庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆過払い金返還請求の話

 もっと詳しい過払い金請求の話

もくじ:index
 過払い金請求の現状 GO
 過払い金の計算方法 GO
  利息制限法の制限利率 GO
  借入日は算入する? GO
  利息の端数は切り捨てる? GO
  閏年の処理 GO
 取引の分断・一連性 GO
  基本契約が1つのとき GO
  基本契約が複数のとき GO
  1回払いキャッシングサービスGO
 不動産担保借入 GO
 過払い利息の支払義務(悪意の受益者性):準備中
 取引履歴を完全開示しない業者への対応:準備中
    

  過払い金返還請求の現状

 過払い金返還請求がマスコミを賑わしたおかげで(テレビCMまでうって過払い金請求を煽った法律事務所まで出たこともあり)、多くの借主が過払い金請求をするようになりました。そのため、借主側でも貸金業者側でも多数の弁護士が過払い金返還請求に関係するようになり、多数の過払い金返還請求訴訟が起こされ(過払い金ブームが起こる前に比べて裁判所の通常民事裁判件数は2倍近くなっています)、貸金業者側の弁護士も様々な理屈をつけて抵抗したこともあり、様々な判決が出ました。たくさんの弁護士が関係したくさんの判決が出る分野はたいていそうなるわけですが、過払い金返還請求訴訟は、様々な論点で様々な判決が累積して、いまや極めて専門化した分野になってしまっています。
 2006年頃は、過払い金返還請求もそれほどは多くなく、裁判でも複雑な論点はなく、過払い金返還請求をする弁護士にとっては、ある意味天国のような状態でした。しかし、今では、貸金業者側も、資金力に乏しい貸金業者はもちろん容易には過払い金を支払いませんし倒産・整理されていく状況にあります。資金的に安泰の貸金業者も過払い金支払を抑えるべく弁護士をつけて全面的に抵抗し些末なものも含めて多数の主張をしあきれるほど大量の書類を出してきます。
 ネット上は、過払い金返還請求は自分でも(弁護士なしでも)できるとか、誰がやっても同じとかいう記述をよく見ますが、現状はとてもそういう状態とは思えません(もちろん、日本の民事裁判は弁護士強制の制度ではありませんから、弁護士なしでできることはその通りです。それと、裁判に勝てるかどうか、どの程度勝てるかは別問題です)。
 最近、過払い金返還請求に参入している専門家でも過払い金返還請求にあまりにも知識がないことに驚く機会があり、また本人が貸金業者と和解して過払い金の支払を受けた後で相談されて弁護士に依頼すれば軽く倍は取れたケースだったのにというケースを立て続けに経験しました。これだけ様々な報道やネット上の情報があっても、過払い金について正しく理解されていないのだなと思い、もっときちんと書いてみようと思いました。

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  過払い金の計算方法

 過払い金の計算は、無償配布ないし有償配布されている計算シートで行うのが通常です。私は、計算ロジックを自ら把握し判例でどのような条件が出ても対応できるように、自分でエクセルに式を入れた計算シートを使用しています。
 計算シートに、年月日、借入額、返済額を入力し、前回取引時の元本に利息制限法の制限利率、経過日数を掛け、1年の日数で割って(制限利率が年率ですから)利息制限法上の利息(法定利息)を計算し、その利息を超えた返済額を元本に充当する(元本から差し引く)ということを続けます。多くの計算シートでは年月日、借入額、返済額を入力すると後は自動的に計算してくれますが、制限利率を自分で入れる計算シートもあります。
 いずれにしても、この利息制限法の制限利率を正しく理解しておく必要があります。

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   利息制限法の制限利率

 利息制限法の制限利率は、元本(計算上は前回取引時の残元本)が10万円未満のとき年20%、10万円以上100万円未満のとき年18%、100万円以上のとき年15%と定められています。
 この元本とは何を指すのか、契約上の借入限度額(極度額)なのか、約定利息によって計算した残元本(約定残元本)なのか、利息制限法により計算した残元本(利息制限法引き直し残元本)なのかについて、かつて熾烈な争いがありましたが、現在の実務では、利息制限法引き直し残元本が基準とされています(最高裁2010年4月20日第三小法廷判決)。(この最高裁判決に至る経緯というか問題点を知りたい方は「制限利率の基準は引き直し残元本でよかったか」を読んでください)
 10万円未満で開始した取引(当初の制限利率は年20%)が追加借入によって利息制限法引き直し残元本が10万円以上になればそれ以降の制限利率は年18%となり、さらに追加借入によって利息制限法引き直し残高が100万円以上となればそれ以降の制限利率は年15%となります。返済によって利息制限法引き直し残高が減少しても制限利率が高くなることはありません。

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   借入日は算入する?

 計算シートの中には、借入初日算入・不算入を選択する方式のものがあります。消費者金融のケースではありませんが、最高裁が消費貸借の利息は元本利用の対価で元本は借入日から利用できるから特約がない限り借入日から利息を支払う義務があるとしている(最高裁1958年6月6日第二小法廷判決)ことから、初日算入を勧める向きもありますが、初日不算入で計算すべきです。(その理由を知りたい人は「初日を算入しなくていい理由」を読んでください)

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   利息の端数は切り捨てる?

 この部分は計算シートの中ですでに処理されていますが、理屈上は理解しておいて欲しいと思います。通常の計算シートは制限利息を計算する都度1円未満の端数を切り捨てています。厳密には計算の都度切り捨てをする法律上の根拠はない場合もあり得ますが、実務上は切り捨てでかまいません。(詳しく知りたい人は「端数処理をどうするか」を読んでください)

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   閏年の処理

 これも計算シートの中ですでに処理されていますが、閏年は制限利息計算の際に前回取引残高×制限利率×経過日数÷366日で計算しなければなりません。利息制限法は制限利率を日(日歩)ではなく年率で定めていて、例えば年18%を閏年に365日計算すると実質利率は年18.049%になって利息制限法の制限利率を超えてしまうからです。(詳しく知りたいマニアな人は「閏年計算の憂鬱」を読んでください) 

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  取引の分断・一連性 

 現在の過払い金返還請求の実務で、過払い金の金額を最も大きく左右するのは、通常は、この論点です。
 借金をした後にいったん完済をして、その後また借入をしたという場合に、完済をした時点までの過払い金(利息制限法を超える利率での借金であれば、約定利率で完済すれば、利息制限法に引き直せば過払いになります)をその後の借入金から差し引けるか(法律業界用語では、充当できるか)が問題となります。これができない場合、取引が分断されたといい、できる場合は取引が一連であるということになります。
 一連か分断かで大きな違いがないように思えるかもしれません。実際、完済前の取引が数か月くらいならたいした差はないといえるでしょう。しかし、最初の取引が長いと一連か分断かで相当金額に違いが出ますし、特に最初の取引の完済が過払い金請求より10年以上前だとそれまでの過払い金返還請求権が時効消滅してしまい、過払い金の額が全然違うことになります。それどころか新たな借入後だけで利息制限法引き直しすると借金が残る(場合によったらとても多く残る)こともあって、一連計算できるか分断されてしまうかで大きな違いが出ることがままあります。

 この問題に関連して、近年信販会社(クレジットカード会社)からは、1回払いキャッシングサービスについてはそもそも過払い金を一連計算できないという主張が頑強になされるようになっています。この主張が通ると、過払い金の金額は多くのケースで激減します。

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   基本契約が1つのとき

 現在では、大手の消費者金融や信販会社の場合、一定の限度額を決めてその範囲では自由に追加借り入れできるのがふつうです。このような場合、最初に継続的な貸し借りを想定した「基本契約」をします。大手の消費者金融の場合、契約書自体に「基本契約書」(金銭消費貸借基本契約書など)と書かれていることが多いですが、そういう名称でなくても、一定の限度額の範囲で自由に追加借り入れできるという内容であれば、基本契約をしたことになります。最高裁はこの基本契約には過払い金をその後の借入金に充当するという合意(過払い金充当合意)が含まれていると解釈しています(最高裁2007年6月7日第一小法廷判決)。その結果、完済した際とその後の借入が同じ基本契約によるものであるときは、過払い金はその後の借入金に充当できる、その結果利息制限法引き直しは一連で行えることになります。(詳しくは「取引の分断・一連性:基本契約が1つのとき」を読んでください)

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   基本契約が複数のとき

 完済した後間があいて、新たな借入の際にまた別の基本契約をした場合は、その空白期間の長さなどが問題になります。最高裁2008年1月18日第二小法廷判決は、第1の基本契約に基づく取引の期間の長さ、第1の基本契約に基づく最終の返済(完済)から第1の基本契約に基づく借入までの期間の長さ、契約書の返還の有無、カードの失効手続の有無、空白期間の貸金業者と借り主の接触(勧誘等)、第2の基本契約をする経緯、第1の基本契約と第2の基本契約の契約条件の異同等の事情を考慮して第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引が事実上1個の連続した取引と評価できるかにより判断するとしています。東京地裁では、現実には空白期間が1年を超えるかを判断基準としている裁判官が多いように見えます。(詳しくは「取引の分断・一連性:基本契約が複数のとき」を読んでください)

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1回払いキャッシングサービス
 限度枠の範囲で借り入れた金額を翌月か翌々月の引き落とし日に全額一括払いで返済する1回払いキャッシングサービス(信販会社では「マンスリークリア方式」などと呼んでいます)について、近年、信販会社から、そもそも過払い金を一連計算できないという主張が頑強になされるようになり、この信販会社の主張が採用されるケースも相当数現れています。私は、この信販会社の主張は誤りだと考えていますし、また一般論として1回払いキャッシングサービスが当然に一連計算できないとしても貸し借りの実態から一連計算を認める判決もあります。(詳しくは「取引の分断・一連性:1回払いキャッシングサービス」を読んでください。

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   不動産担保借入

 無担保の消費者金融からの無担保の通常の借入をしていて返せなくなり不動産担保借入に切り替えるということがよく行われています。この場合、不動産担保による借入で無担保取引の借金を返済して追加借り入れするのが通常です。このような場合は、上の基準でいえば基本契約は複数になりますが、同日の切替という特殊性から当然に無担保取引の過払い金の不動産担保借入への充当が認められるべきです。私自身は同日切替のケースは判決でも和解でも一連性を否定されたことはありませんが、近年下級審判決では一連性を否定するものも出てきています。不動産担保の事案は負けたら結果がとても深刻ですので慎重に取り扱うべきです。(詳しくは「不動産担保取引」を読んでください)

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  過払い利息の支払い義務(悪意の受益者性) : 準備中

 貸金業者が,現在最も力を注ぎ大量の書類を出してくるのが、この論点です。

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  取引履歴を完全開示しない業者への対応 : 準備中

 取引履歴を抹消して所持していないと主張し、一部しか開示しない業者に対する過払い金請求の方法としては、推定計算によるやり方と、冒頭ゼロ計算があります。最近の東京地裁では、推定計算は相当根拠がないと認められにくくなってきています。
 所持している取引履歴を開示しないことは不法行為となりますが、貸金業者が取引履歴を抹消したと主張する場合に、所持していると認定されるかどうかに裁判官の考えが割れています。
 コンピュータデータとして所持している取引履歴については、開示が遅いことも不法行為となります。エイワのケースで開示請求から1か月程度を越えて開示しないことは不法行為とした東京高裁判決があります(最高裁はエイワの上告を棄却して確定)が、次々認められるという状態にはなっていません。

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