庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2022年7月

29.禁断の魔術 東野圭吾 文春文庫
 北関東の片田舎に高レベル放射性廃棄物の地層処分研究所(G棟)を含む最新科学技術の拠点を造るとうたう「スーパーテクノポリス(ST)計画」への反対運動に加わり開発側の中心人物の代議士のスキャンダルを追っていたフリーライターが自室内で絞殺された事件を捜査していた草薙刑事と内海刑事は、殺害されたフリーライターの携帯電話の発信履歴に帝都大学の電話番号があり、メモリーカードに残された動画について聞くために湯川の元を訪れというミステリー小説。
 福島原発事故前に書かれたガリレオシリーズ第6作の「真夏の方程式」(2013年8月の読書日記で紹介)で、環境保護運動家を悪者とし、湯川から環境保護派に対して開発事業者への理解を求めさせた作者が、福島原発事故後に書いたこの作品で、原子力施設を含む開発を取り上げたことから、作者のスタンスがどう変わったかが、私には興味の中心となりましたが、開発事業者側のダーティーな側面も書いてはいますが、やはり環境保護運動家が悪者と位置づけられ、この人のスタンスは、福島原発事故を経ても変わらないのだなと思いました。開発側の代議士に「結局のところ、この国は、科学技術を売りにするしかないんだ。何十年か先になって、あのときに決断していればと後悔しても遅い。誰かが泥をかぶらなきゃいけないんだ」(258ページ)なんて言わせていますしね。

28.聖女の救済 東野圭吾 文春文庫
 鍵のかかった目黒署管内の自宅リビングルームでIT関連の会社社長真柴義孝の遺体が発見され、側に落ちていたカップからこぼれていたコーヒーから亜ヒ酸ナトリウムが検出された。草薙刑事はその妻が営むパッチワーク教室の弟子で第1発見者の若山宏美を疑い、内海刑事は妻の真柴綾音を疑うが、綾音は前日から札幌の実家にいた。内海は、草薙が綾音に惚れて目を背けていると、草薙に内緒で湯川に協力を仰ぐが…というミステリー小説。
 読んだ後で考えると、作者は、きっと、完全犯罪、解けないトリックがあるとすればどういうものがありうるかという着想を突き詰めていく中でこの作品のプロットに思い至ったのかなと思いました。読者の側から見ると、最初に示唆された動機から、この作品は「刑事コロンボ」型の作品なのか、そのように見せかけてどこかでどんでん返しがあるのかを探りながら読んでいくことになります。
 私としては、2006年に書き始められたこの作品で、湯川も草薙も学生時代にバドミントン部にいたことが明らかにされている(255ページ、328~330ページ)ということ(まだこの頃、男子のバドミントンはマイナー競技だったはず)、この作品の連載中にガリレオシリーズのテレビドラマが始まると、内海刑事が iPod で聴く音楽が福山雅治になる(348ページ、350ページ)あたりに、興味を惹かれました。

27.マスカレード・ナイト 東野圭吾 集英社文庫
 殺人事件の犯人が大晦日のホテル・コルテシア東京のカウントダウン・パーティ会場に現れるという匿名の通報を受けた警視庁がホテル側に協力を求めて捜査員を潜入させて捜査を進め、捜査員の暴走をホテル側が牽制し嗜め苦情を言い、数百名が集う仮装/仮面パーティでの犯人検挙に向けた推理と迷走が描かれるミステリー小説。「マスカレード・ホテル」(2020年7月の読書日記で紹介)のシリーズ第3作、あるいは長編第2作になります。
 謎を作り怪しい人物を増やすためでしょうけれども、コンシェルジュとなった山岸尚美が宿泊客からのリクエストに「口が裂けても、『無理』という言葉を使ってはいけない」という姿勢で対応していく場面が繰り返し描かれています。読んでいて、感心しますし、他方で客商売は大変だよねとも思いますが、ホテル業界はこういう出版物をどういう心情で受け止めているのでしょうか。建前としては、自分たちはそういう姿勢でサービスに臨んでいると言うでしょうけれども、こういうわがままな客、カスタマー・ハラスメントと言うべき客の無理な要求には本音では困り悩まされていると思います。こういう出版物を見て、ホテルはこういうサービスをするものなのだ(客の要求を「無理」と断ってはいけないのだ)、自分もこういうサービスを受けて当然なのだと思い込む者が出てくるということも十分に予想できます。弁護士も客商売ではありますので、自分の要求を実現できて当たり前とか、何でも自分の言うとおりにやれと言うわがままな/傲慢な人に出くわすことはときどきあります。私は、無理なものは無理とはっきり言いますし、基本的に「相手」がいる弁護士業務ではあまりにわがままな要求は拒否するのが正義だと思います(無理な要求を通すことは相手に犠牲を押しつけることにもなります)。「無理」と言ってはいけない、それがホテルのサービスのスタンダードだと言われることには、苦々しい思いを持っている人もいるのではないかなぁと、私は思ってしまいます。

26.マスカレード・イブ 東野圭吾 集英社文庫
 殺人事件の予告があったシティホテルを舞台に、ホテル側と警察のせめぎ合いを描いた「マスカレード・ホテル」(2020年7月の読書日記で紹介)の前日譚として、ホテルクラークの山岸尚美と刑事新田浩介のエピソードを語る短編集。
 4編のミステリーは別々ですが、1編目はフロントオフィスに配属されたばかりの新人時代の山岸尚美が教えを受けホテルクラークとしての姿勢を確立して行く様をかつての恋人の存在を示しつつ描き、2編目は新田浩介の捜査1課に配属されたばかりの若き日を緩めの女性関係も併せて描き、3編目はフロントクラークとして慣れてきた山岸尚美の観察眼を描き、4編目ではコルテシア大阪のオープンの応援に出た山岸尚美と新田浩介をニアミスさせ、エピローグで「マスカレード・ホテル」本編につなげています。その流れは、まさしく「マスカレード・ホテル」の前日譚/エピソードゼロとして計算されたものといえます。
 全体として山岸尚美側というか、ホテルクラークの業務やその観察眼の方に重きが置かれているのは、作者の関心がそれについての驚きと賞賛にあるからでしょう。このシリーズ全体が、そのような方向性で書かれているように思えます。

25.絶望キャラメル 島田雅彦 河出文庫
 前市長時代にテーマパーク建設に市の未来を賭けたが破綻し、今は地場産業が衰退して価格の下がった土地を前市長が手を結んだ不動産業者や電力会社に買収させて太陽光発電用地や廃棄物処理用地に転用する工作を進めている地方都市葦原に流れ着いた生臭坊主放念が、小学校の同級生だった現市長に無理強いして学校に手を回したりわずかばかりの資金を出させて、隠れた才能のある地元の高校生4人を口説いて市の再生を図るプロジェクトを進めるという小説。
 放念の永平寺での修行過程の描写で、「やがて、性欲は遠ざかり、女性の姿も灯籠の形も等しく愛でることができるようになり、一輪の百合の花にも勃起するようになった。性欲はただ抑えるのではなく、あらゆる事象と心を通わせ合うのに利用することもできるのである」(22ページ)というのがあり、斬新な悟りの捉え方かとちょっと考え込んでしまったのですが、これはやはり単なる冗談なんでしょうね。
 見出された高校生たちの活躍は、例えば石投げ好きの帰宅部の黒木鷹が元プロ野球選手のコーチを受けると140キロを超える速球にカーブ、スライダー、フォークを投げられるようになりというのを見ると「タッチ」(野球漫画じゃなくて恋愛漫画だから許されるんじゃないか…)の上杉達也かと思うような荒唐無稽さですが、シリアスな小説ではなくてエンタメ小説なんで、それはそれで楽しめるというところでしょう。
 諸悪の根源とも言うべき前市長の名前が「武中塀蔵」というのは、作者がかなりの確信を持っていることを感じさせます。

24.借地借家法の適用の有無と土地・建物明渡しをめぐる100の重要裁判例 宮崎裕二 プログレス
 タイトルどおり、土地・建物の賃貸借契約の成立とその契約関係に借地借家法の適用(主として契約期間の認定と期間満了時の更新拒絶に正当事由が必要か)があるか、明渡請求が認められるかに関する裁判例の傾向を論じ、関連する100の裁判例を挙げて解説した本。
 土地について、借地借家法の適用の要件となる「建物所有目的」の成否、建物所有目的であっても対象外となる「一時使用目的」の成否、更新がない「定期借地権」成立の認定、賃貸借でなく使用貸借である(無償利用)場合にその明渡を左右する「目的」と「使用及び収益をするのに足りる期間」をどう考えるか、建物について、借家法の適用の前提となる「建物」賃借と言えるか、土地同様に「一時使用目的」「定期借家権」が認められるか、使用貸借の場合の「使用及び収益をするのに足りる期間」、賃貸借でない契約形式を取った場合の評価、駐車場の賃貸を特に建物利用との関係でどう評価するか、明渡請求が権利濫用とされる場合に分けて、裁判例が整理されており、まとめて読むといろいろと勉強になります。裁判所の判断が、契約書の文言、規定をどの程度重視しているか、契約・貸借に至る経緯、客観的な利用状況、明渡しをめぐる双方の利害状況をどの程度考慮し重視しているかは、ケースにより微妙です。私の専門の労働法の分野ほどではありませんが、この分野でも裁判所が他の分野ではかなり重視する契約書の文言にとらわれずに当事者の真意や利用関係の実態等を重視する判断をしている場合が少なくないことがわかります。
 掲載されている裁判例は、著者の好みで選択しているものですので、各章冒頭で認めているものが多い少ないと説明しているのはあまり意味がないと思います。また事案の概要の説明がこなれていないというのか一読してストンと頭に入りにくく、誤植と思われるところも目につきます。
 裁判業界関係者以外には読みこなすのはしんどいかとは思いますが、多数の裁判例がまとめて読める点で、弁護士としては、主張立証の組立を検討するときのアイディアを拡げるのに役立つ本だと思います。

23.将棋のひみつ 見かた・楽しみかたがわかる本 羽生善治監修 メイツ出版
 将棋界の歴史、有名棋士の紹介、棋戦の紹介、名勝負などの解説をした本。
 名人戦をめぐる朝日新聞と毎日新聞の確執(27ページ)、読売新聞主催の最高賞金棋戦竜王戦の発足(31ページ)など、ごく控えめにではありますが、将棋界のもめ事にも触れられ、映画化もあって(記録には残らないが)記憶に残る棋士瀬川晶司(泣き虫しょったんの奇跡)(34ページ)、村山聖(聖の青春)(62ページ)も紹介されていて、それなりに読みでがありました。大阪生まれとしては、阪田三吉の話とかもっと詳しく書いて欲しい感じがしますが、そこは仕方ないですかね。
 名勝負の紹介で、升田幸三vs大山康晴の第6期名人戦挑戦者決定戦第3局「高野山の決戦」の棋譜(109ページ ↓ )なんですが、後手(大山)8七飛成りの王手の局面(138手目)で、後手王(3一)に先手の金(4二)で王手がかかっているというありえない記載になっています。調べてみると、4二の金は後手の駒で、棋譜で向きが誤って逆に書かれているようです。

 大山康晴vs中原誠の第31期名人戦第7局の棋譜(112ページ:97手目先手4三竜まで ↓ )も、数えてみたら歩が盤面と持ち駒を合わせて17枚しかありません。これも調べてみたら先手(大山)の8七にあるはずの歩が記載漏れしているようです。

 ちょっとお粗末なんじゃないですか。

22.クマのプーさん フィットネス・ブック メリッサ・ドーフマン・フランス、ジョーン・パワーズ編著 ちくま文庫
 「クマのプーさん」「プー横町にたった家」に付されているE.H.シェパードの絵に「クマのプーさん」等からの引用や登場するキャラクターのイメージに合わせた文章を入れて構成した本。
 「理想的な運動とは、プーにそっくりで背が低く、のんきで、なにかつまむものをいつもそばにおいている」(9ページ)とか、「戸棚のいちばん上にあるハチミツのつぼに手をのばすのは、楽しい運動です」(17ページ)とか、「ランニングにかんするイーヨーのアドバイス 走るべからず。」(55ページ)とかに見られるように、脱力系の作品です。
 末尾に小さくひっそりと「本書は、A.A.ミルンとE.H.シェパードによる『クマのプーさん』、『プー横町にたった家』およびそのキャラクターをもとに、メリッサ・ドーフマン・フランス(第1部)とジョーン・パワーズ(第2部)が制作したものです」と記されています(173ページ)。訳者あとがきと解説で「本書は二部構成になっており、Pooh's Little Fitness Book と Eeyore's Gloomy Little Instruction Book (ともに初版一九九六年)という、プー物語の原作にインスピレーションを得た、二冊の小さな本で成り立っています」(162ページ:解説)などと説明されています。つまり、原書の著者はメリッサ・ドーフマン・フランスとジョーン・パワーズであって、ミルンではなく、また後半はフィットネスには関係ありません。それを「フィットネス・ブック」という邦題を付けた挙げ句に、カバーにも中扉にも「A.A.ミルン=原案 E.H.シェパード=絵 高橋早苗=訳」とのみ表記して著者名表示をせず(上記の末尾と訳者あとがき、解説の他、奥付と、目次の次のページに「編著者」の表示がされてはいますが。なお、英文の著作権等表示にも著者名表示はされていません)、著者が何者かの紹介はどこにもないというのは、いかがなものでしょう。目につくところには著者名を表示しない一方で、「A.A.ミルン原案」と繰り返し表示していますが、この本にミルン自身が何か関わっているのでしょうか。1956年に死んだミルンが1996年の本に関与しているとは思えません。こういう売り方には疑問を持ちます。

21.画聖 雪舟の素顔 天橋立図に隠された謎 島尾新 朝日新書
 京都では成功しなかった拙宗が大内氏支配下の山口に移り、雪舟を名乗り巧みな自己プロデュースで頭角を現し、遣明使として中国に渡り、中国の著名画家の作風に倣った作品で売り出し、応仁の乱後の将軍家の跡目争いの一方の雄であった大内氏の意を受けて拠点となる地の状況を探り報告するなどの役割を果たしていたことを論じた本。
 天橋立図を特に取り上げて、これが両陣営の前線で後に戦場となることが想定された天橋立、府中の地理、町並みを写し取ったものというのが、論述の骨になっています。
 雪舟の絵と確定されているものは少ないので、京都時代の絵がどうだったのか、同じような作風だったのか、山口に移りまた中国で見聞して画風が変わったのかがよくわからず、この本でもそのあたりは紹介されていないので、納得できるようなできないような読後感です。
 国宝指定の作品が多いのが、作品自体の評価によるのか、有力者の地元で京都から来た画家という立場を利用して京都から来訪した禅僧に次々と詩文を書いてもらうなどして大家であるとアピールした文書等の歴史資料に幻惑されたのか…というあたりがこの本を読んで生じる雪舟観ですね。

20.透明水彩レシピ4 光と影 31人の技法と作品 日本透明水彩会編 日貿出版社
 水彩画の技法、特に光と影の表現について解説した本。
 水彩画を描く際に用いる水彩紙について、コットン100%の加熱加工した目の細かい紙とそうでないもの(パルプ混合で目が細かくないもの)で描ける絵のタイプというか質が変わってくるということが、23ページの作例の比較を見ると実感できます。
 マスキング(ゴムや樹脂の入った速乾性のインクを塗っておいて彩色後に剥がすことにより着色していないハイライト部分を残す)やスパッタリング(絵の上で絵筆を叩いて絵の具を散らす)などの技法の効果がよくわかりますが、他方でいかにもそうやって描いてるよなぁという絵(例えば80~81ページ、114~115ページ)に素直に感動できなくなる感じがします。
 今回は、風景画では92~93ページの絵、静物画では87ページ上側の花と102~103ページの猫が、私のお気に入りです。

19.彼女 江口寿史 集英社インターナショナル
 「美少女を描かせたら右に出る者のいないギャグマンガ家」(35ページ)と呼ばれた作者による女性のイラスト集。
 紛らわしい名前で間違えて「江口寿志」「アニメーションワークス」を読んだ/見た後、懐かしんで取り寄せました。
 私にとっては、江口寿史と言えば学生時代に読んだ「すすめ!!パイレーツ」で、当時模写が得意科目だった私は、学祭のときにサークルの模擬店の看板に泉ちゃんの絵を描きました(40数年前は著作権問題はあまり気にされてなかったもので)。ちなみに、その頃、「過激派」学生の集会に参加中、隣の席に座っていたいかにも過激派ふうのおねぇさんから、机に落書きされた「CP蜂起!」を指さして、CPって何だと思う?と聞かれ、まぁこういうところに書かれてるんだからふつう共産党(Commuists Party:日本共産党ではなく、より戦闘的な過激派学生にとってあるべき姿としての前衛党)だよなと思いつつ、当時、京都大学では障害者闘争の芽ばえのようなものもあったので、ひょっとして脳性麻痺(Cerebral Palsy)かも(障害者よ、立ち上がれ!)とも思い、しかし若輩者の1回生が先輩に教えを垂れるようなマネはできませんので、「千葉パイレーツ(Chiba Pirates)じゃないですか」と答えたら、ばかうけしておねぇさんが隣のさらに過激派ふうのおにぃさんに「この子が、CPって千葉パイレーツだって」と震えながら話しかけ、おねぇさんが「うるさい、黙ってろ」と言われていた記憶があります。
 この作品集では、大人っぽい顔立ちの絵がほとんどで、「ストップ!!ひばりくん!」の絵はあっても、「すすめ!!パイレーツ」の泉ちゃんの絵はまったくないのが残念でした。顔を大人っぽくして下着姿やパンチラを見せられても、私は興ざめしてしまいます。特定時点での経験・記憶に固執した勝手なノスタルジーですが。

18.アニメーションワークス 江口寿志 幻光社
 アニメーターの著者が、自分が書いた原画類を元に、その原画で何の作業をしているかとか、どこで苦労したかなどを語る本。
 Introductionで「この本は、アニメーションがどのような手順で作られているのか?という疑問にお答えする物になります」と書いています。業界に詳しい人ならそれを読み取れるのかもしれませんが、制作の工程に沿って説明するという形を取らず、著者が担当した、著者の手持ちの原画を作品ごとに並べて思い出話的にエピソードを語っているので、どのような手順で作られていくのかを判読理解するのは難しいように思えます。
 採り上げられている作品も、著者が関与した代表的な作品という観点ではなく、たまたま手元に原画が残っていたとかいう事情で選ばれているように見えます(代表的な作品は権利者が承諾しなかったということかもしれませんが)。
 アニメーション業界ですでに36年のキャリアを持つのだそうです(222ページ)が、私は知りませんで、漫画家の江口寿史の作品集と思い込んで手に取りました。違うなぁと思ったときに、「ルパン三世」の峰不二子のイラストが目にとまり、読むことに…子どもの頃テレビアニメを見たとき(テレビシリーズ第1期のとき、私は小学6年生)から胸ときめかせた峰不二子のおっぱい丸出しのイラストが37ページに…これだけで読んで得した感(12歳児の魂62まで、です)(私は、スウェーデン美女のフルヌードよりもこっちの方が萌えます)。

17.押井守のサブぃカルチャー70年 押井守 東京ニュース通信社
 「攻殻機動隊」「スカイクロラ」のアニメ映画監督である著者が、テレビアニメ等について論評した本。
 子どもの頃から軍オタで、戦争大好き、軍事大好きで、「サンダーバード」は国際救助隊で助けるだけで戦わないからダメ(182~183ページ)で、日本学術会議の連中は理想の存在を信じ頭の中で救われてしまっている(34ページ)、自分は懐疑的(同)なんだそうです。
 また、モンキー・パンチが宮崎駿の「カリオストロの城」に不満を持っていて、亡くなる数年前に会ったときに「あんた『ルパン』やってよ」「今度やろうよ。何をやってもいいからさ。いまの『ルパン』はオレの『ルパン』じゃないんだよ」と言われた(73ページ)とか、山岸凉子に「日出処の天子」のアニメ化をやらせてくれと頼んだら本人も前向きだった(244~246ページ)などの自慢話っぽいたられば話も散見されます。
 そのあたりの好みで、読んだ評価もだいぶ左右されそうに思えます。
 私よりも9歳年上ということがあってか、「ルパン三世」の漫画アクション連載に関して、峰不二子には全く言及されず、中綴じのスウェーデン美女のフルヌードのグラビアだけが語られ(72~75ページ)、「ウルトラマン」では桜井浩子(フジ隊員)、「キャプテンウルトラ」では城野ゆき(アカネ隊員)、「ウルトラセブン」ではひし美ゆり子(アンヌ隊員)が語られていて、同じ時期に同じものを見ていても、年齢により関心の対象は違うのだなと実感しました。

16.本気で考える火星の住み方 齋藤潤 ワニブックスPLUS新書
 火星探査・調査のこれまでを振り返り、火星の地下に水がある(岩盤下の地下水状態か、岩盤内で水酸化物状態か)という見通しからこれを利用した人類の火星での居住に向けての技術開発や法的整備などを論じた本。
 水や薄い大気層があっても、大気が薄いため小石ほどの隕石でも減速されずに落ちてくること、大気が薄い上に強い磁場がないために放射線・太陽風がストレートに襲ってくること、砂嵐が頻繁に生じていることなどから、地上での生活や地上の施設、特に太陽光発電パネルの維持には厳しい環境であることが指摘され、宇宙環境の峻厳さと地球環境のありがたみを改めて感じます。また現況では、民間の富裕層/企業への主体の移転・移譲が進む中、限られた資源を早い者勝ちで先占して行くことが予想され、それをうまく協調し制御できるかが論じられ/危ぶまれているのも、なるほどと思いました。
 ことがらの性質上、図版、写真が多用されていますが、モノクロのどちらかといえば安めの紙の新書なのが少し哀しい。興味があるならNASAやESAのサイトで見ろということなんでしょうけど。

15.老いの正体 認知症と友だち 森村誠一 角川文化振興財団
 認知症になった89歳の著者が、老いに向き合い、老いても夢を持ち好奇心を持ち志を持って生きていこうと語る本。
 人生・生活の中での時間の過ごし方について、「濃密な時間」として、青春時代に山登りに夢中になっていた頃、新聞の届かない穂高中腹の涸沢テント村から「朝日新聞」連載の「氷壁」を早く読みたいがために毎朝朝食後に2時間かけて麓まで降りて「氷壁」を読み4時間かけてテント村に戻ってくる友人がいたことを紹介して、こうした時間は濃密であると述べています(160~161ページ)。80前後の頃は「昭和」的な喫茶店で過ごす時間が濃密と感じられたとも(161~162ページ)。なるほどと思いますが、他方で、著者は「もっとも時間を薄く感じやすいのは『待ち時間』ではないかと思う」(162ページ)としています。積極的に味わいに行くということでないにしても、降って湧いた待ち時間も、使いよう、気持ちの持ちようでは、濃密な時間にできるかもしれません。著者の言う「効率のいい時間」とは別種の「濃密な時間」を大切にしたいという心持ちは、これから意識していたいなと思います。

14.踊るハシビロコウ 南幅俊輔 ライブ・パブリッシング
 動かない鳥として知られるハシビロコウが、羽を広げたり飛んだりしている写真を掲載して解説した本。
 長男が子どもの頃、鳥が好きで、とりわけこのでかい面(鳥にしてはという点でも、体の割にはという点でも、顔が大きいんです)の鳥とにらめっこするのが気に入って、上野動物園に連れて行くたびにハシビロコウの檻(その頃はまだ1羽だけで小さな檻だった記憶です)の前で長い時間動かずに2人の世界(1人と1羽の世界)に入り込んでいたので、私もよく見ていたのですが、基本的には動かずじっとしている時間が長いですが、ずっと見ていると歩きますし、時には羽を広げます。それほど珍しいわけでもないんですが(もっとも上野動物園の檻は以前はかなり狭かったし、今はなんと4羽も飼育していますが、それでも広いのは1つの檻だけで残り3つの檻はかなり狭く、飛ぶのはまぁ無理でしょうけどね)。
 日本全国で、現在7箇所で合計12羽のハシビロコウが飼育・展示されているそうです。この本では、羽を広げたり飛んだりの写真はほぼ上野動物園以外(67ページのハトゥーウェが飛んでいる写真が唯一の例外)で、やはり今でも上野動物園の檻ではハシビロコウが飛ぶ気にはなれないということなんでしょうね(単に著者に対して上野動物園があまり協力してくれなかったのかもしれませんが)。

13.水に溺れて夢を見る 美和野らぐ 株式会社KADOKAWA
 セクシー系の美少女のイラストを中心とした著者の作品集。
 前半は災害で海中に沈んだ都市の上に人類が水上都市を築いて生き延びているという設定の作品に合わせたイラストなので水辺が多く、後半のイラストでも雨、露、飛沫、汗など水もしたたる…というものが多く、水や水面・水滴に反射する光が意識される絵が多くなっています。
 脚や腕、体のひねりなど、無理なものも散見されますが、そこは美観優先で割り切っているのでしょう。
 大腿と上腕に、ハイライトが入るのは理解できるのですが、電車の窓のような四角・台形を列状に連ねたものが、機械的に近く入れられているのは、私はやめた方がいいんじゃないかと思いました。脚にこれが入っていると、ストッキングが伝線したのかなと思えてしまいます。

12.ミス・パーフェクトが行く! 横関大 幻冬舎
 端整な顔立ちで主婦層の支持をつかみ8年間総理大臣の地位にある栗林智樹の隠し子で東大卒29歳の厚労省キャリア官僚真波莉子が、次々と押し寄せる難題を、頭の切れと度胸と人脈で処理して行くお仕事小説。
 能力があって人脈に恵まれた者は、どういう立場におかれ、何にぶち当たっても、なんとかするもんだなという、ある意味では爽快な、ある意味では実感を持てない別世界のことに思える作品です。
 現役の与党幹事長が銃撃されて倒れ(防弾チョッキを着ていたので全治2か月の怪我ですんだが)、一番近くにいたが一歩も動けなかったことをいまだに忘れられない当時の警護担当者がサブキャラで、その事件の背景にはいろいろな思惑もあり…という作品。
 借りた当時には予想だにしていませんでしたが、安倍元総理銃撃事件直後に読むことになり、いろいろに感慨深いものがありました。

11.初恋さがし 真梨幸子 新潮文庫
 50代の山之内光子が経営するミツコ調査事務所を訪れた依頼者、事務員などの関係者にまつわる事件を描いたミステリー短編連作。
 タイトルの「初恋さがし」は、光子が調査事務所のサービスとして企画したヒット商品名(10~11ページ)と、それを求めた依頼の1編(263~322ページ)から。全体を通じて悪意と比較的あっさりと実行される殺人に満ちていて、タイトルのイメージとはかなり異なる読後感です。
 舞台となるミツコ調査事務所は、「JR高田馬場駅から歩いて五分。早稲田通り沿いの雑居ビル、四階」という設定です。私がサイトで書いている小説「その解雇、無効です!」シリーズの玉澤達也法律事務所の新宿区大久保4丁目の雑居ビル4階(「その解雇、無効です!2 ミステリーでわかる解雇事件」プロローグからその設定が登場)と場所・環境の設定や、小規模の濃密な人間関係などが似ている点にも興味を持って読みましたが、事務所内の人間関係は、だいぶ違う(ちょっと怖い)感じでした。

10.顔 FACE [新装版] 横山秀夫 徳間文庫
 D県警鑑識課機動鑑識班で目撃者の話から犯人の似顔絵を描く担当者だったが、逮捕された者がまったく似顔絵と似ていなかったため似顔絵捜査でお手柄という記者会見前に描き直しを命じられたことから自己嫌悪に陥って失踪・休職した過去があり、現在は別の部署に配属されている婦警平野瑞穂が、似顔絵を描く能力やさまざまな観察力を活かして奮闘する様子を描く短編連作。
 まだ若い一婦警の悩み、男社会の警察の中で低く見られる婦警/女警の意地と向上心が大きなテーマとなっていますが、時に女の敵は女的な場面が登場する際、それを男性作家がいうことへの疑問をどう捌くか、たぶん悩ましいところでしょうね。
 観察力を駆使して真相に迫るストーリーを展開するのに、秀でた主人公ではなく挫折の経験がある/なおそれを引きずっている人物にしているところに味があり、またお手柄が前に出ずに、結局専門の部署の他の警察官も自力でたどり着いて主人公は引いていくというところに現実の苦さが感じられます。

09.日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年 津堅信之 中公新書
 1917年と言われる日本国産アニメの初制作から、「鉄腕アトム」のテレビ放映、ヤングアダルト世代のニーズを引き出した「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」、監督の作家性を注目させるようになった「風の谷のナウシカ」等の画期をなす作品の制作の背景等を解説した本。
 手塚治虫がアニメの制作を始めたのは1960年とのことですので、サブタイトルの付け方には少し難がありますが、そこはきっと著者の希望ではなく出版社の販売政策なんでしょう。
 それぞれの作家や制作会社の事情、作品の生まれた背景、他の作品等の影響など、知らなかったことがわかって知的好奇心を満たせた感じがしますが、その分、著者自身「あとがき」で最近20年間の扱いは塗炭の苦しみと書いている(292ページ)ように、近年の領域は、ただ有名作品が羅列されているだけで分析がなされていないに等しいのは残念に思えました。
 「あしたのジョー」は虫プロだったんですね。小見出しは「反手塚から生み出された『あしたのジョー』」となっています(114ページ)が、本文には、手塚治虫が反対したとかの説明はありません。ここも出版社編集者が売るために付けた小見出しでしょうか。

08.ミュシャ作品集[増補改訂版] パリから祖国モラヴィアへ 千足伸行 東京美術
 アール・ヌーヴォーの代表的な画家アルフォンス・ミュシャの作品の図版を収録し、ミュシャの創作活動と生活等を紹介する本。
 ほぼ無名だったミュシャを一躍人気画家にした大女優サラ・ベルナール主演の歴史劇「ジスモンダ」のポスター制作の経緯については、解明されておらず、一説によるととか別のストーリーもあるなどと風聞を並べてさじを投げています(20ページ)。時代の寵児にしては派手な女性関係はなく「女性の影は意外と薄く、艶聞、『浮いた話』とも縁遠い」(148ページ)のだそうです。作品の傾向からすれば、裸婦のモデルのデッサンを相当な頻度でしているはずですが、プロ意識・自制心が強かったのでしょうね。オカルトが好きでフリーメイスンのメンバーでもあった(122~123ページ)そうですから、好みの向きが違ったということなのかもしれませんが。
 図版は概ね見たことがあるもので、目新しさは感じませんでしたが、「パリスの審判」の万年カレンダー(101ページ)が、たぶん私には初見で、下のおっちゃん3人組(「真実の口」みたいな)がちょっと気に入りました。「ウェスト・エンド・レビュー」誌表紙(127ページ)の右上の天使とかも。

07.薬屋のタバサ 東直子 新潮社
 とある町で先祖代々引き継がれた薬屋を10年余り前に父親が死んで以来一人で営んできた薬剤師の平山タバサの下に、過去を逃れてその町に流れ着いた語り手の山崎由美が転がり込んだところから、深くつながっているように感じられる町の人たち、タバサが調剤する怪しげな薬、幻影とも実在とも判別できない目の前に現れる人たちなどに翻弄されながら、由美が過ごす日常とタバサや町の人たちとの関係を夢・幻想とうつつを行き来しながら描いた小説。
 タバサも由美も、その来歴がわかったようなわからないような、タバサの薬の正体も、登場する幻影のような人々とこの町の構造も、解明されたようなやっぱりわからないような、はっきりさせたい読者にはもやもや感の残る、想像力を働かせたい読者には自由に解釈する幅のある、そういう作品かなと思います。
 もっとも、前半と後半を隔てる、由美との関係・庭の池の扱いをめぐるタバサの2つの決意については、タバサの人柄への理解も含め、もう少し説明というか、気持ちの変化の背景事情の描き込みが欲しかったように思います。私の読み方が浅いということかも知れませんが。

06.ぼけますから、よろしくお願いします。おかえりお母さん 信友直子 新潮社
 母親が認知症に罹患し、呉での高齢の父親との2人暮らしを、東京での映像制作等の仕事をしながらときおり帰郷して見守る著者の目から父母の関係、自分と母あるいは父との関係とその変化を書き綴った中国新聞連載記事を出版したもの。
 「おかえりお母さん」の意味は154ページで明らかにされますが、最初にサブタイトルを見たときの予想とは違い驚きました。
 相手が誰かもわからなくなるには至らず、徘徊症状もなく、認知症が進んで母が父(夫)に甘えるようになるというのは幸せなケースと思われます。朝が来て起こされると蒲団の中から父(夫)に手を伸ばして「ほんならお父さん、起こしてやぁ」という母に父が母の手を握って蒲団から引っ張り出し「おはよう」と挨拶するということに「なんだか娘の私が気恥ずかしくなるほどの仲むつまじさ」「娘としては目のやり場に困ります」というのです(36~37ページ)が、夫婦仲がいいことは仲違いしてるよりよほどいいことで、気恥ずかしく思うなどと言わず、微笑ましく見ていればいいと思います。昔、「チャーミーグリーン」のCMで高齢者夫婦が手をつないで歩くのを気持ち悪いと声高にいう人びとがいたのを残念に思いました。高齢者夫婦が仲良くするのに人目をはばからせるような風潮はなくしていきたいところです。
 認知症患者の症状や心情に関しては、近年医師や介護関係者がたくさんの本を書いていて、認知症になったから突然重度になるわけでも、また何もわからなくなるわけでもなく、認知や記憶が悪くなっているのは本人がよくわかっていて、だからこそ不安になりあるいはそれを認めたくなくてイライラしているとかは、わりと広く知られるようになっています。この本は、専門家の側からではなく、家族の側から、1つの例について具体的に書くことで、読みやすく実感しやすいという点が売りかなと思いました。

05.アンチ整理術 森博嗣 講談社文庫
 「整理」をキーワードにして、思考や人間関係などを論じた本。
 「まえがき」で、「僕にはその方面の『整理術』というものはない。はっきりいってしまうと、必要がなかったのだ。整理する時間があったら、研究や創作や工作を少しでも前進させたい、と思っていた。無駄なことに時間を使うなんて馬鹿げている」「それを書いてしまうと、ここで本書の一番大切な結論はお終いとなる」と言い切っています(12~13ページ)。「片づいているから仕事が捗る、といった感覚は、少なくとも研究者の間には見られない。むしろ逆で、片づいていない部屋の主の方が、研究が捗っている場合が、僕が認識する限りでは多かった」(35ページ)とも。我が意を得たり、というところです。私は、事務所も自宅も、とっちらかしているもので (^^;)
 仕事について、やりたくないと思う気持ちを切り換える必要はない、「『嫌だな』と思っている、そのままの状態でやる。それが正解である。嫌な気持ちを『やりたい』気持ちに切り換えるのは、かなり難しい。それよりも、『嫌だ』と思いながら作業を始める方が、ずっと簡単なのだ」(43ページ)というのは、至言というべきかもしれませんが、同時に抵抗感もあります。「仕事であれば、その本質は何だろうか?人によって違うと思われるが、多くの場合、賃金を得ることが目的である。自身を成長させるため、誰か他者の機嫌を取るため、世間体のためなど、いろいろな雑念があるかもしれない。ときどき、その第一の目的を思い出して、目の前の小さな問題を俯瞰してみることで、少しは冷静になれるだろう」(162~163ページ)とか、「得意なことは好きなことではありません。たまたま一致していると、働きすぎて、健康を害することになります」「得意なものをいやいややっているのが理想的です」「嫌なものや、苦手なものだからこそ、効率を上げたいですよね。自然な方向性だと思います。ただ、好きになろう、と勘違いしないこと。嫌いなままで良く、単に効率を上げることに専念するだけです」(204~205ページ)など、整理術的な部分より、仕事に関する捉え方、幾分突き放した見方の方にいろいろ感じるものがありました。

04.祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く 雨宮処凜 岩波書店
 ホームレスや失業者、非正規労働者などの生活苦にあえぐ人々やさまざまな災害の被災者などを取材し、現在の日本の現状と、その中でオリンピックを強行しようとし強行した政府の姿勢を批判的に描き出した共同通信配信記事をまとめた本。
 生活に苦しむ人々を放置してオリンピック実施を優先することへの批判が基調ですが、オリンピックへの出場や聖火リレーを希望していた人たちの延期の際の失意等も書いていて、バランスを図っている感じもします。著者がそういう配慮をするようになった/丸くなったということなのか、共同通信の取材という枠組みのせいかはわかりませんが。
 ネットカフェ難民が、自分で生活保護申請をしたときには窓口で追い返されたが、著者が同行して申請するとすぐに申請が受理され、緊急事態宣言でネットカフェが閉鎖された後緊急事態宣言が解除される5月6日までホテルに無料滞在が認められ、その間にアパートを探して見つかったらそこに入ればいい(敷金や引越代も生活保護費で出す)と言われたというエピソード(34~35ページ)も印象的です。そのときは、著者の名前が効いたのか、共同通信が効いたのか。個別ケースで見るとよかったねと思いますが、我が国の行政のあり方を考えると哀しいところです。

03.日本の絶景無人島 楽園図鑑 清水浩史 河出書房新社
 日本国内の無人島37箇所を訪れて、海と砂浜・珊瑚礁等の絶景写真を掲載し、その地の様子、観光客や潮干狩り等で訪れる地元民などの様子などを、1箇所2~4ページでとりまとめた本。
 誰でも知っているほど有名なところではないけれども、誰も知らないようなところではなく、地元では知られているとか知る人ぞ知るというポイントだということが正直に語られ、どうやったら行けるかとか、いつ頃が見頃かとかも紹介されています。その気になれば行けるよと誘っている感じです。写真を見ていると青い空と青い(エメラルドグリーンとかも含めて)海に惹かれて行ってみたいなぁという思いを持ちますが、取り上げている島は沖縄が多く、東京は小笠原諸島の1箇所、東京に一番近いのが伊豆半島の先端(ここは、9月中旬の週末に訪れると、一時は入場制限が行われるほどの混雑状況だったとか:141ページ)で、なかなか行ってみるというのは難しいのが残念です。那覇の近くや、学生の時に行った慶良間諸島のそばもあるので、その頃に知っていれば行けたかも、とは思いますが。

01.02.冤罪法廷(上下) ジョン・グリシャム 新潮文庫
 無実なのに有罪判決を受け収監されていることを訴え助けを求める手紙を審査して本当に無実に思える事件を無償で(篤志家からの寄付等により)弁護する弁護士たちの活躍を描いた小説。
 非常救済手続(日本でいえば再審請求手続だと思います)のため陪審審理ではないですが、裁判官の指揮の下弁護側検察側の証人尋問が行われて法廷シーンが相応にあり、なぜ無実の者が有罪判決を受けるに至ったか、その陰にあった陰謀が描かれており、リーガル・ミステリーと位置づけて読むことができると思います。
 実在の弁護士、実在の事務所をモデルにしている(あぁなんて無欲で誠実で理念的な、刑事弁護士の鑑のような人なんでしょう)ためか、主人公の弁護士が、あまりに無欲で、依頼者が巨額の補償金を受けてもなお報酬金さえ取らない上、女性関係さえ乱れないのが、ちょっとグリシャムらしくないというか、展開の予想を外します。
 主人公の清廉で無欲な弁護士でない、不法行為による損害賠償請求訴訟専門の弁護士の報酬金は今では40%なんですね(下巻196ページ)。グリシャムの昔の小説では、たいてい30%とか3分の1(33%)だった記憶があるのですが。私は、私の一番の専門領域の解雇事件で金銭解決した場合にいい水準の和解をしたときは(賃金12か月分以上の解決金の時は賃金12か月分を超える部分については)20%+消費税(それ以下の部分は10%+消費税)をいただくことにしているのですが、もっともらってもいいのかも…

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