庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆過払い金返還請求の話

 取引の分断・一連性:基本契約が1つのとき

    

  最高裁の過払い金充当合意

 最高裁として、基本契約に過払い金をその後の借入金に充当するという「過払い金充当合意」が含まれていると初めて明言した最高裁2007年6月7日第一小法廷判決は、過払い金充当合意が認められる理由を次のように判示しています。基本契約において@借入限度額の範囲で繰り返し借り入れることができる、A返済方式が毎月一定の返済日に指定口座から口座振替(引き落とし)の方法による、B毎月の返済額は前月の借入残高(合計)を基準として定められる、C利息は前月の支払日の支払後の残高(合計)に対して計算されることが定められているから、返済は個別の貸付ごとの個別的な対応が予定されているのではなく、借入金全体に対して行われるものと解されるので、このような場合には基本契約に過払い金をその後の借入金に充当する合意を含んでいるものと解するのが相当である。
 この最高裁判決の要件は、信販会社(オリコ)のケースだったために、返済方式が口座振替(自動引き落とし)となっていますが、自動引き落としに意味があるわけではありません。Aの要件は返済期日が個別貸付ごとに別々にあるのではなく借入金全体に対して1回決まっているということに意味があるわけです。つまり、@限度額の範囲で繰り返し借入ができる、A返済は個別の貸付に対して別々の日に行われるのではなく、B返済額は借入残高全体に対して定められ、C利息は借入残高全体を基準に計算する場合には、過払い金充当合意があるということになります。これは、今どきの大手の消費者金融、信販会社には、ごくふつうに当てはまるものです。この最高裁判決は、過払い金はその後の借入金には当然には充当されないと言っていて、一見過払い金のその後の借入金への充当は例外的であるかのように見えます(消費者金融側の裁判での準備書面ではそういう主張がよく見られます)が、現実には、大半の消費者金融、信販会社の契約について過払い金充当合意を認めるものです。
 この最高裁判決の要件に関して、ごく一部の貸金業者(はっきり言えばオリコ)から、借入について個別に連番を打っており、返済はその個別貸付の分割金の合計であり、利息も個別計算しているから、返済は個別貸付ごとの個別対応を予定しており、最高裁2007年6月7日第一小法廷判決の基準から見ても過払い金充当合意が認められないという主張がなされています。準備書面で見ると、一見もっとものようにも見え、弁護士のメーリングリストで見てもこの主張で困っている弁護士もいるようですし、下級審でオリコの主張を認めた判決もあるようです。しかし、オリコもよく見ると全体の返済額が決まっていてその内訳を個別計算の形にして返済額を超えるものは元本の支払いを後に回しているだけのことが多く、その場合、やはり借入残高全体に対して返済額が決まっていると考えられます。それに、そもそも最高裁2007年6月7日第一小法廷判決は、そのオリコのオリコカードの基本契約の事例で言い渡されたものですから、最高裁はすでにそのオリコの主張を否定しているといえます(「オリコの場合」でも説明しています)。

  基本契約の個数(基本契約が同じか)

 完済後の新たな借入が、完済した際と同じ基本契約によるものである場合、この基本契約に含まれる過払い金充当合意によって、過払い金は新たな借入金に充当されます。
 問題は、基本契約が同じか(1つか)です。
 まず信販会社の場合、いったん完済してもその際にカード契約が解約されることはかなり稀で、ふつうはその後もカードを持っていて、新たな基本契約をすることなく次の借入をします。カードがそのまま使える、カード会費がその間も引き落とされているとなったら、前のカード契約が生きていることは疑う余地もありません。そういう場合には、基本契約が同じであることが明らかです。
 これに対して消費者金融の場合、いったん完済して間があいて再度借入をするときには、改めて契約書を交わすことが多いです。もちろん、完済後もカードが使える状態が続いていて、相当期間借入なしの状態が続いてもそのままATMで借入ができるケースがあり、そのような場合、新たな契約書もなく、当然に基本契約は1つということもあります(そのようなケースについてアコムの場合プロミスの場合で紹介しています)。新たに契約書を交わした場合でも、以前の基本契約の「変更契約」となっていることもままあります。契約書の名称や内容、取引履歴での記載、契約番号の枝番の付け方とかを見て判断することになりますが、この場合も、基本契約としては同じものでただその一部が変更されただけということになります。

  基本契約が同じ場合永遠に充当できるか

 基本契約が同じ場合の過払い金のその後の借入金の充当について、いわゆる空白期間(借入残高がない期間)の長さによって判断するという最高裁判例はありません。最高裁2007年6月7日第一小法廷判決はそのようなことは判示していませんし、空白期間の長さを考慮すべき事情とした最高裁2008年1月18日第二小法廷判決は、完済後に改めて基本契約が締結され、この新たな基本契約に基づく借入が行われた場合のことですから、基本契約が1つの場合についての判例ではありません。したがって、現在のところ、基本契約が同じである限り、その後新たな借入金の借入が相当期間経過後になされた場合であってもその空白期間の長さには関係なく、過払い金は新たな借入金に充当されると考えるべきです。
 ただし、では本当にいつまでも充当できるか、例えば空白期間が10年あっても充当できるか、20年あっても充当できるかとなると大丈夫かなという気もします。
 下級審の判決では、基本契約が1つの事例でも空白期間の長さを理由に充当を認めないものも見られます。ただ基本契約の個数についての十分な検討もなく最高裁2008年1月18日第二小法廷判決の判示を根拠に何となく空白期間が長いと充当できないとするのは、実務的には誤りです。そのあたりについては、よく検討して対応していく必要があります。    

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