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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
  六ヶ所再処理工場における臨界事故の危険性(その3)

  提出した準備書面の内容に若干手を加えて掲載します。(提出した準備書面には証拠書類の番号が記載されています。ここでは原則としてそれを省き一体にしました)

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  臨界管理問題についてのこれまでの経緯(この書面を読む前提として)

 六ヶ所再処理工場の臨界事故の危険性の問題については、原告側は訴状と準備書面(1)で概ね次のような主張をしました。臨界安全性については、従来は臨界実験に基づく最小臨界量に対して安全係数を掛けて設計をしてきましたが、六ヶ所再処理工場の設計に当たり、計算コードで実効増倍率を計算して実効増倍率0.95未満となることを基準とすることとする「臨界安全ハンドブック」が作成されました(1988年)。これにより安全余裕が相当程度削られることになりました。この臨界安全ハンドブックは、日本原子力研究所が旧科学技術庁から委託を受けて作成したものですが、作成に当たったメンバーは原子力事業者所属の委員が大半を占めていました。六ヶ所再処理工場の臨界設計の手法(臨界安全ハンドブックの手法)は、臨界実験の裏付けがなく、その信頼性は全て日本原子力研究所が開発した臨界計算コード「JACS」の信頼性にかかっています。JACSの信頼性は、臨界実験の体系の条件を入れて計算した結果(こういう計算を「ベンチマーク計算」といいます)が正解である1.000に十分近いか、特に間違っても0.95未満になることがないか(JACSの計算結果が0.95未満であれば絶対に臨界になることがないと言えて初めてJACSで0.95未満を設計基準とできるわけです。実際に臨界になっている体系を0.95未満と計算してしまうことがあれば使い物になりません)で検証します。原子炉についての臨界実験のデータは豊富ですが、再処理工場のような液体状の核分裂物質についての臨界実験はあまりありません。安全審査当時まで再処理工場の溶解槽を模擬した臨界実験としては唯一のものともいえる実験について行われたJACSのベンチマーク計算のJAERI−M9859(JAERIというのは日本原子力研究所のことで、その後の記号や番号はレポート類の番号です)のケース9では、40ほどの実験パターンで0.95未満が3例もありました(計算結果はこちら)。ところが、臨界安全ハンドブックではこのベンチマーク計算を無視して都合のよい結果のベンチマーク計算のみを評価してJACSは信頼できると結論づけているのです。このようなことなどから、JACSの信頼性は十分検証されておらず、臨界安全ハンドブックも恣意的なもので、それを使用した六ヶ所再処理工場の臨界安全性の審査は違法と考えられます。
 これに対して被告(国)は、被告準備書面(11)で反論し、原告側が原告準備書面(54)で再反論し、被告が被告準備書面(17)(18)でまた反論をしています。
 被告の反論は、揚げ足取り的な部分が多いのですが、要するに、臨界安全ハンドブックは参考資料の1つに過ぎない、臨界安全ハンドブックの作成メンバーは専門性を基準に選ばれており原子力事業者の利益調整の結果ではない、JAERI−M9859のケース9は実験のデータが不明確なことに起因する結果と考えられたので除外したなどを主張しています。
 ここまでの被告側の反論に対する総括的な原告側の再反論として準備したのが、以下の原告準備書面(72)です。

 ☆原告準備書面(72)☆

  第1 はじめに

 被告は、準備書面(17)、(18)において原告らの準備書面(54)に対する反論と称して縷々述べている。
 しかし、被告の反論は、臨界安全ハンドブックの性質について真実に反する建前論を述べるものであり、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価についても真実に反する主張をしているものである。そして、本件再処理工場の臨界安全性について述べる部分は、被告の主張は全て臨界安全ハンドブックが示すJACSでの実効増倍率0.95未満による設計という方法及び臨界安全ハンドブックが示している推定臨界下限値が正しい(十分に検証されている)ことを前提とするものである。
 本準備書面では、まず第2において、臨界安全ハンドブックが、実際には本件再処理工場の臨界安全性評価に用いることを主要な目的として原子力事業者に委員を割り当てて作成し、その結果従来の基準や諸外国のハンドブック類よりも事業者に有利な基準となったことを論じる。次いで、第3において、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価が恣意的なものであり、全く信頼できないこと、その結果、JACSで計算した実効増倍率0.95未満という設計手法も臨界安全ハンドブックが示す推定臨界下限値に基づく核的制限値の設定も誤りであることを具体的に論じる。そして第3及び第5において、その結果本件再処理工場の臨界管理・臨界安全性評価が全て誤りであることを論じる。その過程で第4において、計算コードによる実効増倍率の計算という手法自体誤りや偽装を第三者がチェックできず耐震設計偽装問題と同じ問題をはらんでいることを論じる。

  第2 臨界安全ハンドブックの性質に関する問題点

   1 臨界安全ハンドブック作成の経緯

 臨界安全ハンドブックは、旧科学技術庁が「臨界安全解析ハンドブック・プログラム整備事業」として1982年度から4年間日本原子力研究所(現:日本原子力研究開発機構。以下「原研」という)に研究を委託した結果、1986年3月に「臨界安全ハンドブック原案」と「臨界安全ハンドブック・データ集」が完成した。これを旧科学技術庁の原子力安全局核燃料規制課が編集したのが臨界安全ハンドブックである。
 臨界安全ハンドブック原案は、「序論」として臨界安全ハンドブック作成の経緯を記載している。そこでは、従来の諸外国のハンドブック、指針等に言及した上で、「我が国では、これら諸外国の資料を参考として臨界安全性を評価してきた。しかし、近年、再処理施設等核燃料サイクル関連施設の事業化の計画が進み、核燃料施設の安全審査や設計及び管理に統一して使用できる臨界ハンドブックを早急に編集することが必要となってきた。以上の要請に基づき、我が国独自の臨界ハンドブックの作成を目指し、科学技術庁は『臨界安全解析データ・プログラム整備事業』を57年度から4年計画として日本原子力研究所(以下原研という)に委託した。(中略)本原案はこれらの成果に基づいて作成されたものである。」(臨界安全ハンドブック原案1〜2頁)と明記されている。そして、「本原案を作成するにあたっては、ウラン加工施設及び湿式法による再処理施設を念頭に置いた。」(同2頁)とも明記されている。これらの記述は旧科学技術庁の編集の段階で削除されている。
 以上の事実から、臨界安全ハンドブックが、当時事業化の計画が進んでいた核燃料サイクル施設、すなわち六ヶ所村核燃料サイクル施設の、それも特にウラン濃縮工場と再処理工場の臨界安全性評価に使用することを目的として検討・作成されたことが明らかである。
 被告のいう「そもそも臨界安全ハンドブックは、上記のとおり、本件指定申請に係る申請書及びその添付書類において参考文献とされているものの一つにすぎず」(被告準備書面(17)1ページ)等という主張は、およそ実際の経緯とかけ離れたものである(もちろん、被告は、その事実を隠したいから臨界安全ハンドブックの編集段階で上記の記述を削除したものであるが、少なくとも委託研究段階及び原案検討作成段階での担当者の目的が本件再処理施設の臨界安全性評価のためであったことは否定する余地がない)。

   2 臨界安全ハンドブック作成メンバーについて

 臨界安全ハンドブック原案には、臨界ハンドブック専門部会構成員の一覧表が明示されている。この一覧表は、専門委員の所属と参加年度を明示しており、事業者から電事連1人、原燃サービス2人(ただし原燃サービスは昭和59年から1人追加)、三菱金属1人、三井造船1人、日揮1人(ただし日揮は昭和59年から1人追加)、NAIG(日本原子力事業株式会社:現東芝)1人、住友原子力1人、動燃2人、IHI(石川島播磨)1人、JNF(日本ニュークリア・フュエル:現グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン)1人、原燃工(原子燃料工業)1人という形で割り振られていることが明記されている(臨界安全ハンドブック原案B頁)。
 これらの事業者所属のメンバーは、参加者が途中の年度で参加しなくなると必ず同じ事業者から代わりのメンバーが出されていることがこの一覧表から明らかである。具体的にいえば、電事連から昭和57年度及び58年度に参加していた角田守の代わりに昭和59年度及び60年度は相原莞爾が参加し、電事連から常時1人が参加している。原燃サービスから昭和57年度から59年度参加していた佐藤茂の代わりに昭和60年度は大友哲宏が参加し、これと別に渡辺義之が4年間を通して参加し、昭和59年度及び60年度は陶山尚宏が参加して、原燃サービスからは常時2人に途中から1人追加して参加している。日揮から昭和57年度に参加していた山川康泰の代わりに昭和58年度は中澤昇、昭和59年度及び60年度はさらにその代わりに戸塚雅章が参加し、これと別に昭和59年度及び60年度は牧野正彦が参加して、日揮からは常時1人に途中から1人追加して参加している。住友原子力から昭和57年度及び58年度に参加していた浅野則雄の代わりに昭和59年度及び60年度は林桂一が参加して、住友原子力からは常時1人が参加している。IHI(石川島播磨)から昭和57年度及び58年度に参加していた大村博志の代わりに昭和59年度は土井猛、昭和60年度はさらにその代わりに滝田光太郎が参加し、IHIからは常時1人参加している。JNFから昭和57年度に参加していた亀ヶ谷勝之助の代わりに昭和58年度から60年度は西堀俊雄が参加して、JNFからは常時1人が参加している。原子燃料工業から昭和57年度及び58年度に参加していた津田勝弘の代わりに昭和59年度及び60年度は稲葉勇三が参加しており、原子燃料工業からは常時1人が参加している。三菱金属、三井造船、NAIG(東芝)からは同一人物が4年間参加して常時1人、動燃からは同一人物が4年間参加して常時2人参加している。
 このように事業者所属の専門委員は、各事業者から決まった数が参加し、途中で参加しなくなった委員の代わりには常にその事業者から交代要員が参加している。しかも、専門委員の数は、受託主体の原研のメンバーを除けば、昭和57年度及び58年度は16人、昭和59年度及び60年度は4人増員されて20人であるところ、昭和57年度及び58年は16人中13人が事業者所属、昭和59年度及び60年度は20人中15人が事業者所属である。
 そうすると、まさに専門委員の大半が事業者に割り当てられたものであり、原告らが準備書面(54)6頁で指摘したとおり「利害関係団体を集めて利害調整して作成したということが推認できる」というほかない。
 被告は臨界安全ハンドブック原案を編集した際に、参加した専門家リストを書き直し、参加年度を隠し50音順に並べ替えて、上記の事業者への割り当ての事実を隠蔽した。その上で被告は、原告らの正しい指摘に対して、原告らが原案を手に入れることはないと高をくくってか、今なお準備書面(17)8頁において「臨界安全ハンドブックの作成メンバーの構成は、それぞれの有する専門的識見に基づいて選ばれたものであって、利害関係団体に数を割り当てて事業者の意向を重視する体制で作成されたということはない。」などと主張しているが、全く事実とかけ離れた主張である。

   3 まとめ

 以上の事実から、臨界安全ハンドブックが、実際には本件再処理工場及び六ヶ所ウラン濃縮工場の臨界安全性の評価に使用することを主要な目的として作成されたこと、それにもかかわらず本件再処理工場及び六ヶ所ウラン濃縮工場の事業主体である原燃サービス(現日本原燃)を始め原子力事業者の割り当てによる委員が専門委員の大半を占める構成で作成されたことが明らかである。
 そして、臨界安全ハンドブックの推定臨界下限値等が、従来の基準や諸外国のハンドブック類よりも事業者に有利なものである(大きい)ことは原被告間に争いがない(被告が争っているのは臨界安全ハンドブックの安全余裕が「不当に小さい」か否かであって、従前の基準や諸外国のハンドブックに比べて相対的に事業者に有利であることは被告も認めているところである)。
 そうすると、少なくとも、本件再処理工場及び六ヶ所ウラン濃縮工場の臨界安全性を評価する基準を作成するに当たり、従来の基準や諸外国のハンドブック類よりも事業者に有利となる基準が作られ、その基準が日本原燃を始めとする原子力事業者の割り当てによる委員が専門委員の大半を占めるという構成で作成されたことが明らかである。

  第3 臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価の不当性

   1 はじめに

   (1)臨界と臨界管理

 臨界とは、核分裂性物質(ウラン235、プルトニウム239など)が一定程度集中したときに、通常1度の核分裂により2〜3個発生する中性子のうち1つが次の核分裂を順次引き起こして核分裂が連鎖的に継続することをいう。1つの核分裂で発生した中性子のうち次の核分裂を引き起こす中性子の数を実効増倍率と呼んでおり(現実には体系中のある瞬間の中性子の数がその前の瞬間の中性子の数の何倍かで計測する)、実効増倍率が1.000の状態が臨界である。
 本件再処理工場で再処理する核燃料(軽水炉の核燃料)は、ウラン燃料であり、未使用状態では核分裂性物質は原則としてウラン(ウラン235、ウラン233)のみである。ウランのうちの核分裂性ウランの割合(実質的にはウラン235の割合)を濃縮度と呼んでおり、軽水炉の燃料は、今のところ3〜5%程度の濃縮度のウランを使用している。低濃縮度のウランにおいては、核分裂により発生したままの高速度の中性子は核分裂性でないウラン238に吸収されやすいため、中性子を減速するもの(減速材)がある方が臨界になりやすい。軽水(普通の水)は効率のよい減速材であるため、ウランだけがある場合に比べ、ウランが水中にある場合ははるかに臨界になりやすい。なお、中性子を吸収したウラン238はベータ崩壊してプルトニウム239になる。使用済燃料中に含まれるこのプルトニウムを分離して取り出すことが、再処理の主要な目的である。
 原爆や原子炉では臨界に達することを目的としているが、原子炉以外の核燃料サイクル施設では、臨界に達することがないように臨界管理を行っている。核分裂性物質が集中すると臨界に達しやすく、ウランの場合水があると臨界に達しやすく、また中性子吸収材によって中性子を吸収することにより臨界を妨げることができるので、次のような臨界管理方法がある。核分裂性物質が大量に集中できないように容器の形状寸法を管理する(小さくする)形状寸法管理、取り扱う量を管理する(少なくする)質量管理、水溶液の場合に核分裂性物質の量を減らすために濃度を管理する(低くする)濃度管理、水溶液でない場合に水が入らないようにする減速度管理、他の方法による管理が難しい場合などに中性子吸収材を使用する中性子吸収材管理などである。
 いずれの臨界管理を用いるにしても、その基準となる数値が必要となる。この臨界管理のために用いられる数値が核的制限値である。臨界安全性の評価基準、ハンドブックの類は、この臨界管理の基準となる核的制限値を定めることを主要な目的としているのである。

   (2)臨界安全ハンドブックにおけるJACSの計算誤差評価の重要性

 臨界安全ハンドブックの最大の特徴は、臨界安全性についての従前の基準やハンドブック類が臨界実験による数値(実験値)に対して安全係数を掛ける形で核的制限値を定めていたのに対して、体系の中性子実効増倍率を計算コードで計算することによって核的制限値を定めるという点にある。従来の基準やハンドブック類の場合には(実際の核燃料サイクル施設と同じ条件とはいえないものの)実験値の裏付けがあるのに対し、臨界安全ハンドブックの方法は計算コードの信頼性如何に全てがかかっているのである。
 臨界安全ハンドブックは、各種の核的制限値について推定臨界下限値、推定臨界下限増倍率を提示しているが、これらは何ら実験の裏付けはなく、すべてJACSによって計算した結果であることに注意すべきである。
 つまり、本件再処理工場においても採用される、JACSによって体系の実効増倍率が0.95未満という基準で設計することのみならず、臨界安全ハンドブックが示す各種の推定臨界下限値に基づいて核的制限値を定めること自体も(従って本件再処理工場の臨界安全管理の判断基準の全てが)JACSの信頼性(計算誤差評価)如何にかかっているのである。

   (3)JACSの計算結果と臨界安全ハンドブックの信頼性の関係

 臨界安全ハンドブックにおいては、JACSの計算誤差評価にあたり、各種の体系をグループ化してそのグループごとに、実験による臨界体系の条件を入れてJACSで実効増倍率を計算した結果(このような計算をベンチマーク計算と呼び、実験で臨界となっているのであるから実効増倍率が1.000、少なくとも1.000以上となるのが正解である)を選択し、その最小値から推定臨界下限増倍率を設定している(臨界安全ハンドブック19頁参照)。そのグループの条件ではこれまでのベンチマーク計算でのJACSの計算結果でその数値(推定下限臨界増倍率)より小さい実効増倍率を出す(それより実効増倍率を過小評価する)ことがなかったのであるから、今後の計算でも推定臨界下限値未満の計算結果である場合にはその体系は臨界にならないと扱ってよいだろうということである。
 この考え方は、選択した(採用した)計算結果の数が少なかったり、選択が恣意的であれば、理論的に成り立たないものである。
 そして、JACSによる実効増倍率の計算結果が0.95未満であることを設計の基準として採用するという観点では、実験による臨界体系の条件でのJACSによる計算結果が0.95未満となることがあってはならない。実際に臨界に達する体系の実効増倍率を0.95未満と過小評価してしまうのでは、0.95未満と計算した設計の容器を現に使用したときに本当の実効増倍率が1.000以上になってしまい臨界に達するかも知れないからである。また、臨界安全ハンドブックが提案している各種の推定臨界下限値に基づいて核的制限値を定めるという観点からは、実験による臨界体系の条件でのJACSによる計算結果が各グループごとの推定臨界下限増倍率(臨界安全ハンドブック19頁の表2.4の数値)未満となることがあってはならない。臨界安全ハンドブックの推定臨界下限値は、実験による臨界体系の条件でのJACSの計算結果がこの推定臨界下限増倍率未満にはならないことを前提として計算して求めたものだからである。
 つまり、臨界安全ハンドブックにおけるJACSの計算誤差評価に採用されたJACSによるベンチマーク計算の標本の数が少ないか、選択が恣意的であるか、ベンチマーク計算の結果に0.95未満または臨界安全ハンドブックのグループ別の推定臨界下限増倍率未満のものがあるかのいずれか1つでもあれば、臨界安全ハンドブックの信頼性は失われるのである。

   (4)臨界安全ハンドブックのグループ分けと再処理の工程

 臨界安全ハンドブックが行ったグループ分けのうち、再処理工場の溶解槽は、理論上、非均質−MOXに該当するが、プルトニウムが少ない場合(即ち燃焼度が低い場合)は非均質−U低濃縮に近い。また、溶解槽から清澄機までの工程には不溶解残渣が相当程度含まれるので、やはり非均質−MOXないし非均質−U低濃縮ともいえるが、同時に水溶液でもあるので均質−MIX、均質−U低濃縮にも近く容易には分類しがたい。
 清澄機から後の計量設備、分離設備では、理論上、均質−MIXに該当するが、均質−U低濃縮にも近い。プルトニウム分配塔の後のプルトニウム系統は均質−Puに該当する。

   (5)まとめ

 以下、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価が如何に恣意的であり、誤っているか、実験による臨界体系の条件でのJACSの計算結果に0.95未満のものやグループ別の推定臨界下限増倍率未満のものがあることについて、被告の反論が誤っていることを具体的に指摘しつつ、具体的に再論することとする。

   2 非均質−MOX体系での計算誤差評価

   (1)はじめに

 本件安全審査では、溶解槽を模擬した実験の例としてはBNWL−B−482の実験例のみを挙げている。この実験の条件を用いたJACSのベンチマーク計算結果が、臨界安全ハンドブックにおけるJACSの計算誤差評価でどのように扱われたかについて検討する。

   (2)JAERI−M9859除外問題についての原被告の主張

 このBNWL−B−482の臨界実験体系についてJAERI−M9859のケース9としてJACSによるベンチマーク計算が行われ、実験による臨界体系の実効増倍率計算値として、0.9363±0.0046、0.9446±0.0052、0.9474±0.0050などの0.95未満となる過小評価誤差を生じた(JAERI−M9859の54〜55頁)。上記のとおり、この事実だけでもJACSによる実効増倍率計算値0.95未満を臨界安全評価の基準とすることはできず、また臨界安全ハンドブックが示す推定臨界下限値は(少なくとも非均質−MOXについては)信頼できないこととなるはずである。原告らはこのことを準備書面(1)22〜25頁で指摘し、準備書面(54)11〜15頁で臨界安全ハンドブックがこのベンチマーク計算を除外したのは基準が示されておらず恣意的な選択によるものであり端的にいえば0.95未満の計算結果は全て除外したものと考えられることを指摘した。
 これに対して被告は、臨界安全ハンドブックがJAERI−M9859のケース9をJACSの計算誤差評価に採用しなかった理由について「実験データそのものの不明確性に起因するものであるとして採用されなかったものである。」と主張している(被告準備書面(18)10頁)。

   (3)臨界安全ハンドブックの非均質−MOXの計算誤差評価

 臨界安全ハンドブックが反射体付き一般形状体系(こちらが通常使用するものである)についてのJACSの計算誤差評価に用いたベンチマーク計算は、標本の数のみが示され(臨界安全ハンドブック19頁)、実際にどのベンチマーク計算結果が採用されたのかは長らく公表されないままであったが、1999年になって初めて公表された(JAERI−Data/Code99−019)。
 臨界安全ハンドブックが反射体付き一般形状体系の非均質−MOXグループについてJACSの計算誤差評価に採用したベンチマーク計算の標本64例はJAERI−Data/Code99−019の32〜33頁に全て掲載されている。これをみると4つの実験体系について4件のベンチマーク計算の論文が挙げられていることがわかる。しかし、採用された4つの臨界実験体系のうち3つまでは溶液の方は水とされている。溶液にウラン、プルトニウムが含まれているのも、溶液中に中性子吸収材が含まれているのも1つの実験体系のみである。再処理工場の溶解槽においては使用済燃料中のウラン、プルトニウムを硝酸溶液で溶解させるのであるから、溶液にウラン、プルトニウムが含まれる実験体系が重要であるし、本件再処理工場では燃焼度の低い燃料の溶解時には硝酸溶液中にガドリニウムを添加するのであるからガドリニウムが含まれた実験体系も重要である。そうすると臨界安全ハンドブックが非均質−MOXについて採用した臨界実験のうちでも溶液にウラン、プルトニウム、ガドリニウムが含まれている1例こそが極めて重要と考えられる。
 その最も重要な臨界実験体系は、参考文献(37)とされており、まさしくBNWL−B−482である。
 臨界安全ハンドブックは、このBNWL−B−482の臨界実験についてJACSによるベンチマーク計算結果として、JAERI−M9859のケース9ではなく、参考文献(55)のJAERI−1303のケースC16を採用しているのである。
 以下、臨界安全ハンドブックがBNWL−B−482について採用したJAERI−1303のケースC16について検討し、なぜこれが採用されてJAERI−M9859のケース9が採用されなかったのかを検討する中で、臨界安全ハンドブックのデータ選択の基準を論じることにする。

   (4)JAERI−1303のケースC16とその誤り

 JAERI−1303は、JAERI−M9859の4年後の1986年に同じ原研により発表された。メンバーも3人まで共通している。そのようなメンバーで、すでに1度JAERI−M9859のケース9としてベンチマーク計算をしたBNWL−B−482について再度JACSでベンチマーク計算をしていること自体異例であるが、この論文ではそのことには全く触れていない。
 このJAERI−1303のケースC16では、BNWL−B−482の実験のうち13のデータについてJACSによりベンチマーク計算を行っている(JAERI−1303の75頁Table3.C.16.1)。この論文は元実験の番号も記載していない雑なものであるが、臨界液位(critical height)とガドリニウム濃度(Gd)の記載からJAERI−M9859のケース9の表4.11と4.14(JAERI−M9859の54〜55頁)の13件のデータについてベンチマーク計算を行ったものであることがわかる。つまり、JAERI−M9859のケース9のうち137群のベンチマーク計算結果で0.95未満を出しているグループについてのみベンチマーク計算をやり直したものである。このことからも、このベンチマーク計算のやり直しの意図が推認できよう。
 JAERI−1303のケースC16の計算結果は、すべて1.000を超えている(JAERI−1303の75頁)。
 そして、臨界安全ハンドブックは、JAERI−M9859のケース9のベンチマーク計算は採用せず、JAERI−1303のケースC16のベンチマーク計算は採用している。
 被告の主張によれば、JAERI−M9859のケース9のベンチマーク計算結果が採用されなかったのは「実験データそのものの不明確性に起因するものであるとして採用されなかったものである」(被告準備書面(18)10頁)。実験データそのものが不明確なのであれば、何故、同じ実験についてのベンチマーク計算であるJAERI−1303のケースC16が採用されたのであろうか。このことからしてすでに被告の主張が誤りであることは明らかである。
 さて、それでは臨界安全ハンドブックが採用したBNWL−B−482の臨界実験体系についてのJAERI−1303のケースC16は正しいベンチマーク計算結果なのであろうか。この点について少し詳しく検討してみよう。
 JAERI−1303のケースC16は、BNWL−B−482が内径(直径)55.5cmの円筒容器に燃料棒を中心同士の間隔3.048cmの三角格子で301本配置し、そこにウラン、プルトニウムの硝酸溶液を満たしていき液位何センチで臨界に達するかを実験しているのに、(計算では)「容器直径を67.16cmと仮定した。その理由は、実験報告書に記された直径55.5cmでは301本の燃料棒を記された間隔で収容できないからである。」(The vessel diameter assumed to be 67.16cm, since the diameter of 55.5cm specified in the experiment report cannot accomodate 301 fuel rods in specified pitch.)(JAERI−1303の25頁。訳文はこちら)として、容器直径を勝手に67.16cmに変えてベンチマーク計算をしているのである。実験条件と違う条件を入れて行うベンチマーク計算には何の意味もない。この事実だけで、JAERI−1303のケースC16はベンチマーク計算として誤りであることが明白である。
 むしろ、事実と異なる条件を入れながらもっともらしい計算結果が出ていること自体、却ってJACSの計算結果の信頼性がないことを示唆しているというべきであろう(この点については後述する)。

   (5)JAERI−1303のケースC16の誤りを犯した理由

 さて、真の問題はこの先にある。直径55.5cmの円筒内に3.048cm間隔の三角格子で301本の燃料棒は配置できないであろうか。
 被告提出の乙E第7号証の40頁にこの条件で301本を配置した図が記載されており、それを見ても直径55.5cmの円の中に301本の燃料棒を3.048cm間隔で配置できることが明らかである。しかし、このことはそれ以前の問題である。
 BNWL−B−482の実験で燃料棒は三角格子状に配列されているから、平面上で考えると燃料棒は正三角形の頂点に配置されている。その場合の燃料の配置されている格子点と格子点の間隔(正三角形の1辺の長さ)をaとすると、各格子点は1点を中心(重心)とする1辺の長さn×a(nは自然数)の正六角形の頂点ないし辺上にある。1辺の長さn×aの正六角形上の格子点の数は6×n個になる。その結果、1辺の長さn×aの正六角形の範囲内にある格子点の数は6×(1+2+・・・+n)+1となり(最後の+1は中心点である)、結局、6×n×(n+1)÷2+1となる。この式から一辺が9×aの正六角形の範囲内の格子点の数は271個であることが求められる。1辺がn×aの正六角形は、半径がn×aの円に内接する。そうすると、半径9×aの円の範囲内に301の格子点を配置するためには、1辺が9×aの正六角形の外側で半径9×aの円内の部分に30点、各辺の外側で5点ずつの格子点を配置できるかどうかで定まることがわかる。三角格子点配置概念図これらの格子点は1辺の長さが10×aの正六角形上にあるところ、中心から1辺の長さ10×aの正六角形の辺までの距離(左図のOPの長さ)は(一辺の長さaの正三角形の高さが30.5×a÷2であるから。なお、ここではワープロで√表記ができないため平方根を0.5と表記している)、5×30.5×a=8.66×aとなる。これが半径9×aの円内にあることは明らかである。1辺の長さが10×aの正六角形上の格子点は各辺の中点上にも存在する(aの偶数倍の時は中点上に来る)。そうすると1辺の長さが10×aの正六角形上の格子点が各辺で5つ半径9×aの円内に収まるかどうかは、1辺の長さが10×aの正六角形の各辺の中点から距離2×aの格子点(たとえば左図の点Q)と中心との距離(左図のOQの長さ)が9×a以下であるかどうかによって決まることになる(中点上の格子点及び中点から距離aの格子点はそれより中心からの距離が小さい)。これはピタゴラスの定理(左図の△OPQ:水色部分につきOQ=OP+PQ)で当然に790.5×a=8.888×aと計算できるから、半径9×aの円内にある。そうすると、301個の格子点は半径9×aの円の範囲内に全て配置できる。従って、3.048cm間隔で格子点を301個配置できる円の半径は27.432cmである。ここで問題となるのは燃料棒であるから、実際にはこれに燃料棒の半径分を足す必要があり、燃料棒の外径(直径)が0.584cmであるから半径は0.292cmで、301本の燃料棒を配置するのに必要な円の半径は27.724cm、直径は55.448cmとなる。まさにBNWL−B−482の実験論文通りに確実に配置できることが明らかである。以上のことは中学生レベルの数学的考察で論証できることである。
 JAERI−1303のケースC16の計算担当者は、この程度のこともわからなかったのであろうか。常識的にはわからないはずがない。わかっていたとすれば、意図的に真実と異なる計算をしたことになる。わからなかったとすれば、それはそれで深刻な事態である。JACSによる実効増倍率計算では、設計する容器類をどのようにモデル化するかが極めて重要な意味を持つ。このモデル化のやり方により計算結果が左右されるのである。すなわち立体的な図形のセンス、数学的センスが極めて重要なのである。そのJACSによるベンチマーク計算を、直径55.5cmの円内に3.048cm間隔の三角格子で燃料棒301本を配置できないと思いこむような、数学的センスゼロの者が行っているということになれば、その結果は全く信頼できないというほかない。

   (6)JAERI−1303のケースC16が採用された理由

 さて、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価の担当者は、JAERI−1303のケースC16が誤っていることに気づかなかったのであろうか。JAERI−1303のケースC16には、実験論文の実験条件と直径を変えて計算したと明記してあるのである。そのような記載があれば注意して検討するのが当然である。そして、ほんの少しでも数学の素養がある者であれば、直径55.5cmでは301本配置できないなどというのが嘘か中学生レベルでもわかる誤りであることに気づくはずである。気づいていたとすれば、まさしく臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価の担当者は誤りでもいいから採用したのである。そうすると、JAERI−M9859のケース9が採用されずJAERI−1303のケースC16が採用された理由は、0.95未満の結果が出たものは理由の如何を問わず採用せず、1.000以上の結果のみであるものは誤りであれ何であれ採用するというものであったと考えるしかない。
 他方、もし、万が一、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価の担当者がJAERI−1303のケースC16の誤りに気づかずに採用したのであるとすれば、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価は、数学的センスゼロの者によってデータが取捨選択されたものであり、採用の基準が適切である保証は全くなく、採用された他のデータにも信頼が置けないというべきである。

   3 非均質−U低濃縮体系での計算誤差評価

   (1)はじめに

 臨界安全ハンドブックでは、1986年に発表された、当時としては最新のJACSのベンチマーク計算集ともいうべきJAERI−1303についても、全てのベンチマーク計算を採用しているわけではない。当時最新のデータ集であるから全てそれによったというのであれば、結果として適切かどうかはおいても一貫した姿勢と評価することもできる。しかし、臨界安全ハンドブックでのJACSの計算誤差評価では、JAERI−1303についても、0.95未満の結果を出したものは採用していないのである。
 ここでは、低濃縮ウラン燃料を硝酸ウラニル溶液に浸した臨界実験体系の条件についてのベンチマーク計算であるJAERI−1303のケースC15について検討してみることにする。この条件は、理論的には未照射核燃料を溶解槽で溶解する場合がまさしくこれに該当するが、燃焼度の低い使用済み燃料の場合もこれに近いと考えられる。

   (2)JAERI−1303のケースC15

 この臨界実験は濃縮度4.3%のウラン燃料にガドリニウムを添加した(添加していないケースもある)硝酸ウラニル水溶液を加え液位がどの高さに達したときに臨界に達するかという実験である。
 この臨界実験体系の条件でJACSのベンチマーク計算を行ったのがJAERI−1303のケースC15である。
 このJAERI−1303のケースC15では、12件のうち8件が0.95未満であり、実効増倍率の最も高いもの(過小評価誤差の最も少ないもの)でさえ0.9739(JAERI−1303の75頁Table3.C.15.1)で、臨界安全ハンドブックの非均質−U低濃縮の推定臨界下限増倍率0.978(臨界安全ハンドブック19頁参照)を上回るデータは1つもなかった。
 このJAERI−1303のケースC15のベンチマーク計算結果を採用すれば、JACSの実効増倍率計算結果が0.95未満であることを基準として設計することはできないし、臨界安全ハンドブックが示す推定臨界下限値も(少なくとも非均質−U低濃縮については)全く信頼できないことになる。
 しかし、臨界安全ハンドブックはJAERI−1303のケースC15については、ベンチマーク計算結果を一切採用しなかった(JAERI−Data/Code99−019の参考文献にJAERI−1303すなわち文献(5)のC15の記載がないことだけで、一切採用されていないことが判断できる)。 

   4 臨界安全ハンドブックのベンチマーク計算採用の基準

 これまでに述べたところで、BNWL−B−482の臨界実験体系については、JACSのベンチマーク計算で0.95未満の計算結果を出したJAERI−M9859の計算結果は採用されなかったが、すべて1.000以上の計算結果を出したJAERI−1303のケースC16は明白な誤りがあるのに採用されたこと、JAERI−1303に含まれても明らかな誤りがあるが計算結果が1.000以上であるケースC16は採用されたが、0.95未満の計算結果を出したケースC15は採用されなかったことが明確である。
 被告のいう「実験データそのものの不明確性」が不採用の基準であるとすれば、JAERI−M9859の不採用の理由はBNWL−B−482の実験のデータの不明確性にあることになるから、同じ実験についてのJAERI−1303のケースC16が採用されてはならないはずであるのにこちらは採用されている(しかも明白な誤りであるのに)のであるから、被告主張の基準は事実に明らかに反する。
 以上の事実を総合すれば、臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価に当たってのベンチマーク計算結果の採用は、0.95未満の結果が出たものは採用しない、1.000以上かそれに近い計算結果のものは内容に誤りがあろうとお構いなしで採用するということであったと解さざるを得ない。

   5 他のグループのベンチマーク計算結果は信頼できるのか

 他のグループについても、ベンチマーク計算結果が臨界安全ハンドブックの推定臨界下限増倍率未満で臨界安全ハンドブックのJACSの計算誤差評価に採用されていないものがいくつか見られる。
 しかし、以上の考察を通じて、より不安なのは、1.000以上かそれに近い計算結果を出して臨界安全ハンドブックに採用されているベンチマーク計算が本当に正しいのかどうかである。これまでに述べたところから明らかなように、また被告の主張を見てもわかるように、JACSで臨界実験体系の条件で0.95未満の結果を出したベンチマーク計算は疑われ再計算される。ところが、JAERI−1303のケースC16で見られたように、計算結果が1.000以上かそれに近い計算結果については何のチェックもなされていない。JAERI−1303のケースC16など、先述したように数学的センスがほんのかけらほどでもある者が少しでも注意して見れば誤りであることが容易に指摘できる代物である。それが臨界安全ハンドブックで採用されているのであるから、意図的に見逃したのでなければ、1.000以上かそれに近い結果のベンチマーク計算は全くのノーチェックということである。そうすると、臨界安全ハンドブックで採用されている、JACSで実効増倍率1.000以上かそれに近い結果を出したベンチマーク計算は誤りがあってもノーチェックであり、どのような誤りがあるか予測できず、全体として信頼できないというべきである。

  第4 計算の誤り・偽装のチェック不能性

 臨界安全ハンドブックの採用したJACSコードシステムにより直接に実効増倍率を計算する方法は、計算が大型コンピュータを使用して計算コードにより行われるため、第三者が計算の誤りや偽装をチェックすることが困難であるという問題点を抱えている。
 今般、建築物の耐震設計において構造計算が計算コードにより行われているために、容易に偽装が行われ、行政も民間検査機関も全く偽装をチェックできなかったことが明らかになった。JACSコードシステムによる計算など、それ以上に第三者のチェックが困難である。
 偽装までいかなくても、そもそも計算を行っている者自身でさえ、モデルの設定や計算条件の入力にミスがあった場合に、計算結果からそれに気づくことは困難である。先述したのと同様に設計上都合の悪い計算結果が出たときは、何かのミスではないかと疑うであろうが、ミスの結果出てきた計算結果が、たまたま都合のよい計算結果であった場合にはミスと気づかずにそのまま採用される危険があるというべきである。
 そして、先述したJAERI−1303のケースC16は、この点についても深刻な問題を示唆している。JAERI−1303のケースC16では、計算者が勝手に臨界実験体系のデータを変えてモデル設定をしているのに、計算結果は非常に美しく1.000近傍である(JAERI−1303の75頁Table3.C.16.1参照)。本来ウラン、プルトニウムの硝酸溶液の入った円筒容器の直径を実際の実験の条件よりも20%以上も勝手に大きくしているのであるから、他の条件がそのままであれば、全てのデータについてこんなに美しく1.000近傍の計算結果が出ることは考えにくい。この計算者は文献で明記した円筒容器の直径以外に他の部分を結果が1.000近傍になるように勝手に調整したのではないかという疑いを持たざるを得ない。この事例は、JACSコードシステムが、実際の臨界実験体系と違うデータが入り、本来なら1.000近傍の結果が出るはずのない場合であっても、他の条件を調整することでもっともらしい計算結果を出すことのできる、言い換えれば偽装の容易なシステムであることを示唆しているというべきである。

  第5 本件再処理工場の臨界安全設計・臨界安全性評価の誤り

   1 臨界安全設計の誤り

 以上に述べたとおり、容器等の設計においてJACSコードシステムにより実効増倍率を計算して0.95未満とするという設計の基準そのものが、臨界安全ハンドブックでの検証が不十分で信頼できない。そして臨界安全ハンドブックが示している各種の推定臨界下限値も、JACSの計算誤差評価でJACSが臨界実験体系の条件で推定臨界下限増倍率(臨界安全ハンドブック19頁)未満の過小評価誤差を生じることがないということを前提にJACSで計算して求めたものであるから、これまでに述べた理由から信頼性がない。
 従って、JACSコードシステムにより実効増倍率が0.95未満という条件で行った設計も、臨界安全ハンドブックが示した推定臨界下限値に基づいて設定した核的制限値も、すなわち結局のところ、本件再処理工場の臨界安全設計の全体が、信頼性のないものであるといわざるを得ない。
 被告の準備書面(17)で全濃度安全形状寸法管理が多くの容器類で採用されていることが主張されている(被告準備書面(17)20頁及び図2。しかし、この被告の主張からも溶解工程全部と抽出塔以前の分離工程では全濃度安全形状寸法管理が全く採用されていないことが明らかである)が、その形状寸法が臨界防止可能なものか否か自体が臨界安全ハンドブックの示す推定臨界下限値に依存しているのであるから、それが信頼できない以上、全濃度安全形状寸法管理として有効とはいえない。そのことは、他の臨界管理方法、すなわち形状寸法管理、濃度管理、中性子吸収材管理等についても全く同じである。
 加えて、事業者側でも臨界事故の危険が相対的に高いと考えている溶解槽については、燃焼度の低い燃料を再処理する場合に、硝酸溶液中にガドリニウムを添加する中性子吸収材管理を採用しているところ、この場合には中性子吸収材を添加しなかった場合、(仮に臨界安全ハンドブックの示す推定臨界下限値が正しかったとしても)他の臨界管理では未臨界を確保できない。それにもかかわらず、溶解槽自体の中性子吸収材濃度は測定・監視されておらず、中性子吸収材の添加は全て手動操作であり自動化されていない上に、添加されなかった場合にそれを検知して運転を停止する自動ロック等の自動的な機構は全くなく、全て手動の人為的作業にゆだねられている。

   2 過渡変化・事故想定の不備

 本件再処理工場の事故想定では、臨界事故としては、溶解槽での硝酸濃度の低下による臨界事故のみが評価され、前述した低燃焼度燃料の溶解の際の中性子吸収材添加漏れは、起こりえないとして評価されていない。
 しかし、このケースの臨界管理は、元々かなり危うい。まず燃焼度の判断自体、事業者は「測定」と称しているが、直接測定できる性質のものではなく、推測によるものである。そして中性子吸収材の添加を必要とする燃焼度はJACSが臨界実験体系の条件で臨界安全ハンドブックの推定臨界下限増倍率未満の過小評価をしないことを前提として計算して定めたものであり、先に述べた理由から信頼できない。そして推定した燃焼度のデータは、それにより自動的に剪断の停止等には結びつけられず(インターロック等はなく)燃料集合体番号とともに管理される(伝達される)のみである。溶解槽に供給される中性子吸収材の濃度は、溶解槽自体では計測監視されず、硝酸調整槽でサンプルを取って2回分析し(インラインで自動的に行うわけではない)、硝酸供給槽で監視するのみである。
 このように低燃焼度燃料の溶解の際の中性子吸収材の添加・濃度確保による中性子吸収材管理は、全てが作業員による手動の操作にゆだねられているのである。それにもかかわらず、本件安全審査では、硝酸調整槽で2回分析することになっているから添加漏れは起こりえないとして事故評価を一切行わなかったのである。核燃料サイクル施設の事故は、これまでもその多くが人為ミスが絡んで発生している。2回測定するというのは、実質的には単一の要因で忘れられるか無視される可能性がある。また、このような理由で事故を想定しなくてよいのであれば、全てのことがらについて2回測定することにすれば何の事故も想定しなくてよいことになってしまう。本件安全審査において低燃焼度燃料の溶解の際の中性子吸収材添加漏れを評価しなかったことは看過しがたい過誤欠落に当たるというべきである。

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