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短くわかる民事裁判◆
第1審での主張と上訴審判決の判断の遺脱
 第1審で主張した判決に影響を及ぼすような重要な事項が、第1審判決の当事者の主張としても記載されておらず、判断もしていないという場合、第1審判決には判断の遺脱があると言えます。その判決の控訴審で、判決が第1審判決の当事者の主張をそのまま(あるいはほぼそのまま)引用し、やはりその重要な主張を書き落とし判断もしていない場合、控訴審判決には判断の遺脱があると言えるでしょうか。

 控訴審の第1回口頭弁論の際、法廷で、裁判長から、「双方、原判決記載のとおり、原審口頭弁論の結果を陳述していただきます」とか、「双方、原判決記載のとおり原審口頭弁論の結果陳述」などの発言があります。これは「当事者は、第1審における口頭弁論の結果を陳述しなければならない。」という民事訴訟法第296条第1項の規定によるもので、必ず行われます(裁判長がそれを忘れたら、絶対的上告理由になります)。(そのことについては、「第1審の口頭弁論の結果陳述の意味」で説明しています)。当事者が返事をしなくても、また裁判長の声が聞き取れなくても、裁判長がそう言えばというか、書記官がそのように調書に記載すれば、当事者双方が原判決記載のとおり原審口頭弁論の結果を陳述したことになります。
 そして、「主張した事実が第1審判決に記載されていないとき」で説明したように、第1審で主張していた主張が、第1審判決の当事者の主張に記載されていない場合に、原判決記載のとおり原審口頭弁論の結果を陳述したときは、その第1審では主張していたはずの主張は、その陳述の効果としては控訴審の口頭弁論で主張したものとは扱われません。
 そうなると、控訴審ではされていない主張について控訴審判決が判断をしなくても判断の遺脱にはなりません。

 最高裁1963年6月20日第一小法廷判決は、「所論は、次に、一定の主張が明示的に記載せられていない第一審判決事実摘示を当事者が第二審において第一審口頭弁論の結果として陳述している場合であつても、この主張が訴状に明白に記載せられこの訴状が第一審口頭弁論において陳述せられ、しかも第一審判決がこの主張事実を認定しこれによつて原告を勝訴せしめた如き場合においては、その一定の主張は第二審においても維持せられていると見るべきであるとの上告人の主張について、原二審判決はなんら判断していないと非難する。しかし、原上告審判決は、当事者が第二審で第一審判決事実摘示のとおり第一審口頭弁論の結果を陳述した場合において、第一審判決事実摘示に記載されていない事実は、たとい所論のような事由があつても、第二審における陳述がないものであるとの見解の下に、所論一定の主張は第二審において主張されなかつたとの理由で、右上告理由を排斥したものであること判文上明らかである。されば、原上告審判決に所論判断遺脱の違法もない。」としています。

 貸主が保証債務の履行を求めた裁判で被告が相殺の抗弁(保証人が貸主に対して別の反対債権があり、それを弁済に充てる)を主張したところ、裁判所の口頭弁論期日調書に添付された主張整理案(裁判所が当事者の主張を整理したもの)にも第1審判決にも相殺の主張が記載されておらず、控訴審第1回口頭弁論期日で第1審判決記載のとおり第1審の口頭弁論の結果を陳述し(裁判長がそういっただけでしょうね)、かつ被告(控訴人)は控訴審で第1審判決が相殺の主張を記載せず判断もしていないことについて何ら非難しなかったという経過で、保証人(被告、控訴人)が、控訴審判決に判断の遺脱があるとして再審の訴えを提起しました。
 東京高裁2003年12月12日決定は、(判例時報の記事での調査官による要約によれば)「第1審において、弁論準備手続を経て当事者の主張が整理され、その後、第1審において格別の主張がなく、第1審判決書も弁論準備手続の結果を踏まえて作成され、控訴審においても第1審判決に基づき第1審の口頭弁論の結果が陳述された場合には、控訴審において別異の主張がされない限り、弁論準備手続の結果陳述において陳述されず、かつ、第1審判決書に記載されていないものは、弁論準備手続の際に、審理の迅速化等当事者の利益のため、撤回されたものと認めるのが相当である」「したがって、以上のように整理された主張を前提に、判決に影響を及ぼす主要事実につきすべて判断している基本事件の控訴審判決には、判断遺脱はない」として再審請求棄却決定をしました。
 最高裁2004年3月30日第三小法廷決定(判例時報1902号11〜12ページ【19】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました。

 第1審判決に、判断の遺脱があっても、控訴審で(改めて)その主張をしなければ、控訴審判決も同じく判断しない場合も控訴審判決には判断の遺脱はないということになり、そして控訴人判決が本案判決であれば(控訴が不適法としたのでなければ)第1審判決は再審請求の対象となりません(民事訴訟法第338条第3項)ので、結局再審は認められないということになります。

 もちろん、第1審判決が書き落とした場合でも、控訴審で改めて主張すれば(通常は控訴理由書に記載していれば)、それが判決に影響を及ぼす重要な事項であり、それにもかかわらず控訴審判決が当事者の主張として記載せず判断もしないということになれば、判断の遺脱になります。

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 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
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