◆短くわかる民事裁判◆
忌避申立てに対する簡易却下
「裁判官の忌避申立てに対する裁判」で説明したように、民事訴訟法は、裁判官の忌避申立てに対しては、忌避申立てを受けた裁判官を含まない合議体で決定することを定めています(民事訴訟法第25条第1項~第3項)。
刑事訴訟法は、民事訴訟法とほぼ同様の規定(刑事訴訟法第23条)を置きつつ、「訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避の申立」については、合議体の事件では忌避申立てをされた裁判官を含む合議体で、単独体の事件(裁判官1人で担当している事件)では忌避申立てされた裁判官1人で、却下決定ができることを定めています(刑事訴訟法第24条)。
裁判業界では、この忌避申立てされた裁判官を含む合議体または忌避申立てされた裁判官1人で行う忌避申立て却下決定を「簡易却下(かんいきゃっか)」と呼んでいます。
家事事件手続法と非訟事件手続法(どちらも2011年制定)にも、簡易却下の規定が設けられています(家事事件手続法第12条第5項~第7項、非訟事件手続法第13条第5項~第7項)。
しかし、民事訴訟法には、最近もさまざまな改正がなされていますが、簡易却下を認める規定はありません。
濫用的な忌避申立てに対して、刑事訴訟法や家事事件手続法、非訟事件手続法のような規定がない民事裁判で、忌避申立てされた裁判官を含む合議体や忌避申立てをされた当の裁判官による簡易却下をすることができるでしょうか。
裁判所は、実際には簡易却下を認めています。最高裁の決定等でこれを明言したものを見つけることができませんでしたが、繰り返し忌避申立てをしていた当事者の忌避申立てに対して簡易却下した原決定(大阪高裁2002年11月5日決定)に対する許可抗告を棄却した最高裁2003年2月14日第三小法廷決定があり、その紹介記事で最高裁調査官が「民事訴訟手続においても簡易却下が許されることについては、学説(秋山幹男ほか「コンメンタール民事訴訟法Ⅰ」232ページ)及び下級審の裁判例も一致して肯定しており(東京高裁1981年10月8日決定判例時報1022号68ページなど)、最高裁判所の口頭弁論期日においても先例があり(最高裁平成2年(行ツ)第137号第1回口頭弁論期日)、実務に定着しているといって差し支えないと思われる。」と解説しています(判例時報1866号4~5ページ【2】)。
※ここで紹介されている最高裁自身が忌避申立てを受けて簡易却下した事件、大阪府水道部の接待支出の違法性を争う住民訴訟で住民勝訴の高裁判決を破棄した事件ですね→判決はこちら 当事者も裁判所も熱くなったんでしょうね
※なお、最高裁の裁判官の忌避申立てに対して最高裁が民事訴訟法の規定通り別の小法廷で決定している事例として最高裁1991年2月25日第一小法廷決定があります。
確かに、引き延ばし目的で忌避申立てがなされることは多く、民事訴訟法の規定通り別の部で決定し、その却下決定に対する即時抗告、高裁の抗告棄却に対して最高裁に特別抗告となると、数か月裁判の進行が止まり、なんとかしたいというのはよくわかります。しかし、そうはいっても法律の規定がないのに、法律の規定する手続を無視してしまうというのはいかがなものかと思います。
民事裁判の手続全般については「民事裁判の審理」でも説明しています。
民事裁判の登場人物についてはモバイル新館の 「民事裁判の登場人物」でも説明しています。
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