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短くわかる民事裁判◆
訴訟救助事件終了時の受救助者への支払命令
 訴え提起時に原告に資力がないとして訴え提起手数料の支払いを猶予する訴訟救助決定がなされた事件が終了して確定したとき、猶予された訴え提起手数料はどうなるでしょうか。

 民事訴訟法は、訴訟救助を受けた者の訴訟を承継した者が現れたときには(その者は訴訟救助の対象者ではないので)裁判所が決定で猶予した費用の支払いを承継者に命じること(民事訴訟法第83条第3項)、訴訟救助を受けた者が訴訟救助の要件を欠いていることが発覚するか決定後に要件を欠くに至ったときには裁判所が決定で訴訟救助決定を取り消して猶予した費用の支払いを命ずることができること(民事訴訟法第84条)を定めているだけで、それらの事情がないまま訴訟救助を受けた事件が終了したときのことを明確に定めていません。

 訴訟救助決定を受けた原告が全部敗訴し、訴訟費用の全部を原告に負担させる裁判が確定したときについては、訴訟救助決定は当然に効力を失い、裁判所は訴訟救助決定を取り消すことなく、訴訟救助決定を受けた者に対して猶予した費用の支払いを命じることができると解されています(最高裁2007年12月4日第三小法廷決定)。
 裁判所は、この場合、支払を命じる猶予費用の額を具体的に示して猶予した費用の支払いを命じる決定(支払決定)を行い、その根拠条文は民事訴訟法第84条であり、支払を命じられた者は民事訴訟法第86条によって、決定の告知を受けた日から1週間以内に即時抗告ができるという取扱をしているようです(2018年度書記官実務研究報告書「民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究」245ページ)。

 訴訟救助決定を受けた原告が訴えを取り下げたことにより訴訟が終了した場合は訴訟は最初から係属しなかったことになり(民事訴訟法第262条第1項)、訴訟救助決定も当然に効力を失うので、この場合も裁判所は直ちに支払決定ができることになります。

 問題は、訴訟救助を受けた原告が一部敗訴した判決が確定し、訴訟費用の一部を原告に負担させる裁判が確定したときです。
 2018年度書記官実務研究報告書「民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究」244ページでは、この場合、原告の主張が一部とはいえ正当性を認められたため、全部敗訴が確定したときとは異なり勝訴の見込みが完全に失われたということでもなく、原告の権利を保護する必要性が失われたとはいえないので、裁判所は訴訟救助を受けた者の資力が回復し訴訟救助決定を取り消さない限り猶予費用の支払いを命ずる決定をすることはできないとされています。
 和解の場合も上記と同様だそうです。
 和解で訴訟費用は各自の負担としても、それは支払義務はあるけれども、猶予の決定(訴訟救助決定)はまだ生きているので、それが効力を失う(資力要件を欠くことになったために取り消される)ことにならない限り、裁判所は今払えとはいえない、だから(任意に支払うことを促すことはできても)支払決定はできないということですね。

 事件終了時の裁判所の相手方への取立命令については「訴訟救助事件終了時の相手方への取立命令」で説明しています。

 訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
  

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