◆短くわかる民事裁判◆
控訴の取下の実情
「控訴の取下」で説明しているように、控訴は、控訴審の判決言渡があるまで、被控訴人(相手方)の同意を要せず、控訴人が自由に取り下げることができます。
もちろん、控訴を取り下げても、相手方も控訴している(双方控訴)ときや、相手方が控訴期間内に附帯控訴しているときは、控訴審の審理は係属していて、控訴審の判決が言い渡されることになり、しかもその判決は控訴を取り下げた側(控訴していない側)に有利に変更されることはありません(民事訴訟法第304条:いわゆる「不利益変更禁止の原則」)から、そのような場合、控訴を取り下げるメリットはありません。
現実的には、控訴人だけが控訴しているか、相手方が控訴期間経過後に附帯控訴している場合、つまりその控訴を取り下げれば控訴審判決はなされずに終わるという場合に、控訴人が控訴を取り下げる意味があるということになります。前者の控訴人だけが控訴しているケースでは、第1審判決に憤慨して勢いで控訴してみたものの控訴理由書が書けない、書いてみたがとても第1審判決を覆せそうにない、これ以上やってもムダと判断したということが考えられます。後者の相手方が附帯控訴しているケースでは、特に控訴審の裁判官から和解の席上で相手方有利の心証を示されて、判決になると第1審判決より不利になると察して控訴を取り下げるということもあるでしょう。
さて、現実にはどれくらい控訴の取下がなされているでしょうか。司法統計年報で全国の高等裁判所の控訴審通常民事訴訟の終了事件数と取下による終了数を見ると、毎年900件前後、全体の数%が取下により終了しています。
年 終了事件総数 うち取下による終了 割合 2023 13,535 912 6.74% 2022 13,439 939 6.99% 2021 12,110 906 7.48% 2020 10,398 873 8.40% 2019 12,228 757 6.19% 2018 12,922 773 5.98% 2017 13,744 894 6.50% 2016 14,415 915 6.35% 2015 15,622 1,207 7.73% 2014 15,308 1,076 7.03%
司法統計年報では区分していませんが、「裁判の迅速化に係る検証報告書」(裁判所のサイトのこちらにあります)は、控訴取下と訴え取下を区分して集計しています。これによれば、2022年は控訴取下が664件、訴え取下が272件(こちらのファイルの233ページ【表8】)、2020年は控訴取下が679件、訴え取下が195件(こちらのファイルの207ページ【表8】)、2018年は控訴取下が628件、訴え取下が145件(こちらのファイルの145ページ【表8】)、2016年は控訴取下が768件、訴え取下が147件(こちらのファイルの133ページ【表8】)、2014年は控訴取下が926件、訴え取下が151件(こちらのファイルの195ページ【表8】)とされています。そうすると、控訴取下は毎年700件程度、全体の5%程度と見られます。
「裁判の迅速化に係る検証報告書」によれば、控訴の取下により終了した事件の平均審理期間は、2022年に終了した事件が3.8か月(こちらのファイルの234ページ【図9】)、2020年に終了した事件が3.5か月(こちらのファイルの208ページ【図9】)、2018年に終了した事件が2.9か月(こちらのファイルの146ページ【図9】)、2016年に終了した事件が3.2か月(こちらのファイルの134ページ【図9】)、2014年に終了した事件が3.1か月(こちらのファイルの196ページ【図9】)となっています。平均ですのでばらつきがありわかりませんが、控訴取下の時期の平均は概ね控訴審の第1回口頭弁論のあたりになっています。
内訳はわかりませんが、頭を冷やしたら逆転は無理と悟った、控訴提起手数料は第1審の訴え提起手数料の5割増しだしもったいないというケースが多いのでしょうか。
控訴提起手数料についても、訴え提起手数料と同様、「最初にすべき口頭弁論期日」(第1回口頭弁論期日)終了の前の取下の場合、控訴提起手数料からその半額か4000円の多い方を差し引いた金額(控訴提起手数料の半額と、控訴提起手数料から4000円を引いた額の少ない方)の還付(払い戻し)を受けることができます。半額(か4000円の多い方)は取り下げても戻ってこないので、取り下げることになるくらいなら控訴しない方がいいのですが。
控訴提起手数料の還付については、「控訴提起手数料の還付」で説明しています。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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