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【解雇が無効になるとき】
解雇は、懲戒解雇、普通解雇、整理解雇の3つに分けられます。おおざっぱに言えば、懲戒解雇と普通解雇はその労働者に問題があるとしてなされるものです。整理解雇は、その労働者に問題があるということではなく会社都合によるリストラ(人員整理)です。
懲戒解雇と普通解雇は理論的根拠や法律の規定に違いはありますが、現実的な違いは、懲戒解雇の場合、多くの企業で退職金を支給しないとか減額するとかいう扱いがなされていることにあります。
懲戒解雇、普通解雇、整理解雇それぞれについて、労働契約法や判例で少しずつ違った解雇の有効性に関する基準が示されています。
《懲戒解雇》
懲戒解雇の場合、懲戒解雇事由が就業規則に定められていて、その就業規則が労働者に周知(しゅうち)されている必要があります。どの程度のことをすれば「周知」したといえるのかは微妙な問題がありますが、その職場の労働者が実質的に知りうる状態にある必要があり、労働者が使用者に対して就業規則を見せるように要求しても拒否されるような場合は、周知しているとはいえないでしょう。
そして、労働者の行為が、就業規則で定めた懲戒解雇事由に当たることが必要です。裁判等の場面では、そもそも使用者側が主張する労働者の行為があったかどうか自体が問題となることも多く、本当にあったと認められない場合もあります。その上で、あったと認められた行為が、就業規則の懲戒事由に当たるかどうかが問題となるのです。
労働契約法(15条)は、懲戒解雇の有効性について、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めています。
この規定は、非常に抽象的なものですが、その解釈から次のようなことが導かれ、考慮されています。
就業規則の規定は、使用者側が作成するものですから、懲戒解雇事由の規定も、たいていは使用者側に有利に、かなり幅広い行為がそれに当たるように読めるようになっています。懲戒解雇事由の規定については、言葉の上でそれに当たることすべてを含むのではなく、解雇が相当なような重大な場合だけがそれに当たるというように限定的に解釈されるのが普通です。
そして、懲戒解雇事由に明確に当たる場合でも、解雇まですることが相当かということが検討され、例えば解雇以外の労働者側により負担の少ない方法(減給や配置転換等)で対応できないか、労働者側に落ち度があるとしても指導して教育や反省の機会を与えたかなどが考慮されて解雇は相当でないと判断されることがあります。
懲戒解雇の事件では、業務上の犯罪、例えば業務上扱う金銭の横領などの不正行為については、裁判所は厳しい判断をする傾向にあります。これは、法秩序を守ることに価値を置く裁判官という立場から、そういうものだと考えざるを得ないかなと私は思います。
他方、業務外の犯罪は、本来的には懲戒制度にはなじみません。懲戒は、本来は使用者が企業秩序の維持のために行うもので業務上のルール違反や上司の(適法な)業務命令への違反に対してなされるのが本来の姿です。日本では、人が犯罪を犯して逮捕されたという報道があると、特にその人が公務員だったり有名企業に勤めていたりすると、マスコミやネット世論ではクビにすべきだといわれますが、本来は筋違いの話です。ただそうは言っても、企業が存続運営するためには企業の名誉、信用などの社会的評価を維持する必要があるため、従業員の私生活上の行為でも会社の社会的評価に重大な影響を与えるような場合は懲戒処分をすることができるとされています。そのレベルですので、業務外の犯罪の場合は、裁判所は比較的冷静に対応し、特に企業名が報道されていないような場合は懲戒解雇を認めないことが多いと思います。このあたりは、業務外の犯罪の重大性よりは、報道等によって企業がどの程度の実害を受けたかの方が重視されていると思います。
《普通解雇》
普通解雇は、労働の提供をしない(度重なる遅刻・欠勤等)とか労働の提供が不完全(勤務態度不良や勤務成績不良等)などがその理由として考えやすいのですが、現実には懲戒解雇事由に当たるが普通解雇にとどめるという運用も多く、解雇理由では懲戒解雇と普通解雇を区別しにくくなっています。
普通解雇の解雇理由は、理論上当然に就業規則に定めていなければならないといえるかは議論の余地がありますが、労働基準法は解雇事由を就業規則の絶対的記載事項として定めていますので、就業規則を定めている企業では普通解雇事由も就業規則に規定があるのが通常です。
使用者側が解雇理由として主張する事実が、裁判等では本当にあったかどうか自体が争われることも少なくありません。解雇が有効とされるためには、裁判等で、あったと認定された事実が、就業規則で定める解雇事由に当たることが必要です。
労働契約法(16条)は、解雇の有効性の判断について、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。(有期契約の期間中の解雇については、労働契約法17条は「やむを得ない事由がある場合でなければ」解雇できないと、より厳しい規定を置いています)
この規定の解釈で、懲戒解雇に関して説明したのと同様に、就業規則の解雇事由の規定について、解雇が相当であるような重大な場合に限るというように限定的に解釈したり、労働者に落ち度がある場合でも解雇以外の方法で対応できないかとか指導や教育・反省の機会があったかなどが考慮されることになります。
普通解雇では、労働者の能力不足や成績不良が理由とされることがあります。使用者側からは、様々な主張がなされますが、使用者側が主張する能力判断の方法と基準が適切なものなのか、労働者の能力や成績が、解雇が相当といえるほどに甚だしく低いのかが問題となります。その際、新卒採用のように特段の能力が要件とされずに会社が研修を実施していくという想定の場合、試用期間中あるいは試用期間満了時はさておき、その後の能力不足の主張に対しては、裁判所は使用者の主張を容易には認めない傾向にあります。能力向上のための研修はむしろ企業側の責任といえ、また一旦獲得した能力が著しく低下するということはそうそうは考えにくいからです。これに対し、中途採用で一定の分野についての高い能力を期待されそれを条件として採用していてそれに応じて賃金も高い場合には、裁判所は使用者側の能力不足・成績不良による解雇を比較的容易に認める傾向にあります。この場合は、一定程度高い能力・業務が労働契約の内容になっていると解するので、それに見合う能力・成績がないことが契約違反と考えるからです。
営業成績が全体の下から1割以内なんだよ。無能だから解雇したいんだが。
その基準なら毎年下から1割解雇して解雇の基準を上げられることになり不合理です。
能力不足の主張と併せて使用者側から上司の指示に従わない、反抗的態度、協調性不足などの主張がなされることもよくあります。コミュニケーション能力に欠けるという言い方をされることも少なくありません。
労働契約は、労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供するというものですし、裁判官は業務秩序の維持に理解を示す傾向にありますので、労働者の態度があまり反抗的だと、特に裁判の本人尋問の際に自分が気に入らなければ上司の指示に従う必要性がないとか上司や同僚を見下した態度をとると、解雇有効の方向に大きく傾きがちです。
当時使用者の業務に支障があったのか、使用者からの注意指導がどの程度あったのか、それにもかかわらず繰り返したということがその程度あったのかなどをよく検討して論じていくことになります。
《整理解雇》
整理解雇は、理論的には、普通解雇の一種ですが、労働者側の落ち度を問題とするのではなく、会社の業務上の都合によるものであるという点で特別な扱いがなされています。
ただ、理論上は、懲戒解雇、普通解雇、整理解雇は異なるものですが、裁判等の実務では、使用者から本来は懲戒解雇・普通解雇事由に当たるが労働者のメンツ・感情に配慮して整理解雇と主張したとか、労働者を納得させるために解雇理由をつけてみたが実際は整理解雇だとか、ごちゃごちゃに主張されることも少なくありません。
整理解雇の有効性については、業務上の必要性(人員整理の必要性)、解雇回避努力、人選の合理性、手続の妥当性の4つの要件ないし要素を考慮して判断するというのが裁判所の立場です。
整理解雇の有効性に関する4要件ないし4要素(4つともすべて必要というのが4要件とする立場で、4つを総合的に考慮するというのが4要素とする立場)については、現在まで法律の規定もなく、最高裁のはっきりした判決もありません(あさひ保育園事件の最高裁第一小法廷1983年10月27日判決が整理解雇の4要件を採用したものと紹介されることもありますが、この判決は原審の考えを「是認することができないものではなく」としているにとどまり、積極的に4要件を論じているわけでもないので、整理解雇の要件論としては東洋酸素事件の東京高裁1979年10月29日判決を先例として上げるのが普通です)。しかし、少なくとも、この4点を考慮して整理解雇の有効性を判断することについては、裁判実務は確立されているといってよいでしょう。
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