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短くわかる民事裁判◆
判断の遺脱を知り得なかった特段の事由
 最高裁は、判断の遺脱については、これを知り得なかったとする特段の事由の主張立証がない限り、判決正本またはこれに代わる調書(いわゆる調書判決)の送達を受けた時点でそれを知ったものと推定されるという判示を繰り返しています。
 そのため、民事訴訟法第338条第1項但し書きの再審の補充性(当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき、さらには知りながら上訴しなかったとき)の関係で、判断の遺脱を理由とする再審請求が適法とされるケースはかなり限定され(それについては「9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応」で説明しています)、また再審期間も判決確定の日から30日となり(民事訴訟法第342条第1項)、その点でも再審請求が厳しくなります。

 最高裁1970年12月22日第三小法廷判決は、「判断遺脱のような再審事由の存在は、その事柄の性質上、通例、判決正本の送達を受けてこれを閲読することにより知りうべき筈のものであるから、これを知りえなかつたとする特段の事由の主張立証のないかぎり、当事者において右判決正本の送達を受けた当時に右事由の存在を知つたものと推定することができる」としています。
 最高裁2012年4月25日第二小法廷決定は、改めて過去の判例を総合する形で「判断遺脱は、その事柄の性質上、判決書又はこれに代わる調書の送達を受けてこれを閲読することによりその存在を知りうるはずのものであるから、これを知り得なかつたとする特段の事由の主張立証のないかぎり、当事者において判決書又はこれに代わる調書の送達を受けた時点でその存在を知つたものと推定される」としています(判例時報2206号8〜9ページ【21】【22】)。
 この最高裁決定は、再審原告「は、訴訟代理人に委任するまで前訴判決に判断の遺脱があったことを知り得なかったなどと主張するものの、これをもって上記特段の事由を主張するものとはいえず」とも判示しています。専門家に聞かなければわからないというのが通らないなら、(判決の送達を受けていないという3号再審事由もあるような場合でなく)判決の送達を受けたが判断の遺脱があったことを知り得なかった特段の事由って、いったいどういう場合に認められるのでしょうか。ちょっと想像もつかないのですが。(実際、最高裁がこの特段の事由を認めた判決・決定を、私は見つけることができていません)
※最高裁2012年4月25日第二小法廷決定の事案は、訴状副本等が従業員に手渡されて補充送達され被告欠席のまま判決が言い渡されて確定したもので、再審原告は3号再審事由もあると主張していて、少なくとも確定判決送達時点で訴訟代理人は付いていません。その後弁護士に依頼して再審請求したものですが、「知った日から30日」の再審期間内かどうかに関する判断です。もっとも、訴えを変更して9号再審事由(判断の遺脱)を主張したのが最初の弁護士に依頼してから約7か月後(弁護士を替えて再審事由の主張を変えた)なので、弁護士に相談しなければわからなかったという主張が認められる場合であっても通らない(再審に詳しい弁護士に相談しなければわからなかったという主張が認められるのなら別ですが)事案だったのですが。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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