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短くわかる民事裁判◆
判決の確定(例外):上訴権放棄等
 判決は、通常の場合、控訴・上告がないときは控訴期間・上告期間の経過により、控訴・上告がなされて上告審の判決等があったときは上告審の判決等の言い渡しやこく違った日に確定することを「判決の確定(原則)」で説明しました。

 ここではイレギュラーなことがあった場合についていくつか説明します。
 控訴権は放棄することができます(民事訴訟法第284条。民事訴訟法第313条により上告にも準用されます)。控訴権放棄(こうそけんほうき)は判決言渡前にはできないと解されています。
 私の経験では、解雇事件で敗訴した会社が判決確定までのバックペイの支払義務を負う(その分を強制執行されうる)のでその期間を短縮するためといって控訴権放棄書を出してきたことがあります。
 その場合、放棄書を裁判所に提出した日に上訴不能となりますので、双方が放棄すれば遅い方の日、一方だけが放棄すればもう一方の上訴期間が経過したときに確定することになります。

 控訴は、控訴審の終局判決があるまで、取り下げることができ(民事訴訟法第292条)、控訴の取下には相手方の同意は不要(民事訴訟法第292条第2項が被告の同意を要する場合を定める第261条第2項を準用していない)で、控訴の取下があると控訴は最初からなかったものとみなされます(民事訴訟法第292条第2項、第262条第1項)。これらの規定も民事訴訟法第313条により上告にも準用されます。
 上訴期間経過前の上訴の取下の場合は、再度の上訴は制約されません(取り下げた当事者が改めて上訴することが可能です)ので、取下で直ちに確定せず、上訴期間経過時に確定します。
 当事者の一方だけが上訴した場合に、その上訴が取り下げられると、上訴は最初からなかったものとなりますので、本来の上訴期間経過時に遡って原判決が確定することになります。(双方が上訴している場合に一方だけ取り下げても上訴審が維持されますし、上訴審が係属している以上、取り下げた当事者が改めて附帯上訴(ふたいじょうそ)することも可能です)

 控訴が不適法でその不備を補正することができないことが明らかとして、第1審裁判所が決定で控訴を却下した場合(民事訴訟法第287条)、却下決定が確定したとき(控訴人が即時抗告しなかったときは即時抗告期間の経過、即時抗告したときは即時抗告棄却決定の告知時。1審が簡裁で再抗告可能で再抗告したときは再抗告の棄却決定の告知時)に、控訴期間経過時に遡って1審判決が確定します。
 控訴状の不備や手数料不納付につき補正命令を出しても応じないとして、控訴審裁判長が控訴状却下した場合(民事訴訟法第288条、第137条)、却下命令が確定したとき(控訴審が地裁の場合は即時抗告が可能なので、控訴人が即時抗告しなかったときは即時抗告期間の経過、即時抗告したときは即時抗告棄却決定の告知時。控訴審が高裁の場合は即時抗告ができないので却下命令告知時)に、控訴期間経過時に遡って1審判決が確定します。
 控訴が不適法として却下する判決(民事訴訟法第290条)の場合は、その控訴審判決の確定日が1審判決の確定日になります。
(以上について、1997年度書記官実務研究報告書「新民事訴訟法における書記官事務の研究(U)162ページ)

 判決については、モバイル新館のもばいる 「弁論の終結と判決」でも説明しています。

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