◆短くわかる民事裁判◆
不備が補正ができない不適法な訴えの却下判決
民事訴訟法は、「訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。」と定めています。
訴えが不適法な場合であっても、その不備が補正可能な場合は、裁判所は口頭弁論を開いて、当事者にその不備を是正/補正する機会を与える必要があります。
最高裁1996年5月28日第三小法廷判決は、「訴えが不適法な場合であつても、当事者の釈明によつては訴えを適法として審理を開始し得ることもあるから、そのような可能性のある場合に、当事者にその機会を与えず直ちに民訴法202条を適用して訴えを却下することは相当とはいえない。」とした上で、最高裁まで争って判決が確定した事件の確定判決について無効確認を求めた訴えについて、「しかしながら、裁判制度の趣旨からして、もはやそのような訴えの許されないことが明らかであつて、当事者のその後の訴訟活動によつて訴えを適法とすることが全く期待できない場合には、被告に訴状の送達をするまでもなく口頭弁論を経ずに訴え却下の判決をし、右判決正本を原告にのみ送達すれば足り、さらに、控訴審も、これを相当として口頭弁論を経ずに控訴を棄却する場合には、右被告とされている者に対し控訴状及び判決正本の送達をすることを要しないものと解するのが相当である。」と判示しました。
したがって、民事訴訟法あるいは民事訴訟制度上許されないような訴えの場合、口頭弁論を開かずに訴えを却下する判決をすることができ、その場合には被告に訴状を送達することも被告に判決正本を送達することも不要とされます。
※「不備が補正できない訴状の却下命令」で紹介した最高裁1989年1月20日第二小法廷判決との対比から、訴状の必要的記載事項の不備があって補正できない場合は訴状却下命令、それ以外の理由によって不適法で不備が補正できない場合は(口頭弁論を経る必要がない)却下判決ということになるかと思います。
※最高裁が引用している民事訴訟法の条文は1998年4月1日施行の民事訴訟法改正前の旧民事訴訟法のもので、現在の民事訴訟法第140条に当たります。
なお、このように口頭弁論を開くことなく行われた却下判決も終局判決ですので、これに対する不服申立ては、(紹介した最高裁判決のケースもそうされたように)控訴になります。
口頭弁論を経ないでなされた却下判決が確定すると、訴え提起手数料の一部について還付を受けることができます。
訴え提起手数料の還付については、「手数料還付」で説明しています。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
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