◆法律相談の話◆
法律相談に何を期待する?
「当たり前のことしか答えない」のはダメな相談か
弁護士会の法律相談センターで相談者アンケートをしていると、「当たり前のことしか答えない」とか「市販の本に書かれている程度のことしか答えない」という不満が書かれているのを時々目にします(私は、プロフィールにもあるように、第二東京弁護士会で長く法律相談センター運営委員をしており、元委員長でもありますので、アンケート結果を検討する機会がよくありましたので)。相談者の方がそういう不満を持つこと自体、担当した弁護士の答え方、あるいは後で説明する聞き取りのレベルに何らかの問題があるのだとは思います。しかし、多くの場合、法律相談で弁護士が回答する内容自体は常識的なものになるはずで、法律相談に「サプライズ」を求められても困ります。
法律相談は、法律の勉強ではありません。一般的な法律の知識が必要なら、それこそ本を読んでもらう方がいいです。法律相談は、相談者の方が現に直面している具体的なトラブル(紛争)について、いろいろなルール(法律など)がある中でどういうルールが当てはまるかを判断して、相談者の方が希望するような解決のために取りうる手段にどのようなものがあるかを考えるものです。そして法律を含めた社会のルールは、普通は、常識的な内容で、そう突飛なものはありません(娯楽番組では、ことさらに法律的な判断が常識と異なるような場合を取り上げたり、常識とは違うようなニュアンスで取り上げることがありますが、実際にはルール自体が社会の常識と反することはあまりありません)。ですから、結果的には常識的な内容の回答になることが多くなります。
みなさんが病院に行って医師の診察を受けるとき、聞きたいのは医学の知識一般ではなく、自分がかかっている病気がどういう病気で治すにはどうすればよいかだと思います。「ただの風邪だから暖かくして寝ていれば大丈夫です」といわれて、「そんな平凡な病気なのか」と不満に思う人は、たぶん、いないと思います。
今時は、たいていの法律知識は、本やインターネットで調べることができます。しかし、本やインターネットでは一般論しか書くことができません。そこに書かれていることが自分のケースに当てはまるのかどうか、それを確認するのが法律相談の大きな役割になってきています。また、本やインターネットに書かれていることを自分が正しく理解しているか、これも問題です。弁護士が書いた本は、弁護士が読む限り、間違っていることはほとんどないと思います。でも、素人がそれを読んで誤解しないかというと、心許ないことが多いです。弁護士以外が書いたものの場合、特にインターネットについて言えば、書かれていること自体が不正確なことも、ままあります。調べた法律知識を自分が読み誤っていないかを確認するのも、今時の法律相談の大きな役割になってきていると思います。自分が調べたとおりの回答が得られれば、それは自分のケースがそれに当てはまり、しかも自分が読み違いをしていなかったことが確認できたと考えるべきでしょう。
一番重要なのは事実の確認/聞き取り:相談する側が抽象的だと回答も抽象的
法律相談は、具体的なケースの内容を聞かないと話になりません。法律相談の時間の相当な部分は、相談者の方がケースの内容を弁護士に説明すること(弁護士からの質問に答えること)に使われます。ケースの内容の説明が抽象的だったり、弁護士が聞きたいことに答えられなかったりすると、弁護士の側も具体的な回答ができず、「一般論」になりがちです。また、相談者の方がどういう解決を希望するのかによって、弁護士の回答の方向も変わってきます。紛争の解決に客観的な「最善の策」が常にあるわけではなく、相談者の希望によってその相談者にとってのよりよい行動が変わってくるからです。
もちろん、法律相談は、相談者の方が一方的に事実関係を説明し続けてそれを聞いた弁護士が、「ではお答えしましょう」などと言っておもむろに答えるというものではありません。相談者の方が、適切な回答をするために必要な事実の範囲がわかっているということは、現実にはあまりないですし、弁護士の側でもそれを期待していません(期待してはいけません)。弁護士の側で、相談者の方から聞いた事実関係を元に、さらに質問を続け、事実関係の全体像を把握するとともに、どういうルール(法律や契約の条項)が適用されるべきかを判断したり裁判になった場合の見通しをつけるのに必要な事実を聞き出していく必要があります。その事案の解決のためには、相談者自身が気づいていなかったり、気づいていても重要性を理解していない事実や証拠を、弁護士が聞き出して発見し評価することが、実は一番のキーポイントということも、ままあります。特にこの事実の聞き取りの部分で弁護士の経験や力量が問われることにもなります。相談者の方から「当たり前のことしか答えない」という不満が出るときも、実は回答の内容自体よりも、この事実の聞き取りが不十分で、相談者が簡単な事実関係を説明しただけで事実関係がわかったような気になって誰でも答えられるような一般論を述べたということなのかもしれません。そうだとすると、弁護士の方で大いに反省すべきことだろうと思います。
このように、法律相談で一番重要なことは、一般論ではなく、その事件・紛争での具体的な事実関係、特にその事実関係の全体像とその中でのキーポイントになる事実や証拠を、相談者の説明によって/弁護士の聞き取りによって発見して、それをもとに、適用されるべきルールとその適用結果を評価し、裁判官の判断や相手方の行動を含めた事件の見通しを予測することです。そして、その一番のポイントは事実の説明/聞き取りにあるのです。
といっても、弁護士の聞き取りも、パターンやマニュアルがある訳ではありません(マニュアルが作られたとしても、紛争や事件は1つずつかなり個性がありますので、マニュアルに頼っていたのではきちんとした聞き取りはできないと、私は思います)。相談者の方とのやりとりの中で、これまでの話からするとどういうことがありうるだろうかと考えながら進めていくものですし、相談者の方が持ってきている資料から見えてくることが多いのです。弁護士の聞き取り自体も、弁護士の経験・力量とともに、相談者の方の持ってきた資料や記憶、説明に依存します。その意味で、法律相談は、相談者の方と弁護士の共同作業という側面があり、その共同作業がうまく行ったときによい法律相談ができるのだと、私は考えています。
ですから、法律相談では面談(私の通常パターンでは電話+面談)が一番いいと私は確信しています(それについては「電話+面談が一番いいと考えるわけ」を見てください)。
また、具体的に紛争の当事者となっている本人が相談に来ないで、その親族の方が相談に来られる場合、結局、そのケースの具体的な内容が十分説明できなかったり、本人が希望する内容がはっきりしなかったりで、具体的な回答ができないこともままあります。
「法律の抜け穴」を聞かれても
法律相談で「法律の抜け穴」のようなことの回答を期待されても困ります。
「法律の抜け穴」を期待するということは、普通に行けば勝ち目のない問題についてむりやり自分の都合を通したいとか普通に考えれば違法なことをごまかして実行したいということです。法律相談で問題となるのは、現実の社会での紛争ですので、普通はその相手方がいます。無理が通れば道理が引っ込むということで、「法律の抜け穴」的な知識を求める人にその人が期待するようなアドヴァイスをすると、その相手方に迷惑をかけることになります。そもそも短時間の法律相談で期待されているような「法律の抜け穴」を考え出すこと自体難しいですが、たとえそれができる場合でも、するべきではないと私は思います。(少なくとも、相談に来ているのがまともな相談者である限り、弁護士はそういう方向ではなく、事実関係でこの相談者が勝訴できるような事実やその裏付けとなる証拠を探すことに頭と時間を使うべきだと、私は思います)
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