◆短くわかる民事裁判◆
訴訟行為の追完:公示送達の場合
被告の住所が知れないとして訴状が公示送達され、被告が裁判期日に出席することなく判決が言い渡されて判決も公示送達され、その後控訴期間経過後になって判決の公示送達を知り控訴したという場合、控訴人の責めに帰することができない事由によるものとして控訴が適法とされるでしょうか、どのような場合に適法とされるでしょうか。
最高裁1961年5月26日第二小法廷判決は、「本件第一審において、上告人(原告)は、被上告人(被告)に対し、公示送達の申立をし、同審においてこれが許容されて、公示送達の方法により、被上告人不出頭のまま審理のうえ、判決言渡があり、その判決正本の送達もまた公示送達によつて昭和二九年一二月二七日なされたことは記録上あきらかである。そして被上告人は本件訴訟の提起されたことも、その第一審判決言渡のあつたことも、その当時全く知らず、右判決の執行力ある正本に基き被上告人所有の自動車について強制執行手続がなされ、その競売期日が指定された後、昭和三〇年六月一〇日にいたつて初めてその事実を知り、直ちに判決正本を受領したうえ、同月一六日原審裁判所に控訴申立の手続をとつたものであることは原判決の確定するところである。また、本件公示送達は、被上告人に対して民訴一七五条の規定による外国においてなすべき送達が不能のために、被上告人の最後の住所地を管轄する東京地方裁判所においてなされたものであつて、被上告人の現住地を管轄する裁判所でなされたものでないことは記録上明白である。以上の場合、特段の事情のみとめられない本件において、原審が、被上告人ほその責に帰すべからざる事由によつて控訴期間を遵守することができなかつたものとしてその追完を許容し、被上告人の本件控訴を適法であると判示したことは正当である。」と判示して、公示送達による第1審判決送達後半年あまり後の控訴について適法とした原判決を正当としています。
この判決で判示されている事実関係は、公示送達であれば通常そうなることばかりです。公示送達による事件で判決を受けたことを被告が知ることはまずありませんし、その後強制執行を受けるなどして初めて知るというのも、公示送達後判決を知ることになる場合はそのようなケースが多く、公示送達を行った裁判所が最後の(知れている)住所地を管轄する裁判所で現住地を管轄する裁判所でないというのも、住所地が異動していればそうなるであろうことです。「外国においてなすべき…」というのが、つまり被告が外国にいるとされたことが、ふつうでない要素と考える余地もありますが、それによって公示送達の効力とか原告側に何か不誠実とみられる事情になるというようにも読めません。
そうすると、この判決の考え方によれば、ごくふつうに公示送達により判決が言い渡されて確定した事案では、後日判決を知った被告は「特段の事情」が認められない限り、控訴の追完をすることができ、判決を知った日から1週間以内に控訴状を提出すればいいということになります。
学説上、この判決を紹介した上で、「しかし、近時の判例及び裁判例をみると、公示送達の場合でも、むしろ当事者の責めに帰することができない事由があることを積極的に判示して追完を許すものが多い。」、「公示送達を受けた当事者が現実に公示送達の事実を知ることは、実際上困難といわざるをえない。しかし、だからといって原則的に追完が許されるというのでは、公示送達制度は実質的な意味を失うことになり、妥当でないと考える。したがって、個々の場合に公示送達を受けた当事者の責めに帰することができない事由があるといえるかどうかを具体的に判断すべきであり、追完を主張する当事者に主張立証責任があると解すべきである。その意味で上に上げた掲げた最近の判例・裁判例の態度が正しい」などとするものがあります(コンメンタール民事訴訟法U第2版328〜329ページ)。
※ここで紹介されている近時の判例(最高裁判例)は「訴訟行為の追完:不正な公示送達」で紹介しています。
他方で、裁判所職員総合研修所の「民事実務講義案T(5訂版)」(2016年)は、控訴期間と訴訟行為の追完の項目で、「〈判例紹介〉〜公示送達と控訴の追完〜」と題してこの最高裁判例を紹介しています(64ページ)。このような扱いからすると今もこの最高裁判例が通じる余地があるかも知れません。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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