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短くわかる民事裁判◆
控訴状却下命令
 控訴状が必要的記載(民事訴訟法第286条第2項:「控訴状の必要的記載事項」で説明しています)を欠くなどの不備がある場合、控訴提起手数料の納付がない場合、控訴状の送達をすることができない場合(控訴状の送達をするのに必要な費用の予納がない場合を含む)には、控訴裁判所(第1審裁判所が地裁の場合は高裁、第1審裁判所が簡裁の場合は地裁)の裁判長が、相当な期間を定めて控訴人に対して補正命令を発し、控訴人が補正しないときは、控訴状を命令で却下することとされています(民事訴訟法第288条、第137条第1項、第2項、第289条第2項)。
 「控訴状の審査と補正命令」で説明したように、控訴状の場合、必要的記載事項は当事者と法定代理人、第1審判決とそれに対して控訴する旨だけですので、記載に不備があることは通常は考えられません。
 弁護士の感覚では、控訴状で補正命令が出ること自体ほとんど考えられないのですが、司法統計年報で高等裁判所の控訴審通常民事事件で命令により終了した件数が毎年200件弱、コンスタントに全体の1%以上あります。
 年 終了事件総数  うち命令による終了  割合 
 2023  13,535 208  1.54%
 2022  13,439  202 1.50%
 2021  12,110 184  1.52%
 2020  10,398 158  1.52%
 2019  12,228 161  1.32%
 2018  12,922 162  1.25%
 2017  13,744 151  1.10%
 2016  14,415 172  1.19%
 2015  15,622 186  1.19%
 2014  15,308 182  1.19%

 通常控訴事件が命令で終了する場合というのは控訴状却下命令くらいしか考えられないので、これだけの数の控訴状却下命令が出ているものと考えられます。
 これらのケースは第1審での訴状は不備ではなかったはずです(訴状が不備で訴状却下命令が出された場合、不服申立てをして高裁に行くのは即時抗告としてなので控訴審通常民事事件にカウントされません)。それで、訴状よりも簡単な控訴状の記載に不備というのは、ちょっと考えにくいのです。
 控訴手数料不納付というのも、第1審で訴え提起手数料を納付しておきながら(やはり、第1審で訴え提起手数料を納付していなければ訴状却下になって高裁で控訴審通常民事事件にならないので)控訴審は納付しないというのが、そんなにあるとも思えないのですが・・・控訴提起手数料は第1審の5割増しなので、惜しいと思うということなのでしょうか。

 口頭弁論を経ないでなされた控訴状却下命令(口頭弁論を経てなされることは想定されませんが)が確定した場合、控訴提起手数料の一部について還付を受けることができます。
 控訴提起手数料の還付については、「控訴提起手数料の還付」で説明しています。
※控訴提起手数料の不納付で却下された場合でも、控訴提起した以上は控訴提起手数料の納付義務は生じていて、控訴状却下命令が確定してもそれが免除されるわけではありません。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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