◆短くわかる民事裁判◆
第1回期日前の訴え取下への同意
裁判を起こされ、不当な請求なので、答弁書できちんと反論したら、原告が訴えを取り下げてきたという場合、被告はどう対応すべきでしょうか。
原告は、判決確定前は、いつでも訴えを取り下げることができますが、被告が本案(ほんあん)について(原告の請求自体に対する反論する、つまり訴状の請求の原因に対する認否や反論をする)準備書面を提出したり、準備書面を提出しなくても弁論準備期日で口頭で反論するとか口頭弁論期日に口頭で反論した後は、被告が同意しないと取下の効力を生じません(民事訴訟法第261条第1項、第2項)。民事訴訟法の規定上、準備書面(じゅんびしょめん)とされていますが、民事訴訟法では答弁書(とうべんしょ)も準備書面の1つです(民事訴訟規則第79条第1項)。答弁書や準備書面を提出した場合ですので、それが「陳述」されていなくても、したがって第1回期日の前でも、被告が答弁書や準備書面で実質的な反論をしていれば、被告が同意しなければ取下の効力は生じないのです(民事訴訟法第261条第2項の規定ぶりはややわかりにくいところがありますが、そういう趣旨です)。
被告が積極的に同意するという意思表示をしない場合でも、被告が訴えの取下書の送達を受けた日、被告が出席している期日に口頭で訴えの取下がなされたとき、被告が欠席した期日に口頭で訴えの取下がなされた場合は被告にその期日調書謄本が送達された日のいずれかから2週間以内に被告が異議を述べなければ、被告の同意があったものとみなされます(民事訴訟法第261条第5項)。
訴えが取り下げられると、訴訟は最初から裁判所に係属しなかった(なかった)ものとみなされます(民事訴訟法第262条第1項)。そして原告は、法律上は、1審判決(ただし却下判決を除く)前に訴えを取り下げた場合は、同じ内容の訴訟を再び提起することができます。
被告からすれば、勝てると判断している場合、取下がなく裁判が進めば勝訴判決を受けてスッキリしますが、取り下げられると結論が出ないまま、原告からまた再訴があり得るという不安定な状態が続くことになります。ただし、原告が法的には再訴可能であっても、実際に再訴を提起すれば被告は原告が同じ訴えを提起して被告から反論されて取り下げたという経緯を主張立証しますので、その経緯は裁判所の心証に大きく影響するのがふつうですから、再訴しても原告には勝ち目がないと考えるのがふつうです。それでも気にせず、勝訴・敗訴にかかわらずただ嫌がらせで訴訟を起こす人もいるでしょう。しかし、その心配をするなら、そういう人はまた別の言いがかりを考えて訴えを起こすでしょうから、1つの問題で再訴可能かどうかは決定的とも言えません。
被告側では、そういった事情も考慮して、勝てるのだから判決を取るという方針(取下には不同意)で行くのか、とりあえず今提起されている訴訟をこれ以上の労力とコストをかけずに終わらせるという方針(取下に同意�)で行くのかを判断することになります。
なお、被告が原告の取下に同意せず訴訟が進行した場合、その後になって被告がやはり原告が前にした取下に同意するといっても、そこで原告が再び取り下げるといえば取下が有効になりますが、そうでなければ(原告が今はもう取り下げしないということであれば)取下の効果は生じません。
この点について原告の側から見たときは「訴えの取下」で説明しています。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
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