私の読書日記 2024年1月
30.私たちの世代は 瀬尾まいこ 文藝春秋
コロナ禍のために小学3年生になってすぐ休校・オンライン授業となり、「夜の仕事」をしているシングルマザーとともに分散登校が始まってもずっと休んでいる同級生がネグレクトされていることに気づいて定期的にパンや飲み物を届けるようになった冴と、友だちと近づくこともしゃべることもできない分散登校時に机の中に小さな紙の切れ端で手紙をやりとりした見知らぬ相手との約束に希望を見出した心晴のその後15年を描き、コロナ禍で失ったもの、得たものに思いをはせる青春小説。
作者らしいほんわりとした温かい読み味は予想通り期待通りですが、この作品では、母親、特に冴の母があっけらかんとしてカッコいいところが印象的です。同級生から母親が夜の仕事をしていると蔑まれた冴から仕事について聞かれても自慢げにかっこいい仕事だのお給料がいいだのと答え常に前向きの姿勢で、なんといっても子どもに対し「ママは冴がいて最高に幸せ」「私は冴のこと驚異的に大好きだもんね」とか愛情を露わにしています。貧しくてもこんな母親と一緒だと子どもは幸せだろうと思います。他方、父親は、冴の父はおらず、心晴の父はいいとこなしで心晴に蔑まれたまま。おっさん読者にはそこはちょっと哀しいですが。
29.つよがりの君に、僕は何度だって会いにいく 此見えこ 角川文庫
シングルマザーの母が仕事を増やして懸命に働くのをよそに有名デザイナーによる制服がおしゃれな私立高校に通う高1の未森ひなたが、裕福ではない同級生芽依が富裕層のグループリーダー莉々子からかわいそうと言われてお弁当のおかずを恵まれたり買ったが気に入らないヘアアクセサリーをプレゼントされ(押しつけられ)たりしているのに対し、見下すようでよくないと意見したのを機に仲間はずれにされ、1学期終盤にしてもう死にたいと考えながら日々を送っているのを、小学生のときはひ弱だったが今や人気者になっていた幼なじみの加賀谷柊太が救おうとしきりに誘い…という学園青春小説。
学校でのいじめ問題をテーマにしながら、親も教師も全然出てこず(気がつかず)、生徒間だけで展開していくのは、現実的なんだか非現実的なんだか…もっとも、これほどてらいもなく2人の世界に入れるのなら、この際、周囲の同級生たちがどうであっても、もう構わないような気もするのですが。
28.哀れなるものたち アラスター・グレイ 早川書房
外科医の父の薫陶を受けたゴドウィン・バクスターが1881年に入水自殺した妊婦の遺体にその胎児の脳を移植して蘇生させてテラスハウス内に住まわせていたベラ・バクスターをゴドウィンのうちで見初めて婚約したゴドウィンの大学の同級生だった王立診療所顧問医師アーチボールド・マッキャンドレスが、性に目覚めたベラがアーチボールドが体に触ってくれない、抱きしめても振りほどかれたという不満を持ったこともあってベラに放蕩者の弁護士ダンカンと駆け落ちされてしまいゴドウィンと2人でやきもきしながらベラの帰りを待ち…という本を1909年に出版し、それにベラが事実と違うと述べる1914年8月1日付の手紙がつけられたものが、1970年代に郷土史博物館の職員に発見され、1990年になって作者の元に送られてきたという体裁の小説。
大人の体を持ちつつ幼児の心を持つベラの言動を通じて、メインテーマとして、子どもでも、不道徳と評価されても、自分のこと、自分の体のことは自分が決めたいという自己決定権のアピール、サブテーマとして貧困・差別・虐待問題への素朴な正義感が語られる作品です。
ただ、そういう意図を持つ作品でありながら、「頭蓋が小さいために中国人は英語をなかなか学べない」(189ページ)など、国籍・民族での偏見が散見されます。
バクスターのうちで飼われている切断縫合された2羽のウサギの名前がモプシーとフロプシー(いわずと知れた「ピーターラビット」のピーターの妹3羽のうち2羽の名前)なんです(29ページ等)が、この2羽オスとメス(29ページ。372ページでは「交接している」のですし)なので、それならピーターとカトンテールにすべきじゃないかと… (@_@)
(映画の感想記事は→映画「哀れなるものたち」)
27.独禁法講義〔第10版〕 白石忠志 有斐閣
独占禁止法(競争法)の教科書。
独禁法の構成・条文(名称も)が歴史的経緯から実態・実情に即していないという立場から、国際的な競争法の枠組みを意識し、共通の要件等はまとめる、条文や表向きの説明にないことでも現実にはそう考えた方が説明できることは説明するとして、著者から見て理論的な構成を試みています。おそらくは、それは独禁法という法律や公正取引委員会の姿勢を学ぶのに適しているのだと思いますが、私が事件に即してものを考えることが仕事がら習い性になっていることから裁判や審決等についてもう少し事案を具体的に説明して欲しいと感じることに加えて、法律や公正取引委員会の「不公正な取引方法(一般指定)」の条文がほとんど説明なしに「2条9項○号」とか「一般指定○項」と書かれていて、その内容を理解していることを当然の前提として記述が進んでいくのに難渋しました。六法等の資料を横に置いてその都度参照しながら、学習するという、まさに大学の学生のように読むことが予定されていて、これだけで通読するのはかなり厳しい。もちろん、法律の条文を紹介しても難しい印象が増すだけで、またそれを省略しているからこれだけ薄い本にできるのですが…
庶民の弁護士としての私の関心からは、これから公正取引委員会の活躍を期待したい中小企業・庶民・消費者いじめを防ぐ領域の「優越的地位濫用行為」と「下請法」の解説が合わせて16ページ(203ページ~218ページ)しかないのも残念です。
実例の解説が少なく理論重視という点については、著者自身意識しているらしく、サッカーにたとえれば実務家がFWで、そのために理論を作る学者は絶妙なパスを出すMFだと、最後(249ページ~251ページ)に述べています。私にとっては、学生の頃はこういう教科書を(六法を脇に置いて)苦もなく読めたはずなのに、もうこういう教科書を読むのは難しくなっているなぁという感慨が大きな本でした。
26.競争の番人 新川帆立 講談社
父の後を追って警察官になりたかったが母に止められて公正取引委員会の審査官となった白熊楓が、談合事案の調査で事情聴取した工事発注担当の市役所職員に自殺され、苦手な上司の下に転属となり、チームに配属された苦手なバリバリのエリートと組まされ、婚約中の彼氏との仲も暗雲が広がりという中で、失敗を重ねながら調査を進めていくお仕事小説。
正義と弱者を守る仕事だが世間に知られていない弱小官庁の公正取引委員会を紹介するという趣が強いですが、作品としては情に流されやすく不器用で運がない主人公の、成長を描くないしは誠実にやっていればいつかは報われるさ的なヒューマンドラマと受け止めた方がいいでしょう。
16歳で公認会計士試験、20歳で司法試験に合格し、東大法学部を首席で卒業し国家公務員試験も1位という超エリートの小勝負勉のありえない記憶力がストーリーの肝になっているのが、どうかと思いますが、エンタメですのでそういうものと受け止めておきましょう。
公正取引委員会の仕事の大切さをアピールする作品を読んだので、独禁法(どっきん❤ほう)の勉強をしてみようと、ずっと積ん読していたものにチャレンジしたのですが…→次は「独禁法講義」
25.去年の雪 江國香織 角川書店
多数の人々(死者やさらには人間以外のものも含む)の生活の断片を紡いだ実験的な小説。
109名+猫1匹+それ+別のそれを話者(視点者)とする1ページから6ページのエピソード123編が続いています。次々と話者・登場人物が変わっていくのを、最初のうちは、通常の群像劇のように、数組出たらまた最初の人たちの続きが出てくるかと思って読んでいたのですが、ときにそのエピソード内の別の登場人物が話者となることがあっても、それが繰り返されるというのでもなく、全然別の新しい話者が登場し続け、段々とこれは何なのだろうと不審に思います。そう思ったところで、68ページで初めて同じ話者(柳)が2回目に登場し、ようやく普通のパターンになるかと思うとそうでもなかったりします。作者の中では何らかの規則や流れがあるのかもしれませんが、読む側には最後まで規則性が感じられずに、オチもつけられないままに終わったという印象です。
同じ話者の話は、過去の時代(平安時代とも江戸時代とも…)の柳(27~29ページ、68~70ページ、119~124ページ、240~244ページ)、綾(88~90ページ、131~134ページ)、勢喜(107~109ページ、170~173ページ)、加代(230~233ページ、259~261ページ)、死者の霊の市岡謙人(5ページ、138~140ページ、190~191ページ、261~263ページ)、佐々木泰三(75~78ページ、138ページ、217~220ページ)があるだけで、現在を生きている者は重ねて話者にはならないというルールがあるのかもしれません。他方で、猫や何者かもわからない「それ」が話者となり、死者の霊が語り、異なる時代のエピソード間で音が交信したりものが移動するというパラレルワールドなのかテレポーテーションなのかという事態も特段の説明なく登場します。そういうことからすると、むしろ作者の思いつくままの自由な語りを、規則性を詮索することなく受け入れるというのが、たぶん正しい読み方なのでしょう。
通常のストーリーのある小説ではないということを受け入れてしまえば、作者の語り口の巧みさと感性から、不快感は特になく読める、不思議な読み味の作品です。
24.仕事は辞めない!働く×介護両立の教科書 日経クロスウーマン編 日経BP
仕事をしている人が、家族が要介護状態になったときに仕事を辞めずに介護態勢を整えるための制度や情報収集等について解説する本。
職場の介護休業制度は、仕事を休んで親の介護をするために使うのではなく、仕事と介護の両立体制を組むために利用するもの(25ページ、150ページ)、介護にかける時間は平日2時間、休日5時間まででこれを上回ると継続が辛くなるのでプロの手を借りるなど何らかの調整が必要(32ページ)というのは、なるほどです。
認知症患者は身近な人に対してより強い反応が現れる傾向があり、できごとは忘れても感情は残るので何かイヤなことをされた、止められたという気持ちだけが残りしこりが残る、家族は元気だった頃のことを覚えているので症状を受け入れられずに叱ったり非難してしまうので、認知症患者を家族が介護するのは専門職より難しい(107~110ページ)というのも、そうなのでしょう。それを仕事にしている(それで商売している)人からもっと利用してねと言われることには警戒心は持たざるを得ないのですが。
高齢者の場合元気な人でも10日間入院すると7年分年をとったのと同じだけ骨格筋が失われる、ある訪問診療事業者のデータでは高齢者の入院原因の約半分が肺炎と骨折で、肺炎での入院患者の約3割が入院中に死亡、退院できた人の要介護度は平均1.7悪化、骨折で入院した患者の1割弱が合併症で死亡、退院できた人の要介護度は平均1.5悪化したそうです。そして、高齢者の転倒の約4割は薬が関係していると言われていて飲んでいる薬の数が5種類を超えると転倒のリスクが有意に上がるとされています(195~202ページ)。ここ、一般的には医師の営業上の利益に反することを医師が書いていることでもあり、注目しておきたいですね。
23.著作権のツボとコツがゼッタイにわかる本 三坂和也、井髙将斗 秀和システム
著作権について、ウェブサイトやSNSで発信する場合の問題を、文章の形態、写真・画像の形態、音楽・動画の形態に分けて解説した本。
近時問題となりそうな場面を扱っていて参考になる本です。
他方で、法律実務家によるQ&A形式の本ではありがちなことではありますが、類似のQが多々あり、著作権法の概念として「複製」と評価できるであろう同文ないしほぼ同文の説明が多数回見られ、通読すると、またこれ言ってるという印象を何度も持ちます。加えて、各Qの末尾に用語解説と法律の条文が掲載されているものが多いのですが、これがまた同じ用語や同じ条文の繰り返しが多く、なんか、これでページの水増ししてない?と疑ってしまいます。用語の解説では丸々1ページを超える「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」の6項目の説明が本文で1回(226~227ページ)、項目末尾の用語解説で3回(65~67ページ、91~92ページ、169~170ページ)、1つの条文で丸1ページ近い面積をとる著作権法30条の2の条文掲載が4回(117~118ページ、131~132ページ、148~149ページ、186~187ページ)など、目に付きます。(この記事も、そういうつまらない指摘で水増ししてると言われるかも…(-_-;)
22.家庭用安心坑夫 小砂川チト 講談社
東京でテレワーク中の夫と2人暮らしの専業主婦で時折ネットで依頼があるお買い物代行をしにデパート等へ出かけている藤田小波が、幼い頃母からあの人がお父さんよと言われていたマインランド尾去沢の坑夫人形ツトムを行く先々で目にするようになり、止める夫を振り切って廃屋となっている実家に向かうが…という展開の小説。
捨ててきた過去とどう向き合うか、という系統の作品ですが、小波側のエピソードなり心象風景なり妄想なりはよいとして、挟まれている尾去沢ツトム側のエピソードがどう関係するのか、ずっと見えず、読み終わってもそこがストンと落ちないままというのがフラストレーションとして残ります。
21.まだ終わらないで、文化祭 藤つかさ 双葉社
学校側の計画にないサプライズを生徒がしでかす伝統がある八津丘高校文化祭で、2年前に生徒がハプニングのために組み立てた机が崩れて教師が負傷しその動画がSNSで拡散して炎上したため前年は学校側が厳しく取り締まり何事も起こさせなかったところ、文化祭当日早朝に教師から昇降口前に2年前の文化祭ポスターが貼られていたことを指摘されて疑わしい者を探るように指示された文化祭実行委員が、サプライズを企てそうな軽音楽部、放送部、自然科学部などを回るが…という展開の学園ライトミステリー形式の青春小説。
サプライズの伝統とそれを望む者たち、花火の打ち上げ場所から一番近いところで告白すると成功するという都市伝説的なジンクスを信じる者たちの思惑が交差する青春群像劇的な仕立です。
最初に学園の地図があるあたりから、これはミステリーなんだぞという意気込みが感じられます。こういう軽いネタでもミステリーにできるんだという受け止めもできますが、むしろ登場人物の思い人への感情/感傷の方を読む青春小説として味わった方がいいかなと思いました。
20.完全版 袴田事件を裁いた男 無罪を確信しながら死刑判決を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落 尾形誠規 朝日新聞出版
2023年3月に事件発生から実に57年を経て再審開始決定が確定した死刑冤罪事件袴田事件の1審で無罪を確信しながら他の2人との多数決に敗れて泣く泣く死刑判決を起案した主任裁判官であり、その後まもなく裁判官を辞め、2007年にそのことを公表した熊本典道元裁判官のその後を取材して書いたノンフィクション。
裁判官を辞めて弁護士になり、安田火災(現損保ジャパン)の顧問弁護士として年収1億円以上を得て豪遊していた時期もあるのに、弁護士も辞め生活保護を受けるに至ったという経緯・原因は、著者の取材開始時には本人が高齢となり記憶も怪しい状態だったこともあり、「ボクには、正直よくわからない。端緒が袴田事件にあったことに何の疑いもないが、それが後に人生を破綻させるまでの影響をもたらしたかどうかは答えられない。そもそも熊本自身がよくわからないと言う転落の原因が、他人のボクにわかろうはずもない」(200ページ)とされています。え~と…このサブタイトルからして、それがテーマの本じゃないんですか、これ?
日本の刑事司法の現状や問題点、袴田事件の捜査と裁判の問題を感じ取るにはいい本だと思いますが、焦点を当てた熊本元裁判官の人物像と人生については、今ひとつ何が言いたいのか、何のために書いているのかが判然としないという感想を持ちました。
なお、この本の中で何度か紹介されている袴田事件と熊本裁判官を描いた2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」についてはこちらで書いています。
19.働くならこれだけは知っとけ!労働法 星田淳也 慶應義塾大学出版会
労働法の各領域について一般向けに解説した本。
各章の冒頭に置かれた経営者の鈴木と就活で内定を得たばかりの学生山本らのかけあいを除けば、オーソドックスでわかりやすい解説です。法律業界外の一般の方が労働法の概要を学ぶにはなかなかよい本かと思いました。
慶應義塾大学出版会の本なので著者は学者かと思ったのですが、厚生労働省の官僚で3年間だけ慶応大学に出向して准教授として講義をしていたということです。著者の主張が正しいという根拠を厚労省のモデル就業規則の説明等の厚労省の文書に記載されているということに求めている(厚労省がそう言っているからそれでいいんだ)場面が少し鼻につきます。またそういう著者の属性から、弁護士の目からは、厚労省の所管事項の労働時間(過労死対策)、割増賃金(残業代)、育休促進、ハラスメント防止、労災あたりには熱く、解雇あたりは冷たい(使用者側に寄った感性も)という印象です。派遣労働者(これはもろに厚労省の所管ですが)の雇止めや無期転換に関してはまったく触れていないというのも、興味深いところです。
2023年11月出版のこの本に、雇用保険の求職者給付(失業手当)に関して、自己都合退職の場合は最初の3か月間は支給されない(待機期間)という記述があります(224ページ)。正当な理由のない自己都合退職者の待機期間(給付制限)は、2020年10月1日以降の退職者については、過去5年間に既に2回以上自己都合退職している場合を除き、2か月間になっています。各章冒頭のやりとりになぞらえれば、「『弘法も筆の誤り』ですね。」「面目ない。」というところでしょうか。弁護士であれば、雇用保険のことまではよく勉強してなくて知らない人も多いですが、制度改正から3年も経っているのに現役の厚労省官僚が知らないとなると…ハローワークはもっと強力に広報した方がいいでしょうね。
18.カラー版 美術の愉しみ方 「好きを見つける」から「判る判らない」まで 山梨俊夫 中公新書
美術の世界に入っていく「扉」として、関心を開く、好きを見つける、(画家や批評家が書いたものを)読む、比べる、(美術館や画廊の)敷居をまたぐ、(講演会・ラーニング、イベントに)参加する、判る判らないの7つの章立てをして説明し、美術に親しむことを勧める本。
「絵を一から十まで判るなどできはしない。判らなくともいいのである。少なくとも、絵から何かを感じ取ることが大切だ。」(はじめに:ⅴページ)、「急がなくてもいいから、たくさん見ること、それが美術を愉しむ最良の第一歩となる」(14ページ)という序盤は、とにかく気軽にまず見よう、なんといっても「愉しみ方」なのだしという雰囲気です。しかし、著者は必ずしも、他人(専門家)の意見に従う必要はない、見方・愉しみ方は自由だと言っているのではないように思えます。そして、「読む」の第3章になると、画家や批評家らの観念的で難解な言辞を衒学趣味的に並べ立てています。気楽にどんどん見ようよで始まったはずなのに、小難しい御託をありがたがれと言われているようで、大きく気を削がれました。
17.カラー版 名画を見る眼 Ⅱ 印象派からピカソまで 高階秀爾 岩波新書
西洋絵画の油彩画(一部石版画を含む)の名作を、モネ、ルノワール、セザンヌ、ファン・ゴッホ、スーラ、ロートレック、ルソー、ムンク、マティス、ピカソ、シャガール、カンディンスキー、モンドリアンの14人の画家について1点+αを選んで解説した本。「名画を見る眼Ⅰ」の続編。
「Ⅰ」と同様昔(こちらは1971年)に書かれたものに図版をカラー化し、関連作品も掲載して、若干の加筆をしたというものなので、今の流行からすると選ばれるべき画家が選択されていないという印象が、「Ⅰ」にも増して、します。ダリにまったく言及がないのは、現在はダリがそれほど好まれていない感があるのでともかく、アルフォンス・ミュシャやクリムトに一言も触れていないのは、現在の絵画ファンにとっては信じられないことではないでしょうか(油彩にこだわるならミュシャを外すのは当然ですが、ロートレックの石版画のポスターを選択するなら、今の感覚ではむしろミュシャを紹介するでしょう)。
解説には著者の絵画愛が感じられます。例えば、私の目にはさほど魅力を感じない「温室の中のセザンヌ夫人」(34ページ)を、これほどまでに賛美できることには感心しました。
16.カラー版 名画を見る眼 Ⅰ 油彩画誕生からマネまで 高階秀爾 岩波新書
西洋絵画の油彩画(一部テンペラ・銅版画を含む)の名作を、ファン・アイク、ボッティチェルリ、レオナルド・ダ・ビンチ、ラファエルロ、デューラー、ベラスケス、レンブラント、プーサン、フェルメール、ワトー、ゴヤ、ドラクロワ、ターナー、クールベ、マネの15人の画家について1点+αを選んで解説した本。
1969年に書かれたものに図版をカラー化し、関連作品も掲載して、若干の加筆をしたというものなので、今の流行からすると選ばれるべき画家が選択されていないとか、採り上げる作品もちょっと違うかなという気もします(著者自身、「カラー版Ⅱ」のあとがきで、自分にとっての名画を一点選ぶとすれば、エドゥアール・マネの「フォリー・ベルジュールのバー」と答えたいとしているのに、この本の本文では、マネについては「オランピア」を採り上げ、「フォリー・ベルジュールのバー」は関連作品としてさえ触れられていません)が、オーソドックスな見方や評価を学べる本だと思います。
解説も、あぁこういうことに注目すべきだったのかとかこう見るべきだったのかという気づきがあり、また画家と作品への愛に満ちている感じがして好感が持てました。
15.人生を変える営業スキル 遠藤公護 クロスメディア・パブリッシング
外資系企業で21年間営業職を務めた著者が、「営業力があれば何にでもなれる。起業もできるし社長にもなれる。自分が歩みたい人生を自分でつくっていくことができる」(3ページ)というスタンスで、経験に基づいて営業について語った本。
営業とは「希望をつくり出し明るいイメージを体感させることが営業そのもの」(62ページ)と述べ、心を動かすデモとして、補聴器の販売で性能を語る(それでは他の製品と変わらないと評価され価格競争になるだけ)のではなく高齢者が孫を抱いてそこに一言「聞きたい声があるから」というフレーズを添えたポスターを挙げ(41ページ)、自分の事例をつくりそれを顧客に語ることが大事として(52~54ページ)自分がAudiの一流のセールスを受けてAudiQ5を買ってしまった経緯を語る(63~65ページ)流れは、読んでいてなるほどと感じました。
スキルについてより具体的に語る中盤以降は、著者の経験がチームセールスで比較的大きな企業に使用・活用が簡単とは言えず全社的な導入により巨額の商談に至る製品(ビジネス用ソフトウェア)を販売するという形態のため、そうでない営業には必ずしも当てはまらない印象があります。
6月31日という現世には存在しない日付が206~207ページと222ページで合計8回出てくるのですが、何か特別な意図があってのことなのでしょうか(そうは見えませんけど)。
14.ルポ無縁遺骨 誰があなたを引き取るか 森下香枝 朝日新聞出版
有名人であっても家族・親族がいても遺骨の引き取り手がなく自治体が保管して埋葬するケースをとっかかりに、終活、身寄りのない高齢者の処遇をめぐる問題、無縁墓、墓じまい等の関連する話題を取材して報じた本。
「無縁遺骨を追った連載ルポを朝日新聞ではじめ、死の『ダイバーシティ(多様性)』ともいえるカオスに足を踏み入れた」(235ページ)と著者があとがきで述べているとおりの本だと思います。
最初の方で書かれている引き取り手のない遺体/遺骨を行政が保管して苦慮している姿は、映画で見た「アイ・アムまきもと」(2022年、阿部サダヲ主演)の世界(映画の原作というかアイディアはイギリスの話だったのですが)が既に日本でそれ以上の状態だったことを意味しています。ちょっと驚きました。
13.さよならごはんを今夜も君と 汐見夏衛 幻冬舎文庫
幼い頃色鮮やかで華やかで美しいが冷え切った料理を一人黙々と食べていた過去を持つ料理人朝日が営む高架下の小さな「お夜食処あさひ」の前で佇んでいた、不本意な高校に通いながら勉強漬けの毎日を過ごす神谷小春、太っていることを気に病み無理なダイエットを続ける中学生の青木若葉、母親の手作りのオーガニック料理に飽きてジャンクフードに憧れる小学生の凌真、ほったらかし続けた飼い犬が死んで突然に罪悪感に駆られてものが食べられなくなった19歳の大学生笹森に、朝日がただで料理を振る舞い、頑なな心をほどいて行くという若者向けヒューマンドラマ系の小説。
いずれも視野が狭くジコチュウでわがままでありながらも、内心では自分の方が悪いと認識している者たちが、朝日とその料理を媒介に自分に素直になっていくという展開で、するりと入りやすいお話です。他方で登場人物の言い分のいかにもの子どもっぽさとか、朝日が学生は100円とかただで食べ放題とかにする設定の童話っぽさなど、入りきれないあるいはどこか物足りないという印象も持ちました。
朝日の容貌については、「男性にしては少し長めの髪を、頭の後ろで無造作に束ねている」(34ページ)とされてるのですが、表紙のイラストは髪を束ねていないし、束ねることが不可能とまでは言えないものの束ねようと思う長さには見えません。そこも少し違和感がありました。
12.満月がこの恋を消したとしても 蒼山皆水 角川書店
恋に関する記憶だけが満月の日にリセットされて消えてしまうという月光性恋愛健忘症の鷹羽高校帰宅部2年生女子甲斐春奈と、その親友の帰宅部遠野花蓮、ある満月の翌朝に花蓮が春奈の恋人で間違いないよとメッセージを送ってきて春奈の恋人として振る舞う「とても綺麗な」鷹羽高校理数科2年の三森要人、春奈の記憶に残る鷹羽高校スポーツ科2年生でバドミントン部部長全国レベルの選手の五十嵐航哉の思いを描いた青春恋愛小説。
ミステリーを書く人にありがちな傾向(特に密室の成立条件とか)だと思うのですが、設定した奇病の症状/恋人の記憶だけが消えるということをロジカルに扱いすぎているのが滑稽というか違和感を持ちました。そもそも症例がほとんどない(世界でも数例だとか:12ページ)のだから病像も定かでないわけですし、人間の心の症状なんだから理屈に沿って現れるとも言えないのに、満月後も記憶があるから恋心がなくなったと悩み、それを所与の前提として議論するのは無理でしょう。また、自己の病気故に前の満月まで交際していた恋人が誰か不安になった春奈が、事情を知っている姉七海(姉が事情を知っていることは50ページ)に聞いてみようともしないというのも不自然に思えました。
爽やかにうまくまとめられており、読後感は上々だとは思いますが。
11.新版 成年後見の法律相談 赤沼康弘、鬼丸かおる編著 学陽書房
精神上の障害(精神疾患、認知症等)によって判断能力が衰えた人について関係者等の申立によって家庭裁判所が後見人・補佐人・補助人を選任する法定後見制度、契約によって後見人(任意後見人)を定め本人の判断能力が衰えたときに関係者の申立により家庭裁判所が後見監督人を選任したときから後見が開始する(任意後見人による権限行使が可能になる)任意後見制度(法定後見と異なり、誰を後見人とするか、後見人の権限の範囲を本人が選択できる)等について、解説した本。
私は後見人の経験はありませんが、責任能力がない(判断能力がない)被後見人が第三者に損害を与えた場合について、認知症高齢者が東海道本線の駅から線路内に立ち入って電車にはねられて死亡した事故についてJR東海が遺族に対し(遺族がJR東海に対しではない)損害賠償請求した事件の最高裁判決(この事案では遺族の監督義務を否定)を引用して、後見人が賠償責任を負うことがあるとしています(121~123ページ)。弁護士の後見人が、本来要求される資産管理とか契約の場面で落ち度があって責任を追及されるのは仕方ないと思いますが、認知症の本人が徘徊して事故を起こしたということまで責任を負わされるとしたら、とてもやれないと思います。後見人になっている方々はそういうことまで覚悟してやっているのでしょうか。
106ページ下段3行目の「成年被後見人は代理権・取消権を有します」の「被後見人」は「後見人」の誤りと思われます。
10.日本人が知らない戦争の話 アジアが語る戦場の記憶 山下清海 ちくま新書
第2次世界大戦時の日本軍による中国・東南アジアでの加害行為について記述し論じた本。
タイトル・サブタイトルからは、かつて朝日新聞記者であった本田勝一の「中国の旅」のような手厳しいルポルタージュを予想しましたが、著者が留学していたシンガポールについては被侵略者側の視点が強く出され人々の声も拾われているものの、中国については外務省発表の小泉発言を小泉首相の気持ちが伺えると評価している記述(36~38ページ)などに見られるように、基本的には日本政府の見解に依拠し日本政府に寄り添う姿勢に見られ、また日本軍の加害よりも日本人の被害の方を強調しそちらに理解を示す姿勢に見えます。後者の点は、戦争による民間人の被害に目を向ける(193~194ページ)という視点から、日本人を守るためのはずの関東軍に置き去りにされた中国残留日本人、シベリヤ抑留などを取り上げているのではありますが。
08.09.神秘 上下 白石一文 毎日文庫
末期の膵臓癌と診断されて余命1年と宣告された総合出版社の取締役に就任し53歳になったばかりの菊池三喜男が、仕事を放り出して神戸に転居し、総合月刊誌編集者だった20年前に電話をしてきた傷病を治す超能力があるという女性を探し歩くという展開の小説。
余命1年の宣告を受けているという設定なんですが、それが53歳のおっさんで、大会社の幹部で財産も十分に持っているというと、全然かわいそうだという心境になれず、共感できない。この人物が余命1年と聞いて何をやりたいかと考えた末に出てくるのが「死ぬまでのこの一年のあいだに誰か女性を見つけて妊娠させられないだろうか」(上巻48ページ)というのですからなおさらです。まぁこの作品は難病ものという分類とは違うのでしょうけれども、余命宣告されたのが若い世代で健気な人物ならほぼ確実に涙を誘う(「だってバズりたいじゃないですか」で楓の運命に涙したばかりですし)のと対照的に思えました。
もっとも、自分と年齢層が近い(生まれが私の2年前)ので、感覚が似ていることもあり、「あと一時間」の命なら何をするのが正しいのだろうかと自問して、どうせあと1時間しか生きられないのならばぽかぽかとあたたまったベッドの上でこのまま眠ってしまうのが一番と考える(上巻269ページ)あたり、そうだよなぁと笑いました。
07.だってバズりたいじゃないですか 喜友名トト 新潮文庫
高2の春に飛び降り自殺を考えていた校舎の屋上でクラスメートの清純派美少女一ノ瀬楓から声をかけられ楓のイメージビデオの撮影を続けることとなった鈴木秋都が、楓の死の3年後その母のプロデューサーの手により2人の物語が実名でアニメ映画化されて話題となる中、本当の楓はあんな風じゃなかったとやさぐれて進学した芸大で鬱々としていたところに、ビデオを配信中のアイドル的な後輩胡桃沢千歳から映画のエンドロールで流れる楓のビデオのエモさを買ってMVの撮影を依頼され…という青春小説。
高2の時のエピソード(分割されて挟まれている)は、クラスで人気の美少女が余命宣告をされてそれを秘密にしつつ目立たない地味な同級生男と接して行くとか、2人の性格とか、男の側のスタンス・距離感とか、「君の膵臓をたべたい」を想起させ、その後の展開のタッチも住野よるっぽい印象があり、生き残った志賀春樹の後日談的な味わいを感じました。そういうデジャヴ感はあっても、難病もののアドバンテージとも言えますが、楓の登場するシーン、特にラスト近いビデオのシーンなんてやはり泣いてしまいます。映画化することがあったら、楓役は是非浜辺美波でお願いしたい。
楓と秋都が通う高校「洛北高校」って(30ページ)、実在する高校と同じ名称なんですが、作者の思い入れでしょうか(秋都が通う大学は「東京総合芸大」という架空名なので、洛北高校の方だけ特別な扱いに思えます)。
06.健康寿命をのばす食べ物の科学 佐藤隆一郎 ちくま新書
食品、食生活が健康に与える影響とその原因・機構に関する研究の現状等について解説した本。
新書であること、序盤の語り口等から平易な本と思って読み始めましたが、中盤以降はカタカナ・英字の生化学物質名と構造式が頻出し、あぁ私はやっぱりこの分野(生化学)が苦手だったんだと再認識するハメになりました。化学物質とか亀の子(ベンゼン環)とかが苦手な人は220ページ以下のまとめだけ読むという方針が無難に思えます。
私は、聞き慣れない生化学物質名が出てきたところで脳が固まってしまい/拒絶反応を起こし、説明内容の大部分が理解できていないので、たぶん私の理解不足なのだろうと思うのですが、母乳についての説明で「乳の源は血液で、乳一リットルをつくるのに血液四〇〇~五〇〇リットルが必要とされます」(206ページ)って、それでいいんでしょうか。母乳で乳児を育てれば授乳量は1日あたり1リットルくらいになるということですが、人間の体内の血液は通常5リットル程度といいますから、この記述だと、授乳中の母親は毎日全血液の100倍程度を消費し(乳に変え)ているということになりかねません。私の読み違いなら(なんといっても、私はこの本の説明のほとんどがちゃんとは理解できてませんから)それでいいんですけど…
05.AIを超えたひらめきを生む問題解決1枚思考 大嶋祥誉 三笠書房
問題解決のための思考方法として、5つのステップからなる「問題解決1枚シート」への手書き書き込みをして思考を整理することを勧める本。
1枚紙への書き込みを推奨し、著者の作成した「問題解決1枚シート」(商標登録済みとのことです)を利用することを勧めていますが、最大のポイントは真の問題が何かをよく考えること、ゴールを意識することにあると思います。真の問題は何かの検討では、漏れなくダブりなく検討することが重要として、市場・顧客、競合(他社)、自社(の能力等)の3要素や、製品、価格、流通(販売チャネル)、販売促進の4要素や、自己の競争優位性の分析(価値、希少性、組織の3要素)などを行うことの重要性が説かれています。それはこのシートを使うかよりも、一種のブレーンストーミングの重要性や分析方法の問題で、そちらの解説に関心を持ちます。1枚に書かせることで一覧性を意識し、またポイントを忘れないという意味はあると思いますが。
分析方法で漏れなくダブりなくということが繰り返されているのですが、そこはなかなか難しいことで、著者の出す例でも「たとえば『人材育成がうまくいっていない』という問題があったとき『意欲の問題』と『技術の問題』という2軸で捉えれば、漏れ・ダブりなく問題を深掘りできます」(101~102ページ)というのですが、それがロジカルな帰結なのか、私にはうまく理解できません。方向性、努力目標としては、理解できるのですが。
04.時短×脱ムダ 最強の仕事術 橋本和則 SBクリエイティブ
パソコンでの作業の能率を上げるための Windows 操作、文字入力、Excel 、Outlook の設定やショートカットキーの利用について解説した本。
類書が数多あるなかで、Windows 操作や入力のところで使ってみたい、使えたら便利だなと思わせる説明が多々あり、他方 Excel では数式には立ち入らず( Excel では、特に大量のデータベースを扱うような場合に用いる数式が使いこなせるか否かで作業時間が劇的に変わることがありますが)入力と作業環境に徹しているところが、むしろ好感を持てました。
マウスを使わずショートカットキーを使えという本を読む度に、やってみようとは思うのですが、なかなか覚えられずに、結局思い出すよりもマウスでクリックした方が速いということになり定着しないということを繰り返しています。確かに便利そうなので今度こそ頑張ろうと決意はするのですが(私は喫煙者ではないですが、いったい何度目かわからない禁煙宣言みたいな)…
03.はたらく土の虫 藤井佐織 瀬谷出版
土壌中に生息する虫たちの生態を解説した本。
著者自身は、体長0.5~2ミリメートルくらいの節足動物「トビムシ」の研究を専門としている(世界中でトビムシを専門とする生態学者は50人くらいだとか:3ページ)そうですが、土壌生物
には「分解者」のイメージがつきまとうがミミズやシロアリのような特に影響力が強い者以外は野外では分解作用の検出さえ難しく分解にどれくらい寄与しているとも寄与していないとも断言できないとか(2~3ページ)、人工的な培養器の中でいろいろな餌を同時に与えると強い好き嫌いを示すトビムシが自然条件下では消化管内容物に大きな差はなく菌糸や胞子、腐食など多様な餌が入っている(105~106ページ)など、観察が難しい土壌動物について確定的に明らかにされていることはまだ少ない(133ページ)という研究者としての悩みが語られています。
「はたらく土の虫」というタイトル、ほのぼのとしたタッチの挿絵から、子ども向けの本のようにも見えますが、しっかり大人向けの本です。
02.都会の鳥の生態学 唐沢孝一 中公新書
東京や著者の住む市川市を中心に都会で生息する鳥たち、特にツバメ、スズメ、カラス、水鳥、ハヤブサ・タカ・フクロウ等の様子を解説した本。
人間の傍で営巣することで天敵のカラスから守られるツバメ、人の傍ではあるがツバメほど人に近づかず人目に付かないところで営巣するスズメ、バブル後急増したが生ゴミなどの対策で2000年以後東京では激減したカラス、駆除されなくなりまた緑地保護の動きもあって都市への進出が見られる猛禽類などの様子が紹介され、鳥と人との距離が論じられています。
カラー口絵ではカラフルなイソヒヨドリやカワセミが目を惹きます。カワセミが、きれいな水のない都会で生息しているということには興味を持ち、より詳しく読みたいところですが、カワセミ関係は2ページだけ(142~143ページ)で、著者の関心はそちらにはあまり向かず、ほとんどのページがそれ以外のツバメ、スズメ、カラス、猛禽類などに当てられています。その辺、学者らしいということでしょうか。
01.我が身を守る法律知識 瀬木比呂志 講談社現代新書
交通事故、不動産トラブル、刑事事件、離婚、相続、雇用(労働)、金融商品、詐欺被害等のふつうの人が遭遇しやすい法的紛争について、裁判の実情と紛争の予防のための知識を解説した本。
民事裁判官としての経験に基づき、基本的にはどちら側ということなく手堅く裁判実務の実情を説明しています。交通事故の裁判に用いられている基準(赤本等)が被害者(特に交通弱者)の過失割合を大きく評価しすぎているとか、刑事裁判官の事実認定があまりに検察側によりすぎているという批判がなされているところは、裁判官経験者の本としては注目されますし、「民事訴訟法分野の最高裁判例には、この事件に限らず、結論に問題のあるものやその理由付けが不合理、不十分なものが時々あります(ほかの分野よりもそれが目立つようです)。これは、最高裁判所調査官(最高裁判事らの補助官)の調査が不十分であった場合に、最高裁判事らにそれを適切にチェックする能力が十分にないことを示しています」(160ページ)という記載を最高裁調査官経験者(なぜか1年だけで異動になっているようですが)がしていることも興味深いところではありますが。
一般の方が裁判になるリスクとその際の方向性等を理解するにはとてもいい本だと思います。
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