◆過払い金返還請求の話◆
最高裁は、2008年1月18日の第二小法廷判決で、第1の基本契約に基づく取引により過払い金が発生したが、その時点では他に債務がなく、その後新たな基本契約(第2の基本契約)がなされてそれに基づく新たな借入が行われた場合は、第1の基本契約に基づく過払い金を第2の基本契約による借入金に充当するとの合意があるなどの特段の事情がなければ第1の基本契約に基づく取引の過払い金は第2の基本契約に基づく借入には充当されないとした上で、第1の基本契約に基づく取引の期間の長さ、第1の基本契約に基づく最終の返済(完済)から第1の基本契約に基づく借入までの期間の長さ、契約書の返還の有無、カードの失効手続の有無、空白期間の貸金業者と借り主の接触(勧誘等)、第2の基本契約をする経緯、第1の基本契約と第2の基本契約の契約条件の異同等の事情を考慮して第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引が事実上1個の連続した取引と評価できる場合にはその合意があると解するのが相当であるとしています。
この最高裁2007年6月7日第一小法廷判決と最高裁2008年1月18日第二小法廷判決によって、基本契約が1つの場合は、その中では過払い金はその後の新たな借入金に充当される、基本契約が複数の場合は2008年1月18日判決が上げた基準によって判断するという整理がなされました。
このため基本契約が1つか複数かは、かなり重要なポイントになりました。取引が分断される場合、特に第1取引の完済が過払い金請求より10年以上前の場合には第1取引の過払い金返還請求権が時効消滅してしまうので、請求できる過払い金がかなり大幅に変わることになります。
完済後の借入が新たな基本契約に基づくものであるかは、借入の際に新たな契約書を作成しているか、作成しているとしてそれが以前の基本契約の変更契約ではなく別の基本契約であるかによって決まってきます。そのため、新たな借入の際に作成された契約書を消費者金融側が提出しない場合にどうするかが問題となります。裁判官によって、基本契約が複数であることは貸金業者側に立証責任があると明言し、貸金業者が新たな契約書を証拠として提出しない限り基本契約は1つとして一連計算してくれることもあり、貸金業者が新たな契約書を提出しなくても空白期間だけを見て基本契約は複数と認定し取引の分断を認定することもあります。
アコムは、解約処理をした場合、取引履歴に「カイヤク」という記載をしており、その場合は契約書の返還・カード失効手続をしていると主張していますが、取引履歴に解約と記載されている事案で契約時に作成した書類一式の提出を求めたら新たな借入時にカード停止手続をしたというメモが出てきたということもあります。
このように、取引履歴に解約処理をしたと書かれているからといってそれを信用できないこともあります。そして、「プロミスの場合」で紹介しているプロミスの内部研修資料にもあるように、消費者金融側では完済しても顧客をつなぎ止めたいという意向があり、できるだけ以前の契約を残そうとします。新たな借入時に新たな契約書を作成するのも以前より金利が安くなったと勧誘して借入をしやすくするためと考えられます。そういう事情を考えても、基本契約は1つの方が原則で、基本契約が複数あると主張する貸金業者側が新たな基本契約の存在を新たな基本契約書を提出して立証すべきだと、私は思うのですが。
基本契約が複数の場合、第1取引と第2取引が一連のものかどうかは、最高裁2008年1月18日第二小法廷判決の基準によって判断されます。
その判断基準は、裁判官によって微妙に異なりますが、挙げられている考慮事項の中では空白期間の長さが重視され、東京地裁では空白期間が1年を超えるかが大きな要素になっています。裁判官によっては、空白期間1年未満は原則として一連で、分断を主張するなら貸金業者側で特段の事情を主張立証すべきと法廷で明言することもあります。他方、空白期間1年未満でも当然に一連とはいえず契約書の返還やカードの失効、貸金業者の勧誘などを主張立証するように求める裁判官もいますし、第1取引の継続期間と空白期間の比を重視して空白期間が1年未満でも第1取引が短いと一連性は認められないと法廷で明言する裁判官もいます。
東京地裁でも第1取引が20年あまり続いた事案ではその後の2年1か月の空白期間があっても一連という判決をもらったことがありますので、第1取引が長期間継続した場合は空白期間1年の壁を越えることは可能だと思います。
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