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短くわかる民事裁判◆
訴訟費用の負担の裁判に対する不服申立て
 民事訴訟法第282条は「訴訟費用の負担の裁判に対しては、独立して控訴をすることができない。」と定めています。

 その結果、請求については全部勝訴したが、例えば民事訴訟法第62条(不必要な行為をした当事者の訴訟費用負担)や第63条(訴訟を遅滞させた当事者の訴訟費用負担)等の規定により訴訟費用の一部の負担を命じられた当事者は、訴訟費用の負担の裁判に不服でも、控訴できないことになります。

 他方で、全部勝訴した原告も、被告が控訴した場合に附帯控訴をして請求の拡張をすることができます(そのことについては、「全部勝訴者の附帯控訴・請求拡張」で説明しています)。
 そうすると、請求について全部勝訴したが訴訟費用の負担に不服がある当事者は、相手方が控訴した場合には、附帯控訴をして訴訟費用の負担の裁判について争えるでしょうか。
 1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版は、「訴訟費用の裁判だけについての控訴はできない(法282)が、附帯控訴は許される。」(20ページ)、「附帯控訴については、原判決の表示を欠いていたり、多少表現が省略されていても、適法とされる場合があること、訴訟費用や仮執行宣言のみに不服がある当事者、第1審で全部勝訴している当事者からも提起ができることに注意すべきである。」(68ページ)と、肯定的な記載をしている一方で、「附帯控訴の提起により訴訟費用の負担の裁判だけに対して不服申立てをすることができると学説は解してるが(引用略)、判例は反対である(福岡高判昭26.8.27下民2−8−1035)。」(11ページ)という記載もされています。

 最高裁は、本案及び訴訟費用の負担についての上訴がなされた場合に、本案の上訴に理由がないときは訴訟費用の負担の裁判に対する不服申立ては不適法としています。
 最高裁1954年1月28日第一小法廷判決は、「訴訟費用の裁判が本案の裁判に附随してなされるものであることに鑑み、この裁判と離れて費用の裁判のみの当否を上訴審で判断させることを回避したものに外ならない。それ故たとえ本案の裁判と共に費用の裁判に対し上訴が申立てられた場合においても、上訴が不適法でありとされ、若しくは本案に対する上訴が理由なきものとされ、従つて本案の裁判が変更されないようなときは、費用の裁判も亦変更すべきではなくこの点に関する不服の申立は許されないものと解するのを相当とする。」とその理由を説明しています。最高裁1978年12月21日第一小法廷判決も、この判決を引用し、同じ趣旨を確認しています。
 これらの最高裁判決の趣旨からすると、訴訟費用のみに不服をいう附帯控訴には、本案に対する上訴がないのですから、当然本案に対する上訴に理由がないときと同様、不適法となりそうです。もっとも、相手方の方の控訴に理由があるとされると、本案の裁判が変更され、それに伴い第1審の訴訟費用の裁判も変更されることが多い(ただし、その場合、附帯控訴人には不利に変更される可能性が高いのですが)ので、訴訟費用についての附帯控訴を「不適法」というまでもないかも知れませんが。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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