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短くわかる民事裁判◆
全部勝訴者は控訴できるか:却下判決時の被告
 「全部勝訴者は控訴できるか(原則):不能」で説明したとおり、全部勝訴の判決に対しては、原則として控訴できません。
 判決が全部勝訴かどうかは判決主文で判断します(その判断方法については「判決書の読み方:勝訴・敗訴の判断」でも説明しています)。判決主文で請求が全部棄却された場合、被告は、原則として控訴することができません。

 原告の請求が不適法なものとして全部却下された場合、原告の請求は認められなかったのですから被告は全部勝訴のように見えます。
 しかし、原告の請求についてその内容を審理検討して「理由がない」として棄却した判決が確定すれば、原告に請求権がないことについて既判力を生じますので、原告は再訴できませんが、原告の請求が不適法として却下した判決は、原告の請求権がないことを判断していませんので、原告は改めて適法な手続をとって再訴できます。
 したがって、原告の訴えを却下する判決は、原告の請求を棄却する判決よりも被告に不利なものです。
 そうすると、却下判決は被告にとって全部勝訴ではないことになりますので、被告には控訴の利益があり(控訴審で原判決取消、原告の請求を棄却するという判決に変更できればその方が有利)、被告は控訴することができます。

 最高裁1965年3月19日第二小法廷判決は、抵当権抹消登記請求の事件で、1審判決が、それらの抵当権設定登記が仮処分後になされたものである(したがって仮登記権利者に対抗できない:抹消しなくても仮登記権利者は全然困らない)から抹消登記を求める必要がなく、「原告らの被告会社に対する請求は失当として棄却を免れない。」としたのに、被告が控訴したところ、控訴審は被告(控訴人)は1審判決で勝訴しているので控訴の利益がないとして控訴を却下したケースで、「第一審判決は、結局訴の利益がないとして被上告人らの請求を棄却したものであるから、形式的には上告人が全部勝訴の判決を得たかの如き観を呈するが、上告人は更に被上告人ら主張の前記登記抹消登記請求権の存在しないことの確定を求めるため、第一審判決に対し控訴の利益を有するものと解するのを相当とする。」と判示して、被告の控訴の利益を認め、控訴を適法としました。
※この事案では、1審判決がその理由からして原告の訴えが不適法として却下するべきところを、「請求棄却」としているので紛らわしいですが、最高裁が判決要旨を「第一審裁判所が訴の利益がないとして原告の請求を排斥した場合は、請求棄却の判決を求めた被告も控訴申立の利益を有するものと解すべきである。」とまとめているように、実質却下の判決に対して、被告は(実質)請求棄却を求めて控訴できるということです。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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