判例時報848号11〜12ページ〔6〕)でも、原判決が判決正本の原告代理人への送達日を1975年6月4日午後3時と認定し同月19日提出の控訴を却下したのに対し、本件記録によれば第1審判決正本は6月5日午後3時に原告代理人に送達されたことが明らかとして原判決を破棄し原裁判所に差し戻しています。(判例時報の記事からは原審がなぜ送達日を6月4日と認定したのかも最高裁がなぜ6月5日と認定したのかもわかりません)

 稀なこととはいえ、裁判所が判決正本送達日を誤って認定し、その結果控訴期間を誤って判断して控訴が却下される例があるというのは恐ろしいことです。その場合に、実際に判決正本を受領した日を立証できるかは、なかなか心許ないところです。
 私自身は、判決正本を判決言渡日以外に受領したとき(郵送で受領したとき)は、基本的に裁判所に受送達日を確認する(書記官に電話して、うちの事務所には○月○日に来ましたが、裁判所の記録でもそうなっていますかと聞く)ことにしています。(東京の裁判所の場合は、事務員さんに判決当日に裁判所に行って受領してもらっています。判決当日に受け取っている場合、仮に裁判所の記録が間違っても控訴期間が短くなることはないので、確認は不要)

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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