庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

短くわかる民事裁判◆
付郵便送達
 被告が住所地に住んでいるけれども訴状を受け取らないと判断した場合、裁判所が訴状等を書留郵便で改めて送り、送ったことで(受け取らなくても)送達されたと扱う方法があります(民事訴訟法第107条)。これを裁判業界では「郵便に付する送達(ゆうびんにふするそうたつ)」とか「付郵便送達(ふゆうびんそうたつ)」と呼んでいます。
 郵便に付する送達にするには、原告側で、被告が現実に訴状記載の住所地に住んでいることを調査してその報告書を提出して、郵便に付する送達を行うよう上申する必要があります(これについては「居住調査」で説明しています)。
 被告が訴状記載の住所地に現実に住んでいるかどうかの判断は書記官が行います。どの程度の調査で認めてくれるかは、ケースバイケースで、被告の住居の様子によることはもちろんですが、書記官によるばらつきもある感じです。
 郵便に付する送達が行われた場合、裁判所が書留で訴状を発送した時点で送達できたという扱いになり(民事訴訟法第107条第3項)、その後は、通常の民事裁判と同じ進行(普通は被告が出席せず、欠席判決)になります。

 郵便に付する送達を行う場合、書記官は、訴状等は通常と同様に書留にして特別送達し(被告が不在ならやはり不在連絡票が置かれ、保管期限を過ぎると裁判所に戻されます)、同時に普通郵便で被告が訴状等を受け取らなくても書留で発送したときに訴状の送達があったものとみなされることを記載した通知書を送ります(民事訴訟規則第44条)。
 この通知書には事件番号、裁判所の担当係、書記官名、電話番号が書かれていますので、被告が保管期限を過ぎてから通知書に気がついたというような場合でも、担当書記官に連絡して訴状を受け取りたいといえば(裁判所に行って受け取れば)訴状を受け取ることができます。
 被告が、第1回口頭弁論期日前、遅くとも判決前に訴状を受け取って対応すれば、被告の主張を聞かずに判決へと進むルートから、被告の主張ができる通常のルートへと戻すことができます。

 訴状に書かれた被告住所地に、実際には被告が住んでいない(転居しているなど。この場合、本来は、現実の居住場所/転居先がわかれば改めてそちらに送達し、わからないときは「公示送達」をすべきです)にもかかわらず、原告側が被告は訴状記載の被告住所地に住んでいるという報告書・上申書を提出して、裁判所が(書記官が)それに基づいて(それを信じて)、訴状等を「郵便に付する送達」をした場合、訴状や判決書の郵便に付する送達は要件を満たさないものだったのですから無効とされ、訴状が有効に送達されていないから判決は手続が法令違反である上、判決の送達もされていないから控訴期間も経過していないとされて、被告がなお控訴ができ判決が取り消されるという可能性があります。
 そして、被告が居住しているという報告書が嘘であった場合はもちろんのこと、意図的な嘘ではなくても調査報告に過失があれば、被告から損害賠償請求をされるリスクもあります。
 被告の居住調査と報告、付郵便送達の上申は、誠実に、慎重に行う必要があります。

 訴状の送達については「裁判所の呼出を無視すると」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴状が届かないとき」でも説明しています。
  

**_**区切り線**_**

短くわかる民事裁判に戻る

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ

民事裁判の話民事裁判の話へ   もばいるモバイル新館 民事裁判の話