私の読書日記 2024年9月
27.熟睡者:新版 Sleep,Sleep,Sleep クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル サンマーク出版
睡眠不足の弊害を指摘し、朝太陽光を浴び午前中に運動し夕食は軽めにし夜のパソコン・スマホ使用を止めるなどして熟睡することを推奨する本。
覚醒中脳が記憶した雑多な情報から重要なもの(繰り返し記憶したり記憶時に重要と意識したもの等)を長期記憶に移し、不要な情報を捨てる、言わば脳の空き容量を増やす/確保する作業が深い睡眠時になされ(142~151ページ、41~42ページ等)、体を動かすスキル(手続記憶)は浅い睡眠時に定着する(151~152ページ)、レム睡眠時は海馬が統制しないため通常は同時に活性化しない新鮮な記憶と過去の記録がランダムな組み合わせで活性化して、支離滅裂な夢となり、合理的な思考からは生まれえない創造性に結びつくこともある(174~176ページ)などの指摘が、なるほどと思いました。やっぱり睡眠は大切だ。
個別事情なので、だからどうしたとも言えますが、アインシュタインはロングスリーパーで1晩に10時間眠った(177ページ:さらに昼寝もした)というのも、近年いくら寝ても眠い私(ふつう、年をとったら睡眠時間減るっつうに)には心強いです。
26.ママが死んでよかった ジェネット・マッカーディ 徳間書店
ティーンドラマの主役級だった女優が、子役時代からステージママに身も心も支配されていたこと、母の下を離れても摂食障害とアルコール依存等に苦しみ続けたことなどを綴ったノンフィクション。
タイトルと冒頭の母親の危篤シーンでも母への愛を語る様子などから、フィクションだと思って手に取り読み始めたのですが、主人公が著者の名前だし…と思って途中で検索したらノンフィクションとわかり驚きました。
後半の摂食障害(過食症と嘔吐)やアルコール依存のエピソードは凄絶とも言えますが、タイトルにされている母との関係は、まわりの者に虐待だとか言わせているのに、著者自身はずっと母を愛している、母の幸せがすべてだとか言い続けています。どこかで著者が母親を批判し、タイトル通りの言葉が出るものと思っていましたが、最後までそれは出てきません。これは何なのだろう、自分の母親は虐待者で鬼だったけれども自分はそうは思っていない、自分は虐待されても恨みに思わない「いい人」って設定でいたいのだろうかと思ってしまいました。いやいや、親の支配・虐待の根は深い、そう簡単にはその影響から脱せない、最後に精神的にも離れたというだけでもたいへんなんだ、立派なものだ、とそう読むべきで、私などは被虐待者の心を理解できない未熟者だということなんでしょうね(でも、それならどうしてこの本を書いたのかねとも思ってしまうのですが)。
25.遺族の心を整理する 遺品整理業の使命 荒津寛 幻冬舎
遺品整理事業を行う著者が、自らのビジネスモデルと遺品整理業のあり方等について所見を述べる本。
主として、著者が不要品回収業から遺品整理業に重点を移した経緯や、遺品のうち再利用可能なものをフィリピンに輸出してオークションにかけることで利益を出したり、整理分別作業を障害者就労支援施設を設けて委託していることなど、自社の運営を支えているやり方・ビジネスモデルの説明が中心となっていて、どちらかというと同業者、これから遺品整理業を行おうとしている人に向けて書いているのかなと思えます。
一般読者が関心を持つであろう遺品整理業の実情について書かれているのは、報道されたことと、あとは概ねこういう業者もいると聞いているというようなふわっとした話で具体性がなく、ちゃんとした業者(例えばうちのような)に頼みましょうねという程度で終わっているような感じです。
24.このビル、空きはありません! オフィス仲介戦線、異常あり 森ノ薫 集英社オレンジ文庫
従業員数12名のオフィス専門不動産仲介業者ワークスペースコンサルティングに新卒で入社した咲野花が、入社10か月で初めて成約するかと思われた契約が土壇場で壊れ、営業での実績0のまま、別フロアでアルパカのような古参社員早乙女が1人でいる「特務室」に異動となり、ブッカク(物件確認:賃貸条件等の聞き込み)、X案件(問い合わせ・苦情)への機械的拒否応答、CU案件(「ちょっと受けられない」案件)対応に取り組むうちに不動産業界の実情を知りチームとしての成功につなげて行くという不動産業界お仕事小説。
相手に寄り添い信頼関係を作って行くこと、情報を収集しその確認を丁寧にすることが基本だということが語られています。
この作品の会社はオフィスの賃貸の仲介がメインなので登場しませんが、破産管財人になると、不動産業者から売却する不動産はないかという問い合わせのFAXがたくさん来ます(以前は電話もよくかかってきました)。そうでなくても弁護士事務所には無料で査定しますというDMもよく来ます。いろいろ大変なんだろうなとは思います。
23.空芯手帳 八木詠美 ちくま文庫
紙筒製造会社の生産管理事務を担当する柴田が、同じように働く中で部内唯一の女性社員である自分だけが名前のないさまざまな雑務を強いられる中、ある日納期が迫りエクセルで作業中に誰かが打ち合わせをした後のコーヒーカップの片付けを部長から命じられ、そのカップ内にタバコの吸い殻が突っ込まれているのを見てプッツンして、自分は妊娠していてコーヒーの匂いが無理と言い立て、その後妊婦として定時帰りを続け、マタニティエアロビに通うなどする様子を日記形式で綴った小説。タイトルは柴田の身籠もっていない腹/子宮と業務で扱っている空洞の紙筒を掛けたもの。
職場での女性社員に対する扱いと、出産後の育児での男=父親の無責任さに対する怒りに満ちた作品です。
その怒りと不条理を読むのはいいのですが、読みながらどこに行くのか、特に後半には「?」と思う謎が生じてきて、ストーリーの行く末というか作者はこれをどう収めるつもりだろうかに関心が向かうのですが、そこに謎解きというか説明なく、ポンとラストに行ってしまうところに、拍子抜けというか腑に落ちないものが残ってしまいました。作品として、それは説明すべきでない、説明不要であるという意見もあるのかも知れませんが。
22.特許法・著作権法 [第4版] 小泉直樹 有斐閣
特許法と著作権法についての入門書ふうの教科書。
知財ビジネスのプレイヤーが儲けのために策略をこらし抜け穴を突こうとするのを解釈や法改正で塞ぎ、儲けの分け前を調整してきた様子がそこはかとなく窺われます。著作権法の方はそれなりに知っているけど特許法の方はなじみがない私には、特に特許法の方にそれを感じました。
法律の条文を説明することなくいきなり、何条何項はこの場合適用を排除されるなんて記載が散見されます。手許に六法か、e-Gov 法令検索を開いて条文を参照する覚悟がある勉強したい人が読者層として想定されていて、「読み物」として読むのは難しいと思います。
「それってパクりじゃないですか?」を読んでからこれを読むと、特許法の教科書の半分近い項目は「それってパクりじゃないですか?」で一応説明されていたのだなと感じました。理屈としてはこちらの教科書を読んでから小説の方を読めばよくわかるということかと思いますが、初学者には小説を先に読む方が理解できそうです。
21.それってパクりじゃないですか?4 新米知的財産部員のお仕事 奧乃桜子 集英社オレンジ文庫
中堅飲料メーカー月夜野ドリンクの知的財産部に所属する藤崎亜季が、3巻で問題となった小規模の食品メーカー今宮食品が月夜野ドリンクの看板商品の「緑のお茶屋さん」が今宮食品の特許を侵害していると主張し始めた事件はパテント・トロール(特許を利用してトラブルを起こし大金をせしめようとする特許転がしの会社)「総合発明企画」が背後で糸を引いていたものと知り、総合発明企画と戦うという知財部お仕事小説。
3巻から引き続く藤崎亜季の大学時代の知人・元彼瀬名良平との対決から始まりますが、率直に言って、戦闘系の話は悪役が小粒だと興ざめします。4巻の早い段階で選手交代して、比較的まっとうな裁判所と特許庁での攻防に切り換えたのは正解でしょう。
ライバル企業が使いそうな技術領域で「うまく引っかかってくれればいいなと」「手広く権利を確保し」ライバル企業のライセンス要請を受けて「契約すればなにもせずとも利益が転がり込むし、しなければライバル商品が生まれない」(238~242ページ)というのを、それがビジネスだと位置づけています。まさに、知財部のお仕事らしい話ですが、その大企業の知財ビジネスのために、よりよい商品が世に出るのが阻まれ、消費者がそれを享受できない、社会の進歩が遅れるという側面もあるわけです。あくまでも大企業の知財への利害に沿った視点で語られるこの作品では触れられることはありませんが。
20.それってパクりじゃないですか?3 新米知的財産部員のお仕事 奧乃桜子 集英社オレンジ文庫
中堅飲料メーカー月夜野ドリンクの知的財産部に所属する藤崎亜季が、法務部出身の熊井部長、弁理士資格を持つ切れる上司北脇雅美の下で、小規模の食品メーカー今宮食品から死蔵していた苦み特許の購入を打診されたこと、月夜野ドリンクの看板商品の「緑のお茶屋さん」の模倣商品が他国で発売され人気を博していることへの対策に取り組む様子を描いた知財部お仕事小説。
今宮食品の特許については、特許権侵害をしている(可能性が高い)ことを知財部が予め把握しながら、特許に新規性・進歩性がないという主張が可能で訴訟になったら勝訴する可能性が高い、製法の特許だから(月夜野ドリンクの製造工程を確認できない)今宮食品が月夜野ドリンクの特許権侵害を知ることは困難という判断で放置、買取拒否を決断します。それがビジネスというものだという書きぶりです。今宮食品単独ではなく、パテント・トロール(特許権ビジネスで稼ぐハゲタカファンドみたいな企業)が裏で糸を引いているという構図で、月夜野ドリンク側に理があるように印象づけていますが、月夜野ドリンク側が小規模企業の特許権を侵害し、そのことを正当化しようとしていることには変わりありません。1巻から一貫して大企業側の視点、大企業に都合のいい視点で描かれていて、大企業の側に立たない私には、知財ビジネスにいそしむ人たちってのはそういうもんだよねというシラケた感想を持たせてくれます。
1巻から2巻まで3年半間隔が空きましたが、2巻から3巻は6か月、3巻から4巻は10か月と急ピッチに書き継がれています。日テレでのドラマ化決定という事情によるのでしょうね。
1巻と2巻は2023年9月の読書日記01.02.で紹介しています。
19.検証 トヨタグループ不正問題 技術者主導の悲劇と再生の条件 近岡裕 日経BP
2021年以降立て続けに発覚したトヨタ自動車販売店の車検不正、日野自動車エンジン認証不正(ディーゼルエンジンの排出ガス及び燃費についての認証不正)、豊田自動織機エンジン認証不正(ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンの排出ガスについての認証不正)、ダイハツ工業認証不正(側面衝突試験等での不正)、愛知製鋼公差不正(エンジン部品用鋼材の公差外れ品納品)、トヨタ自動車の認証不正(エンジン出力試験等での不正)について、その経緯、第三者調査委員会や国土交通省の調査等の結果等を解説し、著者が考える「真相」について述べた本。
「詳細な取材から突き止めた不正の真相について明らかにしていく」という言葉が何度か記載されているのですが、事実関係については、基本的に公にされている調査報告書と報道によっていて、著者が書き加えているのは匿名の自動車メーカー等の技術者の意見による推測(トヨタ側の主張はあり得ないとか、こうだろうとか)と評価です。著者の主張の根幹は、第三者委員会の調査報告書やトヨタ側の説明では認証を行った部署に責任が押しつけられ、管理職は知らなかったとしているが、認証を行う部署には不正を行う利益がないし技術者が主導でないとそのような不正は行いえないから開発部署が主導であるはずだし、開発部署が不正に手を染めたのは規制をクリアする技術が不足していたためである、管理職が知らなかったなどあり得ないし管理職が許可しなければ予算等の問題で実施できないというようなところです。著者としては、トヨタ側は開発部署の技術力不足は口が裂けても言いたくないところでそれを暴いたところに価値があると言いたいのでしょうけど、全体の印象としては、基本的にトヨタ自動車本体については高い技術力とか会社の体制を評価というか賛美しているので、門外漢の読者にとっては、トヨタ自動車の公式見解とどれほど違うのか、よくわかりません。
第三者調査委員会の報告書について、「真因に切り込んだと評価できるものは皆無だ」(6ページ)と指摘しているのはそういうものでしょう。部外者が、調査対象企業の従業員にインタビューするだけで、仮に本気でやっても嘘をついたり隠しごとをするものを見破れるかはかなり疑問ですし、そもそも調査対象の企業に雇われて報酬をもらっている人たちが雇い主に不利なことを真剣に暴こうとするはずもないと思います。それで「みそぎ」が済んだとする企業の姿勢に、さらにはそれで真相解明が済んだと扱い「第三者調査委員会」を評価したり賞賛するマスコミの姿勢にも呆れます。
章を分けて書いているからという面はあると思いますが、同じことが同じ表現で繰り返し書かれているものが多いなぁと感じました。ダブりをカットしてスリムにしたら3割くらいページが減らせるんじゃないかという印象を持ちました。
18.表現の自由 「政治的中立性」を問う 市川正人 岩波新書
政治的中立性の名の下に行われている行政による表現の自由に対する制約・圧迫について、公務員に対する政治的行為の禁止、「政治的中立性」を口実とした市民団体の活動などへの差別・排除、放送法の政治的公平の規定を利用したテレビ局への圧力を例に採り上げて論じた本。
採り上げられている大阪市が実施した職員アンケートのように特定政治家・政党や労働組合との関係などを使用者が労働者に詳細に回答させるという思想・良心や私生活上の言動の調査であるとともに労働組合活動へのあからさまな威嚇であり、労働組合法が禁じた不当労働行為であることが明白なことを、行政が、しかも弁護士市長と弁護士である「第三者調査チーム」代表が主導して行ったこと(66~77ページ)は特筆すべき表現の自由と労働組合への弾圧というべきです。このようなことが近年になっても、というより近年行われる傾向が出てきていることこそが、本書のような本が書かれるべき背景となっているのでしょう。
こういった権力者と行政がいう「政治的中立」とは、結局のところ権力者・国・行政の意見と同調すること、賛美することが中立で、これに反対することが中立を害することと扱われるわけで、権力者が反対者を迫害・排除するための口実でしかありません。
憲法学者である著者は、そこをもっと明確に指摘してもよいと私は思いますが、基本的に行政側の言いわけに対しても一定程度理解を示しつつ、多くの場面では(一部、裁判所の判決等を批判している場面もありますが)裁判所の判決や最高裁での少数意見等をベースに穏健な記述を心がけているように感じられました。その意味で「保守的」な傾向の人にも安心感のある読み物かなと思います。
17.猫弁と狼少女 大山淳子 講談社
成績はトップクラスの天才だが、採算度外視の行動をとり続ける弁護士百瀬太郎が、困ったちゃん少女の言動で、未成年誘拐未遂の現行犯で逮捕されるが、百瀬が弁解もせずに黙秘を続け勾留され続けて周りはやきもきするが…という展開のヒューマンドラマ小説。「猫弁」シリーズシーズン2の第4弾とされています。
児童養護施設から公立小学校に通っていたときから学校創立以来の秀才とされ全国共通学力テスト1位だったという百瀬の、貧困故かネグレクト故か食事も満足に取れず靴もなく風呂にも入れていなかった同級生の記憶・心残りがバックボーンになる、弁護士としてよりも百瀬という人物・人物像の物語という印象です。
弁護士としての部分ではないですが、百瀬が「名画を次々と並べまくり『立ち止まらないでください』などと言う美術館は無神経だと思った」(37ページ)というくだり、私としては同感です。
前作(シーズン2第3弾)の「猫弁と幽霊屋敷」についての記事(2022年11月の読書日記03.)で、被疑者国選弁護人は勾留状発布後でないと選任されないもので、被疑者国選弁護人が勾留前でも選任されるが活動が制限されていて本人には会えないかのように書いているのは誤りだと指摘したのですが、本作でもまた「国選弁護人は仕事に制約があって、逮捕直後はダメなの。勾留が決定してからしか動けないという微妙な制約があるのよ」(26ページ)と書いています。実質的には大差ないのかも知れませんが、制度理解はちゃんとして欲しいなと思います。
シーズン1:「猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼者たち」「猫弁と透明人間」「猫弁と指輪物語」「猫弁と少女探偵」「猫弁と魔女裁判」は2022年10月の読書日記で紹介しています。
シーズン2:「猫弁と星の王子」「猫弁と鉄の女」「猫弁と幽霊屋敷」は2022年11月の読書日記で紹介しています。
16.ゴースト・ポリス 佐野晶 小学館文庫
東北大学法学部卒でありながら国家公務員1種にも2種にも落ちてノンキャリアで警察官になり、神奈川県警の窓際族「ごんぞう」の巣窟鳩裏交番に配属され、副署長からごんぞうたちの違法行為を探り出して報告すれば昇進させると耳打ちされた新人警官桐野哲也が、鳩裏交番の事実上のリーダー小貫幸也らの動向を探るうち、その経緯や県警の指示に従わない動機・心情を知り…という警察小説。
組織的な陰謀などの大きな物語ではなく、また迫真の内幕暴露ものというものでもなく、地元住民に密着した「おまわりさん」への親しみ・愛着・信奉を基本とした、はぐれ警官の地味ヒーローものという感覚の作品です。
桐野と小貫の感情のツボの違いとそれが次第にシンクロして行く様子が読みどころかなと思いました。
15.サマーレスキュー 夏休みと円卓の騎士 二宮敦人 文藝春秋
バーチャルワールドを参加者が自由に建設拡大できるコンピュータゲーム「ランドクラフト」に祖父の導きで小学4年生までハマっていたが、ゲームを離れ今では母の勧めでTOEIC受験に励む中学2年生の千香が、幼なじみの巧己から、「ランドクラフト」の伝説の「ログレスの財宝」の謎解きに取り組んでいた探求好きの幼なじみ祥一が失踪したと聞かされ、巧己とともに祥一の家のパソコンで「ランドクラフト」の世界に入り…というバーチャルゲーム小説。
ゲーム中の登場人物(キャラ)にアーサー王の伝説(アーサー王と円卓の騎士たち)を引いているのが中高年を狙っているのかも知れませんが、中身はまるっきりゲーム小説で、ゲーム好きでないとたぶん読み進めるのがしんどい(読みづらさはないけど読み進める意欲が維持しにくい)気がします。
初出が「別冊文藝春秋」とあるのを見て、えっ「別冊文藝春秋」ってそういう若者向けのものだっけと調べてみたら、いつのまにか(2015年から)電子小説誌になっていたんですね。むしろそっちに驚き。
14.スウィンダラーハウス 根本聡一郎 祥伝社
脱出口が見当たらない「研修室」に閉じ込められ、ディスプレイ越しに特殊詐欺のマニュアルや名簿を示して指示する道化の看守に追い立てられながら特殊詐欺の掛け子をし始めた、闇バイト応募者3名と闇バイトリクルーター1名、保険の飛び込み営業で入ってしまった1名、食品配達に来て眠らされて送り込まれた1名の計6名と、特殊詐欺の検挙に熱意を示す警察官の攻防を描いた小説。
軽めのタッチと後半のひねり、黒幕の犯行の動機の切なさで読ませる作品です。
私は、消費者側の弁護士(詐欺被害では被害者側の弁護士)でもあり、特殊詐欺の特に幹部にはまったく共感するところはなくただ極めて悪質な犯罪者としか思えませんが、何ごとも多角的な視点は大切ですので、こういう作品もあっていいかなとも思いました。他方で、現実的にはほぼあり得ない幻想で特殊詐欺犯への評価をあいまいにするようなことをしていいのかという思いもあります。
また、全共闘世代でも就職氷河期世代でもなく今どきの若者でもない30代半ばの作者が、全共闘世代やそれより上の高齢者と若者の世代間対立を煽るような作品を書いていることにも、私は違和感というか不快感を覚えました。
13.箱男 安部公房 新潮文庫
覗き窓を開けた段ボール箱を被り街中に佇み/座り込み、外界を覗き見つつ箱の中でそれを記録する「箱男」の語りと描写を通じて、見ることと見られること、書くことと書かれることを論じ描いた小説。
箱男として、元カメラマンのぼく、A、B、偽箱男=偽医者=C、ぼくの父と多数の存在(あと箱を被っていない覗き者としてD少年)を登場させ、他にも断片的な記述・情報・写真等を挿入することで、視点や立場の相対化を図り、主体と客体、現実と主観・妄想、見る側と見られる側、書く側と書かれる側を想起・体感するような作品となっていて、それがどこか観念的でまた不思議な印象を与えているように思いました。
学生のときに、まさしく箱入りの装丁の単行本で読んだきりでしたが、映画を見たのを機会に文庫本で再読しました。前に読んだときの記憶はもうまったくないのですが、当時は観念的で難しい小説のように感じたものが、今回はより読みやすく思えたのは、文庫本だからか、一応再読だからか、年をとったからか…
12.法律事務所のサイバーセキュリティQ&A 八雲法律事務所編著 中央経済社
日弁連が定めた弁護士情報セキュリティ規程の施行に合わせて、中小法律事務所がどのような対策をすべきかを解説した本。
メールのセキュリティの項目(第3章)について、インターネットのメールはさまざまなサーバーを(ランダムに)経由するので途中で誰に見られるかわからないとか言われて業務にメールを安易に使うなとか、全部暗号化しろとか言われるのかと戦々恐々として読みましたが、基本は誤送信や間違った(他の事件の)添付ファイルを送ってしまうという人為ミスと受信メールからのマルウェア感染ということでした。そもそもメールは誰に読まれるかわからないということまでは、まだ気にしなくてよさそうでホッとしました。ファイルをなんでもパスワード保護して送って来る人が時々いて、まぁその時はいいのですが、時間が経って開こうとしたら、当然その頃にそのパスワードなんて覚えているはずもなくて開けずに往生し、頭にきます。パスワード保護や暗号化が標準となる日ができるだけ来ないことを希望しているのですが。
多要素認証をいろいろな場面で勧めていますが、例えば現在裁判所が弁論準備期日等のWeb会議やファイル送信に利用しているTeams(マイクロソフト)は、サインインに基本スマホへのコード送信による多要素認証を強制していて、しかも前回のサインインから24時間経つと再度多要素認証なしには入れなくなっています。セキュリティは高くなったのでしょうけれど、端的に言って面倒ですし、スマホが手許にないとWeb会議にも入れない(例えばスマホを自宅に置き忘れたら裁判期日に参加できない)ことになります。スマホに支配されてる感が強く、私はとってもいやな気持ちになります。
パソコン内のファイルが勝手に暗号化されて使えなくなるとか持ち出されるとかいうランサムウェアの感染は、さすがにそれは困ると思いますが、その感染経路の多くがリモートワーク用に通信のセキュリティと匿名性を高めるために導入したVPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性(セキュリティホール)だ(127~129ページ)というのは笑えます。
セキュリティのためにあれをしろこれをしろというので、せっかくの利便性が失われ、挙げ句の果てにそれがかえってセキュリティを減じるハメになることさえあるというのはどうしたものかと思います。
最終的には、サイバー攻撃を受けたら素人にはどうしようもないので業者に頼もう、その費用は弁護士賠償責任保険にサイバー保険が自動セットされているからそれを使おうということなので、まぁそのときはそのときということになるのでしょうけど。
11.常磐団地の魔人 佐藤厚志 新潮社
1990年代に建てられ、3階の窓から落ちた小さな子どもが無事帰還した、風に飛ばされたはずの帽子がドアノブに掛かっていたなどの都市伝説がある常磐団地の3号棟に住む、1年生と2年生を小児喘息故に特別支援学級で過ごし3年生になって通常クラスに編入した気の小さな今野蓮が、同級生と連みながら、高学年の悪ガキグループに憧れ、球技をする子どもを目の敵にする管理人と戦うなどする日々を描いた小説。
冒頭のいじめや孤立などを怖れる蓮の様子から予想されるのとは違い、けんかはするけれど基本明るいこどもたちの昔風のテイストの読み物です。古い団地の光景と合わせて、子どもたちを描きながらむしろ中高年受けするノスタルジー小説とみるべきかも知れません。
10.あの子はなぜ荒れるのか 発達障害・アタッチメントとトラウマインフォームドケア 楠凡之、丹野清彦 高文研
幼稚園から中学生の「荒れた」子どもの様子とそれに対応した教師の13事例を紹介して解説し、著者らの考える子どもの荒れの原因と支援の課題を語る本。
この本の大部分を占める事例報告が読みどころで、これを読んでいると、周囲の者の迷惑を顧みず逸脱する子ども1人に寄り添い理解しその荒れを治め成長につなげるのに教師がどれほどの献身的な努力を要するのかがよくわかり、その大変さに感心するとともに溜息が出ます。教師のみならず、医療現場や介護現場など、人と向き合う仕事には、そういう人との付き合いが付きもので、苦労は避けられないものとみられます。弁護士の仕事も、ある意味同じ面がありますが…
紹介されているのは当然に成功例だけで、その陰には、同じくらいとかあるいはもっと苦労を重ねながらうまく行かず徒労感ばかりが残るケースが山積なのでしょうね。
事例に引き続き著者による「解説」がありそこで教師の実践が賞賛され、あるいはなお足りないと問題点が指摘されています。こういった記述を見て、良心的な教師はもっと頑張らないとと思うのでしょう。そういった教師たちの姿は美しいかも知れませんが、教師の個人的な献身・自己犠牲を求める風潮は教師らに過労死への道を歩ませることにもなると思います。
分類・研究することが、科学的で効率的な対応につながるということなのでしょうけれども、報告を読んだだけとみられる著者が、荒れる子どもたちやその親などを発達障害だろうなどと決めつけて行く「解説」に、私は不快感を持ちました。「隣のひとが消しゴムを忘れているから、貸してあげてね」と担任からいわれて自分の消しゴムを定規で半分に切って渡したというのをASD(自閉スペクトラム症)の特性が顕著にみられる(154ページ)って。食べ物をシェアするならふつう半分にして渡すでしょう。その子はそれと同じ感覚で自分のものを分けてあげたんじゃないでしょうか。私にはこの著者の言い草の方が異常に見えました。
09.もっと調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2 小林昌樹 皓星社
国会図書館でレファレンス業務を担当していた著者が、調査業務の経験とコツをメールマガジンに連載していた記事を取りまとめた本。「調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」の続編。
前著出版直後に国会図書館(NDL)のデジタルコレクションが大幅に拡充されたことを受けて、主としてこの「デジコレ」を活用した調査方法を説明しています。その他も、著者の経験によるところのため国会図書館の人文リンク集など、国会図書館関係のツールが重用されます。
そして、ネットでの調査に重点を置いているとはいえ、この本で考えている調査は、調べたいことが書かれている文献をいかに探すかということが中心なので、探した結果その文献は図書館で閲覧するか書店(古書店等)で購入するということが想定されています。その意味でネット調査で最後まで終わらせたいニーズにはあまり応えていないと思います。
この本の第12講(158ページ~)では、あくまでも研究・執筆参考用と断り(159ページ)、セクハラで聞いてくるユーザーがいる(173ページ)のでそういうやつは自分で探せという意味を込めてということですが、風俗本(成人向け図書)の探し方を熱を入れて書いています。そこが読みどころかも…
調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップスは、2023年3月の読書日記03.で紹介しています。
08.尿もれ・頻尿・夜間頻尿 尿トラブルの治し方 伊勢呂哲也 学研
泌尿器科医の著者が、尿もれ・頻尿・夜間頻尿といった尿トラブルについて予防改善のためのトレーニングや生活習慣などの対策等を解説した本。
尿トラブル対策には、加齢や生活習慣によって衰えた骨盤底筋(尿道と肛門(女性の場合膣も)を締める筋肉)のトレーニングが大切というのですが、排便時の強いいきみが骨盤底筋を衰えさせる一因になる(126ページ)というのにビックリ。筋肉を使うのはいいかと思ったのですが、考えてみたら肛門を無理にでも開けようとするのですから締める筋肉にはダメージになるのですね。それで締める方の筋肉も鍛えられるというわけにはいかないと。
男性ホルモンのテストステロンの減少が頻尿や夜間頻尿につながる(134ページ)とのこと。私はたぶんテストステロン多めの人生を送ってきた(ひげ濃いし、髪の毛少ないし、薬指長い)と思うのですが、近年は相当な頻尿・夜間頻尿の傾向があります。もうだいぶテストステロンの分泌は減ったのでしょうね。
07.夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく Another Stories 汐見夏衛 スターツ出版文庫
「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の登場人物が主人公丹羽茜とはの別の視点から当時(茜と青磁が高校2年生)を語る4編と、5年後(茜と青磁が大学4年生)を描いた3編からなる番外編短編集。
美術部の1年生望月遠子の陸上部の羽鳥彼方への思いは、「だから私は、明日のきみを描く」で1冊書いているので、ちょっと今さら感があり、5年後の妹玲奈の話が可愛くていい感じですが当時の玲奈の話もあればよかったかなと思います。
番外編は、本編を何冊か書いてから書くものだと思うのですが、本編が映画化される(2023年9月公開)ことになって慌てて書いたという事情のようです(あとがき:214ページ)。「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」のスピンオフ作品とされていた「だから私は、明日のきみを描く」と「まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい」も巻末広告でシリーズ第2弾!!とシリーズ第3弾!!と紹介されています。売りたい出版社の意向と読みたい読者のニーズが一致すればそれでいいんでしょうけど。
06.まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい 汐見夏衛 スターツ出版
「だから私は、明日のきみを描く」で羽鳥彼方にフラれ、望月遠子と仲直りしつつも2人の姿を見ると嫉妬してしまう失意の広瀬遥が、誰もいないはずの小さな砂地「桜の広場」で声を上げて泣いていたところに桜の木から降ってきた声を失った天使のような青年芹澤天音に惹かれ…という青春恋愛小説。
話せない男と進学校で落ちこぼれ気味の女という設定ではありますが、美男美女(第一印象が天使みたい、なんて綺麗なんだろうという男と人形のように可愛い女)という設定でもあり、やはりイケメンに限る、かとも思ってしまいます。
この作品のテーマは、一言で言えば「Chenge」「Yes , We Can」だと思います。まるでバラク・オバマの選挙キャンペーンのように。それだけに、それぞれに背負ったものは重くても、わりと明るく読める印象です。
05.だから私は、明日のきみを描く 汐見夏衛 スターツ出版
「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の脇役で美術部の1年生望月遠子が、陸上部員羽鳥彼方が黙々と棒高跳びを続ける姿を見て恋に落ちたところ、親友で恩人の広瀬遥が羽鳥彼方を好きなことを知り、自分の気持ちに封印しつつこっそり彼方の跳ぶ姿を描き続け…という青春恋愛小説。
女子グループでの遠慮と不本意な同調、裏切り者への非難、無視といった陰湿で暗い話が大部分を占め、言わずもがなの記述に満ちた遅く重苦しい展開がしんどい印象です。
「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」で文化祭の後美術部を訪ねた丹羽茜が部長の里美と「青春ですなあ」とつぶやきをかわすシーン(文庫版で172~174ページ)の陰にはこんな苦闘があったのかという作品ですが、私は、結局、この「青春ですなあ」がすべてという気がしました。
04.夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく 汐見夏衛 スターツ出版文庫
同級生の深川青磁からいきなり「俺はお前が嫌いだ」と言われマスク依存症になった優等生の色葉高校2年生の丹羽茜が、働く母とひきこもりの兄、年の離れた父違いの妹に囲まれて家事と妹の世話に時間を取られていっぱいいっぱいになって、学校では深川青磁への嫌悪感が、家庭では家族への不満がストレス要因となっていたところ、ふとしたことから自由奔放に言いたいことを言う銀髪の深川青磁が絵を描いている美術室に通うようになり…という青春小説。
半分読む頃には、概ね先行きが見えてしまいます(強いて言えば、青磁の銀髪の話に気づかなかったのがうかつに思えた程度)が、それでも読ませるところは立派と言うべきでしょう。
発行元は「泣ける小説No.1」とか宣伝していて、確かにうるうるするところは多いのですが、茜がボロボロ泣く描写があまりに多くて、自分より先に視点人物(主人公)に泣かれてしまうとすっと醒めてしまい、そこが残念だった印象です。
03.成瀬は信じた道をいく 宮島未奈 新潮社
生真面目で自信家で他人に忖度しない空気を読まない基本タメ口の成瀬あかりの膳所高校3年生の10月から京都大学1回生の年末までの様子を、近所の小学4年生北川みらい、父親成瀬慶彦、バイト先のスーパーのクレーマー客呉間言実、同時に「びわ湖大津観光大使」になった大学生篠原かれん、コンビを組んだが東京の大学に行った島崎みゆきの視点で語る短編連作。2024年本屋大賞受賞作「成瀬は天下を取りに行く」の続編。
成瀬のキャラで読ませる作品なのですが、成瀬自身は、大きな夢を口にするものの、たくさん言っていくつか叶えばいいという考えで、自分が変わった人物とは考えていないし実際困った人でもなく、ちょっと言葉遣いがふつうでない(RPGの村人のような by西浦航一郎)まじめに考えすぎる空気を読まないというだけで、言ってみれば女子高生/女子大生なのにおっさんキャラというくらいで、おっさんの読者からすればごくふつうの思考じゃないのと思えるのに、これで小説にできるのだから不思議なものです。一度見た顔と名前は忘れないとか、けん玉の腕が超一流とかはふつうのおっさんでは届きませんが。
成瀬が、200歳まで生きるという小学校卒業文集での将来の夢に向けて、朝食を「急激な血糖値の上昇を抑えるため三十回は噛むようにしている」(41ページ)、毎日9時に就寝している(44ページ)という健康的な生活をしている姿が微笑ましく思えます。
「成瀬は天下を取りにいく」で、2023年3月の発売時にはまだ高1のはずの成瀬の高3の夏(したがって2024年8月)までの話を書いてしまったため、本作ではすべてが発売時より「未来」の成瀬を描いているという不思議なことになっています。第4話と第5話(いずれも成瀬が大学1回生の春から暮れ)では作者が開き直ってか、2025年とはっきり書いています(151ページ、183ページ等)。やっぱり、ちょっと読んでいてぎょっとしました。
02.成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈 新潮社
小さい頃から1人で何でもできてしまい小学校の卒業文集の将来の夢は200歳まで生きる、絵や短歌などで表彰の常連、けん玉のチャンピオンで成績は1番の、マイペースでそのために孤立している成瀬あかりの中学2年生から高校3年生までを、成瀬あかり史を見届けたい幼なじみでバドミントン部の(ここ、つい特筆してしまう)島崎みゆき、成瀬らが西武大津店閉店間近に通い地元のテレビに映っているのを見ていた稲枝敬太、成瀬を嫌っている同級生の大貫かえで、かるた大会で成瀬を見初めてデートした広島の高校2年生西浦航一郎、そして成瀬自身の視点で見た短編連作。
成瀬の独特のしゃべり、言葉遣いにこれをどう表現するのがフィットするのかを考えていたら、西浦が「RPGの村人みたいな口調」(146ページ)というのに、そうかと膝を叩きました。
舞台となっている膳所は、私の父方の縁者がいて子どもの頃通った町で、ひとかたならぬ思い入れがあり、そういう点でも親近感を持って読みました。
「ありがとう西武大津店」と稲枝敬太視点のそこでは成瀬は「通行人A」でしかない「階段は走らない」以外は書き下ろしです。ということは、元は西武大津店つながりというか西武大津店を舞台にした群像劇みたいな構想だったのが、単行本化するときに成瀬に焦点を当ててそれが当たったということみたいですね。
成瀬は、最初の3編で中2、中3は跳んで、大貫かえでの「線がつながる」で高1、西浦航一郎の「レッツゴーミシガン」で高2、ラストの「ときめき江州音頭」で高3です。「ありがとう西武大津店」の2020年8月で中2の成瀬は、この本の出版時点(2023年3月)ではまだ高1なのに、書き下ろすのに高3にしてしまうのってどういう感覚なんでしょう。高1まででは話を作れなかったのでしょうか。
01.果ての海 花房観音 新潮文庫
階段から突き落とされるとあっさり死んだ愛人の死体を放置して、整形し別人の倉田沙世名義の運転免許証等を入手した上で芦原温泉で倉田沙世として生きることにした鶴野圭子が、発覚や警察を恐れながら仲居やコンパニオンとして送る日常を描くサスペンス小説。
良心の呵責とか胸の痛みをほとんど覚えない主人公に今ひとつ読んでいて共感を覚えません。不満や不快は感じ、描かれているので、感情が鈍麻しているということではないのでしょうけれど。抑圧され鬱屈を感じている中年女性読者層からは、そうそうと、支持されるのでしょうか。
ちょっと展開が遅い印象で、派手さはなく地味な、渋いという感じの作品です。最後に展開がありますが、ミステリーとして、あ、やられたという感覚よりは、え、そこ?と思いました。
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