庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2006年3月

33.耐震偽装 なぜ、誰も見抜けなかったのか 細野透 日本経済新聞社
 2000年の建築基準法施行令の改正で性能設計法が導入され、構造計算を理論的に詰めると同時にそれまでの安全余裕を不要とした、導入された構造計算は複雑でコンピュータ計算がブラックボックスになり熟練した構造計算のプロ以外には直感的に分からずチェックできなくなった(そのため民間確認検査機関も行政も見逃した)。これって田中三彦さんが「原発はなぜ危険か」(岩波新書)で指摘してきた原発の強度計算と同じ構造ですね。著者は同業のプロによるチェック(ピアチェック)を推奨していますが、安全余裕を削る(建築コストを下げる)ために直感的には分からない構造計算法を導入すること自体に、私は疑問を感じます。

32.絵とき 機械加工 基礎のきそ 平田宏一 日刊工業新聞社
 技術系のお話は好奇心と若干の実益(裁判での理解の助けになることも時々あります)をかねて読んでます。町工場等での初歩的な金属加工の解説ですけど、文系にも分かるレベルでよかったです。

31.闇の守り人 上橋菜穂子 偕成社
 女用心棒バルサが、故郷のカンバル王国に戻り、前の王の陰謀に巻き込まれて裏切り者とされている養父の名誉回復を図るうち、カンバル王国を支える秘密と新たな陰謀に巻き込まれていくお話。続けて読んだせいかも知れませんが、読んだ後にはバルサの活躍よりも、地底の山の王、闇の守り人の神秘や自然の大いなる存在の方が印象に残る感じ。ちょうどテレビアニメ作成の発表があってパイロット版がネットで公開されていますが、アニメのバルサと本の挿絵のバルサの落差が大きくて、ちょっとクラクラします。女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介

30.精霊の守り人 上橋菜穂子 偕成社
 「水の守り手」の卵を産み付けられ、卵喰いのラルンガに狙われる12歳の王子を、30歳の女用心棒バルサらが救うファンタジー。バルサは強くて格好いいし、虐げられた人々の味方で、とても好感が持てます。「たかが女」(98頁)とか、「女より、修行が足りなかった」(139頁)、「武術は男のものだ。どんなにがんばっても、女の筋肉では、たいしたことはできまい」(195頁)とか、ちょっと言わずもがなだし、「女用心棒」という表現自体で引いてしまうところもないではないけど、女の子が楽しく読める読書ガイドの候補です(バルサが主人公の「守り人」シリーズの続編があと4冊あるので、それも読んでからにしますけど)。女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介(2006.4.5)

29.逆風を生きぬく 革命者たち 朝日新聞be編集部 朝日新聞社
 朝日新聞土曜版「フロントランナー」の2005年掲載分をまとめたもの。新聞で読んでいるときはこんなもんかなと思って読んでましたが、本になって一気読みするには1つ1つのインタビューが突っ込み不足で食い足りない印象。一気読みはやめて移動中の読書用でしょうね。

28.現場主義 唐津一 中央公論新社
 日本企業の強みは、金儲けよりもいい物を作りたいというこだわりと執念。理屈よりも現場の経験という主張。でも機械化を進めて人件費がほとんどない企業やリストラで利益を出す企業を誉めているんでは、その強みは先がないように思えます。「外部の素人が余計なことをいうとろくなことにはならない」(206頁等)とおっしゃいますが、通信業界出身の著者が原発の定期検査を1年に1回やる必要はない(178頁)と口を出すのはなぜなんでしょうね。それに現場の経験と感覚を優先すべしという「理論」は分かりますが、著者は現場を離れてかなりの年数になるように思えるのがちょっとね。

27.そろそろくる 中島たい子 集英社
 苛立つ、衝動的に全てを壊したくなる、そうしちゃダメだと分かっているけど全てから逃げたくなる・・・そういうことにPMS(月経前症候群)という名前をつけることで理解しようとする。男も含めて、まあそういうこともあるさと前向きに考えられれば、この話は○(マル)。でも、かなりシンプルにそのテーマを打ち出した作品なので、そう納得できるかどうかで評価が分かれるでしょう。病気のひと言で済まないでしょ、社会人なんだからと思ってしまったら×(バツ)。

26.壊れる男たち セクハラはなぜ繰り返されるのか 金子雅臣 岩波新書
 第2章の「男のエクスキューズ」(セクハラの事例と加害者の言い訳)が圧巻ですね。こういうの読むと、娘を就職させたくなくなってしまうのが難点ですけど。不況でリストラにおびえ年功序列が崩壊して余裕がなくなった中高年男性が憂さ晴らしと癒しを求めてセクハラを急増させているという分析は、納得できるようなできないような・・・

25.新版 原発を考える50話 西尾漠 岩波ジュニア新書
 原発問題・核燃料サイクル問題について、幅広く書かれています。全体像を見渡して、こういう問題もあるんだと再確認するのにお手頃ですね。

24.できる人の言葉づかい オフィスでそのまま使えるフレーズ集 現代言語セミナー 亜紀書房
 典型的な軽いビジネス本。敬語の使い方の誤りや相手を不愉快にする言い回しなど、たいてい分かっている(でもできていない)ことなんですけど。車中での気分転換向け(読書数稼ぎ向けか)ですね。

23.100作例でよく分かる 淡彩で描く街角スケッチ 服部久美子 日貿出版社
 子どもの頃、絵を書くの好きだったんです。小学校では「描画クラブ」でしたし。こういう水彩の風景画の描き方の本読むと、著者もいうように「老い支度」に絵を描きたくなりますね。

22.残された天使たち (Running Home) テレサ・ドラン 求龍堂
 旅先で両親が死に取り残された12歳と6歳の姉妹が祖父母のうちを目指して冒険旅行を続けるお話。普通の少女が気丈にがんばる姿に共感します。女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介

21.ヨーロッパメディアに見る日本・世界 大貫康雄 自由国民社
 人権と社会福祉を重視するEUの立場から見た日本外交や日本社会、アメリカなどが論じられています。アメリカ(ブッシュのアメリカ)型の弱肉強食(庶民いじめ)路線に傾斜する昨今の日本政治を見るにつけ、考え込まされます。

20.震度0 横山秀夫 朝日新聞社
 地方の県警察本部で警務課長の失踪事件をめぐって繰り広げられる隠蔽工作・責任回避・縄張り争いをメインストーリーとしたミステリー。同時進行の阪神大震災もそっちのけで内部抗争に明け暮れる警察の無責任ぶりが印象深く描かれています。ストーリー展開の意外性よりも、警察のみならず日本の組織にありがちな病理の描写に引き込まれます。ミステリーというよりも組織ドラマとして読んだ方がよさそうです。場面展開がめまぐるしい(1カットが短い)のは、最初からドラマ化・映画化を意識してるんでしょうけど、読むのにはちょっとマイナスだと思います。

19.麻原彰晃の誕生 高山文彦 文春新書
 オウム真理教の一連の事件の頃に書かれた原稿を再構成していて、全体を俯瞰する軸が今ひとつ作れていない感じがしました。今出版するのならしっかりした視点が欲しかったと思います。

18.世にも美しい数学入門 藤原正彦、小川洋子 ちくまプリマー新書
 数学は実は物理学より文学に近いとか、日本やアジアの方が数学は進んでいたとか、いろいろ興味深い視点があります。ちくまプリマー新書は中学生向けを目指しているようですけど、読みやすくて、テーマもマニアっぽくないので、読書慣れしていない人が読書癖をつけるためにもよさそうですよ。

17.野村ノート 野村克也 小学館
 実は私は小学生の頃南海ホークスのファンでした。ま、それはおいて、野球の戦術論としても、人付き合いの仕方(ビジネス書)としても、けっこう面白かったですよ。弱いチームがどうやって勝つかとか、考えない選手にどうやって考えさせるかとか・・・

16.踊るマハーバーラタ 愚かで愛しい物語 山際素男 光文社新書
 私は高校生の頃、世界史で古代インド史が好きだったんです(変なやつでしょ)。で、「マハーバーラタ」って興味はあったんですが、長大だし手が出ませんでした。新書でお手軽にピックアップされてるのでありがたかったです。今度はもう少し長めをも読んでみたいなと思います。

15.なつかしく謎めいて (Changing Planes) アーシュラ・K・ル=グウィン 河出書房新社
 ティーンエージャーのときにガリバー旅行記(童話じゃないやつ)を読んで風刺小説が気に入り自分も書いてみたいと思った人はけっこういるんじゃないでしょうか。現代を舞台にパラレルワールドでガリバー旅行記を書いたらこんな感じ。洗練されたできで、いいんですけど。でも、読後感としては、ガリバー旅行記もどきを書いてみたい人はきっとたくさんいるけど、それを読みたい人はきっと少ないねというとこでした。

14.迷宮の神 (THE GOD OF THE LABYRINTH) コリン・ウィルソン 東京創元社
 哲学・文学史の衒学趣味的な記述とポルノグラフィ的な記述が交互に延々と続きます。そのあたりが結局中途半端で、分厚くて、読み通すのが大変でした。

13.天使のナイフ 薬丸岳 講談社
 繰り返されるどんでん返しと緻密に用意された布石がうれしいミステリーです。少年犯罪をテーマにして少年の保護・教育か厳罰かという論点をある程度相対化できるのもいいと思います(基本的には厳罰の視点だと私は読みましたけどね)。少年保護派の弁護士が最後まで悪者にされているのが、弁護士としては切ないです。1作目でこんなの書いて江戸川乱歩賞まで取ってしまうと、次を書くのは大変だろうなと人ごとながら心配してしまいます。

12.新版 不安・恐怖症 パニック障害の克服 貝谷久宣 講談社
 前半でパニック障害は薬(SSRI)で劇的に治るように書いてあってへーっと思ったのですが、後半ではそうでもないように読め、ちょっと欲求不満が残りました。まあ、人間の精神のことですから、当然、簡単ではないんでしょうけど。

11.うさたまの霊長類オンナ科図鑑 中村うさぎ、倉田真由美 角川書店
 基本的にはいろいろなタイプの女性をけなしている本ですが、そこよりも「女界」の掟とか暗黙のルールの話が興味深かったです。

10.メディエータ2 キスしたら、霊界? (THE MEDIATOR : Haunted) メグ・キャボット 理論社
 前作よりも主人公が自分で戦わずに男同士のけんかになるパターンが増えました。だんだんただの青春恋愛小説になっていくのかも。

09.ザ・サーチ グーグルが世界を変えた (The Search) ジョン・バッテル 日経BP社
 グーグルが検索結果の表示順位のロジックを度々見直して、それまで自分のサイトが上位にあったのに突然思いっきり下位になって嘆く自営業者の話が出てきて・・・実感です。でも見直し前に上位になっていたのもグーグルのおかげでたまたま上位だったわけですから、グーグルに文句言うのは疑問ですけどね。

08.メディエータ ゴースト、好きになっちゃった (THE MEDIATOR : Darkest Hour) メグ・キャボット 理論社
 ゴーストと話をしたり戦ったりできる16歳の少女のお話。元気がいいんだけどやりすぎて血なまぐさい、でも戦闘シーンを見ると男が強くなってる、男の好みも外見重視。女の子が楽しく読める読書ガイドで取りあげるかどうか思案中。主人公はすぐ他人の言動を性差別主義者と決めつけるので、男の子が読んで「気をつけなくちゃ」と考えるのにはいいかも。

07.改訂版 とりたい!!旅行業務取扱管理者 よくばり資格情報源・・・取り方&活用法 DAI−X出版
 ツァーコンダクターとか旅行業界のお話お手軽入門編。こういう別の業界の話が好きなもんで。

06.沈黙のはてに (Chanda's Secrets) アラン・ストラットン あすなろ書房
 日本の人間関係に主題をおいた小説を読んでいて(食傷して)こういう海外の圧倒的な惨状というか重いテーマのものを読むと、考えさせられるというか、そっちに惹かれちゃいます。私のお薦め本で紹介

05.減るバッタ増えるバッタ 環境の変化とバッタ相の変遷 内田正吉 エッチエスケー
 埼玉県でのバッタの観察のお話。観察(発見)記録がベースなので体系的にはなってないため門外漢には読みにくかったです。

04.バスの雑学読本 とっておき知識と思いがけない最新事情 谷川一巳 中央書院
 高速バスとか意外にバスが果たしている役割が高くなっているんですね。大半は国内の話ですが、ちらっと書いてある海外の事情も、アメリカの公民権運動がバスから始まったことを思い出し何となく納得しました。

03.青い海をもとめて 東アジア海洋文明紀行 船橋洋一 朝日新聞社
 東アジアの国々(民族)を海の関係から見るというアイディアは、新しい視点を提供してくれますが、ちょっと地政学的な(パワー・バランス的な)感じが強くてなじめませんでした。

02.仕事のパソコン再入門 メール、ファイル、ツールを使いこなす 舘神龍彦 光文社新書
 メールの話は仕事で使っている立場からは日々実感しているところです。互換性問題など、他人にはおおらかに自分には厳しくというのは、最初に買ったパソコンの時からの経緯で今も一太郎と1−2−3(Lotus、IBM)で仕事をしているのでちょっと身につまされます。

01.「超」税金学講座 知っているようで知らない消費税 野口悠紀雄 新潮文庫
 タイトルは消費税だけど、税金全般について割りとわかりやすくまとめられています。庶民の弁護士としては、消費税の話よりも固定資産税や相続税の話が目から鱗でした。法人税の話になるとちょっと技術的になって難しい感じもしましたけど。

**_****_**

私の読書日記に戻る   読書が好き!に戻る

トップページに戻る  サイトマップ