◆短くわかる民事裁判◆
控訴の取下
控訴は、控訴審の終局判決があるまで、取り下げることができます(民事訴訟法第292条第1項)。控訴審の判決言渡後は取下げできません。控訴審判決言渡後に控訴の取下ができるとすると、控訴人が第1審判決と第2審判決の有利な方を事後的に選択できることになって(取り下げなければ第2審判決が生き、控訴を取り下げれば第1審判決が生きる)不公平になるからと説明されています。
控訴の取下には被控訴人(相手方)の同意は不要です(民事訴訟法第292条第2項が第261条第2項を準用していないため)。
控訴の取下がなされると、控訴は初めからされなかったものとみなされます(民事訴訟法第292条第2項、第262条第1項)。控訴が取り下げられると、控訴期間経過後になされた相手方の附帯控訴も効力を失います(民事訴訟法第293条第2項前段。控訴期間内になされた附帯控訴(独立附帯控訴と呼ばれます)は効力を失いません:民事訴訟法第293条第2項後段)。その結果、控訴の取下の時点で控訴期間が経過していて、相手方の控訴または控訴期間内にした附帯控訴がなければ、控訴期間経過時に遡って、第1審判決が確定します(相手方の控訴または控訴期間内になされた附帯控訴があるときは、控訴審がなお係属します)。控訴の取下の時点でまだ控訴期間が経過していないときは、控訴を取り下げた者も再度控訴することはできます(控訴を取り下げても控訴権を放棄したということにはならないので)。また、相手方が控訴している場合、控訴を取り下げた者が控訴期間経過後に附帯控訴することも可能です。ここまでいうと、相手方が独立附帯控訴している(控訴期間内に附帯控訴していて、控訴が取り下げられても効力を失わない)ときには、控訴を取り下げた者は控訴期間経過後にさらに附帯控訴できるか(附帯控訴にさらに附帯して控訴できるか)という疑問が出てきますね。それについて説明している文献を見つけることができませんでしたが、附帯控訴の制度趣旨からはできそうな気がします。
控訴の取下は、訴訟記録がある裁判所に行います(民事訴訟規則第177条第1項)。訴訟記録が第1審裁判所にあるうちに第1審裁判所に控訴取下書が提出された場合は、第1審裁判所の書記官取下に関する事務処理を行い、訴訟記録は控訴裁判所には送付せずに終わります(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版91ページ)。
訴訟記録がない裁判所に控訴取下書が提出された場合、つまり訴訟記録が第1審裁判所にあるうちに控訴裁判所に提出された場合や訴訟記録が控訴裁判所に送付された後に第1審裁判所に提出された場合は、窓口に持参した場合は訴訟記録がある裁判所に提出するように促し、郵便で提出されて促しが困難であるときは提出された裁判所で受理し、記録がある裁判所に連絡した上控訴取下書を送付する扱いとされ、取下の効果はいずれの場合も控訴裁判所に取下書が受理されたときと解されています(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版92ページ、158ページ)。
第1回口頭弁論期日の終了前に控訴を取り下げた場合、控訴提起手数料の一部について還付を受けることができます。
控訴提起手数料の還付については、「控訴提起手数料の還付」で説明しています。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
**_****_**