私の読書日記 2008年5月
25.裏切りの月に抱かれて パトリシア・ブリッグズ ハヤカワ文庫
コヨーテに変身する「ウォーカー」で車修理工のマーシィが、人狼の首領を襲いその娘を誘拐した何者かと人狼グループの戦いに巻き込まれというか自ら首を突っ込み、娘と首領の救出に向かうというストーリーのファンタジー。マーシィは自らの意思で瞬時にコヨーテに変身でき、聴覚・嗅覚に優れているほか魔法を察知することができる能力があり、かつて人狼グループに預けられてその中で育ったために人狼の特徴やグループに詳しいという設定です。人間社会の中に数多くの人狼、ヴァンパイヤ、妖精(フェイ)、魔法使いが潜んでいて、フェイだけがその存在をカミングアウトし、他の超人類たちは息を潜めてカミングアウトしたフェイたちのその後を見つめているという社会状況で、人狼がカミングアウトすべきかが人狼社会で問題となっていることが背景とされています。襲撃犯をめぐるミステリー仕立てにはなっていますが、謎解きとしてはいまいちです。独立心旺盛で気が強く行動的なマーシィの人物像と、人間社会以上に父権社会と描かれている狼社会(でもきっと人間社会もそうだって作者は言いたくて書いてるんだと思います)の首領や一匹狼たちとマーシィの掛け合いを味わうアクションものとして読むべきだと思います。
22.23.24.ご愁傷さま二ノ宮くん1、2、3 鈴木大輔 富士見ファンタジア文庫
丘の上の豪邸に住む高校生二ノ宮峻護が、スタイルは完璧の究極の美少女で男から精気を吸い取らないと生きていけない身でありながら男性恐怖症で引っ込み思案の月村真由と同居することになり、引き起こすドタバタを中心に、怪人物の峻護の姉と真由の兄、高校生にして日本有数の財閥を率いつつ峻護に思いを寄せる北条麗華、その付き人の保坂光流らがからむラブコメ小説。主人公は豪邸住まいで金には不自由せず親はどこで何してるかわからない、相手の少女は究極の美少女で男性がなくては生きていけないのに男性恐怖症でしかも主人公だけは一緒にいても大丈夫、ついでに魅力的で強くて金持ちの姉が同居、ルックスも実力も財力も申し分ないスーパー女子高生も主人公に思いを寄せて「メイド」として同居という、アキバ系オタクの妄想全開の超都合のいい設定。これで主人公を読者の期待通りに動かしたら、お話はせいぜい2、3話で終わるところ、主人公を超まじめの堅物に設定し、いちいち大仰に驚かせて場をつなぎながらしかしことは進行させず長引かせていくあたり、この作者意外にくせ者かもと思わせます。文章は読みやすいのですが、主人公の白々しいわざとらしい思い部分が違和感を感じさせ、そのあたりは北条麗華の自分への言い訳もそうだし、峻護の姉と真由の兄はぶっ飛んでいて面白いけど一貫性のかけらもないご都合主義の言動に終始するし、真由はいかにもただのお人形さんで、普通に思考に付いていける人物って保坂くんだけなもんで、ちょっと読み続けるのがつらい。2巻で北条麗華の過去を主人公とつなげてストーリーの中心に投入して波乱を巻き起こし、真由の男性恐怖症を治すという白々しいお題目を3巻で激しい禁断症状を見せてそれなりに説得力を持たせてしまうなど、ストーリーの展開力はあるようですから、人物造形や設定に物足りないか呆れて飽きてしまわなければ、この先も楽しめるかも知れません。「ご愁傷さま」が8巻までとその後に新シリーズもありますが、図書館で予約するとだいぶ先になるし、私はこのあたりで切り上げさせていただきます。
21.毒草師 白蛇の洗礼 高田祟史 朝日新聞出版
お茶会の場での連続毒殺事件の取材を命じられた雑誌記者西田真規が前作同様に関係者に恋愛感情を持ちつつ関わっていく形でストーリーが展開し、隣人の毒草師御名形史紋が謎を解いて事件を解決するミステリー小説。基本的な線は、毒物に関する知識を用いたミステリーで、謎解きも少しひねりがあって楽しめます。作者に中世史がらみの蘊蓄へのこだわりがあって、この作品ではお茶会の話でもあり、千利休がキリシタンだったかどうかをめぐる論争が第2の軸となり、延々と論じられています。それに興味を持てないと、その部分に入ると途端に読みづらくなって、疲れます。前作の「毒草師」については2007年6月33.で紹介しています。
20.暗闇のヒミコと 朔立木 光文社
超高級養護老人施設で起こった殺人事件で物証なしで元看護師が逮捕された事件の捜査段階と裁判を司法記者を語り手として描いたリーガルサスペンス小説。著者は仮名の著名現役弁護士だそうです。同業者ですから刑事事件の描写が詳しいのは当然ですが、驚くのは司法記者をめぐるディテールの迫真性です。私自身は日弁連広報室にいた関係と取材対象になる事件を少なからずやってきたことから司法記者とのつきあいがそれなりにありますからわかりますが、この描写は司法記者と相当回数飲まないと描けないと思います。著者が著名事件で司法記者といろいろおつきあいした成果が現れているのでしょう。被告人の運命がそれを扱う人の個性・人生観・能力に大きく左右されるということがこの作品のテーマです(表紙見返しで著者自身が明言しています)が、裁判官の1審2審の対比はさておき、同業者への見方が考えさせられます。登場する弁護団で「黒田弁護士」は極めて有能、他は無能と明確に区分けされ、その点でも著者の視線は厳しい。その上、その「黒田弁護士」にも著者が批判的(敢えてぼかしてはいるものの、弁護活動をゲームのように考えているという批判を匂わせています:299頁)なのが同業者として悩ましい。ここは机上の議論としてはさておき実務の現場では、弁護士は証拠と依頼者と現実には必ずしも明らかといえない「真実」の境目で試行錯誤・自問自答し、悩み続けるものだと思います。著者がこのように書ききってしまうところに、著者の気持ちの中で実務が遠のいたのかなと感じてしまいます。また、控訴審弁護団に、被告人が刑事にありもしない証拠があると騙されて自白したことが法廷で明らかになったのに対して、違法収集証拠排除の申立さえさせなかったことにも、私は疑問を感じました。東京高裁でも特に「鬼の部」と言われている裁判長佐藤伴哉の率いる部(300頁:業界的には笑うしかないですが・・・)には通じないということかも知れませんが、最高裁を考えたら弁護士としては当然しておくべきことでしょう。そこをそうさせずにアメリカの外交機密を不正な手段で入手した記者が処分され自殺するエピソードを重ねて、記者は制裁を受け警察は制裁を受けないことを対比させて自ずから感じさせるという方向性は現役弁護士よりも作家側にシフトしている感じを持ちます。
19.月のころはさらなり 井口ひろみ 新潮社
母の実家の山里の隠れ里に逃げるように転がり込んだ母について、おんば様と「預かり子」茅が暮らす庵に滞在することになった高校生悟が、山里に伝わる子どもたちの神秘的な力や態度のでかい小学生真に翻弄されながら、山里の庵の暮らし、母と村人の過去、そして母と父の関係に思いをはせる小説。生意気な登場から次第に親しみを覚えさせる真、人形のような受動性から包容力を見せる茅の2人の子どもと悟の関係とその変化がストーリーの主軸となり、虚脱して危なげな様子から立ち直り先を見据える母の変化がもう1つの軸をなしています。暗く怪しげなスタートから先行きへの希望と活力を見せるラストへの流れは読んでいてホッとします。山里に伝わる子どもたちの神秘的な力は、物語のあちこちで小道具にはなっていますが、特にその力でストーリーが変わるでもなし、謎解きがあるでもなし。夜の山道と、川向こうの祠とともにイメージを高める役には立っていますが、別にそれがなくても描けたような感じがします。
18.あの空をおぼえてる ジャネット・リ−・ケアリー ポプラ社
7歳の妹ウェニーと一緒に道路を渡っていてトラックにはねられ、自分は命を取り留めたが妹は死んでしまった11歳の少年ウィルが、その後の自分と家族の様子を天国の妹への手紙で語るスタイルの小説。時が過ぎても娘を亡くした哀しみから立ち直れない父と母の様子を、自分も妹を失った哀しみ、妹を救えなかった自責の念、妹を慕う気持ちと恨み・妬み、そして父母が生き残った自分のことよりなくした娘のことの方ばかり考えることに傷つく心に揺れ動きながら描写しています。日本語タイトルは、お話の最初にウィルが語る臨死体験でトンネルを抜けた先に見た空の明るい光の印象にポイントを置いたもの。でも、作品としては、それよりも、死んだ娘のことばかり考えて凍り付いた家族の中での生き残った少年の複雑な思いがテーマとなっています。現に生き続ける子どもがいる限り、その子のためにも親は哀しみから速く立ち直らなくちゃね、さらに言えばそれは子どもが死んだときに限ったことじゃないよねと、子どもを持つ親としては、気づかされてしまう作品です。
17.シークレット・オブ・ベッドルーム アーヴィン・ウェルシュ エクスナレッジ
アル中で女好きのエジンバラ市環境衛生局のレストラン監視官ダニー・スキナーとゲームオタクで熱心な新入り監視官ブライアン・キビーが繰り広げる愛憎劇と、父親を知らないダニーの父親探しを絡めたストーリーの小説。ダニーがまじめな新入りブライアンを激しく憎み、自分の体に受けた傷害やアルコール・ドラッグなどのダメージを翌朝にはすべてブライアンの体が引き受けるという呪いが実現してしまうということが重要な材料となって話が展開しています。これを楽しめるか、これでしらけるかで評価がだいぶ変わりそうです。スコットランドの地理・社会がわからないとついて行きにくい、本が分厚い、訳が日本語としてこなれていない、という事情で読み通すのがちょっとつらく思えました。最初の100頁あたりまではいつぶん投げようかと思いながら読んでいた感じ。ダニーの調子のよさとブライアンの悲惨さが対照的で、多くの章で語り手がダニーとブライアンの切り替わりなもんで、快・不快が揺れてやや居心地が悪い。ダニーの父親探しが、それほどこだわる価値があるのかなという思いも残りますが、エンディングは展開にスピード感があり、やや鮮やか。
16.訴えられたらどうする!! 高島秀行 税務経理協会
民事裁判についての弁護士による解説書。弁護士が民事裁判を素人向けにどう解説するのかということを考えれば、だいたいこうなるよねってところで、私がこのサイトで書いていることとおおかた同じです。当事者は何でもかんでも自分のいいたいことを弁護士に代弁して欲しいと思いがちだけどむしろ勝ち筋の事件では主張はシンプルにして余計なことはいわない方がいい(71〜79頁)とか、弁護士との打ち合わせで何度も同じ話を蒸し返さないで欲しい(88〜91頁)とか、同業者としてしみじみわかります、こういうことを書きたくなる気持ち。苦労してるんですねぇ・・・。基本的には、この本に書いてあることに私も同意見ですが、民事裁判の判決は聞きに行かないもの(105〜106頁)というのは、好みの問題で、私は日程上行ける限りは判決日に判決を受け取りに行っています。負けた場合の控訴の検討期間を1日2日稼ぐよりすぐ次の動きに入った方がいいと思っていますので。
15.経営者のための株式上場ハンドブック 優成監査法人、優成コンサルティング株式会社編著 財経詳報社
法人が新興企業向けの証券市場(ジャスダック、マザーズ、ヘラクレス等)への上場をする際の制度や準備等に関する概説書。薄い本なのですが、繰り返しが多くて情報量が少なく、抽象的な説明が多くて具体例がほとんどないので、ちょっと読んでいて退屈だし、読んでイメージしにくい。法律の解説書にはありがちではありますが、役人が書いた法律解説書のような感じ。上場で問題になる事柄を短時間で流すにはいいと思いますが、それをどうすればいいかはたぶん、経営者が読んでもよくわからない。どちらかというと、読んで上場にはいろいろなことが問題にされ、具体的なことはよくわからないから、とにかく監査法人とかコンサルタントに任せて言うことを聞かないといけないんだなあという感想を持つことが予想されます。コンサルタントにとってはそれでいいのかも知れませんが。
14.ドラゴンキラー売ります 海原育人 中央公論新社C★NOVELS
2008年4月に紹介したドラゴンキラーシリーズの完結編。再度第1作の南の帝国から皇女を取り戻しに来たドラゴンキラーとの争奪戦に戻り、多数のドラゴンキラーが入り乱れ、隣国から派遣されたドラゴンキラーと提携したマフィアに対抗するためにココが対抗勢力の荒くれ者800人を扇動して街中大騒動になり、街を挙げての騒乱の中でドラゴンキラー同士の戦いが繰り広げられるというまあハチャメチャというか何でもありの展開。で、まぁ第1作から口汚く罵り合うココとリリィの行く末について、大方の予想通り完結編らしく落ち着き、収まるところに収めています。第1作から予想された展開ではありますが、ココの人物造形からは、落ち着きが悪い感じも残ります。
13.病院に行っても病気が治らない日 岡部正 講談社+α新書
日本の医療の現状について医師の立場から論評した本。多くの患者が医者にかかれば何でも治るという信仰ともいうべき過剰な期待を持ち軽い病気でも大病院に集中して3時間待ち3分医療が続き、しかし以前より医師への疑心暗鬼は強まって医療訴訟が増え、他方医師は訴訟対策で患者の個別事情に合わなくても診療ガイドラインに沿って治療し、患者のためよりも自分がこれだけ説明しておけば訴えられても大丈夫と言えるようなインフォームドコンセントを図っているというあたりがこの本の事実認識でしょうか。著者は患者も医師任せにせずに健康情報を吟味する必要があることを再三指摘し、医師の方の能力についても問題視しています。医者が書いた本にありがちですが、医師の能力にあわせて保険点数を変えるべき(能力のある医師はより儲けられるようにすべき)という提言があり、1年に1回の検診でも見落としがあり得ると煽っている部分もあります。しかし、同時に最近流行のPET検査がガンの早期発見にはほとんど役立たない(156〜158頁)とか延命治療への疑問(170〜173頁)や、患者の事情に合わせた治療が必要で教科書通りの型にはまった治療には疑問があるとする指摘(64頁)など、いろいろと考えさせられるところがありました。表題は今ひとつピンと来ませんが、医師不足と医療訴訟の増加による重病者の受入回避のために病院に行けなくなる日が来るかもということと、長寿化で不健康期が避けられなくなることから病気を治すことよりも終末期をどう生きどう死んでいくかを考えることが必要ということを論じていることに対応しているのでしょう。「医師不足」には、数としては私にはピンと来ないのですが。少し前までは医師過剰とか病院の倒産が話題になっていたのですし。儲かるけど命に関わりない分野が増えて産科の医師が減っているということは言われていますけどね。
12.リセット 柿谷美雨 双葉社
高校の同級生と結婚して専業主婦になったが家事育児に非協力的な夫やわがままな舅に不満を持つ知子、会社で副部長となっているが未婚である故に母親にも評価されず不公平だと感じている薫、男に騙されて故郷を捨てて東京で遍歴を重ね低賃金労働にあえぐ晴美の3人の兵庫県の高校同窓生が東京で出会いたまたま入った飲み屋の奥に人生をリセットする不思議なボタンがあり、高校生時代に戻されて人生をやり直すというストーリーの小説。ある種安易な設定ですが、意外に巧いと感じました。3人が47歳の中年のおばさんの記憶を持ちながら高校生に逆戻りすることで、高校時代にはわからなかった母親の苦労を身に染みて感じ、また自身が母親の年齢を超えて自分の母親よりもできていないことを実感する第2章に考えさせられ、最初不満だらけのわがままぶりが鼻についた3人の殊勝さに好感を持たせます。でも人生をやり直してみると、前の人生よりやりたいことをやっているのにまたぞろ不満ばかり言う3人に、そしてさらに再度人生をやり直すためにいつぞやの飲み屋を探す3人のわがままぶりに呆れます。しかしその飲み屋を見つけた3人の選択で予想外の展開をさせ、最後に違う人生を経験した3人が意外な強さを見せて、不平を言い続けるのではなく現状を変えていこうと動き出すラストが、それ以前の不平不満ぶりと対照的で、ちょっと光ります。そのあたりの読者の感じ方をコントロールする展開に巧さを感じたわけです。設定からして「隣の芝生は青い」という結論に行くことが最初から予測されるわけですが、親への評価部分とラストの積極性が予想を少し裏切って読んでいて心地よかったです。作者が、そして登場人物が、自分とほぼ同い年ということで私が共感しやすかったということもあるかとは思いますが。
11.ネットオークションで騙す ケネス・ウォルトン 光文社
1998年〜2000年にかけてイーベイのネットオークションで無名画家の絵画を著名画家の作品のように匂わせて高額で売却し、最後には画家の署名を偽造して詐欺罪で起訴され、司法取引で執行猶予付きの有罪判決を受けた元弁護士の手記。著者が、最初は軍隊で一緒だった知人からネットオークションでの絵画の販売のうまみを知らされ、知人が仕入れてきた絵を出品して分け前をもらっているうちに、知人がサクラ入札をして価格をつり上げていることを知り、自らも良心を騙しつつサクラ入札をするようになり、さらには知人が画家の署名を偽造しているのではないかとの疑惑を感じつつ出品を続け、最後には自分も署名偽造に手を染めてしまった様子が詳細に書かれています。同業者として、著者が現役の弁護士でありながら、違法行為に手を染めていくいきさつは、理解しがたいものがありますが、同時にサイドビジネスの誘惑には気をつけねばと改めて思います。著者は大規模事務所の勤務弁護士として市の代理人をする仕事に興味を持てなかったと述懐していますが、日本でも少なくない弁護士がバブル時代にサイドビジネスとその破綻から身を持ち崩していったことが思い起こされます。著者は、署名を偽造した絵画がネットオークションで13万ドルもの高額で落札されたことからマスコミの注目を浴び、偽物ではないかとの報道がなされたところに売り主が弁護士であることがさらに報道を過熱させ、ついには捜査機関の目にとまり訴追されて弁護士資格も失うことになります。詐欺のまかり通りやすいネットオークションの問題点やネットオークション関係者の実情とともに、犯罪を犯してしまう者の心理、そしてFBIの捜査や司法取引の実情など、興味深い事実が弁護士の観察眼と知識の下でレポートされていて、参考になりました。
10.ケータイチルドレン 子どもたちはなぜ携帯電話に没頭するのか? 石野純也 ソフトバンク新書
高校生約20人へのインタビューをベースに10代の携帯電話利用状況、ケータイサイトの現状等を紹介し、現在導入が進行中のフィルタリングについて批判する本。著者自身が何度も断っているように根拠となるデータがたかだか20人程度へのインタビューですから、正確さとか全体像として読むのは無理ですが、ケータイサイトについて感覚的に読むのには手頃な感じがします。現実にはユーザーの多くを占める(電話機能よりも)ケータイからのネット利用については、端末を個人で持っている(家族共有でない)ことから親には把握が困難で、他方、パソコンからの利用に比べて個人特定(端末特定)が比較的容易でアクセス履歴が残りやすく位置情報も取れるという、警察にとっては把握がより容易という特徴があり、そのあたりに問題が凝縮している感じがします。著者が繰り返す、ケータイが問題なのではなく、オフラインやパソコンでの問題がケータイに場を移しているだけという指摘は、それ自体はそうですが、親が把握できないことが歯止めを失いやすくまた親世代の不信感を強めやすいということを無視しては説得力がないと思えます。
09.風の牧場 有吉玉青 講談社
母親が離婚した母子家庭で育ちフリーライターとなるが結婚退職して専業主婦になりしかしそれにも不満でまたライターの仕事を始める美名子の、ライター時代、高校時代、新婚時代、仕事再開時、中学時代、中年期を描いた短編連作集。基本的にはほとんどの話が親族との関係に結びつけられていて、それをテーマに読む感じになります。主人公が、ちょっと意固地でちょっとわがままで小意地悪い。これをどう読むかですね。誰にもありがちな、誰もがどこか持っている嫌な面と見て読むか、それを超えていると感じるか。私はどうも後者に読めて、読み心地が悪い。夫や義父に対する評価も、相手の善意の言動をことさら悪く取っているように思えますし、子どもの頃(182頁)はともかく、40にもなって自分の未熟さを両親が離婚したせいにして母親にぶつける(198頁)姿にはただあきれました。そのおかげで、美名子がまわりにする評価とは逆に/別に、まわりの人はみんなできた人、少なくとも普通の人にみえます。そうすると、わがままで意地の悪い未熟な主人公が、最後に40過ぎてようやく、ことあるごとにそのせいにしてきた両親の離婚の呪縛から解き放たれて、優しい気持ちになれて成長したという話に読むべきでしょうか。
08.リーガル・リサーチ[第3版] いしかわまりこ、藤井康子、村井のりこ 日本評論社
法令や判例(判決)、学術論文等の探し方についての解説書。ウェブサイトで調べられる最近のものについては、特に参考になることもないですが、ウェブサイトにないもの、特に古いものを調べる際のツールについていろいろ紹介されています。ざっと読んで勉強になるなぁって本ではなく(細かい書籍類をいちいち記憶してられないし)、どこか手元に置いていたら調べる必要性が出てきたときには役に立つという本です。いまどきはウェブサイトで入手できない古い情報が必要になることって滅多にないですけどね。対象は、私たち弁護士ではなくて、法律を学ぶ/研究する学者・学生のように思われます。
07.戸村飯店青春100連発 瀬尾まいこ 理論社
大阪の中華料理屋「戸村飯店」の息子2人の青春を描いた小説。小さいときから器用でモテモテで、しかし店ではどこか浮いていて店を、大阪を離れたいと考え続けて高校を卒業するや東京の専門学校に行った兄と、こてこての大阪人でギャグをかましながらしかし彼女には告白できずにいる高校生の弟の話が、交代に展開していきます。大阪時代は店の手伝いをしたことがなかった兄が、東京では早々に専門学校を辞めて飲食店でバイトを始め店の改良に取り組んだり、年上の彼女と意外にうぶな交際を続けます。店の手伝いに明け暮れ店を継ぐしかないと思っていた弟は、センター入試の申込みも終わった後の3者面談で父親から店を継がずに他人の飯を食って来いと怒られて動転、一転して大学受験をめざします。高校時代は店から大阪から逃げたい一心だった兄は店のことを考え出し、店を継ぐしかないと思い定めていた弟は関東の大学へと、互いに想定外の方向に進むところが、ミソになっています。そうこうしながら最初は疎遠だった兄弟が交流していく、そのあたりの少し引きながら触れあう人間関係を味わうお話かなと思います。
06.セカンドムーン 上杉那郎 角川春樹事務所
地球外生命体が製造したと見られる月軌道上の謎の宇宙兵器「セカンドムーン」が打ち上げられるロケットを次々と撃墜し始め、打ち上げ失敗の原因を究明しようとする打ち上げ事業者の技術者、これをサポートしつつセカンドムーンの謎を探ろうとする自衛隊、セカンドムーンの技術を手に入れようとする各国の軍隊・情報機関の暗闘を描いた近未来SF。通常時はバラバラの物質として散乱していながらロケットの打ち上げを感知すると自律的に集合して巨大な構築物となって反物質のビームを放出しロケットを破壊するセカンドムーンの着想は、もちろん荒唐無稽ですが、面白い。どちらかというと宇宙物理・工学系統よりも軍事オタク的な部分に長けている感じです。ただ自衛隊の文民統制・官僚主義を嘲笑して独断専行を志向するところ(まぁエンタメですからそうなりがちですが)とトップに女性が立つことに作者がかなりの反感を持っていると感じられるところが、読み心地を悪くしています。後者については、打ち上げ業者のミッションマネージャー浜崎小百合を中途半端に知識を持った頭でっかちで感情に流され業務にも私情を持ち込むタイプに描いて、すべてに上回る内村慎吾に常に及ばず内村に恋従う存在として描き出していることや「女子アナ出身の防衛大臣」の描き方に如実に表れています。こういう表現を喜ぶ人もいるんでしょうが、私はちょっとパスしたい。そういうところを抑えてもっと純粋に「未知との遭遇」と各国の情報戦に絞った方が、エンタメとしてもレベルが上がると思うのですが。
05.黒水熱 ヴァシィ章絵 講談社
熱帯熱マラリアの予防注射の副作用で子供を失い、そのワクチンが副作用がわかっていたのに不正に認可されたことを知って、復讐のために整形し高級娼婦となって黒幕の政治家に近づくエリカの復讐劇の小説。ワクチン禍の取材から深入りして襲われるジャーナリスト、最初それに協力していたが情報を得てエリカを脅迫して関係を迫るホテルのフロント係、エリカやジャーナリストの危機を救う謎の男と、黒幕側のヤクザたちなどがもつれ合い、ストーリーが進展していきます。マラリア原虫の改造やワクチン開発とか、謎の男の活躍ぶりとか、基本線がちょっと荒唐無稽な感じですし、その大枠は置いても、ヤクザ組織の動きでT大卒元高級官僚が汚れ現場にいつも出てくるとか、ジャーナリストが襲われたときに関係ない頭の弱い姪だから姪だけでも逃がしてくれといったら縄をほどいて目を離してくれたりとかも、無理な設定。エンタメだから、まぁ堅いこと言わずにって思えれば、展開はやはり軽快で楽しめるんですが。
04.デパ地下★ガール 末永直海 世界文化社
お菓子好きでデパ地下のスイーツランドに憧れるエレベーターガール天未りさこ27歳が、天然ボケ(「醸造ボケ」って)キャラで失敗を繰り返し、懲罰でやらされた新人アイドルのキャンペーンステージ用のプリン1万個作りをきっかけに憧れのスイーツ売り場にデビューするというストーリーの小説。う〜ん、この主人公のボケっぷりというかできなさ加減はコメディとしてもちょっとやり過ぎ。バックヤードで速く戻るために台車に乗って疾走しケーキの山にダイビングしたり、マカロンを買うために並ぶ見知らぬ客に自分用のマカロンを買ってもらうよう頼んだり、「寿退社」が「ことほぎ定食」とかするめを数えるのに1頭とかいうボキャブラリーのなさ、下戸といいながらワイン2本あけて酔いつぶれて友人のレインコートのフードに吐き続けたり、やらないでしょ、そこまで。失敗して叱られているときもまるで聞いてないし、男を見たら初対面の相手と勝手に恋愛・結婚を夢想し、プリン作りも普通サイズのもの1万個の指示をまるっきり無視して巨大プリンを3つ作るし、しかも隠れてできあがった巨大プリンに裸で浸かって食べるし・・・。でも、その天然ボケが評価されてのハッピーエンド。まぁ一種の適材適所なんでしょうけど、このストーリーに乗るには、バブル時代の感覚が必要でしょうね。いまどきの感覚ではかなり無理があるなぁと思います。
03.ワーホリ任侠伝 ヴァシィ章絵 講談社
商社のOLをしながらワーキングホリデーのための資金稼ぎにキャバクラで働くヒナコが、キャバクラの客として現れた青年実業家実はヤクザの跡取りに見初められたことからヤクザの跡目争いに巻き込まれ海外逃亡するがそこでもトラブル・ピンチが・・・というストーリーの小説。他のキャバ嬢をさしおいてイケメンの御曹司に見初められて結ばれ、ぜいたくなデートを重ね、愛された上、跡取りが殺された後は自分を傷つけたいとか人を好きになりたくないとかいって風俗嬢になり誰とでも寝る生活を続けるのに跡取りの母(極妻)には気に入られ跡取りのボディガードが身辺警護を続けてくれるし、とやりたい放題しながら都合のいい展開。ニュージーランドまでボディガードを同行させながら別の男を連れて行って性関係は続けるはデリヘルを始めるはと、またまたやりたい放題でもボディガードにも極妻にも見捨てられない都合のいい展開の挙げ句に最後は信じがたいハッピーエンド。おみず志向のわがまま女の夢想って感じはするけど、それが嫌にならなければ、展開そのものはけっこう軽快で楽しめます。
02.燃えるサバンナ 澤見彰 理論社
一族を率いる大呪術師の孫として生まれながら、呪われた娘として戦士として生きることを強いられたシバが、大干ばつに襲われた村を救う方法について大呪術師と意見を異にし、4年に一度の赤い月に現れるという赤いたてがみのライオンのたてがみを切って太陽に捧げると雨が降るという伝説を信じて黒い森の奥の死霊の大穴「メネンガイ」をめざして旅を続けるというストーリーの物語。呪術師の血を引き未来の夢を見るシバ、シバの飼い山猫ロロ、シバを慕う隣村の戦士長マティン、40年前の大干ばつの際に先代のシバが赤いたてがみのライオンを追う旅に出るのを座視したことを後悔して今回シバの旅に同行するほら吹き老人チャパの3人と1匹が繰り広げる旅とチャパの回想、大呪術師が率いる村の状況が交差してストーリーが展開していきます。主人公のシバの戦闘力と精神力、強がりと心細さが軸となっていますが、マティンの愛と優しさ、ほら吹きチャパが見せる意外な誠意が、味わいを出しています。自分の無謬性を信じさせるために画策する大呪術師との決着がつけられないところが、歯がゆい感じがしますが、まぁその方が現実感はあるかなとも思います。
01.ペギー・スー 光の罠と明かされた秘密 セルジュ・ブリュソロ 角川書店
14歳の少女ペギー・スーが不思議な(荒唐無稽な)世界で冒険を続けるファンタジーの第9巻。お話としては第8巻からの続きになっていますが、第8巻からの登場人物が引き続き同行したことを除けば別の話です。巨大な灯台の光が当たらないと極寒、光が当たり続けると灼熱と光に当たった物が巨大化する、よそ者を襲う巨大なライオンがうろついているという惑星に漂着したペギー・スーたちが、灯台の故障を直すために灯台に入り込み、灯台を直すために必要なものを手に入れるために地下世界に入り、地下世界で生きぬくための魔法の対価として別のものを求めて・・・と、次から次へと降りかかる難題に立ち向かっていくというストーリーです。この巻では、ここのところ社会派色を強めていた流れとは離れ、せいぜい自然から搾取する人間の強欲ぶりが皮肉られているかなという程度で、どちらかといえば登場人物の意地悪ぶりが目立ちます。社会派色が薄まると、元々の荒唐無稽さが前に出てちょっと大人が読むにはつらい感じがします。最後は何でも魔法で解決してしまいますし。この巻ではペギー・スーの出生の秘密が唐突に明らかにされますが、わりとあっさり明かされますし、どちらかというと10巻(というより新シリーズ?)へのつなぎのために明かされた感じです。日本語タイトルではそのことに比重が置かれていますが、原題(La Lumiere Mysterieuse)は単に謎の光で「秘密」のことには触れてもいません。新作の原書は2008年3月発売されたようですが、シリーズタイトルがペギー・スーとお化けたちからペギー・スーと青い犬に変わっています(元々4巻以降はそうすべきだったのですが)。新作が出たら読むか、ちょっとつらいところです。
シリーズ全体として女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介
8巻については私の読書日記2007年8月分で紹介
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