◆短くわかる民事裁判◆
即時抗告状の記載事項
即時抗告は、抗告裁判所(決定が地裁なら高裁)宛の抗告状(こうこくじょう)を原裁判所(地裁の決定ならその地裁)の民事受付に提出して行います(民事訴訟法第331条本文、第286条第1項)。
即時抗告状に必ず記載しなければならない事項は、当事者(未成年者や被後見人等の場合は法定代理人も)、原決定の表示、原決定に対して抗告する旨です(民事訴訟法第331条本文、第286条第2項)。
当事者の表示は、申し立てる側は「抗告人」(即時抗告人でもいいですが)、その相手は「相手方」とするのが通例です(2000年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版314ページ)。
当事者及び法定代理人、訴訟代理人については、氏名及び住所を記載します(民事訴訟規則第2条第1項第1号)。
抗告の場合、相手方がない事件もあります。例えば訴状却下命令や証人に対する過料決定、裁判官忌避申立てに対する決定などは相手方がない事件とされます(2000年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版294ページ、342ページ)。訴状却下命令の場合など、被告はいるのですが被告に訴状送達がなされる前なので相手方がないとされ、裁判官忌避に関しては裁判(基本事件)の相手方は明らかに利害関係を有するのですが忌避の当事者でないので相手方がないとされます。そこは、今ひとつ当事者としての感覚と裁判所の判断にズレが出てくる感じがしますし、いずれにしても相手方がある事件と相手方がない事件の区別は明確とは言えません。
相手方がない事件と判断して相手方を記載しなかったときに裁判所は相手方があると判断した場合や、逆に相手方がある事件として相手方を記載したところ裁判所は相手方がないと判断した場合、それで直ちに抗告状の記載事項を満たさないとして抗告状却下命令が出されるということはなく、裁判所が必要と判断すればまず(ふつうは最初に書記官から補正の依頼があり)補正命令が出されますので、そこで補正すれば足ります。不安であれば、抗告状の提出前に原決定をした裁判所の書記官に、相手方の記載をどうすればよいか問い合わせればいいでしょう。
原決定の表示は、原裁判所(例えば東京地裁)、事件番号(例えば令和○年(モ)第○○号)、事件名(例えば移送申立て事件)、裁判の日付、原決定の主文を記載するのが通例です。
原決定に対して抗告を申し立てる旨は、原決定に不服があること、抗告を申し立てることを記載するのが通例です。
通常は、抗告人の住所氏名、訴訟代理人がついているときは続いて訴訟代理人の事務所住所と肩書き、氏名、相手方の住所氏名を記載し、「上記当事者間の○○地方裁判所令和○年(○)第○○号○○事件について、同裁判所が令和○年○月○日付でした決定は不服であるから即時抗告を提起する。」というように記載します。
なお、これに続き、「原決定の表示」として原決定の主文、「抗告の趣旨」として抗告人が求める決定の主文を記載し、「抗告の理由」として「追って抗告理由書を提出する。」と記載するのが通例です。
※抗告の理由は、抗告状に記載してもいいですが、何か理由を書いてしまうと、抗告理由書の提出を待たずに決定されてしまうリスクがあるので、抗告状の提出時点で抗告理由を書き切る準備ができているという場合でない限りは書かないのが標準的な対応となっています。
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