◆短くわかる民事裁判◆
控訴審の訴訟委任状
第1審の訴訟代理人(弁護士)が控訴をする場合は、通常書式の訴訟委任状には委任事項に「控訴」が明記されているので、控訴の提起は新たな委任状なく行うことができます。そのまま控訴提起後の控訴審での行為(口頭弁論期日の調整とか控訴理由書の作成提出など)ができるかについては、できるという古い判例があります(最高裁1948年12月24日第二小法廷判決は「特別委任を受けた訴訟代理人は、その事件につき、単に上告提起の権限のみならず、相手方の上告に対する応訴、その他上告審における訴訟追行に必要なる一切の訴訟行為をなすべき代理権限を有すること勿論である」と判示しています:ここで「特別委任」というのは、訴訟委任状の委任事項に「控訴」「上告」があるという意味)が、新たに訴訟委任状を提出するのが通例です(東京弁護士会の機関誌での東京高裁書記官の回答:こちらのファイルの5ページ左上参照)
被控訴人の第1審の訴訟代理人(弁護士)が控訴審も受任する場合についても、(上記の最高裁判決で通常書式の訴訟委任状で委任事項に控訴の記載があるので控訴に対する応訴の代理権も有するとされるのですが)新たに控訴審の訴訟委任状を提出するのが通例です。私が現実に経験している東京高裁の取扱では、被控訴人から訴訟委任状が提出されるまで、裁判所は控訴状を被控訴人の第1審の代理人に送達せず、控訴人代理人から控訴理由書は第1審の代理人に直送しましょうかと聞いても委任状がまだ提出されていないので待ってくださいと言われるのがふつうです。
被控訴人の訴訟代理人は、(相手方がした控訴に対して応訴する=反論等の訴訟活動をするだけでなく)附帯控訴をしたり、控訴審で請求を拡張する(第1審で原告だった場合、あるいは第1審で被告であったが反訴していた場合)こともできるとされています(最高裁1968年11月15日第二小法廷判決は、控訴審での新たな訴訟委任状でなく第1審での通常書式にある委任事項の控訴、上告等の記載で、附帯控訴をし、訴えを変更して請求を拡張する訴訟代理権がある、しかも第1審係属中に依頼者が死亡していてもそれができる、つまり依頼者死亡後に附帯控訴や請求の拡張ができるとしています。弁護士の感覚では、本当にそれでいいのか、大丈夫かとちょっと怖くなりますが)。通常書式の訴訟委任状の委任事項には「附帯控訴」の文字はありませんが、「控訴」にその趣旨が含まれていると解するのでしょう。
控訴人の訴訟代理人は、(既に受任した控訴事件についての訴訟活動はもちろん)被控訴人がした控訴(双方控訴の場合)に対する反論等の訴訟活動も行うことができます(最高裁1978年6月27日第三小法廷判決)。
また、控訴審での反訴も、通常書式の訴訟委任状の委任事項に「反訴の提起」が挙げられているので、それにより行うことができ、反訴された側がそれに対して同意・不同意の意見を述べたり反論等の訴訟活動を行うことは民事訴訟法上当然にできるとされています(民事訴訟法第55条第1項)。
その結果、実務上は、控訴人の代理人(弁護士)も被控訴人の代理人(弁護士)も控訴事件の訴訟委任状1枚を提出すれば、その後、附帯控訴や反訴の提起をしたり、相手方から控訴や附帯控訴、反訴がなされても、追加して訴訟委任状を出す必要はないという扱いになります。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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