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短くわかる民事裁判◆
解雇事件の請求の趣旨
 解雇された労働者が、使用者に対して解雇の有効性を争う(不当解雇だと主張する)場合、労働契約上の権利を有する地位の確認と、解雇後の未払い賃金の請求をするのがふつうです。
 現実の事件では、けっこう複雑なものになります。毎月決まって支払われる賃金(月例賃金。名目は基本給に限らずいろいろな手当でも毎月同じ額のものはすべて合計します)が30万円、月例賃金は毎月20日締め当月25日払いの労働者が、2024年10月31日に即日解雇され、解雇日に解雇予告手当として32万円、11月25日に解雇日までの日割り賃金10万円が支払われ、2025年1月31日に訴えを提起する場合、どういう請求の趣旨になるでしょうか。
 私が担当する場合、
1.原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2.被告は、原告に対し、金48万円及び令和7年2月から本案判決確定の日まで、毎月25日限り、月額金30万円並びにこれらに対する各支払日の翌日(金48万円のうち金18万円については令和6年12月26日、金30万円については令和7年1月26日)から支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3.訴訟費用は被告の負担とする。
4.第2項につき仮執行宣言
との裁判を求める。
というようにしています。

 このケースでは、2024年11月25日に10月21日から31日までの日割り賃金として10万円が支払われた結果、解雇が無効の場合の11月25日に支払われるべき未払い賃金は20万円となり、これに解雇予告手当のうち20万円を充当、残った解雇予告手当12万円を12月25日に支払われるべき賃金に充当した結果、12月25日に支払われるべきだった未払い賃金が18万円、提訴時点でさらに2025年1月25日に支払われるべきだった未払い賃金30万円が発生しています。この文例では、それを提訴前の(確定)未払い賃金と、提訴後に発生する賃金に書き分けています。
 そうしないで第2項を「令和6年12月25日限り金18万円及び令和7年1月から本案判決確定の日まで、毎月25日限り、月額金30万円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払い済みまで」としてもいいと思います。私は、既に過去になっている日を示して「○日限り支払え」というのに若干の抵抗感があって過去分を書き分けていますが、そこを気にしないなら、後の文例の方が遅延損害金の発生日がスッキリしていいでしょう。

 地位確認請求については、一般人の感覚としては、「被告が原告に対して行った令和○年○月○日付解雇が無効であることを確認する。」と書きたいところですが、裁判所は、原則として過去の事実の確認はしない、現在の権利関係を確認するという、独自の信念を持っていて、必ず「原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」に修正するように指示されます。
 ちなみに、裁判所は、労働者にとって就労は権利ではなく義務なので、「就労請求権」は原則として存在しないとして、就労請求権の確認も拒否するのが通例です。

 民事訴訟法が、将来の請求については「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。」と定めている(民事訴訟法第135条)ため、裁判所は、判決確定以降に発生する賃金についての請求は認めません。賃金については請求の終期として「本案判決確定まで」と記載しておかないと、判決で、原告の請求のうち本判決確定の日の翌日以降が支払日の賃金の請求をする部分を却下すると書かれてしまいます。
※「本案判決(ほんあんはんけつ)」というのは、原告の請求に対して(正面から理由の有無を)判断した判決という意味で、訴えが不適法とする判決(主文は却下。裁判業界では形式判決とか、訴訟判決とも呼びます)以外の判決ということです。判決主文では「本判決確定の日まで」です(「判決主文:地位確認等請求認容(解雇事件)」を見てください)が、訴状では、判決を書くのは裁判官であって自分(原告、原告代理人)ではないので「本判決」と書くのがはばかられるため、「本案判決確定の日まで」と書いています。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴えの提起(民事裁判の始まり)」でも説明しています。
  

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