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短くわかる民事裁判◆
控訴理由書の提出期限
 控訴状に第1審判決の取消しまたは変更を求める理由の具体的な記載をしなかったときは、控訴理由書を別に提出します。民事訴訟法の規定上は、控訴状に控訴理由を記載しなかったときはという体裁ですが、実務上は、「控訴状の作成」で触れたように、控訴状の最後に「控訴理由」という項目を立てて「追って控訴理由書を提出する」とだけ記載して、控訴理由は記載しないのが通例です。
 せっかく控訴理由書提出に50日という猶予・検討期間があるのに、控訴状に控訴理由の記載をすることでもう十分に主張させたとして50日をまたずに口頭弁論期日の指定などの進行をされる可能性があり(他方、自分が急いでいるからと早く理由書や理由書に変えて控訴状を提出したからといって裁判所が急いで進行してくれる保証もない)、拙速にレベルの低い(おおかたは第1審の主張をまとめただけの)理由を出すことで、裁判官に理由のない控訴だという先入観を与えるリスクを生じるだけです(控訴の事案ではなく、即時抗告の事案ですが、そういったリスクが典型的に表れたケースを「即時抗告状への理由記載」で説明しています)

 控訴理由書は、控訴の日の翌日から数えて50日以内(7週間後の次の曜日と見るのが計算しやすいですよ。控訴した日が月曜日なら7週間後の火曜日まで。期間の末日が土日祝日あるいは12月29日から1月3日の年末年始期間の場合は、その次の平日まで:民事訴訟法第95条第3項)に控訴審の担当部に提出することになります(民事訴訟規則第182条)。

 控訴理由書の提出期限は、「不変期間(ふへんきかん)」とはされていませんので、裁判所はその期間を伸長または短縮することができます(民事訴訟法第96条第1項本文)。記録が膨大、証拠が多数、主張が複雑、代理人を新たにつける、別の弁護士に依頼する、病気や怪我をした等の事情があるときは、比較的延長を認めてくれやすいです。
 ただ、控訴理由書の場合、次に述べるように、期限に遅れても制裁があるわけではなく、経験上守らない弁護士も少なくないので、正式に延長の交渉をする必要があるか、延長してもらうと通常よりも延長した期間は厳守しなければというプレッシャーがかかる(事実上:延長した場合でのその期限を守らないときの制裁はない)ということを考えて延長を求めるべきかを判断することになります。
 私の経験上は、専門的な問題があり検討すべき証拠多数の事件を控訴審から受けた場合に延長の申請をしたことがありますが、そういうケースでは快く延期してくれました。

 控訴理由書の場合は、上告理由書と違って、期限に遅れたら当然に棄却というわけではありません。しかし、事件記録が大量だとか、代理人の弁護士が交替したとかいう理由で裁判所と延長の交渉をすることはできるでしょうが、そうでもなければ出し遅れたら心証が悪くなると思った方がいいです。

 東京高裁から来る照会書には、(照会書が出される前にすでに控訴理由書が提出されている場合以外は)控訴理由書の提出期限が記載されています。かつては、それが太字で書かれているのが通例で、部によっては、さらにそこに「厳守」と記載していることもわりとありましたが、近年は控訴理由書の提出期限が太字になっているものが少なくなり、「厳守」の文字は見なくなりました(私は、コロナ体制の下で期限の厳守を強く求めることにブレーキがかかったのではないかと推測しています)。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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