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短くわかる民事裁判◆
第1審の口頭弁論の結果陳述の意味
 控訴審の第1回口頭弁論では、裁判長から、「双方、原判決記載のとおり、原審口頭弁論の結果を陳述していただきます」とか、「双方、原判決記載のとおり原審口頭弁論の結果陳述」などの発言があり、当事者(控訴人と被控訴人)が「はい」と述べたり黙っていたりという場面があります。
 これは、民事訴訟法上、「当事者は、第1審における口頭弁論の結果を陳述しなければならない。」と定められており(民事訴訟法第296条第1項)、当事者が積極的にいうことが通常ないので、裁判長が聞いて確認しているという形です。これは第1審で提出された主張や証拠は控訴審の裁判官の前で陳述されたものではないので、直接主義(民事訴訟法第249条)、口頭主義(民事訴訟法第87条第1項)の建前から、それらを控訴審の裁判官の前で陳述したことにする必要があるためです。
 この「陳述」という一言で、第1審で提出した主張、書証、人証調べの結果がすべて控訴審の口頭弁論に提出されたものとして、控訴審の審理判断の対象と扱われます。ただし、当事者の第1審での主張は、第1審判決が整理して判決中に記載したとおりと扱われます(そのために「原判決記載のとおり」と確認しています)。
 まったく形骸化したものですが、もし裁判長がこの確認を忘れたり、口頭弁論調書にその記載がないと、重大な訴訟手続の法令違反となり、控訴審判決の破棄の理由となってしまいます。(そうなった事例を「判決裁判所の構成の違反:適法な弁論更新の欠落」で紹介しています)

 控訴審の第1回口頭弁論調書には、この部分は、「当事者双方 原判決記載のとおり原審口頭弁論の結果陳述」と記載されるのが通例です(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版130ページ、127ページ:実際には裁判長がそう発言して当事者は黙っていることも多いですが、それでも当事者双方が陳述したと記載されます)。

 通常はないですが、第1審判決記載の事実に当事者が第1審で行った主張が脱落し判決で記載されていない事実についても審理の対象とする場合は、「原審口頭弁論の結果陳述」、逆に第1審判決記載の事実に当事者が主張しなかった内容が記載されている場合は「○○の点を除き原判決記載のとおり原審口頭弁論の結果陳述 ○○の点は△△である。」という文例が紹介されています(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版127ページ)。

 第1審判決の記載に当事者が主張した事実が欠けていた場合については「主張した事実が第1審判決に記載されていないとき」で説明しています。
 第1審判決が当事者が主張していない事実を記載していた場合については「主張していない事実が第1審判決に記載されていたとき」で説明しています。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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