◆たぶん週1エッセイ◆
聞いてビックリ!六ヶ所再処理工場の航空機墜落対策
福島事故前は不十分ながら防護設計を求めていたのに、規制委員会は防護設計を求めない
三沢基地所属の航空自衛隊の主力戦闘機F35Aが墜落したとき建屋が全体破壊しないかの評価は避けられている
原子力規制委員会は落下確率評価で六ヶ所再処理工場には計算方法の特例をつくって合格させた
2021年6月18日、青森市内(わ・らっせ会議室)で「聞いてビックリ! 六ヶ所再処理工場の航空機墜落対策」というタイトルでお話をしました。その概要を再現します。 You tube でも公開される予定です。
核燃サイクル阻止1万人訴訟弁護団の伊東良徳です。今日は、六ヶ所再処理工場の航空機墜落対策についてお話しします。
まず、六ヶ所再処理工場がどういうところにあるかについてお話しします。
右側の地図の上の方に六ヶ所再処理工場があるのですが、この地図の真ん中あたりに「三沢対地射爆撃場」、天ヶ森射爆撃場ともいいますが、「全国の部隊が、本土唯一の空対地射爆撃の訓練を行える施設として、模擬爆弾の投下訓練や射撃訓練を行って」いる施設があります。この説明は防衛省のサイトから引いてきたものです。ここは、三沢基地だけじゃなくて、全国各地の米軍基地や航空自衛隊の基地から戦闘機が飛んできて爆撃訓練をするところなんですね。六ヶ所再処理工場は、そのようなたくさんの戦闘機が全国各地から飛んでくる施設から約10kmのところにあります。10kmというと離れていると感じられるかも知れませんが、戦闘機はマッハ1とか2とかで飛んでいるわけで、マッハ1で飛ぶと10kmは30秒くらいですね。戦闘機にとってはそれくらいの距離なんです。
地図の下の方には三沢基地がありまして、ここには米軍と航空自衛隊の基地があります。米軍の主力戦闘機はF16という戦闘機で、航空自衛隊の方は現在は F35A が主力戦闘機になっています。F35A は、2018年から配備され、2020年12月時点で報道によれば、21機配備済で、これから2024年にかけてさらに21機配備されて将来的には42機配備されることになっているそうです。その三沢基地は、六ヶ所再処理工場から約28kmのところにあります。
そういう軍事施設が近くにある六ヶ所再処理工場敷地には、どれくらい航空機が飛行しているんでしょうか。
このことについて、日本原燃が、ウラン濃縮工場を建設する前に調査をしました。施設の敷地そのものではなくて、建設準備事務所、ちょっとこの地番がGoogleMapでうまく引っかからなくて正確な位置は示せませんが、六ヶ所再処理工場の敷地と天ヶ森射爆撃場の間のところで、騒音測定器の記録で航空機の飛行と判定されたものをカウントするというやり方で調査した結果、1年間の航空機飛行回数が 42,846回というとんでもないことがわかったんです。具体的に敷地の真上かどうかはわかりません。飛行する音が記録されたということですので。しかし、敷地の真上も含めて、敷地の周辺の上空を年間4万回以上も飛行機が飛んでいる、そういう場所なんです。
次に、三沢基地配備の戦闘機が現実に起こしている事故を見てみましょう。
後でお話ししますが、2019年4月9日には、航空自衛隊の F35A が秒速300m(300m/s)を超える速度で墜落した事故がありました。それに近い時期に、米軍の F16 も、漁船の付近に燃料タンクを投棄したり、小中学校の近くに模擬爆弾を落としたりしています。燃料タンクとか模擬爆弾というとたいしたことないと思われるかも知れませんが何百kgもあるもので、当たったら死にます。米軍が落とす場所をちゃんと選んで配慮しているとは思えないわけです。そういう、パイロットが回避操作をできなかったと思われる事故や、回避操作をしなかったと思われる事故が、わりと頻繁に起こっているのです。
六ヶ所再処理工場がそういう航空機墜落のリスクが高い場所に立地されているということをご理解いただいた上で、次に、そういう場所に立地した原子力施設に、福島事故前は、どういう対応がなされていたかを説明します。
六ヶ所村の核燃料サイクル施設では、再処理工場の前に、まずウラン濃縮工場が建設されました。ウラン濃縮工場は、1988年8月10日に事業許可がなされましたが、この施設については、一番危険な「発回均質棟」、発生回収均質棟の略で、濃縮ウランを発生させて回収する、要するに濃縮ウランを気体状で取り扱うところですが、その建物だけは航空機墜落に対する防護設計をしましょうということになりました。
そのとき、三沢基地に配備されている主力戦闘機は、航空自衛隊は F1 、米軍は F16 だったので、それが衝突した場合に計算上耐えられるように設計するということなんですが、重量の方は少し余裕を見て 20t で計算するけれども、衝突速度の方は 150m/s でやったんです。戦闘機ですので最大速度は音速(マッハ1:約 340m/s)以上です。ふつうにマッハ1以上で飛んでいるんですね。でも、衝突するときは、エンジンが停止した状態でグライダー状に滑空しているということにして、150m/s くらいだろうというんです。エンジンが停止していなければ、パイロットがコントロールできるはずだから、原子力施設に落ちないというんです。
ウラン濃縮工場が許可されて、その次に、1992年12月24日に再処理工場の事業指定(許可)がなされました。
再処理工場は、扱う放射能量が格段に大きい危険な施設ですので、一番危険なところだけじゃなくて、主要な建屋は航空機墜落に対する防護設計をすることになりました。このときも、防護設計は、総重量 20t の戦闘機が通常の飛行速度ではなくて、滑空速度の 150m/s で衝突した場合に計算上耐えられるようにするということでした。
福島原発事故前は、事業指定後に、三沢基地に新しい戦闘機が配備されると、旧科技庁は、1996年に、新たに配備された戦闘機が墜落した場合についても評価して提出するように指示をしました。すでに事業指定は済んでいるのですから、もう安全審査手続は終わっているのですが、それでも再評価しろと求めたのですね。
日本原燃は、それに応じて、1996年には F4EJ改という新戦闘機について評価し、さらに2000年にも新たに配備された F2 という新戦闘機についても評価を出しました。
ただし、その評価は、すべて衝突速度は 150m/s でした。
さて、その衝突速度 150m/s が適切なものか、ですが、裁判で、安全審査に使用した資料を出せと要求して、国側は長期間にわたって引き延ばした挙げ句に、ほとんどマスキングで真っ白な資料ばかり出してきたのですが、高レベル放射性廃棄物管理施設の安全審査資料として開示されたものの中に、面白い資料が紛れ込んでいました。高レベル放射性廃棄物管理施設の安全審査の資料とされているのですが、内容は明らかに再処理工場について書かれたものです。
この資料には大変重要なことが書かれています。
まず、「三沢対地訓練区域での訓練飛行中の航空機の事故で発生すると考えられる最大速度は 215〜340m/s 」と書かれています。私たちの主張じゃなくて、事業者側か国側、この資料の作成者がどちらかは書かれていませんからどちらかはわかりませんが、日本原燃か旧科技庁の方で、215〜340m/s の速度での衝突がありうると見ているんですね。
この資料では、「建屋の構造計画上現実的に対応が可能な衝突速度は、200m/s 程度である。」とされています。衝突速度が 200m/s を超えると、現実的には防護設計ができない、防護設計しても耐えられないということを認めているんです。
その 200m/s 程度に対応するのでも、「全面的に構造計画を見直す必要がある。」として、数年かかるとされているのです。
さらにこの資料は、「衝突速度条件を150m/s と説明してきた過去の経緯から防護設計の基本的な条件である衝突速度条件を 150m/s から他の値に変更することは、PA上、大きな社会問題 となり、立地点としての適合性がクローズアップしてくる。」と書かれています。「PA」は、パブリック・アクセプタンス( public acceptance )、広報というか世間一般への説明、住民の同意ですね。これまで 150m/s でいいんだと言ってきたのに今さら違う数字を使ったら説明がつかない、社会問題になり、住民の同意が得られなくなる、反対運動が力を得ると、そういうことです。
そして、「衝突速度条件が変わることは、建屋構造計画の大幅な見直しあるいは特殊な架構形式の検討等が必要となり、設計及びコスト面への影響が過大となる。」と書かれています。右の図では、衝突速度を 150m/s から 215m/s にしたら壁や天井の厚さや防護設計のために増加する建築費用がどう変わるかを示しています。
衝突速度が 150m/s なら防護設計による建築費の増加は 380億円だけど、215m/s にすると 600億円になるというのですね(パワポスライドでは 660億円と書きましたが、よくみると 600億円ですね)。
そして、六ヶ所再処理工場の防護設計で衝突速度を大きくしたら、それは六ヶ所再処理工場だけの話にとどまらない、他の原子力施設での安全審査に影響を与える恐れがあるというのですね。
結局、再処理工場の安全審査の過程で検討されたこの資料では、「これらの設計上及び社会的な影響等に鑑み、防護設計の前提条件としては、防護対象となるすべての施設に対して衝突速度 150m/s を採用することとしたい。」としています。
要するに、再処理工場の防護設計の際の航空機の衝突速度を 150m/s にしたのは、それ以上の速度での事故が考えにくいとかそういう事情ではなくて、これまでのいきさつからもう変えられない、変えたら世間への説明ができない、住民の同意が得られなくなるとか、コストがかかりすぎるとか、他の原子力施設の安全審査に影響が出るとかそういうことが理由だったということです。
ここまで、福島原発事故前の段階で、六ヶ所再処理工場は、極端に多くの航空機、戦闘機が周辺上空を飛行している場所であったために、航空機墜落に対する防護設計が求められたこと、その防護設計では、航空機の衝突速度は常に 150m/s とされてきたこと、その衝突速度が使われてきた理由について説明してきました。
それでは、次に、それが福島原発事故後どうなったかについてお話ししましょう。
福島原発事故後は、原子力規制委員会の新規制基準による適合性審査が行われたわけですが、六ヶ所再処理工場の航空機墜落対策としては、原子力規制委員会は、航空機落下確率を評価して、それが 10-7 以下であることを確認し、そうである限り、航空機墜落に対する防護設計は求めないという姿勢を取っています。そして、実際、六ヶ所再処理工場について原子力規制委員会は防護設計を求めていません。
後は、航空機テロ対策ですが、六ヶ所再処理工場については、原発のような特重施設、航空機テロがあっても遠隔操作で炉心を冷却するとかいう施設ですが、そういうものは求めていません。ただ航空機テロで大規模損壊が起こったときに火災が発生したら消防車等で水をかけて消火してねというだけです。
要するに、航空機が墜落しても大丈夫にしようという発想はなくて、落ちたらもうお手上げなんです。
福島原発事故後、安全規制が強化されたとお考えの方には驚きでしょうけれど、それが実態なんです。
順次、説明していきましょう。
まず、航空機の落下確率は、2002年に定められた「航空機落下確率に対する評価基準」(こちらから入手できます)によって計算します。
10-7 というのは、理屈としては1000万年に1回ということで、とても小さく思えますが、それが正しい計算結果と言えるかには疑問があります。
航空機落下確率は、いくつかのパターンに分けて足し算するのですが、定期航空路の真下付近以外では、実質的には軍用機の墜落確率が支配的になります。
その軍用機の墜落確率は、上の式で計算するのですが、この式だと、原子炉施設の標的面積以外はどの施設でも同じになります。つまり、この式は、原子力施設がどこにあるか、基地のそばかとか上空を多数回飛行しているかとかはまったく関係がなくて、ただ建物が大きければ相対的に確率が高くなるというだけのものです。端的にいうと、よほど立て続けに軍用機の墜落事故が起こらない限りは、どこに立地しても、落下確率が 10-7 を超えるなんてことは考えられないような式なんです。
赤字で書いてあるところは、後で出てくる「小型機」の事故を低く評価するというやり方は予定されていないということを示しています。そこは後でまた説明します。
この航空機落下確率に対する評価基準の特徴ですが、1つは、最近の 20年間に陸上に墜落した事故だけをカウントしていることがあります。海上に墜落する事故の方が多いんですが、米軍も自衛隊も墜落するときは海上に行ってから墜落するように指導しているから、海上での墜落事故は、パイロットがコントロールして海上で墜落したものと考えるようです。実際には、海上で制御不能になってそのまま海上で墜落する事故もある、後で話題にする 2019年4月9日の F35A の墜落事故なんて典型的ですが、そういう事故だって確実にあるのですが、それはカウントしないということです。
それから、先ほど言いましたように、この計算式では、全国平均の事故率を用います。基地から近いかとか上空を多数回飛行しているかなんてことはまったく無視されて、全国どこでも同じ確率になるんです。施設周辺上空を年間4万回以上も航空機が飛行している施設敷地をこういう評価基準で評価するというのが合理的なやり方とはとても思えませんね。
さて、この評価基準を用いて、原子力規制委員会の適合性審査で、六ヶ所再処理工場への航空機落下確率評価がどのようになされてきたかを説明します。
日本原燃は、2017年6月22日の適合性審査会合に、六ヶ所再処理工場への航空機落下確率は 7.5×10-8 という評価結果を提出しました(日本原燃の提出資料はこちらから入手できます。この資料の17ページ参照)。日本原燃は、評価基準の適用にあたり、「航空機落下事故に関するデータ」(平成28年6月 原子力規制委員会)を利用し、対象となる20年間の落下事故は自衛隊機が7回、米軍機が5回としています。これについて、適合性審査会合では、誰からも異論も疑義も出されませんでした(適合性審査会合の議事録はこちらから入手できます)。
しかし、日本原燃が用いた「航空機落下事故に関するデータ」(平成28年6月 原子力規制委員会)(こちらから入手できます)は、「本報告は、平成5年1月〜平成24年12月の20年間に国内で発生した航空機事故データについて調査した結果を」まとめたものと明記されていて、1993年1月〜2012年12月までの事故データですから、2017年時点で提出する場合、直近5年分の事故を無視していることになります。これは「最近の20年」の事故で評価するという評価基準に違反したものです。役人は、こういう形式的なことにはとてもうるさいのがふつうですが、適合性審査会合で誰も指摘しないんですね。これは、見過ごしたのでしょうか、それとも黙認したのでしょうか。
ちょうどこの頃は、自衛隊機が毎年のように事故を起こしていたんですね。それで、20年間で自衛隊機の事故が 7回って直感的に少なすぎる感じがしたんです。それで調べてみたら、日本原燃が古い時期の事故だけをカウントしたことがわかりました。六ヶ所再処理工場の裁判で、2018年3月9日の口頭弁論期日に、被告の原子力規制委員会の職員たちが目の前にいるところで、日本原燃の計算は評価基準違反だということ、それを原子力規制委員会が見過ごすのはおかしいということを指摘しました(その準備書面はこちら)。
その際には、正しく最近の20年間で評価すれば 9.6×10-8 だということ、それは1度に2機墜落した事故があってそれは2回の事故とカウントすべきということでそういう計算をしたものですが、それだけじゃなくて、「最近の20年」はどんどん入れ替わっていくので、これから先 10か月以内にもう1回墜落事故があったら、明確に10-7 を超えるぞ、そうなったらどうするつもりかということも言いました。
ちなみに、そういうことを言うと、みなさんは、じゃあ今評価したらどうなるのか、気になるでしょうね。実は、何故だか、私たちがこの指摘をした2018年3月9日以降、軍用機の陸上での墜落事故は1件もありません。マスコミの方に追及してもらいたいなぁと思っているのですが、最近はヘリが落下してもみんな「不時着」って報道されちゃうんですね。墜落と報道されるとカウントされるんですが、不時着と報道されるとカウントされないんです。
それはさておき、私たちが原子力規制委員会の目の前で日本原燃の評価基準違反を指摘したところ、日本原燃は、2018年7月6日の適合性審査会合に、最近の20年の事故で評価すると9.0×10-8 になるという再評価結果を提出しました。1度に2機が墜落した事故はあくまでも1回だという主張ですね。
この日本原燃の再評価結果が、原子力規制委員会の更田委員長の心に引っかかりを生みました。
ここは議事録を貼り付けて、原子力規制委員会が公開している会議映像を出したものです(議事録はこちらから入手できます。引用部分は25ページにあります。会議映像はこちら。1:10:43あたりからご覧ください)。
原子力規制委員長が、「境界となる頻度とほぼほぼ同レベル」とか「防護設計、衝突した場合の設計上の要否が問題となるちょうどその境界のところにある」とまで言ったんですね。
ここは、私の心の声ですが…この更田委員長の発言後、原子力規制庁のドタバタが始まります。
なんと原子力規制庁は、2019年8月21日付で逆方向に走ります。
原子力規制庁はこの2019年8月21日付の「日本原燃株式会社再処理施設の新規制基準適合性審査における航空機落下確率評価等に関する今後の審査方針について」と題する文書(こちらから入手できます)で、六ヶ所再処理工場について(だけ)は、F16 以下の航空機の事故は 1回の事故を、0.1回とカウントすることにするというのです。
再び、私の心の声ですが…驚きましたねぇ。よく恥ずかしくないものだと…
まぁこの問題で更田委員長に記者が質問したら、その問題は検討して決着した問題だとかお答えになるかと思います。科学的・合理的理由があって変えるんならいいだろうとおっしゃるかも知れません。
それでは、この扱いに合理性があるかを検討してみましょう。
規制庁の文書にもあるように、確かに、「航空機落下確率に対する評価基準」(こちらから入手できます)は、有視界方式で飛行する民間航空機の落下確率の計算では、小型機の事故について1/10の係数をかける、つまり1回の事故を0.1回とカウントする扱いをしています。
しかし、そもそも「航空機落下確率に対する評価基準」は有視界方式で飛行する民間航空機の場合にそういう扱いを認めながら、軍用機についてはそういう規定を設けなかったのです。基準の策定時にそうしたということを軽々に覆すことは本来的に慎重でなければなりません。
そして、「航空機落下確率に対する評価基準」が、有視界方式で飛行する民間航空機の落下確率の計算では、小型機の事故について1/10の係数をかけることにした理由を説明している部分は上のスライドのように書かれています。ここでいう小型機は、重さは軍用機や大型旅客機より1桁も2桁も軽くて、飛行速度も56m/sとか65m/sくらい、それで通常の飛行速度というか全速力でぶつかったとしてもまず壊れないという評価があって、それは1/10でいいだろうということです。
また、ここでいう「小型機」は最大離陸重量5,700kg以下(5.7t以下)と定義されています。
そういった事情、飛行速度自体が遅い(56m/sとか65m/s程度)、だから巡航速度で衝突しても原子炉建屋が壊れることは考えがたいという事情があってそれなら1/10を掛けてよいとしたその考え方を、総重量20t、巡航速度マッハ2のF16に当てはめる、F16以下は小型機扱いして1/10を掛けるというのは、まったくその前提を欠くものだと思います。
そして、原子力規制庁は、六ヶ所再処理工場がF16に対する防護設計をしているからというのですが、先に見たように、六ヶ所再処理工場の防護設計は、衝突速度150m/sまでしか評価しておらず、F16が200m/s以上の速度で衝突しても大丈夫というものではありません。安全審査で検討された資料でも衝突速度200m/s程度を超えたら現実的には対応できないとされており、しかもその対応はせずに150m/s対応のままで進めたのです。
結局、原子力規制庁の方針は、有視界方式で飛行する民間航空機の場合の小型機の扱いの前提となる事情をまったく欠いているのに無理やりにそれと同じであるように言い繕っているもので、合理性があるとはいえません。
現在、三沢基地配備の航空自衛隊の主力戦闘機は F35A です(航空自衛隊のサイト参照)。
F35Aのスペック(ロッキード・マーチンのサイトに掲載されています)を見ると、最大離陸重量は31.75t、最大速度は533m/sに達します。
そして、三沢基地配備の航空自衛隊の F35A の2019年4月9日の墜落事故では、2019年6月10日の航空自衛隊の発表(こちらから入手できます)によれば、パイロットが空間識失調に陥り、墜落時の速度は305.6m/s以上、15秒間で4,400m降下したとされているので垂直方向の速度は293.3m/s程度と見られています。
つまり、F35A が墜落する場合には、総重量 30t 、衝突速度 300m/s ということが現実的に考えられるわけです。
2019年4月23日の適合性審査会合では、2019年3月20日の更田委員長の発言を受けて、六ヶ所再処理工場で現に行われた防護設計について日本原燃が説明を行い、総重量 20t の航空機( F16 )が衝突速度 150m/s で衝突した場合だけが評価されている(それ以上の条件はまったく評価されていない)ことを明らかにしました(日本原燃が提出した説明資料はこちら)。
この審査会合は、F35A の墜落事故の2週間後に行われました。この事故では、機体がなかなか見つからなかったこと、新型戦闘機に欠陥があったのではないかという疑惑が持たれたことなどから報道も盛んに行われていました。そういう時期の審査会合で、しかも、航空機墜落対策が議題になっている会合なのに、この審査会合では、誰ひとり、F35A について質問も指摘もせず、一度も話題に上りませんでした(議事録はこちら)。かなり不自然に感じます。どうして誰も話題にしないのでしょうか。
福島原発事故前は、衝突速度を低くしてではありますが、防護設計が求められ、三沢基地に配備された戦闘機については衝突した場合の評価をするように指示されていたのです。それなのに、福島事故後、原子力規制委員会は、評価基準を曲げてまで、六ヶ所再処理工場には防護設計を求めない、三沢基地の航空自衛隊の主力戦闘機となっている F35A が衝突した場合の評価を求めないという姿勢を貫いているのです。
三度、私の心の声です。
国会事故調に「事業者の虜」と評価された旧科技庁でさえ、三沢基地に配備された新戦闘機が墜落したときの評価を求めていたんです。
原子力規制委員会は、サイトに今も掲載している「組織理念」によれば、「原子力規制委員会は、2011年3月11日に発生した東京電力福島原子力発電所事故の教訓に学び、二度とこのような事故を起こさないために、そして、我が国の原子力規制組織に対する国内外の信頼回復を図り、国民の安全を最優先に、原子力の安全管理を立て直し、真の安全文化を確立すべく、設置された。」と、さらに続きも読むと、「原子力にかかわる者はすべからく高い倫理観を持ち、常に世界最高水準の安全を目指さなければならない。我々は、これを自覚し、たゆまず努力することを誓う。」とおっしゃるわけです。そういう組織が、どうして、事業者の虜と、事業者となれ合っていたと評価された旧科技庁でさえ求めていたことを、日本原燃に求めないのでしょうか。評価基準を曲げてまで防護設計を回避させるのでしょうか。
裁判で、私たちが、東芝で圧力容器の設計を行っていた後藤政志さんにお願いした鑑定意見では、福島事故前の安全審査の際の建屋全体破壊の基準、何と言っても福島事故後は原子力規制委員会が防護設計をまったく求めないのでその基準もありませんから、福島事故前の基準で考えることになるのですが、その基準とされていた最大圧縮歪0.65%で判定すると、総重量 20t の航空機が衝突速度 187.5m/s で衝突した場合の最大圧縮歪は 1% を超えるとのことです。つまり、F35Aでなくても、F16 等でも、衝突速度が、200m/s と言わず、187.5m/s 位でも建屋の全体破壊の危険があるというのです。そして、総重量 30t の F35A の場合、衝突速度 150m/s でも、つまり最大速度はおろか通常の飛行速度よりもずいぶんと遅い「滑空速度」の 150m/s でさえ、最大圧縮歪が 1% を超え、全体破壊の危険があるというのです。
そういうことだから、原子力規制委員会は、何があっても、F35A の墜落時の評価を、六ヶ所再処理工場の防護設計を求めないのだと、私は、考えてしまいます。
いや待て、福島事故後の世界最高水準の規制基準では、テロ対策、故意による大型航空機の衝突に対してまで対策をするということだったはずだ、そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
原発については、航空機テロなどで中央操作室が機能しなくなっても、遠隔操作で炉心の冷却を続ける特重施設が要求されているじゃないかと。確かに、原発では、特重施設が義務づけられて、5年以内に特重施設を作るという条件で再稼働を認められながら作れなかったなんてことが話題になりました。
それでは、再処理工場についての航空機テロ対策を見てみましょう。
原発の場合は、放射性物質は、使用済み燃料プール以外では、炉心に集中していて、基本的にそこを守ればいいわけです。炉心の放射性物質は、それがペレット状に焼き固められ、ジルカロイ製の燃料被覆管(鞘管)に包まれ、肉厚が 15cm 程度の圧力容器があり、鋼鉄製の格納容器があり、建屋があるということで「5重の壁」があるとされています。基本的には、炉心溶融に至らなければ、放射性物質の大量漏洩には至らないので、とにかく炉心を冷却することができればいいので、中央操作室が機能喪失しても特重施設によって冷却できれば、炉心溶融を回避できるかも知れないし、いずれにしても、航空機テロがあっても放射性物質の大量漏洩まで時間があるわけです。
それに対して、再処理工場では、燃料棒は剪断され、焼き固められていた放射性物質は硝酸で溶かされ、最初から溶液状です。最初の2つの壁は、再処理をするために、あえて取っ払われています。圧力容器はなく、代わりに容器や配管に内蔵されてはいますが、その肉厚は、場所にもよりますし秘密にされているところが多いですが、高レベル放射性廃液を貯蔵する容器でも 2cm かそこらです。圧力容器のような頑丈なものではありません。格納容器はありません。ですから、容器・配管と建屋のせいぜい2重か 1.5 重くらいの壁しかありません。溶液状の放射性物質はどこかに集中しているのではなく工程のあちこちにありますので、ここを守りさえすればいいという場所はありません。そういう事情で、特重施設は要求されていませんし、仮に少しばかり作ってもさしたる意味がありません。再処理工場に航空機テロが行われた場合、建屋が大規模損壊し、その崩落した天井盤や航空機の機体によって容器・配管類が損傷すれば、直ちに放射性物質が大量漏洩することになります。再処理工場の場合は、航空機テロがあれば、すぐに放射性物質の大量漏洩につながるのです。
そして、再処理工場では、テロを防止する対策は、非公開の会合でコソコソと審査しているので内容はわかりませんが、何らかの対策はしているのでしょうけれども、現にテロが行われて航空機が衝突した場合にそれでも放射性物質を大量漏洩させないという対策はありません。放射性物質の大量漏洩が始まっている現場に行って決死隊が身を挺して消防車等で水をかけてねというだけです。
ここでは、航空機テロといいましたが、意図的でなくても、戦闘機が高速で衝突すれば、つまり「グライダー状に滑空して」ではなくふつうに墜落すれば、同じことになります。
これまでの話をまとめると、上のスライドのようになります。
六ヶ所再処理工場の航空機墜落対策というのは、率直に言えば、何もやっていないに等しいもので、施設周辺上空は年間4万回以上も航空機が飛行する特殊な地域だけれどもそれは知らないふりして航空機が墜落しないことに期待する、現に墜落したらお手上げ、「想定外の事故だった」とでも言うつもりでしょうか、そういうとってもお粗末なものなんです。
原告団のサイトはこちら
(2021.6.20記)
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