◆短くわかる民事裁判◆
当事者の虚偽の陳述と有罪判決要件
7号再審事由のうち「宣誓した当事者の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと」に関して、民事訴訟法第338条第2項が定める有罪判決要件「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」は、どのような場合に認められるでしょうか。
原則は、当事者の陳述については、過料の裁判(民事訴訟法第209条第1項)が確定したときです。
最高裁2005年11月18日第二小法廷決定は、「同項に規定する過料の裁判は、裁判所が職権によって行うものであり、訴訟の当事者はその裁判を求める申立権を有しないものと解するのが相当である。したがって、抗告人の上記過料の裁判の申立ては、原裁判所に職権の発動を求める効果を有するにすぎない。そうすると、抗告人は、上記決定に対し不服を申し立てることは許されない」と判示しています。
相手方当事者は、反対当事者に対する過料の裁判の「申立権」はなく、その結果過料にしないという決定に対して不服申立て(即時抗告)はできない、しかし、裁判所に職権発動を求めることはできるということですね。
宣誓の上虚偽の陳述をしたとして過料の裁判(過料に処する決定)を受けた当事者は、その決定に対して即時抗告をすることができます(民事訴訟法第209条第2項)。その場合、その即時抗告が棄却されたときに、過料の裁判が確定したということになります。
過料の裁判の申立て(職権発動の申出)は、その裁判係属中でなくても、終了後、確定後でもできます。
最高裁1976年1月16日第二小法廷判決は、「宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、受訴裁判所は、当該事件がその審級を離脱した後も右当事者を過料に処することができる」と判示しています。この判決は、虚偽の陳述をした事件の終了後は過料の裁判ができないとして、それ故に「証拠がないという理由以外の理由によりは過料の確定裁判を得ることができないとき」に当たるから有罪判決要件を満たすという再審請求は認められないという判断をしたものですが、事件終了後も過料の裁判の申立てができることを示しています。
さて、相手方当事者の虚偽の陳述を主張し、再審請求を希望する人(私の経験では、再審の相談のうち相当な割合を占めています)が、その虚偽の陳述がなされた裁判所に、相手方当事者に対する過料の裁判の申立をして、裁判所が過料の決定をした場合は、まさに有罪判決要件(民事訴訟法第338条第2項)を満たしますが、裁判所が過料の決定をしない場合はどうなるでしょうか。
東京地裁1995年10月26日判決(判例時報1559号90ページ)は、過料の裁判の申立てに対して、単に職権を発動しない旨の判断のみがされた場合は、虚偽の陳述の事実それ自体が存在しないという趣旨であるのか、それとも虚偽の陳述の事実は存するが、諸般の事情から過料の裁判をしないという趣旨であるのかが明らかでないので、この点が明確でない場合は、再審裁判所としては、民事訴訟法420条2項後段の要件を満たしたものとして、同条1項7号に定める再審事由の有無について判断するほかはないとしています。(旧民事訴訟法第420条は現行民事訴訟法第338条に当たります)
この判決に従えば、相手方の虚偽の陳述を主張して7号再審事由を主張する人は、判決確定後でもその虚偽の陳述がなされた裁判所に過料の裁判の申立てをし、裁判所が、虚偽の陳述をしたとは認められないなどの理由を示した場合以外は、過料の決定がされなくても、一応民事訴訟法第338条第2項の要件(有罪判決要件)を満たすということになります。
もっとも、その場合でも当然に、虚偽の陳述であることの立証は必要です。それは簡単ではありません。この東京地裁判決のケースでも、再審原告は、交通事故の事件で、3件の鑑定書を用意して相手方の陳述が虚偽であると主張しましたが、鑑定の前提となる基礎資料(当時の状況の再現)に信頼性がない(当時の状況と違うことを前提として鑑定しているから意味がない)、再審原告自身が事故直後には再審での主張と逆の態度を取っていたなどから、再審被告の供述が虚偽であることを認めるに足りる証拠はないとして再審請求は棄却されています。
また、相手方の陳述が虚偽であったことを立証できても、その陳述が判決の証拠となったことということも必要です。それについては、「7号再審事由と虚偽の陳述が判決の証拠となったこと」で説明しています。
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