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短くわかる民事裁判◆
訴えの取下
 原告は、判決確定前は、いつでも訴えを取り下げることができます(民事訴訟法第261条第1項)。原告が訴えを取り下げると、訴訟は最初から裁判所に係属しなかったものと扱われます(民事訴訟法第262条第1項。したがって、判決が言い渡された後確定する前に取り下げた場合、法的にはその判決もなかったことになります)。
 実際には、原告が訴えを取り下げるのは、「訴外和解」で説明しているような、被告から満足できるような対応(解決金の支払いなど)があり、裁判をする必要がなくなって取り下げる場合か、裁判の勝ち目がないことがわかって敗訴判決を受けるのでは裁判をする意味がないと考えて取り下げる場合です。
 前者の場合は、原告は満足し、被告もそれに合意しているので問題はありません。
 問題は、後者の場合です。
 1審判決(ただし、訴え却下以外の判決)があった後で取り下げた場合は、原告は同じ裁判を再度起こすことはできません(民事訴訟法第262条第2項)が、1審判決前の取下の場合、原告は法律上は再度同じ裁判を起こすことができます。しかし、現実的には、再度同じ裁判を起こした場合、当然、被告からは前の裁判での取下の経緯が主張立証されますので、それが裁判官の心証に強い影響を与えることも考えれば、勝訴できる見込みはまずありません。
 原告が取り下げても、被告が本案について、つまり(訴えの却下を求める主張ではなく)訴状の請求の原因に対して認否や反論をする準備書面を提出したり、弁論準備期日や口頭弁論期日で(準備書面を提出せずに口頭で)そのような主張をした後は、訴えの取下に被告が同意しないと取下の効力は生じません(民事訴訟法第261条第2項)。
 提訴してみたものの勝ち目がないとわかるのは、通常、被告の主張によってでしょうから、この場合は取下に被告の同意が必要です。取下を言ってみたものの被告が同意しなければ裁判は続けられ、そのやりとりだけで裁判所の心証は決定的に被告優位になりますので敗訴がほぼ決まります。被告との対立が激しい事件では取下を言うことにもリスクがあります。そういうことが起こらないように、訴えの提起は慎重にする必要があります。

 訴えの取下は、口頭弁論期日、弁論準備手続期日、和解期日に出席してその場で行う場合は口頭で行うことができます(民事訴訟法第261条第3項但し書き)。進行協議期日にも行うことができます(民事訴訟規則第95条)。しかし、通常は書面で行います(訴え取下書を提出します:民事訴訟法第261条第3項本文)。
 代理人(弁護士)が行う場合は、訴えの取下が明示された委任が必要です(民事訴訟法第55条第2項第2号)。委任事項が「本件に関し私がする一切の行為を代理する権限」というような委任事項では、訴えの取下を行うことができません。そのため、通常使用されている訴訟委任状では、必ず、「訴えの取下」が委任事項の1つとして明記されているのです。

 この問題について被告から見たときは「第1回期日前の訴え取下への同意」で説明しています。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
  

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