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短くわかる民事裁判◆
民事裁判手続中の決定等に対する通常抗告
 民事訴訟法は、抗告という手続で不服申立てができる(抗告の対象となる)裁判を「口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定又は命令」、「決定又は命令により裁判をすることができない事項について決定又は命令がされたとき」と定めています(民事訴訟法第328条)。
 民事訴訟法は、それと別に多数の裁判(決定・命令)について個別に即時抗告(そくじこうこく)ができることを定めています。
 この要件を抽象的一般的に定めている規定ぶりや、個別の規定では「即時抗告」という用語法が使用されていることとの対比などから、裁判業界では、民事訴訟法第328条に定める抗告を「通常抗告(つうじょうこうこく)」と呼んでいます。即時抗告ができる決定・命令は民事訴訟法第328条の定義に当てはまる範囲を超えていますし、多くの決定・命令が即時抗告ができると定められているので、「通常抗告」ができる場合が多いとか一般的ということでもないのですが。

 通常抗告の対象となる決定・命令は、決定や命令でできないものを決定・命令した場合以外では、専門書で例示されているものでも、以下のような場合くらいです(「新・コンメンタール民事訴訟法[第2版]:2013年、日本評論社」1109ページ)。
●管轄裁判所が法律上または事実上裁判権を行うことができないとき(例えば所属する裁判官が全員除斥・回避の対象であるとか病気等により執務できないなど)や管轄区域が明確でないために管轄裁判所が定まらないとき(例えば係争対象の山林・原野の所在が明確でないなど)の際の直近上級裁判所への管轄指定の申立て(民事訴訟法第10条第1項、第2項)を却下した決定、
特別代理人の選任申立て(民事訴訟法第35条第1項)を却下した命令、
●訴訟の目的である義務の承継者に対する訴訟の引き受けをさせる申立て(民事訴訟法第50条第1項)を却下した決定、
●故意または重大な過失によって生じさせた無益な訴訟費用、無権代理人の訴訟行為により生じた費用の償還を命じさせる申立て(民事訴訟法第69条第1項、第2項)を却下した決定、
●担保取消の申立て(民事訴訟法第79条第1項、第2項)を却下した決定、
●専門委員の関与の決定の取消の申立て(民事訴訟法第92条の4)を却下した決定、
●期日指定の申立て(民事訴訟法第93条第1項、第263条)を却下した命令、
●当事者死亡等の際の相続人等による訴訟の受継の申立て(民事訴訟法第124〜128条)を却下した決定、
●訴訟を(原則非公開の)弁論準備手続に付する裁判の取消を求める申立て(民事訴訟法第172条)を却下した決定、
●証拠保全手続の申立て(民事訴訟法第234条)を却下した決定

 通常抗告は、抗告申立て期間は定められておらず、元々の裁判の進行等の状況により申し立てる意味がなくなってしまえば申し立てられなくなりますが、それまではいつでも申し立てられるということになります。
 通常抗告は、原裁判(抗告の対象となる決定・命令)の執行停止をする効力はありません(民事訴訟法第334条第1項)。執行停止をする必要があるときは、裁判所に執行停止の申立てをすることになります(民事訴訟法第334条第2項)。

 その他の点は、基本的に、即時抗告と同じとされています。

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