◆短くわかる民事裁判◆
高裁による上告却下決定に対する許可抗告
民事訴訟法は、@上告または上告受理申立てが不適法でその不備を補正できないとき、A提出期限までに理由書を提出しないとき、B理由の記載が最高裁判所規則で定める方式により記載されていないときは、原裁判所は、決定で、上告または上告受理申立てを却下しなければならないと定めています(民事訴訟法第316条、第318条第5項)。そして民事訴訟規則は憲法や民事訴訟法、法令の条項の記載、判例の特定、具体的な記載等を求めています(民事訴訟規則第190条〜193条)。
上告や上告受理申立てについて理由書の記載が理由の体をなしていないと評価されたときに、高裁がこの規定に基づいて上告や上告受理申立てを却下する決定をすることが時々あります(その全貌は、統計にも表れず不明です)。このような場合、民事訴訟法は却下決定に対して即時抗告ができることを定めています(民事訴訟法第316条第2項:1審が簡易裁判所の事件の高裁への上告を原裁判所の地裁が却下した場合は、ふつうに即時抗告という趣旨の規定です)から、高裁による却下決定の場合、特別抗告または抗告許可申立てができることになります。
上告受理申立てに対する高裁の却下決定について、許可抗告がなされた(高裁が抗告を許可した)場合、最高裁は、上告受理申立て理由書に経験則違反とか法令違反という記載がある場合に「上告受理の申立てに係る事件が同項(民事訴訟法第318条第1項:引用者注)の事件に当たるか否かは、上告裁判所である最高裁判所のみが判断し得る事項であり、原裁判所は、当該事件が同項の事件に当たらないことを理由として、同条5項、同法316条1項により、決定で当該上告受理の申立てを却下することはできないと解すべきである」とする判断を何度かしています。私が発見できた限りで、最高裁1999年3月9日第一小法廷決定、最高裁1999年4月21日第一小法廷決定(判例時報1714号36ページ【決定3】)、最高裁2004年2月23日第二小法廷決定(判例時報1902号11ページ【17】)、最高裁2004年12月17日第二小法廷決定(判例時報1902号11ページ【18】ただし裁判に影響を及ぼさないとして抗告は棄却)、最高裁2005年6月28日第三小法廷決定(判例時報1938号11〜12ページ【13】)、最高裁2005年12月8日第一小法廷決定(判例時報1938号12〜13ページ【15】)、最高裁2008年3月26日第二小法廷決定(判例時報2046号17〜18ページ【23】)、最高裁2015年3月4日第二小法廷決定(判例時報2310号10ページ【8】)、最高裁2017年12月13日第二小法廷決定(判例時報2393・2394号11〜12ページ【11】)、最高裁2021年10月26日第三小法廷決定(判例時報2516号12ページ【9】)がありました。
上告に対する高裁の却下決定について、最高裁は、上告理由書に理由不備という記載がある場合に、「本件本案事件についての上告の理由は、理由の不備をいうが、その実質は事実誤認を主張するものであって、明らかに民訴法312条1項及び2項に規定する事由に該当しない。しかし、このような上告も、上告裁判所である最高裁判所が決定で棄却することができるにとどまり(民訴法317条2項)、原裁判所又は上告裁判所が民訴316条1項又は317条1項によって却下することはできないと解するのが相当である。」としています(最高裁1999年3月9日第三小法廷決定 ただし、特別抗告での判断のため、特別抗告理由(憲法の違反)には当たらないとして抗告棄却)。許可抗告で、同様の理由で抗告を認めて原決定を破棄したものとして最高裁1999年4月21日第一小法廷決定(判例時報1714号36ページ【決定2】)があります。
なお、上告理由書に経験則違反、法令解釈の誤りのみを記載したケースでは、高裁の上告却下決定は適法とされています(最高裁2006年9月8日第二小法廷決定:判例時報1972号22ページ【12】)(経験則違反、法令解釈の誤りは、上告受理申立て理由にはなっても上告理由にはならないので)。
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