◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
航空機落下確率評価に関する適合性審査の誤り
六ヶ所再処理工場では、重量20tの航空機(F16)が150m/sの速度で衝突した場合に耐えられるという防護設計をしていますが、周辺(南方10km)に存在する三沢対地射爆撃場で年間数万回行われている訓練飛行中にF16がエンジン停止して六ヶ所再処理工場に墜落する場合の計算上6割以上が150m/sを超える速度で衝突することが、科技庁審査の際に用いられた資料で明らかになりました。その点も含めてさまざまな観点から150m/sを基準とする防護設計では現実にはF16の墜落に耐えられず、六ヶ所再処理工場の防護設計はまったく不十分です。
また原子力規制委員会の航空機落下問題の規制基準とされている航空機落下確率評価基準は、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」にはその実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価することを求めているのに、日本原燃と原子力規制委員会はこの基準を無視してその評価を行いませんでした。三沢対地射爆撃場での訓練飛行の実際の状況を考慮した評価では六ヶ所再処理工場への航空機落下確率は基準の10−7を超え、追加の(150m/sを超える速度での)防護設計を求めることなく行われた変更許可(再稼働GOサイン)は違法無効です。
提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します(書証の画像を挿入し、若干説明を追加しています)。
被告は原子力規制委員会、補助参加人は日本原燃株式会社(六ヶ所再処理工場の運営事業者)です。
☆原告準備書面(191) 航空機落下確率評価に関する適合性審査の誤り
第1 はじめに
被告は、新訴・被告準備書面(2)及び同(3)において、被告の適合性審査に際して航空機落下確率評価に用いられる審査基準である「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率に対する評価基準」(乙E第15号証。以下「航空機落下確率評価基準」という。こちらから入手できます。ただし、乙E第15号証と内容は同じですがページ数にズレがありますのでご注意ください)には、自衛隊機又は米軍機の落下事故の評価について対象航空機の種類による係数を乗ずる方法は記載されていないが、本件再処理施設については、重量20tの航空機が速度150m/s(メートル毎秒)で衝突した場合の衝撃荷重に対する防護設計をしていることを理由に、F16と同程度かそれ以下のものの墜落事故については10分の1の係数を乗ずることとして、評価した落下確率の総和が10−7(回/年)を超えないとして、既存以上の防護設計を求めることなく審査基準に適合したと認めて変更許可を行ったことについて、航空機落下確率評価基準に違反するものではなく、また合理的であるとし、三沢対地射爆撃場(天ヶ森射爆撃場)が近隣にあり年間数万回もの戦闘機の飛行があるにもかかわらず全国一律の落下確率を前提とする航空機落下確率評価基準を用いたことも合理的であり(「保守的な評価」とまで述べている)、航空機落下確率評価基準の適用に当たり誤った(虚偽の)事故数を用いた日本原燃の評価を見過ごし、F35Aの墜落事故直後の適合性審査会合でさえF35について誰一人言及もしなかったこと、落下確率の総和が基準の10−7(回/年)に近づくと本件再処理工場について特例の計算方法を採用したことなどの被告の姿勢についても問題ないとしている。
本準備書面においては、被告の主張の前提である、重量20t、衝突速度150m/sに対する防護設計が、F16の墜落に対する防護設計として不十分であること(したがって、被告がF16とそれ以下のものの墜落について10分の1の係数を乗じて落下確率評価をするとしたことには根拠がなく、誤りである)、本件再処理工場について三沢対地射爆撃場における訓練飛行を現実的に評価すれば航空機落下確率は基準の10−7を超え、追加の防護設計なく本件再処理工場の変更許可はできないこと、原告らがこれまでに指摘した被告の適合性審査における姿勢は明らかに公正を失しており本件変更許可処分はその手続上も瑕疵があることを論じる。
第2 既存の防護設計はF16の墜落に耐えられるのか
1 最良滑空速度について
被告は(補助参加人は)、三沢対地射爆撃場で訓練コースを周回中の航空機が本件再処理工場に墜落する可能性があるのはエンジン停止の場合であるとし、その場合にはパイロットは最良滑空速度に保つ(その上で脱出する)と考えられるとして、そのことを理由に本件再処理工場への衝突速度の最大値が最良滑空速度であるかのように主張してきた(被告準備書面(2)第2の3(2)イ(ウ)b(b)及び(c):同準備書面29〜35ページ、被告準備書面(3)第3の2(2)イ:同準備書面53ページ、乙D第85号証14〜15ページ)。(注:乙D第85号証は、原子力規制委員会が自分の主張の裏付けとして証拠提出してきた安全審査資料で1991年4月付で三菱重工業と日本原燃作成の「訓練中の航空機の事故について」と題する資料。ネット上発見できませんでした)
乙D第85号証表紙
しかしながら、原告らが従前から指摘しているように、エンジン停止の場合以外にも墜落事故は当然にあり得(被告提出(被告に提出したのは補助参加人)の乙D第85号証等においてもF16のAクラス事故の原因のうちエンジン停止に当たる「燃料系」「エンジン」は40%程度で、残り60%は他の原因とされている:乙D第85号証11ページ、9ページ等)、その場合、地上への衝突速度は最良滑空速度とは関係なく巡航速度(戦闘機の場合音速以上)に近くなりうる。
乙D第85号証11ページ
乙D第85号証9ページ
そして、それだけではなく、エンジン停止の場合でも、パイロットが最良滑空速度を維持するように操作した後、重力による加速があり、地上への衝突速度は最良滑空速度を超えうるのである。すなわち、エンジン停止時の最良滑空速度は最終的に到達する上限(平衡)速度ではなく、パイロットが操作している間の速度、パイロットが脱出するまでの速度であって、事故の初速に過ぎない。
その点において、被告の主張は非常にミスリーディングである(原告ら代理人もこれまでそのように思い込まされていた)。
2 初速144m/sのF16の本件再処理工場への衝突速度
甲D第385号証は、高レベル放射性廃棄物管理事業許可の1次審査(行政庁審査=旧科学技術庁による審査)の審査資料として本訴の過程で原告らに開示された文書(本件再処理工場の1次審査資料は、存在しないとして今なお一切開示されていない。なお、補助参加人は本件再処理工場の1次審査資料を当然に所持しているはずであるが、裁判所の文書送付嘱託に対して、どれがその資料か特定できないなどという白々しい回答をしてほおかむりし続けている)の1つである。作成者は記載されていないが、FAXの耳に「MAPI」の記載があることから三菱原子力工業株式会社(1995年に三菱重工業に吸収された)の技術者が作成し、乙D第85号証と同様、補助参加人が行政庁に提出したものとみられる。
甲D第385号証 図1:想定飛行ルート(左側のFAXの耳にMAPIの印字あり)
今回、高レベル放射性廃棄物管理事業許可の1次審査資料を探っていてこれを発見したことが、原告ら代理人の誤解/思い込みを解いてくれた。
この甲D第385号証は、乙D第85号証とまったく同じ手法によって、三沢対地射爆撃場で訓練コースを周回中のF16がエンジン停止した場合にそのF16が本件再処理工場(ないし高レベル放射性廃棄物管理施設)に墜落する確率密度(エンジン停止事故1回あたりの施設1平方メートルあたりの墜落確率)を評価したものである。乙D第85号証との違いは、乙D第85号証が、本件再処理工場に墜落する確率密度の総和のみに言及しているのに対して、甲D第385号証は、衝突速度別の分布を評価していることにある。
三沢対地射爆撃場で訓練コースを周回中にエンジン停止したF16が初速144m/s(最良滑空速度)で制御不能となりパイロットが脱出した場合にその際の機体の方向や姿勢を想定できる範囲内でランダムにとって計算評価した結果、その事故機が六ヶ所施設(本件再処理工場)に到達する(墜落する)確率は、全体(あらゆる速度の合計=衝突速度>0m/s)でエンジン停止1回・施設面積1uあたり7.60×10−11と評価されている(甲D第385号証表1)。そして、同じ条件でF16が本件再処理工場に150m/sを超える速度で墜落(衝突)する確率は同じくエンジン停止1回・施設面積1uあたり4.57×10−11と評価されている。これは、三沢対地射爆撃場で訓練コースを周回中にエンジン停止したF16が本件再処理工場に墜落すると評価された場合の中で60%が150m/sを超える速度で衝突すると評価されていることを意味する。さらにいえば、この資料からは、160m/sを超える速度での墜落の確率が1.85×10−11(全体の24%)、170m/sを超える速度での墜落が1.57×10−12(全体の2%)に及んでいる。
甲D第385号証 表1
三沢対地射爆撃場の訓練コースと本件再処理工場の位置関係、F16の諸元を入れて、まさに三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中にF16がエンジン停止した場合に本件再処理工場に墜落する速度を現実的具体的に評価した結果、本件再処理工場に墜落する場合には150m/sを超える速度で墜落する確率が何と60%にも及ぶ(過半数である!)というときに、衝突速度を150m/sとした防護設計など、まったく防護設計の名に値しないというべきである。
3 F16の最良滑空速度は144m/sで十分か
被告は(補助参加人は)、F16の最良滑空速度を求めるに際し、機体重量を16tとして、144m/sを算出し、保守的に衝突速度を150m/sとしたとしている(被告準備書面(2)第2の3(2)イ(ウ)b(c):同準備書面35ページ)。
本件再処理工場においては、機体重量20tのF16が衝突速度150m/sで衝突するという条件で防護設計がなされているところ、F16がフル装備の場合に20t(製造元のロッキード・マーチンのサイト上のスペックでは最大離陸重量は21.7tに及ぶ:下図)ということを考慮するのであれば、その際の最良滑空速度は144m/sでは過少評価である。
最良滑空速度の計算式は次のとおり(乙D第50号証86ページ)である。
ここでは、航空機の質量Mが変化すると最良滑空速度はその平方根で効き、同じ機種であるから主翼面積は同じ、揚力係数および抗力係数も重量で変化するものではないので、16tのF16の最良滑空速度が144m/sであれば、20tのF16の最良滑空速度は16分の20(=1.25)の平方根である1.118倍となるから約161(160.99)m/sとなるはずである。被告ないし補助参加人において違うというなら正しい計算を示していただきたい。なお、F35の場合、機種の違いはあるが、重量30tであれば最良滑空速度は概ね200m/s程度になると思われる。これについても違うというなら正しい計算を示して欲しい。
4 周回中以外のエンジン停止の場合
甲D第385号証は、三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中のエンジン停止のみを評価したものである。この場合、本件再処理工場に墜落する可能性があるのは、急降下した後の上昇中にほぼ限られる(下図:被告準備書面(3)32ページの図が大変わかりやすいので引用する)。
しかし、三沢対地射爆撃場で訓練する戦闘機は、突然周回コース上に現れるのではなく、全国各地の基地から三沢対地射爆撃場まで飛行し、周辺上空で旋回等をしながら待機した上で訓練コースに入り、その後あるいはその間も周辺上空で旋回するなどして待機し、訓練終了後は全国各地の基地へと帰投するのである。周回コース上以外での旋回、待機時には、この評価での高度1800mに向けて上昇する途中のそれよりも低い高度ではなく、1800mや、さらには空域の飛行上限の23000ft(約7000m)までのさまざまな高度を飛行しているはずである。高高度でエンジン停止して最良滑空速度で落下を始めた場合、甲D第385号証よりもさらに高速で本件再処理工場に落下することになることは明らかである。
やはり高レベル放射性廃棄物管理事業許可の1次審査に提出された資料である甲D第53号証では1800mからの墜落では215m/s、23000ftからの墜落では340m/sというような衝突速度が記載されているのは、そういうことである。
甲D第53号証(前半)
5 まとめ
以上に述べたとおり、三沢対地射爆撃場で訓練を行う戦闘機が、エンジン停止以外の事故によって墜落した場合はもちろんのこと、エンジン停止により墜落する場合であっても、機体重量16tのF16が訓練コース周回中にエンジン停止して最良滑空速度の144m/sを初速として墜落するという適合性審査での中心的想定でさえ本件再処理工場に墜落する衝突速度が150m/sを超えるケースが60%にも及んでおり、170m/s超さえ無視できない割合であること、フル装備のF16の最良滑空速度は約161m/sであること、三沢対地射爆撃場で訓練する戦闘機が訓練コース周回中以外にエンジン停止した場合にはより高速で衝突することが想定されることに照らし、重量20tのF16が150m/sで衝突した場合に対応した本件再処理工場の既存の防護設計では、現実のF16の墜落に耐えられる保証はない。
よって、既存の防護設計でF16の墜落に耐えられるとする評価を前提とする被告の航空機落下確率評価基準の適用判断、ひいてはそれを前提とする本件変更許可処分は、前提事実を欠き(前提が誤りであるから)違法無効というべきである。
第3 本件再処理工場の落下確率の総和は10−7未満に収まるか
1 三沢対地射爆撃場で訓練中の航空機の落下確率評価
(1) はじめに
航空機落下確率評価基準は、「自衛隊機又は米軍機の落下事故」について、原子炉施設上空に訓練空域が存在する場合以外については、全国平均の落下事故率を用いた落下確率評価を求めている(乙E第15号証基準−7〜9ページ)。しかし、航空機落下確率評価基準は、基準全般について「当該原子炉施設の立地点における状況を現実的に考慮した評価を行い、その妥当性を確認した上で、当該原子炉施設への航空機落下の発生確率の総和が10−7(回/炉・年)を超えないこと」と定め(乙E第15号証基準−2ページ)、さらに「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の評価の中で「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合は、こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」と定めている(乙E第15号証基準−8ページ)。(航空機落下確率評価基準はこちらから入手できます、ただし、乙E第15号証と内容は同じですがページ数にズレがありますのでご注意ください)
本件再処理工場の場合、周辺に存在する三沢対地射爆撃場上空での訓練飛行の回数が年間4万3000回から2万回にも及んでいるのであるから、まさしく原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなっていると評価でき、こうした実際の状況を考慮した航空機落下の確率評価が、航空機落下確率評価基準上も必要である。乙D第85号証、甲D第385号証はまさにこの実際の状況を考慮した評価である。
(2) 乙D第85号証の評価
被告が提出した乙D第85号証は、三沢対地射爆撃場で訓練コースを周回中にエンジンを停止した戦闘機(F16)が本件再処理工場に墜落する確率密度を、エンジン停止1回・施設面積1uあたりで5.2×10−11と評価し、これにF16の飛行時間あたり事故率と訓練機の年間飛行回数を乗じて、施設面積1uあたりの年間落下確率を1.0×10−10とし、さらに事故をエンジン故障に限定すると施設面積1uあたりの年間落下確率は4.4×10−11と結論づけている(乙D第85号証22ページ)。
乙D第85号証22ページ
本件再処理工場においては、航空機落下の評価における工程ごとの標的面積の最大値はウラン・プルトニウム脱硝工程の0.043平方キロメートル、言い換えれば4万3000uである(被告準備書面(3)42ページ)。
そうすると、乙D第85号証で計算評価された三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中にエンジン停止した航空機の落下確率は4.3×10−6、事故率をエンジン停止に限定しても1.9×10−6となる。前者は被告の基準の10−7の43倍、後者は19倍にもなり、基準を超えていることは明白である。
被告は、どうしてこのような資料を目の当たりにしながら、本件再処理工場への航空機落下確率が10−7未満だなどと言い続けられるのであろうか。
なお、乙D第85号証の評価は1991年時点のものであり、その頃とはF16の事故率も三沢対地射爆撃場の訓練機飛行回数も違うということが、被告ないし補助参加人からいわれるかも知れない。無意味な言い訳により訴訟を遅延させないために予め述べておくと、乙D第85号証で用いられているF16の1983年から1989年の10万飛行時間あたりのAクラス事故発生率5.02(乙D第85号証20ページ、10ページ)は近年減少しており(甲D第386号証:こちらの表の ClassA Rate を参照してください)直近10年(2012年〜2021年)平均で1.807、直近20年(2002年〜2021年)平均で1.86である。
乙D第85号証20ページ
そして、三沢対地射爆撃場での訓練飛行回数は、補助参加人の調査結果では2013年4月からの1年間では約2万回とされている。これらの修正をした場合乙D第85号証による三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中の航空機のエンジン停止に起因する本件再処理工場への航空落下確率の評価は、F16の事故発生率を低い方の直近10年平均を用いても、8.08×10−7、事故率をエンジン停止に限定(これについてはF16の最新の資料を入手できないので、乙D第85号証の一般的記載である11ページの燃料系が5%とF16のエンジントラブル35%の合計40%ないしは、22ページ及び9ページの1983年から1989年の実績86件中34件(これも39.5%で実質同じ)を用いる)した場合で3.23×10−7であり、いずれにしても三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中にエンジン停止した航空機の墜落確率評価だけで、10−7を超えることになる。
(3) 甲D第385号証の評価
さて、被告からは、上述の点についても、20t、衝突速度150m/sの防護設計がなされているから、それ以下の衝突はカウントしなくてもいいとか、影響が小さいから係数をかけていいという主張がなされるのであろう。
その点について、先述の甲D第385号証の評価を検討しよう。
甲D第385号証によれば、三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中にエンジン停止した航空機のエンジン停止1回・施設面積1uあたりの衝突速度150m/s超での落下確率密度は4.57×10−11である。
甲D第385号証 表1(再掲)
これに乙D第85号証が用いていた当時のF16のAクラス事故率(10万飛行時間あたり5.02:乙D第85号証20ページ)と当時の三沢対地射爆撃場での訓練飛行回数(年間4万3000回)を用いた場合は、事故率中エンジン停止が40%として、1.7×10−6となる。F16のAクラス事故率を直近10年平均で10万飛行時間あたり1.807、エンジン停止はそのうち40%、三沢対地射爆撃場での訓練回数を年間2万回とした場合でも2.8×10−7となる。
すなわち、本件再処理工場の既存の防護設計で想定している衝突速度150m/sを超える速度での衝突だけを評価しても、三沢対地射爆撃場で訓練コース周回中にエンジン停止した航空機の落下確率評価だけで、基準の10−7を超えてしまうのである。
2 他の航空機の落下確率評価
(1) 考え方
航空機落下確率評価基準は、「自衛隊機又は米軍機の落下事故」について、原子炉施設上空に訓練空域が存在する場合以外については、全国平均の落下事故率を用いた落下確率評価を求めている(乙E第15号証基準−7〜9ページ)が、これは原子炉施設の実際の状況を何ら考慮しないものであるから、本件再処理工場に関していえば、本件再処理工場の特殊事情である三沢対地射爆撃場での訓練飛行中の航空機の落下事故以外の、他の原子炉施設と共通の航空機の落下確率を評価しているものと解される。
したがって、本件再処理工場に対する「自衛隊機又は米軍機の落下事故」は、三沢対地射爆撃場での訓練飛行中の航空機の落下確率を評価した乙D第85号証または甲D第385号証の方法による落下確率と、それ以外の航空機の落下確率を評価した航空機落下確率評価基準記載の全国平均の落下事故率を用いた評価方法による落下確率を合計して算出することが合理的である。航空機落下確率評価基準が、周辺に存在する訓練空域の飛行回数が著しく多い場合にその実際の状況を考慮した評価をすべきことを求めていること、評価基準記載の評価方法が全国平均の事故率を用いるものであり当該原子炉施設の実際の状況が含まれていないことに照らし、航空機落下確率評価基準自体が上述のような方法を求めているものというべきである。
このように考えた場合でも、第2で述べたように、周辺に存在する訓練空域の飛行回数が著しく多いという本件再処理工場の特殊事情のうち訓練コース周回中以外の旋回・待機等の際のエンジン停止等が考慮されていない点で、なお落下確率を過少評価するものである。
(2) 航空機落下確率評価基準による本件再処理工場への航空機落下確率
被告が本件再処理工場への「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の評価について、航空機落下確率評価基準に記載のない「対象航空機の種類による係数」を乗じるという方針を出す前、補助参加人は、本件再処理工場への「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の確率について9.0×10−8と評価していた(乙D72号証20ページ)。1(2)で述べたように三沢対地射爆撃場での訓練コース周回中にエンジン停止した航空機の本件再処理工場への落下確率は、F16のAクラス事故率を直近10年の平均で10万飛行時間あたり1.807、エンジン停止はその40%、訓練飛行回数を年間2万回と修正(落下確率が大幅に低くなる修正)しても3.23×10−7である。そうすると、本件再処理工場への「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の確率は4.13×10−7となる。(なお、計器飛行方式の民間航空機の落下確率についても2.2×10−10という評価がなされている(乙D第72号証19ページ)が、これを加算しても評価結果に影響しない。)
被告が、本件再処理工場を救済するために言い出した(原告らの主張では航空機落下確率評価基準を歪曲した)防護設計対象以下のものの影響を低く評価する手法による場合、その方針に基づいた「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の確率は、標的面積が最も大きいウラン・プルトニウム脱硝工程で4.5×10−8とされている(乙D第50号証33ページ)。1(3)で述べたように三沢対地射爆撃場での訓練コース周回中にエンジン停止した航空機が防護設計条件の150m/sを超える速度で本件再処理工場に落下する確率は、F16のAクラス事故率を直近10年の平均で10万飛行時間あたり1.807、エンジン停止はその40%、訓練飛行回数を年間2万回と修正(落下確率が大幅に低くなる修正)しても2.8×10−7である。そうすると、本件再処理工場への「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の確率は3.25×10−7となる。(なお、計器飛行方式の民間航空機の落下確率についても2.3×10−10という評価がなされている(乙D第50号証30ページ)が、これを加算しても評価結果に影響しない。)
したがって、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合は、こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」という航空機落下確率評価基準の定めに基づいて三沢対地射爆撃場での訓練飛行の実際の状況を考慮して落下確率を評価した上で、他の航空機の落下確率評価を行えば、航空機落下確率評価基準の本来の姿である「自衛隊機又は米軍機の落下事故」については「対象航空機の種類による係数」を用いない場合はもちろんのこと、既存の防護設計条件以下のものは影響を低く評価するという被告の手法を用いた場合であっても、本件再処理工場への航空機落下確率の総和は10−7を大幅に上回ることになる。
第4 被告の審査の不公正さ等について
1 三沢対地射爆撃場の存在を無視して全国平均を用いようとしたことについて
原告らが、周辺に三沢対地射爆撃場が存在し年間数万回に及ぶ訓練飛行が行われている本件再処理工場について、「自衛隊機又は米軍機の落下事故」の評価を全国平均の事故率で行うことは不合理である旨主張したのに対し、被告は、「本件再処理施設又はその周辺上空において訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した事例は、過去20年間に1件も存在しない。そのため、本件再処理施設周辺に限ってみれば、事故確率を『0』とすることも考えられなくはないところ」保守的な評価をするために全国平均事故率を用いているのだと主張している(被告準備書面(2)第4の1(2)イ:同準備書面43ページ)。
原告ら代理人(伊東)はこの被告の準備書面の記述を見て目を疑った。福島原発事故前、原発敷地に波高10mを超えるような津波は1000年以上襲来していなかった。それを理由に地震調査研究推進本部の長期予測で大地震・大津波の危険を指摘されても現実的ではないなどといって東電が津波対策を怠ってきたがために福島原発事故が発生した。被告は、その反省の下に設けられた原子力規制当局であったはずである。その被告がたかだか20年間たまたま事故がなかったから、周辺上空で実際に年間数万回も訓練飛行がなされていても他の地域より安全だとかそれを理由に事故確率を0と評価することも考えられるなどというのである。
原子力規制委員会設置法は、その目的を定める第1条において「原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に」立つことを宣言している。被告のサイトに掲載されている「組織理念」は「原子力規制委員会は、2011年3月11日に発生した東京電力福島原子力発電所事故の教訓に学び、二度とこのような事故を起こさないために、そして、我が国の原子力規制組織に対する国内外の信頼回復を図り、国民の安全を最優先に、原子力の安全管理を立て直し、真の安全文化を確立すべく、設置された。原子力にかかわる者はすべからく高い倫理観を持ち、常に世界最高水準の安全を目指さなければならない。我々は、これを自覚し、たゆまず努力することを誓う。」と高らかに宣言している。
被告が設けられた経緯と目的、上記の組織理念と、周辺で現実に年間数万回もの訓練飛行がなされている施設について、たった20年間事故がなかったから他の地域より安全だなどと言い放つ被告の姿勢の落差はあまりにも大きい。裁判上の主張としてであっても、このような意識でいる者が、福島原発事故後の原子力規制業務を担っていることに、原告ら代理人は慄然とする。
2 再処理工場の特徴について
被告は、原子炉施設と再処理工場の違いとして、原子炉施設が核燃料を臨界状態で扱っており、外部からの衝撃による損傷があれば炉心溶融に至りかねず直ちに公衆または従事者に放射線障害を及ぼすおそれがあるのに対し、再処理施設は核分裂反応を意図的に生じさせてはいないため、施設が高温、高圧状態にはなく、原子炉施設に比較すると外部からの衝撃によって直ちに公衆または従事者に放射線障害を及ぼす事象が生じるおそれは相対的に低いと主張している(被告準備書面(2)第2の1:同準備書面25〜27ページ)。
被告の主張はあまりにも一面的であり、再処理工場の危険性を正しく認識しないものである。
原子炉施設(原発)の炉心あるいはそれを包む圧力バウンダリに大きな損傷が生じた場合に大事故に至り、放射性物質の大量漏洩につながることは疑いのない事実であるが、航空機落下との関係でいえば、原子炉はいわゆる5重の壁(燃料自体がペレットに焼き固められ、ジルカロイ製の燃料被覆管に包まれ、厚さ十数cm以上の圧力容器、鋼鉄製の格納容器、鉄筋コンクリート製の建屋)で守られており、また放射性物質の大量漏洩は炉心溶融があって初めて起こり、その炉心溶融に至るまでに相応の時間があり対処の余地がある。これに対し、再処理工場では、ペレットと燃料被覆管は再処理のために最初から溶かされて放射性物質は漏洩しやすい液体状で扱われ、厚さは公表されていないが2cm程度の容器や配管と建屋の2重(配管はたいして厚くないことを考えれば1.5重くらい)の壁しかなく、航空機落下によって建屋の壁・天井が損壊して配管等が損傷すれば(さらにいえば航空機落下の場合同時に燃料油火災も生じるのが通常と考えられるからそれにより液体状の放射性物質が加熱され)、まさに直ちに放射性物質がそのまま大量に漏洩してしまうのである。航空機落下による施設損傷から放射性物質漏洩までの時間(タイムラグ)に関しては、再処理工場の方が原子炉施設の場合よりも遥かに速いことが想定される。
被告の主張は、その点をあえて隠蔽しているものであり、あまりにも偏ったものである。
被告は、再処理工場では放射性物質を取り扱う建屋が分散配置されているため、標的面積も原子炉施設と比較して大きくなるとして、原子炉施設の基準を再処理施設にそのまま用いると過度に厳しく規制する結果となり、「危険性を適切に反映できる評価方法であるとはいいがたい」などと主張している(被告準備書面(2)第2の1:同準備書面25〜27ページ)。
しかし、前述したように再処理工場は、原子炉施設と異なり放射性物質を漏洩しやすい液体状で取り扱う施設であり、施設の損傷が直ちに(炉心溶融等を待たずに)放射性物質の漏洩につながるという危険を有しており、その危険な放射性物質(溶液)が存在する場所が多数あって広大な面積に及んでいるのであるから、航空機落下により放射性物質に直結する箇所が多く、航空機落下による危険が大きな施設として評価されるのは当然のことである。
3 補助参加人の誤った(虚偽の)評価を看過したことについて
被告は、補助参加人が2017年6月22日の第205回審査会合において、航空機落下確率評価基準では直近20年間の事故に基づいて事故率を評価しなければならないのに1993年1月から2012年12月までの20年間の事故によって、落下確率を7.5×10−8と過少評価した結果を報告した(甲D第247号証、乙D第89号証:同一文書)ことについて、適合性審査会合でまったく指摘をせず、原告らが2018年3月18日付の準備書面(158)第5の3(同準備書面7〜8ページ)でその不正を指摘したところ、補助参加人が2018年7月6日付で1998年4月から2018年3月までの20年間の事故によって落下確率を9.0×10−8と再評価した(甲D第259号証、乙D第72号証:同一文書)ことについて、結果として修正されているから問題ない旨主張している(被告準備書面(3)第3の1(2)ア:同準備書面46〜47ページ)。
確かに、航空機落下確率評価基準の適用に際して補助参加人が基準の要求を満たさないデータに基づいて落下確率を不当に低く見せたことそのものは是正された。
しかし、問題は、それが被告の指摘によってではなく、原告らの裁判上の指摘によって初めてなされたということにある。原告らが指摘しなければ、この点は是正されないままに適合性審査を通っていた可能性が高い(2017年6月22日提出の評価結果について、原告らが指摘するまで8か月余、被告から何らの指摘もなされなかった)。これが被告が気付かなかったためであるとすれば被告の能力の問題であり、気付いていたが原告らが指摘しなければ黙認しようとしていたのであれば被告の規制の意思の問題である。いずれにしても、明白な基準違反の評価が被告によっては指摘されなかったことは、他にも原告らが発見できていない同様の不正行為があったとしても被告による是正を期待できないし、それが指摘されずに本件変更許可がなされている可能性が否定できないことを意味している。
4 F35の事故を無視しようとする姿勢について
被告は、原告らが、原告ら準備書面(168)第4の2(同準備書面10ページ)で、2019年4月23日の適合性審査会合は三沢基地配備のF35Aが墜落した事故(2019年4月9日)の2週間後に行われ、かつ本件再処理工場への航空機落下を議題としていたにもかかわらず、誰一人F35Aについて質問も発言もしなかった(審査会合の議事録=甲D第296号証参照)ことについて、安全審査の名に値しない旨主張したのに対し、同墜落事故は海上への墜落だから航空機落下確率評価基準の評価対象とならないと主張している(被告準備書面(3)第3の1(2)ウ(ア):同準備書面48〜49ページ)。
また、被告は、原告らが原告ら準備書面(168)第4の4(同準備書面11〜12ページ)で、旧科学技術庁は事業指定後に三沢基地に配備された戦闘機F4EJ改についても本件再処理工場に落下した場合の評価を求めていたにもかかわらず、被告は現在三沢基地に配備され主力戦闘機となっているF35Aについて、それが本件再処理工場に墜落した場合の評価をまったく求めようともしないことについて、被告の姿勢を批判したことに対しても、航空機落下確率評価基準は落下の確率を基準としているのであって既存の防護設計が耐えられるかは審査対象外だと主張している(被告準備書面(3)第3の1(2)ウ(イ):同準備書面49〜50ページ)。
原告らの上記主張は、航空機落下確率評価基準の適用そのものについて述べたものではなく、被告の姿勢、常識的には、航空機落下について審議している適合性審査でつい先日発生した墜落事故について誰も一言も話題にもしないというのは、それ自体異常であり、むしろ何らかの意図によるものと見られるし、国会事故調報告書で「事業者の虜」と評価された福島原発事故前の規制当局は、補助参加人に対して三沢基地に現実に配備された戦闘機については事業指定後に配備されたものについても防護設計上再評価するよう求めていたのに対し、福島原発事故前の規制行政(の甘さ・事業者とのなれ合い)への反省から発足したはずの被告(原子力規制委員会)が、補助参加人に対して、三沢基地に現実に配備されているF35についての再評価を求めることなく、いかにすればF35についての防護設計・再評価をしなくていいかの言い訳を捻り出すことに汲々としているのは、適合性審査として、また規制当局としておかしいだろうと言っているのである。被告はそれに正面から答えることなく、あえて航空機落下確率評価基準に関する形式論で応答して議論をかみ合わせずに逃げようとしているのである。
5 対象航空機の種類による係数を用いたことについて
被告は、本件再処理工場の航空機落下確率評価に際しては、自衛隊機及び米軍機のうちその影響がF16と同等かそれ以下のものについて10分の1の係数を乗じるとしたこと(甲D第304号証、乙D第69号証:同一文書)について、航空機落下確率評価基準にその考えが内在しており許容される旨縷々主張している(被告準備書面(2)及び同(3)は基本的にそのための書面である)。
しかし、まず航空機落下確率評価基準自体を見れば明らかなように、航空機落下確率評価基準は「有視界飛行方式民間航空機の落下事故」の評価に際して「対象航空機の種類による係数」を乗じる式を用いつつ、「自衛隊機又は米軍機の落下事故」を含め、その他の落下事故の評価では、その手法を採用していない(乙E第15号証基準−6〜7ページとその他の部分の対比)。そして、ここで「対象航空機の種類による係数」が用いられる場合は「軽飛行機などの小型固定翼機や小型回転翼機(小型機)」に限定され、その理由は「戦闘機や旅客機に比べてその機体重量が軽く、飛行速度も遅いため、落下時の衝撃力(荷重)も小さく、また、衝突時の衝突面積も小さくなる。さらに、一般に原子炉建屋が堅固な構築物であること等を考慮すると、小型機が原子炉建屋に落下した場合においても、その影響を及ぼす原子炉施設の範囲が、戦闘機や旅客機の落下に対し、著しく小さくなると言える。」ことにあるとされている(乙E第15号証解説−11〜12ページ)。ここでは小型機の飛行速度は巡航速度が56m/s、65m/sの例が示されている。
この航空機落下確率評価基準自体の記載を見ても、「対象航空機の種類による係数」を乗じる方法は、対象となる航空機が他のものに対して重量、飛行速度(巡航速度)、断面積が小さく、衝突の影響が著しく小さいことがその根拠とされている。F16が他の戦闘機と比して、重量、巡航速度、断面積が大幅に小さいとはいえない。
加えて、航空機落下確率評価基準が審議された2002年7月22日の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会(乙D第57号証の次の会議である)の議事録(甲D第387号証)では、「小型機、ここでいきますと軽飛行機、小型回転翼機、これの衝撃というのは、戦闘機や旅客機に比べてけた違いに小さいことが考えられますということで、低減係数10分の1を考慮します」「戦闘機、旅客機と比較するということよりも、むしろ戦闘機、旅客機に比べて小型機がけた違いに衝撃という観点から楽になるのではないかという形でお示ししている」「軽飛行機とか小型回転翼機は、重量だけでも速度でも小さいわけです。その場合、10分の1よりはるかに小さい低減係数になるはずですが、これはある種の評価を単純にやる限り、えいやあで10分の1にした、これで十分保守的であるということです。小型機の数がむちゃくちゃ多くて、こういう評価ではうまくいかないということになれば10分の1という係数を見直す、こういうことには使えるだろうと思っております。したがって、戦闘機と旅客機の区別はしてございませんで、こちらの方はそのまま通常の評価をするということです。」とされている。ここでは、小型機が、戦闘機、旅客機に比べて衝撃力が「桁違い」に小さいこと、戦闘機には係数を乗じることなく「通常の評価をする」として、戦闘機は「対象航空機の種類による係数」の対象外であることが明示されている。
以上のような航空機落下確率評価基準の規定内容とその制定時の議論からして、どのように見ても「小型機」と評価する余地のないF16クラスの航空機について、「対象航空機の種類による係数」を乗じる方法を用いることは、航空機落下確率評価基準の規定にも、その趣旨にも反するものというべきである。
なお、それに加えて、この議論は、原告らから不正の指摘を受けて直近20年の事故に基づいて補助参加人が再評価した落下確率が9.0×10−8という水準に達したのをこれは防護設計を要するかの境界の水準と更田委員長が評した(※↓)ことから激しく議論されたものであったが、F16と同等かそれ以下のものに10分の1の係数を乗じて評価しても、本件再処理施設全体の落下確率は、8.8×10−8とされたというのである(被告準備書面(3)第2の3(3)ア(ウ):同準備書面43ページ)。9.0×10−8はもうほぼほぼ境界の水準だと問題視した更田委員長は、8.8×10−8なら問題ないというのだろうか。このような被告の態度も、結局は何としても追加の防護設計なく変更許可をすることが目的であり、そのために無理な理屈をこねていることを推認させる。
※更田委員長の発言の映像はこちら
6 まとめ
以上に述べたように、被告が本件再処理工場の適合性審査の過程で、航空機落下確率評価基準の要求を満たさない補助参加人の評価結果に何らの指摘もせず、現に三沢基地に配備されて自衛隊の主力戦闘機となっているF35Aについて三沢基地配備のF35Aが墜落事故を起こしても話題にすることさえ避け、旧科学技術庁でさえ求めていた再評価を一切求めず、計算された落下確率が防護設計を要する水準に近づくや、航空機落下確率評価基準に規定されていない「対象航空機の種類による係数」を戦闘機に対しても認めるという特例を容認して基準を曲げてまで、補助参加人に便宜を図り、本件変更許可を行ったこと、本訴において、再処理工場の特徴について再処理工場が安全であるかのような偏った見解を述べ、たかだか20年間たまたま事故がなかったというだけで周辺に存在する訓練空域を年間数万回もの訓練飛行がなされている本件再処理工場が他の地域より安全だとか落下確率を「0」とすることも考えられなくもないなどと信じがたい事業者寄りの主張をしていることに鑑み、本件変更許可処分のための適合性審査は補助参加人の不正を発見する能力または意思を欠く者によって行われたもので補助参加人による他の不正ないし誤りを看過している可能性があり、規制基準適合性を徹底する意思のない者によって行われたという点で手続に瑕疵がある。また、被告の不正を見抜く能力ないし意思の欠落と偏頗な姿勢に照らし、被告は、「専門技術裁量」を行使する基礎を欠くものというべきである。
以上
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