◆短くわかる民事裁判◆
控訴の一部取下
控訴の取下は、控訴の全部について行う必要があり、控訴の一部の取下げはできないと解されています(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版17ページ)。
「控訴の提起により、請求全部が移審しており、控訴不可分の原則が機能しているから、これに抵触する控訴の一部取下げは無意味であり、効力を生じる余地はない」(同書同ページ。「民事控訴審の判決と審理」(第3版)48〜49ページも同趣旨)などと説明されています。「判決の確定(例外):一部上訴」で説明しているように、第1審判決の一部について控訴した場合でも被控訴人との間では(多数当事者で一部の人だけが控訴の対象の場合は控訴せず控訴されなかった人は、いわゆる必要的共同訴訟の場合以外は別扱いで、第1審判決が確定)全部が控訴審に移審します(判決は部分的にも確定しません)。それと同じ理屈で控訴の一部を取り下げても取り下げた部分を含めて全体がなお控訴審に移審していることになって取下げをしても意味がないということですね。
第1審原告が控訴人である場合には、訴え(請求)の一部取下げをすることで、控訴の一部取下げと実際上同じことはできます。ただし、訴えの取下げの場合は、第1審判決のその部分はなかったことになる(民事訴訟法第262条)もので、控訴の取下げの場合のように第1審判決が確定するのではありません。また訴えの取下げは、控訴の取下げとは違って、相手方の同意が必要です(民事訴訟法第297条、第261条第1項、第2項)。
控訴の一部取下げをしたい控訴人は、控訴の取下げではなく、控訴の不服申立ての範囲を変更する申立てをするのが実務的には適切と解されます(「民事控訴審の判決と審理」(第3版)49ページ)。
もっとも、控訴の一部取下げをしたい理由が相手方の附帯控訴を無効にしたいという場合、例えば第1審判決で貸金請求と損害賠償請求でそれぞれ一部勝訴した原告が敗訴部分について控訴し、被告が附帯控訴している状態で、高裁の裁判官から貸金請求に関しては附帯控訴による減額を認め、損害賠償請求は控訴による増額を認める心証開示があった場合には、不服申立ての範囲の変更や訴えの一部取下げでは、控訴人の希望(貸金請求での附帯控訴による減額を許さず損害賠償請求での増額を実現する)を満たすことはできませんが。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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