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短くわかる民事裁判◆
有罪判決に代わるもの
 民事訴訟法第338条第2項は、4号〜7号の再審事由については「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」と定めています。裁判業界または民事訴訟法業界では、これを「有罪判決要件(ゆうざいはんけつようけん)」などと呼んでいます。この後者の「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないとき」には、どのような場合があるでしょうか。

 最高裁判決で明示されたものとしては、被疑者の死亡、公訴時効の成立(公訴権の時効消滅:刑事訴訟法第337条第4号、第250条等)、科刑上一罪(法律上合わせて1つの罪として扱われるために重ねて起訴できない)の関係にある他の罪について有罪とされたとき、起訴猶予処分を受けたときがあります。
 最高裁1967年6月20日第三小法廷判決は、「前審判決の証拠となつた書証が偽造であることを理由に再審を申し立てる当事者は、偽造者が有罪の判決をうけその判決が確定したことを証明するか、または有罪の確定判決をうる可能性があるのに、被疑者が死亡したり、公訴権が時効消滅したり、あるいは起訴猶予処分をうけたりして有罪の確定判決をえられなかつたことを証明することを要するものというべきである。」として、被疑者の死亡、公訴権の時効消滅、起訴猶予の場合が、これに当たることを判示しています。
 起訴猶予(刑事訴訟法第248条)については、法律上は検察官が考えを改め起訴をして有罪判決を得る余地があります(近年は、そのために検察審査会に対し審査の申立てをする例も増えています)が、最高裁1966年9月6日第一小法廷判決は、「起訴猶予処分は一事不再理の効力を生じないから、事後起訴することは法律上妨げないとはいえるが、一旦起訴猶予処分がされると、よほど特別の事情のないかぎり、その後に改めて起訴することはないのが通例であるから」起訴猶予処分は「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないとき」に当たると判示しています。この判決は、「公訴権が時効消滅するまでは、有罪の確定判決をうる可能性が絶無とはいえないが、万一有罪の確定判決があつたならば、そのときにまた民訴法420条2項前段の要件をみたしたとし再審を許容すべきである。」(判決引用の旧民事訴訟法第420条は現行民事訴訟法第338条に当たります)とも判示しています。つまり、検察官が起訴猶予にすればその時点で有罪判決要件を満たし(起訴猶予がなければ有罪判決を得られたであろうことを立証して)再審請求をすることができ、もし検察官が考え直して起訴をして有罪判決が確定したらそのときはまた有罪判決要件を満たすからまた再審請求をすることができるというわけです。
 科刑上一罪の別の罪について有罪判決が確定したために4号〜7号再審事由の対象となる犯罪については起訴できなくなった場合については、「6号再審事由認容例:最高裁1972年5月30日第三小法廷判決」で紹介しています。

 最高裁判決で明確にされたもの以外では、被疑者が意思能力を欠いている(心神喪失:刑法第39条)場合、被疑者の所在不明、大赦(刑事訴訟法第337条第3号)などがあるとされています。

 「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないとき」に当たるとして、つまり有罪判決に代わるものによって、4号〜7号再審事由を理由とする再審請求をする場合は、有罪判決が確定した場合ではないため、被疑者の死亡、公訴時効、起訴猶予等の事実だけではなく「有罪判決を得る可能性があったこと」を立証する必要があり、公訴時効等がなければ「有罪の判決を得たであろうと思わせるに足りる証拠」を提出する必要があるとされています。
そのことについては、「有罪判決に代わるものと再審事由の立証」で説明しています。

 なお、7号再審事由との関係で、宣誓した当事者の虚偽の陳述での過料の裁判の確定に代わるものについては、「当事者の虚偽の陳述と有罪判決要件」で説明しています。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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