◆短くわかる民事裁判◆
訴状の送達
裁判所と原告(代理人がついているときは原告代理人)の間で、第1回口頭弁論期日が決まったところで、裁判所は、被告に、訴状副本と、原告から同時に提出された甲号証、証拠説明書、第1回口頭弁論期日の日時・法廷等が記載された期日呼出状、答弁書を指定した日(通常は第1回口頭弁論期日の1週間前)までに提出するようにという答弁書催告状(通常はその2つが一体となった期日呼出状兼答弁書催告状)、原告に訴訟救助を認めたときは訴訟救助決定を、まとめて特別送達で郵送します(なお、実際には、さらに裁判所が作成している「訴えを提起された方へ」などの表題の説明文書と、手書きで書き込んで作成できる答弁書の書式も同封されるのがふつうです)。
この訴状が被告に送達されることで、被告が訴えが提起されたこと及びその内容を知り、これに対して被告が応答することで裁判が実質的に開始されることになります。
裁判所の訴えに対する対応は被告の応答次第というところがあり、被告が認諾(にんだく:請求を丸呑みすること)したり、反論せず期日に欠席したりすれば、裁判所が実質的に検討して判断するまでもなく原告の主張通りにすれば足りますし、被告からきちんとした反論があれば争いのある点を中心にその後の双方の主張と提出された書証に応じて心証を形成していこうということになります。
それらもすべて、訴状が被告に送達され、被告がその内容を知ったということが大前提で、訴状が被告に実際に送達されることは、裁判制度の要と位置づけられます。
その訴状が被告に送達できないとなると、イレギュラーケースとして、「訴状が届かないとき:裁判所に戻ったとき」以下の展開になります。
さて、2026年5月25日まで(法改正の公布が2022年5月25日でそれから4年以内)には、少なくとも弁護士は訴状(及び準備書面)をオンライン提出することが義務化されることになっています(未だにその施行日も具体的な方法も定まっていません)。そうなったら訴状の送達はどうなるでしょうか。民事訴訟法改正時の議論では、一定の範囲(その範囲はまったく決まらず)で電子メールアドレスの事前登録制度を設け、登録されている被告には、訴状を裁判所のシステム内にアップして、被告にその旨を登録された電子メールで連絡し、被告がそのファイルを閲覧した時に送達されたと扱う、それをシステム送達と呼ぶということでした。しかし、弁護士はメールアドレスを登録するとして、訴える側の多くはメールアドレスが登録されることになったとしても、訴状が提出された時点で被告に弁護士が付いているということはほぼありません。訴えられてもいない一般人がいったいどれくらい、将来訴えられるかもと思って裁判所にメールアドレスを登録するでしょうか。裁判所がどう考えているかわかりませんが、ふつうに考えて、破綻が予想されるマイナ保険証以下の登録率に終わると予想されます。民事訴訟法改正時の議論では、原告が被告のメールアドレスを訴状とともに届出するということも想定していますが、まず現実問題として住所はまだ住民票という制度と弁護士の職務上請求で住民票が取れることが基本的には確保されているので訴状に被告の住所を書けるものの、原告が被告のメールアドレスを把握できる可能性はどれくらいあるでしょうか。そして原告が実際とは違うアドレス(悪意なら自分や知人のアドレス)を届け出て被告に訴状が送達されないのにされたかのように装うリスクを排除する実効的な方法は開発できるのでしょうか。
結局、そこがうまく行かないと、電子提出された訴状をプリントアウトして郵送して送達するということになります。
注目されるところですが、進展したという情報がまったく出てこないのが不安です。
訴状の送達については「裁判所の呼出を無視すると」でも説明しています。
モバイル新館の 「訴状が届かないとき」でも説明しています。
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